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第44話 異世界で我思ふ

第44話 異世界で我思ふ

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「ごめんなさい!」

全力の土下座である。


周囲の冷ややかな目に、ヘルガとしては針の(むしろ)である。


「しかし流石は冒険者、不意打ちとは言え一撃KO....」

「本当にごめんなさい!!」

美里としては冗談を返したつもりが、ヘルガは本気で反省しているのだ。


「もいういいよ~」

美里はクロアに鼻血を拭いて貰いつつ、軽く手を振る。


「え.....やだ....」

「?」

()でないで~~~~~~~~~~~」

「捨てない捨てない!鼻血がついちゃうから今抱き着いちゃダメ」

ヘルガは第一印象と違って本当に情緒不安定である。下手な事も言えない、しかし今回に関しては試すような真似をした自分が悪い。


浅はかにも大金をやるよと言っても、これからずっと一緒に居ればもっと金になるのだ、美里の事が本当に余程嫌いでもなければハイさよならなんてなる筈もないのである。


美里は自分に自信が無さすぎて頭の悪い質問をしていたと反省する。

これでは思春期に初めて彼女が出来た中学生のレベルである、メンヘラ野郎と言われても反論の余地もない。

等々考えているとクロエが正面から美里をジッと見つめていた。


「カオル様にも少々お説教が必要かもしれませんね」

「え?」

「エーリカ、カオル様のお体の心配もありますので今日のお話はここまでで宜しいでしょうか?オリガもヘルガさんをお願いしてもよろしいですか?」

「あぁ、後は頼みましたよ」

「もちろんヘルガには私から言い聞かせよう」

「それでは皆様、本日はこれまでとさせていただきます」

美里の(あずか)り知らぬ所で何やらアイコンタクトで言外の連携がとられている事が非常に怖い。


「モノポリー、お前は骸骨(スケルタル)死霊(レイス)を100体選抜しダンジョン中層を支配...いや偵察しなさい」

「承知いたしました」

「ほかの者は――――――――」

エーリカが簡単な指示出しを行うと部屋へと戻っていく。


今だ泣き止まずに嗚咽を漏らすヘルガをオリガが首根っこ掴んで部屋に連行されていき、他のクロア以外のメンバーも一様に部屋に戻っていった。


何となくオリガはヘルガに対し面倒見が良い気がする。皆それぞれ個性が生れ感情や表情が生れて嬉しくも感じるが、成長のない自分が返って情けなくなってくる。



「カオル様、何故ヘルガに殴られたかお解りですね?」

「何となく...」


「中には理解したうえで受け入れてくれる女性も居ましょう、我々の様なカオル様の(しもべ)で在れば、幾度でも笑顔でカオル様への愛を誓いましょう。しかし、あの娘は(なり)は大きくとも心が未熟な子供なのです、カオル様だけが生きる意味になろうとしているのです。それが理解出来ているのなら男がする事は黙って前を歩き守ってやる事なのです、口にするなら愛情を試すのではなく愛情を育てる言葉をお使いください。あれでは折角実った愛情が何時か腐り落ちてしまいます」

クロエは優しく、淡々と、そして力強く諭すように語った。


年齢が一回り程若い彼女は経験豊富な母であり人妻であり、その言葉は愛情を育む事の下手な美里には耳の痛い言葉であった。



美里は異世界転位後から思う事があった。


この世界の人間は意志が強く物事への考えがしっかりしている。

普通に考えれば教育水準が低い世界である、無知で知性が低いと誤解しがちであるが、諸説あるも現代人の脳は既に進化を完了して4000年以上経過しているという。

つまり教育を施せば紀元前20世紀頃の人類も現代人程度の知識と知恵を得ることが出来る。

優れた素養があれば当然、平均的な現代人よりも優れた実績を残す事が出来るだろう。


昔、社会の授業中に今でいう、いわゆる)歴女の教師が話していた言葉が今でも印象的で覚えている。


「戦国時代の武将やその奥方達が何故に若くしてあれほどの覚悟を以て没し、歴史に刻まれているのか?幕末の志士が何のために命を無駄にする様な覚悟を持ったのか、歴史が嫌いな人はまず昔の人が何歳でどれだけの事を成し死んでいったのかを考えて見てください」


先生はその話の後に坂本龍馬の話をされた。


あの歴史の偉人は享年31歳、続いて土方歳三は享年34歳、島津豊久や源義経は享年30歳、かのアレキサンダー大王享年32歳と死因はそれぞれ違うが想像以上に若くして亡くなっている。


現代人と違い平均寿命が短いというのはそれだけ時間が限られているという事であり、現代人の様にダラダラしている時間などないのだ。


平均寿命でいえば現代人の半分にも満たない。

この世界の都市部の平均寿命がどれ程かはわからない。


だからこその半分以下に精神を濃縮して生きたのではないだろうか?

