第38話 異世界で再びダンジョンへいこう③
第38話 異世界で再びダンジョンへいこう③
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エーリカの質問の内容は単純なで、現在迷宮内で発生している問題について知っている事を教えろと言う内容であった。
「簡潔に言えば都市軍がやらかしおった。まず今回参加した都市軍は精鋭中の精鋭が300人弱、輜重隊の規模や装備から考えると下層の深部を超え最奥の遺跡区までの到達する計画だったかと思われる。いやぁもしかすると、上手く行けばダンジョンその物の攻略も見据えていたのかもしれんとワシは考えておる」
ミーカは手に収集した情報と想定される内容を織り込み語り始める。
続いてエーカは右手の人差し指を立てる。
「ひとつ、近々北方征伐軍が編成される噂は知って居ると思うんじゃが、その北方征伐軍の軍団長を任ぜられると噂の、元帝都魔導師団長でありこのデルーカの都市長の愛娘ティオドゥラ殿と彼女が帝都から魔導師団を引き連れて編成されておった」
エーカは右手の人差指に続き中指を立てる。
「ふたつ、ティオドゥラの実妹でこの都市最高の魔導士ティツィアナ殿が率いるデルーカ魔導師団も随行しとった、まぁ帝都の魔導師団から見れば数段角が落ちるがのぅ」
最期にエーカが右手の人差指、中指に続き親指を立てる。
美里は薬指じゃないんだと思うが重要な話なのでしっかり耳を傾ける。
「最期には優れた姉2人を差し置き、今回の訓練の指揮を取ったのが都市兵軍の副長ティツィアーノの奴じゃ、奴は文官肌でのぅ表に出る事はそうそうない。それが新兵訓練でもなく中層訓練でもなく危険を伴う深層訓練の指揮官をやるんじゃ、恐らく北方征伐でティツィアーノの奴が軍の一部を率いる準備と思われる、経験豊富な姉が補佐についての本格戦闘の経験を積ませようと考えておったんだと考えられる」
エーリカやオルガ、ヴィルヘルミーナは頷いていたが美里はよく理解が出来ていなかった。
「カオル殿はピンと来てなさそうじゃの。今回の北方征伐の最初の目標となるのはこの都市の北東にある『死の都』と呼ばれている200年前の戦争で滅んだ都市の成れの果てなんじゃがの、そこには過去の都市の支配者が死した後、亡霊王として黄泉帰っていてのう、これまた面倒な事に多くの幽霊や骸骨兵を使役して都市を支配しておるんじゃ」
ミーカは一拍置いて、美里の目をじっと見つめると再び話を続ける。
「そしてこの都市ダンジョンの遺跡区の最奥は亡霊王が守っているという話があるんじゃよ」
なんかきな変な話になってきた。
「遺跡区の噂は聞いたことある、下層に入ると浅層でも幽霊系のモンスターと出くわすし、そういったのが出る所には大抵その親玉が居るっていうのが相場だからな。でも死霊や死霊を見た奴ってのは有った事はないなぁ」
知識の薄い美里の為にヴィルヘルミーナが補足をしてくれる。
「獣耳の嬢ちゃんは物知りじゃのぅ、ワシも直接見た事はないが、見たという冒険者には何度かあった事が有るぞぃ」
「あんた魔石土竜のミーカ様ですよね?アタシはカオルの新しい妻になったヴィルヘルミーナと言います、昔は下層で狩とかしてた事もります」
「ふぁ!?」ミーカは一瞬固まる。周囲はこれは漏らしたなと察した。
「これは大変失礼した、ヴィルヘルミーナ殿、此方こそよろしく頼みますぞ、下層到達者まで手懐けるとは流石はカオル殿」
ミーカを始め魔石土竜の面々も頭を下げる。
「あぁ!東の悪所のスカーフェイスか?」
「娼婦はもうやめたよ、もう金を出しても尻は振ってはやらないよ。もうアタシは身も心ももカオル様、じゃなくてカオルの、物だからね」
魔石土竜の1人が咄嗟に口にしてしまい、ヘルガの件を思い出したのか咄嗟に口を塞ぐ。
これには他の魔石土竜の面々も一斉に青ざめ美里を顔色をうかがうが、ヴィルヘルミーナ自身が笑いつつ気にもしていない様子の為に今回は見逃されたと胸をなで下ろす。
「大事な嫁の1人だから、何かあれば助けてやって下さい」と美里が照れつつもにこやかに伝えると魔石土竜一同は何度も頷き真剣な面持ちで了解してくれる。
美里の中ではまだ婚約なのだがと思ったが、昨日のヘルガに怒られていた事もあり、もう嫁でいいやと納得する事にしていた。
「となりますと、カオル殿のパーティーのメンバーは全て嫁御でしたか!いやはや流石はカオル殿、流石の甲斐ですな!ヒュム族、獣耳族、双角族までとは」
「失礼ながら一番嫁はどなたになるのかの?」
ふとミーカが美里と同じ黒髪であるクロアを見る。
「私はヘルガ姉嫁様の次、カオル様の1番は唯1人ヘルガ姉嫁様で御座います」
クロアの見事なフォローである。
ん?あれ?暗にクロアが嫁になってる?
「そう!カオルの一番は私!」
「ひぃ!」
美里がクロアに突っ込もうとする前にヘルガがミーカの前に躍り出ると、ミーカが悲鳴を上げる。
「わ、私は末嫁です」
またミーカを蹴るのではないかとヘルガを抑えている間にヴィルヘルミーナから控えめな言葉が出ると、美里に対して魔石土竜のメンバーから少し冷たい目が向けられたのを感じた。
「まぁ、ここからが本題なんじゃが都市軍が下層に到着して直ぐに、異変が起きたたしい」
「異変っすか?」
「うむ、まぁワシにも心当たりはあるんじゃが....」
ミーカは美里をちらりと見て話を続ける。
「深層の入り口付近には普段見ない怪物、幽霊が大量に現れたらしいのじゃ、流石に心の準備が出来ていなかったためかティツィアーノの小僧が取り乱したらしくてな」
なんで自分を見たのか理解はしていなかったが美里が先を促す。
「とは言え、深層深部を目指していたからのぅ、幽霊対策の武器も持っとるし魔術師もいるしでそなえは問題なく最初は軽く叩き潰したと言うんじゃが、奥へ進むにつれ前後からきりが無くワラワラワラワラと湧いてきて手に負えなくなったそうじゃ」
「前後から?!」
ヴィルヘルミーナは驚き口をはさむ。
「奥方はご理解いただけた様じゃの、その通り普通はほぼ一本道の下層では後ろから湧くってこたぁ無いからの。違和感があったんでな慎重で経験も豊富なティツィアナ殿は一時撤退を進言したらしいんじゃが。愚か者のティツィアーノの小僧は己の理に固執したのかゴネにゴネて前進を強硬指示しらしいんじゃ。已む無く深層の探索を進めてはみた物の死霊級までワラワラと出て来たらしく結局は危険と判断した脳筋のティオドゥラ殿がティツィアーノの小僧をぶん殴って指揮権を取り上げてな、撤退を決めたらしい」
何が可笑しいのかミーカはフォフォフォと笑う。
「戦場であればその指揮官は後ろから切られても文句は言えまい」
「その通りじゃ」
エーリカの意見にミーカが同意する。
「愚か者とは言えティツィアーノの小僧はティオドゥラ殿の弟だからのぅ、まぁこれで廃嫡にでもなれば喜ばしいのだがのぅ」
「廃嫡?お貴族の後継者なんですか?」
「その通りじゃ、都市中のマトモな人間は反対しとるんじゃが親馬鹿でな、まぁ当主の決めた事じゃしティオドゥラ殿もティツィアナ殿もテッレルヴォ殿も納得はしておるし、そもそもティオドゥラ殿は北方征伐達成すれば、新しい土地の都市長に任命されようから問題は無いだろうがな」
「え?ティオドゥラさんてそんなに偉いと言うか実力者なんですか?」
「うむ、実力もさる事ながら皇帝陛下のお気に入りじゃからな、だが他の姉2人も中々の才人でな愚か者のティツィアーノと比べ物にならんので廃嫡をして姉が光景になる事を望むものは多い」
「なるほど、だからこそ優れた姉がいるうちに経験と実績が必用だったわけだな」
エーリカが答えるとミーカは頷く。
「どういうこと?」
「ティオドゥラでしたか、彼女はこの都市の貴族にこだわりがないですが、他の姉を担ぎ上げたい人間も多い。そうなれば安全に実績を積ませることが難しくなるうえに、下手をすれば足元が救われかねません」
「あー跡継ぎ指名されてても馬鹿すぎて後継者争いが始まるとやばいんだ」