だからこそ現代人は時間の使い方を見失い、蚊の時代の人に都の様な英傑が居なくなったのではないのだろうかと先生はクラスのみんなに解いていた。


ただ、日本も江戸時代末期で平均寿命が40歳前後と聞いたことがある、美里で言えば享年36歳、妥当な年齢で死んだことになるのかもしれない。


生物学的に人間は50歳を寿命として構成されているという説があり、50歳を境に極端に免疫が落ち始め病気のリスクが極端に増えると言うデータがある。


織田信長の好きな演目として有名な敦盛の一説を思い出す。


人間(じんかん)五十年、下天(げてん)のうちを(くら)ぶれば、夢幻(ゆめまほろし)(ごと)くなり。一度生(ひとたびしょう)()け、滅せぬもののあるべきか』


有名な幸若舞(こうわかまい)の演目平敦盛を歌った『敦盛』の一説であるが、美里はPCゲーム、信長の野望(無印)を小学生時代にやりこんでいた、BADEND画面に出てくるのだ。


歴女先生にこの話をした時に衝撃の事実を知ったのは強烈な記憶であった。

実は戦国時代の平均寿命は50年ではなく、37~38歳であると言われたのだ、では何故に敦盛では人間(じんかん)五十年と歌うのか?


敦盛で謳われた人間(じんかん)と言うのは仏教で言う三界(欲界・色界・無色界)のうち下天(欲界)、天界の最下層での神様仏様の一日の時間が50年、大体人間はそのくらいで死ぬんじゃないの?と言う意味と教えてくれた。

先生は笑いながら織田上総介信長は享年49歳と言うタイミングで逝去されているのは歴史の因果だねと笑っていた。


平均寿命の考え方は乳幼児の死亡や事故、戦争や疫病等の死亡原因を取り除くとかなり変わってしまうが、結局は思ったほど時間と言うのは無く、真剣に生きただけ為せる事は多いのだ。


36歳で死んだ美里薫には今それが良く解る。


だからこそ、無意識のうちにヘルガは真っすぐ生きて真っすぐに幸せを求めている、そんな純粋な娘を美里は配慮せずに自分中心に自分の心の弱さ故に試してしまったのだ。



「殴られて当然!」

新しい人生を生きる覚悟が足らなかった。


これでは新たな人生を授けてくれた白靖(すらやす)様にも申し訳が立たない。



美里は両手で顔パンと張るとクロアに礼を言いヘルガの部屋へと向かった。



「ヘルガ、はいっていいか?」

暫くすると扉があき、仲からオリガがでてくる。

「あの子は決して強い子ではなのです」

そう小さな声で美里に耳打ちをすると実質へ戻っていった。


「入っていいか?」

「ぐす.....うん.....いいよ」

美里は大きなため息をつくと、ヘルガに入室の許可を取る。


「さっきはすまん、冗談にもならなかったよな」

「許さないけどごめんなさい」

「いや、今回は俺が悪い」

美里は優しくヘルガを抱き寄せると、ヘルガは力なく美里へと引き寄せられていく。


「痛かった?」

「正直記憶がない」

「ぷっ!」

「あ!笑った!?」

「ごめん....」

「悪い子にはお仕置きしないとね」

「それはカオルの事........んぷっ」

美里はヘルガの唇を強引に奪う。


【自主規制】


そして絡み合った互いの舌先の余韻を待たず、今度はヘルガが美里に覆いかぶさる。


【自主規制】


「ん.......っんぷ」


【自主規制】


「もう、カオルってば.....んん!」


【自主規制】


「これからカオルにお仕置きされちゃうのかな?」

「当然だ!」


【自主規制】














その夜、謝罪に行ったはずの美里がヘルガに嬌声とともに逆に謝罪をさせていたのはまた別の理由である。

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