「恐らくは」
エーリカの確認に美里が少しだけ話が見え始める。
「でもティオドゥラさんも馬鹿弟の後継に反対だったら今回の訓練で後ろ玉....暗殺を見のがす可能性があったんじゃないの?」
「それは大丈夫であろう、ティオドゥラ殿は良くも悪くも真面目で脳筋、そこが清廉なる皇帝陛下にも好まれておる程じゃから、ティオドゥラ殿がいた方が安心じゃろう...まぁティツィアーノ本人はどう思っているかは知らんがのぅ、なにせ愚か過ぎて想像を超えた馬鹿をやらかすのはこの都市では知らぬ者はいない程じゃからの」
ミーカの辛辣な評価だが、それほどまでの馬鹿物なのだろう。
脳筋て言葉こっちにもあるんだと思いつつ、美里は広場で声を掛けて来た女性エルフの姿を思い出す。
「で、ここからが本題じゃが、撤退戦を始めての中層への大坂路に差し掛かったあたりで大量の霊体怪物が大量発生したと思うたら逆に中層側で虫型怪物までもが大量に湧き出したというのじゃ」
「絶体絶命っすね...」
「正に、ティオドゥラ殿率いる帝都の魔導師団でなければ全滅しとったかもしれぬな、まぁ命からがら逃げて来たのはいいのだが中層の中央通路でまたしてもティツィアーノの馬鹿めがやらかしおった」
「えっ...」
「恐怖に駆られたのか、ティオドゥラ殿が中央通路の出口で迎え撃つように号令を掛けていたらしいのじゃが全力で自分と供回りで上層へ向けて逃げ出してしまったらしい」
「うわぁ...」
「狭い枝道の封鎖戦とはいえ強力な霊体系を含んだ怪物の氾濫じゃからのう、ティオドゥラ殿は体勢を変更し、帝都魔導師団を殿にして、冒険者へ声を掛けつつ命からがら脱出したらしいが、かなりの冒険者も巻き込まれて死んじまったみたいだのぅ」
「都市軍は無事だったんですか?」
「細かいことまでは確認できんかったが結構死傷者は出とるな、しっかし冒険者の死者は比較にはならんじゃろうなぁ」
広場の一角には都市軍と思われる集団がぐったりとしているのが見える。
「ここからが問題なんじゃが、氾濫した怪物共が上層迄埋めてしまっておるんじゃよ」
「「「ええ?!」」」
美里と一緒にヘルガとヴィルヘルミーナも大きな声をあげる。
「二重の門を閉めて外には出ない様に出来てはいるが、そのせいで冒険者と都市軍と行政で揉めとってのぅ、さっきまではワシらも混ざって文句言ってたんだが弾かれてしもうた」
手でポンと頭を叩くと呆れたように冒険者には打つ手が無い事を教えてくれた。
「じゃあ今、上層にも幽霊が居るんですか?」
「出てきた分は処理したが、門を開ければまだ折るじゃろうなぁ。幸いにもすり抜けて出てこないが相手は霊体じゃからいつ外に湧いてくるかわからん」
そこまで言うとミーカは美里を見てニヤリと悪い笑みを浮かべる。
「まぁカオル殿がいらっしゃった訳じゃし、もう心配は無かろうがのぅ」
ミーカは悪い笑顔を見せる。
「え~どうしよっか~?」
美里は面倒臭そうにエーリカとオリガを見る。
「主様がお望みであれば、5分で処理は可能致しますが、目立つのは御本意ではありませんでしょう」
エーリカの言う通り、そんな事をすれば尋常ではない目立ち方をしてしまう。
「5分?!」
流石のミーカも驚きであるが美里も吃驚である。
「骸骨死霊らを使えばですが、そこに我々の利益は有りません」
「骸骨死霊かぁ...なしだよね」
エーリカの言う通り、表向きに動かせない僕を使う訳にもいかず、何の利益も出ない上に自分の手札をさらるような真似に意味がないのだ。
「軍や都市が絡むとなれば百害あって一利もありますまい、このまま関わらず静観が宜しいかと存じます」
オリガからのアドバイスはもっともである。
「え?じゃあ今日は迷宮には入れないのかい!?」
この流れに一番反応したのは当然のことながら夢にまで見た冒険者復帰を楽しみにしていたヴィルヘルミーナである。
「今日と言うか、都市軍の主力がこんな状態じゃからのう、冒険者を集めて討伐隊の編成をするにも想定外の霊体系怪物相手では精々溢れそうな上層の怪物を少しづつ減らして、いやぁそれでも一般の冒険者が入れるようになるのはいったい何十日とかかるやら」
ミーカの話を鵜呑みにすれば迷宮探索は暫くお預けになってしまう。
流石にヴィルヘルミーナの落ち込み様は見るに堪えないが大量の死傷者が出た様な状況に首を突っ込む事も目立つ事も気が進まない。
「カオル、どうにかしてあげられない?私もそんな長く迷宮に入れないのは嫌だよ!」
ヘルガの気持ちは判るが、リスクを考えれば二の足を踏んでしまう。
「主様、数のいる魔石土竜どもを隠れ蓑にすれば目立つことなく迷宮の中に入る事は出来ましょう、中に入れば後は我らが怪物をただ駆逐するだけです」
オリガの掌返し、どうしたオリガ?
「ミーカ....殿、我らが入る間に都市軍も他の冒険者も一切中に入らせない様にする事程度は出来ますね?」
「問題ない」
「もし情報が洩れれば、魔石土竜の人数がまた激しく減りますから心してかかりなさい」
「承知した」
オリガからの提案と言う形の命令にミーカを始めとしたギルド魔石土竜面々は血の気の引いた顔で頷く。
「えっと、個人的にはウチのパーティーメンバーから怪我人を出したくないんだけど、それは問題ないのかな?」
正直、美里は乗り気ではない。
「それは問題ございません、骸骨死霊に対応させましょう」
エーリカの言うように抑々(そもそも)が骸骨死霊を使えば中層迄の完全制圧は余裕が有るのだ。
美里がしばらく悩む。
「じゃあ中層の迄は掃除しちゃうか~」
「本当かカオル!」
ヴィルヘルミーナの顔がぱぁっと明るくなると耳が便と足し尻尾が激しく降られると横にいたクロも嬉しそうに尻尾を振り始める。
「ありがとうカオル!」
ヘルガも嬉しそうである。
「カオル殿、恩に来ますぞ」
エーカは満面の笑みを浮かべる。
「ではミーカ殿、早急にお前のギルドを集め迷宮探索の準備です。それと行政へは我らが迷宮中層の中央通路を一掃をするまで誰もに立ち入らぬよう伝えてきなさい、上層も許可しません」
エーリカが指示を出せばギルド魔石土竜は迅速に行動を開始する
「ミーカ殿は上層から中層へ降りる階段までの間を許可ある迄封鎖しなさい、怪物は全て屠ります、解りましたね?」
エーリカの命令にミーカは恭しくお辞儀を行い承知した旨を示す。
美里はミーカの所作を見るに品の良さを感じる時があり、行政や軍とも親しい様子もあるのでもしかすると貴族出身だったりするのだろうか?
知識も経験もあり立場が有利な現時点では十分にshン来出来る、仲良くして損はないし今後は貴族や行政との交渉があれば試しに魔石土竜へお願いしようなどと考え始めていた。
「お前達!直ぐにしたくせい!」
ミーカの号令が飛ぶとギルド魔石土竜の面子が一斉に動き出す。流石はデルーカ最強ギルドである。
行政と都市軍へ使いに走った者が戻ると今度はミーカが都市軍の代表に呼び出されてしまっていた。
とりあえずはミーカ以外の魔石土竜メンバーとダンジョンの門前まで移動し彼の戻りを待つ。
門前で待機をしていると、突入メンバーをかき分け10分程度でミーカと見るからに豪奢な鎧姿の3人の兵士を伴ってやって来た。
ミーカは一瞬だけ美里を見たが直ぐにエーリカに向き直り、都市軍が随伴を希望している事を伝える。
おそらく美里が目立ちたくない事を理解し、窓口をミーカに定めてくれた様だ。
3人の兵士の1人は以前美里へ声を掛けたエルフのティオドゥラである、後ろの2人の男女のエルフはティオドゥラの妹のティツィアナと顔を晴らした男が今回の作戦で失態を犯した弟のティツィアーノであろう。
美里はコッソリと顔を見られぬように後ろへ下がる。
「ここはワシら冒険者のみで行かせていただきたい」
「軍にも面子がある、ミーカ殿に責任を押し付けるわけにはいかない!」
なるほどティオドゥラと言う女は責任感が強いのか援護したいという事であろうか?
「ズタボロの兵隊に何が出来ますか!万が一ワシらが失敗した時、モンスターが外に出ぬようここを固める事こそ軍属の仕事でしょう」
「ミーカ殿はまだ私を新兵扱いするのか!」
「そんなことは言っておりませぬ!」
え?ミーカって軍人だったの?しかも貴族様の元上官なの?
美里の中のミーカの格がヤクザの親分から貴族級に格上げされる。
言い争いがなかなか終わらない。
少しづつ冒険者と門を閉鎖している兵との間にも険悪な空気が流れ始める。
「でははっきり申し上げよう、これだけの精鋭を活用しておきながらの失態を犯した軍の何が信用できましょうか!」
ミーカさん、凄いこと言っちゃったよ!?
「貴様!冒険者風情がデカい口を聞きおって!」
ティツィアーノが剣抜いた瞬間、既に魔石土竜全員が武器を抜き構え終わっていた。
実戦経験の差というかもう格が違う。
普通に考えれば貴族に危害を加える事はないだろうが、先に剣を抜いたのはティツィアーノである。
しかし平民が面と向かって反抗してもこの国では問題がないのだろうか?
「ティツィアーノ様が剣を抜いてミーカ様に切りかかったぞ!」
突然魔石土竜のメンバーが大きな声を張り上げる。
え?ティツィアーノ君は剣は抜いただけで構えきる前にビビって動かなくなってたよ?
「ティツィアーノ様はこんな事態を起こしておきながら、氾濫をに立ち向かう冒険者を殺して更に状況を混乱させるおつもりか!」
え?急にどうしたの?
ティツィアーノ君顔面蒼白だよ?
驚くような大きな声量で広場中に響く、魔石土竜の拡声魔法による物の様だ。
すると示し合わせたかの様に次々と魔石土竜の面々がティツィアーノを貶める内容であること無い事で非難を始める。
「ティツィアーノ様は都市軍の後始末をしようって冒険者の邪魔をするのか!!」
え?邪魔じゃなくてお姉さんが掃討作戦の協力を申してるのでは?ティツィアーノ君変な汗かいてるよ?
「何人の冒険者と兵士がティツィアーノ様の愚行で死んだと思っているんだ!」
確かに、でもティツィアーノ君泣きそうだよ?ティツィアナさんなんかも泣きそうだよ?
「ティツィアーノ様はここにいる冒険者を殺して口封じをするつもりだ!」
むしろティツィアーノの口が封じられそうなんだが?
ティオドゥラさんがなにかミーカに言っているけどもう周りがうるさくて聞こえないよ?
「ティツィアーノ様は決死の覚悟で戦う俺たちの邪魔をするのか!」
してない、してない手伝いに来たんだって。ただ馬鹿なだけだと思うよ?ティツィアーノ君震え始めてるよ?
「ティツィアーノ様は下層のモンスターを上まで引っ張ってきたうえにダンジョンを長期閉鎖するなんて冒険者の生活を潰すのか!」
そこは正論。
「エーカ殿待ってくれ!我々は協力を......!!!!」
ティオドゥラが何か言ってるが、周囲の大きな声にかき消されてしまう
完全にティツィアーノの狙い撃ちである。
話の流れで、今回の訓練は無能の呼び声高いティツィアーノに功績を積ませる為にダンジョン最奥である遺跡区の踏破か何かをさせる予定だったのであろう、それが予想外のトラブルの発生で立場が危ぶまれているのだ。
そして様子を見るにミーカ達はティツィアーノ君の権威を失墜させたいのは判ったけど既に奈落の底に落ちてない?
徐々に周囲の冒険者までもが騒ぎに加担し始め、ギルド魔石土竜以外にも武器を抜くものまで出てくる。
門前のみならず疲弊してなお広場で警戒に当たっていた都市軍兵までもを広場の冒険者たちが囲んでしまう。
それは完全に暴動の勃発直前だった。
いくら正規兵、しかも都市の最精鋭だとしても傷つき疲弊した状態では、冒険者と戦っても簡単に皆殺しにされそうだ。
「ティオドゥラ様、弟君は浅はかに過ぎますな」
「面目ない、ここを収めてもらえるでしょうか....」
ミーカは頷く。
「静まれ!!!!」
既に日がのぼり明るくなった広場に魔法で拡声されたミーカの声が響き渡ると広場に居た人々が一斉に静まる。
「どうやら今回の邪魔だてはティツィアーノ様の独断じゃった!既に都市軍やティオドゥラ様が収めてくださった!ワシも剣を向けられたがティオドゥラ様のお陰で無事じゃ!」
うーん何だか政治的な何かに巻き込まれそうだと美里は嫌な空気を感じる。
「ティツィアーノ、早く剣を収めろ」
今だ剣を抜いたままのティツィアーノをティツィアナが叱りつける。
ティツィアーノは今思い出したかのように焦り剣を収めた。
「ティオドゥラ様、面子の立て方は幾らでもございますが失態の回復は難しい者です、特にこのように緊急事態では」
「返す言葉もない」
ティオドゥラは苦い顔で謝罪した。
もうやめてあげてティツィアーノ君のライフは0よ!?
「ミーカ殿、本当に頼めるのか?」
「中層への管理区まではどうにかしましょう」
「可能なのか?」
「それが出来るからワシらはデルーカ最強なのですぞ、しかしティオドゥラ様にもお立場が御座いましょう、形だけでも先陣はお任せいたします上層の階段を降りる所まで先導をお願いいたします。」
「承知した、私達は上層へ降りたところで待機....万が一入り口側にモンスターが沸くようであれば処理でよいかな?」
消沈の面持ちでティオドゥラが確認するとミーカが優しく頷く。
「よろしくお願いいたしますぞ、中層の管理区を確保次第使いを出しますので、その後に合流をお願いいたします。では拡声魔法で正規軍の指揮をお願いいたします」
ミーカが恭しく頭を下げる。
「皆騒がせて済まない、行き違いがあったが誤解は解けた都市軍兵は門前まで集合せよ!魔石土竜と合同で管理区を奪還する!」
ティオドゥラ様が力強く号令をかけると、流石は正規軍と思える速さで精鋭たちが門前へ整列する。
「ギルド魔石土竜のミーカじゃ、騒がせてすまんのぅ、若いのが勘違いして騒いだだけじゃ気にせんでくれ、ダンジョンはティオドゥラ様とワシ等で取り返してくるからのぅ、報奨金が楽しみじゃわぃ。では行ってくるからゆっくり待っとってくれ!」
ミーカが冒険者を納得させるためひと芝居入れた声を掛けた。
「野郎ども土竜の力店たるぞい!」
「「「「「「うおおおおおおおおおおおお!!!!」」」」」」
魔石土竜のメンバーが一斉に雄たけびを上げる
この爺さん、本当は凄い人なのかもしれない。
「ミーカ、私とオリガの一撃で正面の有象無象は消し飛ばす、都市兵の迷宮突入のタイミングは任せます」
「承知した」
エーリカがこの状況で態度がデカイ!ティオドゥラ様が凄い顔してみてる!
あえて美里に声を掛けないのは偉いが後が面倒そうじゃないか?!
「ティオドゥラ様、開門の号令をお願いいたしますじゃ。開門したら門周辺に怪物が溢れんように囲んでくだされ。先ずはワシ等の先発数人が階段下まで一気に道を開きます。その間に正規兵の皆で門内のモンスターを殲滅をお願います。階段下の殲滅が終わり次第合図させますので階段下へ移動して以後待機、それを確認しましたらワシ等が続きます」
「ミーカ殿、助かる」
オリガがミーカに耳打ちするとミーカがティオドゥラへ指示をしティオドゥラも了承する。
「開門!進軍開始!!」
ティオドゥラは周囲を確認し都市兵への指示が完了すると直ぐに号令発した。
ティオドゥラの号令で二重の門が解放されると怪物が溢れ出す、その怪物達を都市軍兵が魔法の斉射で活路を開き、魔石土竜に囲まれた死霊秘法のメンバーが突入する。
そこでとんでもない事件が起る。
開門された中、迷宮入り口の大階段周辺。
そこには大量の虫や幽霊、そして数体の死霊が犇めいていたのだが、問題はそこではない。
「アラララララララララララララララララララララララララ―――――――――――――――――――――――――――――――――――ァイ!」
エーリカとオリガが正面に居るモンスター達をフンと金棒で薙ぎ払った間隙を縫い、可愛い叫び声をあげたクロに騎乗したクロエが突撃してしまったのだ。
しかもクロがブレスを使い正面に居たモンスターをガッツリと消し去し正面には大階段までの一本道が出来上がる。
クロ達はそのまま、あっという間に階段を駆け下りてしまう。
引き離されまいと死霊秘法のメンバーと魔石土竜の先行隊が突撃する。
幸いにもクロ達が小さかった為か周囲の都市軍には気づかれていない様子であった。
ギルド死霊秘法の突入に合わせて直ぐに都市兵軍がダンジョン入り口の部屋を制圧に入るがその時には既にモンスターの8割が屠られていた。
それでも都市兵が殲滅を終える前に、階下からのクリアの合図がかかり、間を置く形で全員が上層入り口まで侵入した。
◆
迷宮上層まで降りると、都市軍の先頭を切ったティオドゥラの目の前には、予想だにしていなかった光景が広がる。
暗い筈の空間は左右に点々と浮かぶ霊魂に照らされている。
現代日本人であれば高速道路のトンネルのような状況である。
そしてそこには先発したギルド魔石土竜と思っている先発隊の姿は既になく、ただ怪物の大量の死体だけが転がっていた。
ダンジョン産の怪物は時間が経つと10分程度の時間で砂の様に崩れて消えていく、ここにいる死体はまだはっきりと形を残していた。
つまりその事実は10人足らずの冒険者たちが一面に転がるモンスターを容易く屠り、上に合図して直ぐに見えない距離まで走り抜けたという事だ。
ティオドゥラは心胆が凍り付く思いであった。
霊体系の怪物も大量にた筈である、アストラル系は倒すと直ぐに魔力分解を起こし形は残らない、しかし今この場に居ないという事はそれらも退けていると言う事になるのだ。
しかもその戦闘の最中にも、入り口付近に光球の魔法を掛けつつ進んでいったのだ、尋常ならざる手練れと言うにも限度がある。
呆然とする中、ミーカ達ギルド魔石土竜本体が到着すると上層の大階段下の安全確保を頼まれ、中層へ向かう彼らを見送った。
ティオドゥラはその日、今まで必死の努力で積み上げてきた自信の全てが崩れ落ちるのを感じていた。




