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第32話 異世界で新事業を立ち上げよう③

第32話 異世界で新事業を立ち上げよう③

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翌朝、新事業に必要な資金調達の為に、ギルド死霊秘法(ネクロノミコン)はダンジョンへ探索(ダイブ)する為の準備をする事に決まった。

現在のギルド死霊秘法(ネクロノミコン)の戦力であれば、下層域や遺跡区と呼ばれている今だ誰にも踏破されていない場所への到達も可能と考えていた。


エ-リカ、オリガに加えヘリュの3人がパーティーに加わる手筈となるり、アンデットには必要無いとも考えたが他のパーティーからの目がある為、最低限の装備を整える必要とだった。

ヘリュに関しては買い物中に採取品の荷物持ちのを増やしたいという事で一時的な参加となる。なにせ未踏破の地区であれば濃密な魔石(マナタイト)魔水晶(マナクリスタル)がゴロゴロとあるに違いない。


魔術師だからと言い張れば大袈裟な装備も必要ないのだが、前衛が出来るエ-リカ、オリガの2人にはあえて魔法や権能(ユニークスキル)を人前で見せず温存する事にしたのだ。




人間には、個性がある。




可愛いものが好きだったり実用性がない装飾を好んだり、デザインよりもブランド名を重視したり、おっさんなのにセーラー服を着て繁華街を歩いたり。


それはアンデット達も同じであったようでヘリュは無難に皮鎧と短剣の他基本装備をそろえたのだが、エーリカとオリガが選んだのはヨシフの道具屋で見つけたただただの太く重い鉄の棒である、何の変哲もない美里の身の丈に近い長さ、170cm程で重さは20kgは有るろうただ固く長い棒・・・



とは言え武器ではなく素材だ、しかも持ち歩くだけで秘匿ろうな重さの鉄塊を片手でブンブン振り回す女子2人を見て、ヨシフは開いた口が塞がらない。


こんな物が何故ヨシフの店にあったかと言えば、彼曰く「たぶん盗品だ」との事。

どうやら壁外村や東区内の貧民たちが鉄くずを集めて自分たちで固めた物を棒にして売りに来るらしいのだ。

この時代では貴重品である鉄屑の買取もしているらしいのだが、ある程度の量が纏まったところで鍛冶屋などに卸しているらしい。


一通りの買い物が終わると、時間はだいぶ早かったのだが、その足で本日の会談場所のラヘイネンペラヘのアジトへ向かう。

途中、クロエや悪所の子供達を乗せたクロの率いる犬の群れを見かけたが、乗せてもらえた子供たちはともかく街の大人達は恐ろしいものを見る目で見ていた・・・

実際見てしまうと、大型犬14頭の群れが一斉に駆け回る様子はかなりの威圧感がある。


クロエには迷惑を最小限に留めるために、犬達での疾走は壁沿通りだけにしておくように言い含めておく。


予定の時間よりはかなり早くラヘイネンペラヘに到着すると、何時ものようにノックをする前にドアマンコープスが扉を開けてくれる。

そのまま勝手知ったるアジトの中、リビングへ入るとそこには約束の時間よりもかなり早く到着していた魔石土竜(ませきもぐら)のメンバーの姿があった。


やつれ果てた様子の魔石土竜(ませきもぐら)の頭目ミーカと幹部と(おぼ)しき4人が座っていた。

美里たちが入室したのを確認するや否や5人は一斉に立ち上がりものすごい勢いで謝罪を口する。


どうやら、今日の交渉の為にラヘイネンペラヘへ協力を仰ぎたかった様なのだが、この3日間エサイアスは彼らとの接触を拒否していたと言う。


魔石土竜(ませきもぐら)のメンバーは焦りに焦っていた。


ギルド死霊秘法(ネクロノミコン)との小競り合い直後から異常な事態が続いていた。

ダンジョン内で倒れたメンバーは廃人同然になり果て、死霊秘法(ネクロノミコン)への復讐を口にした者や魔石土竜(ませきもぐら)からの脱退を口にした者が生きてはいるが突然昏倒する事態が頻発した。

原因不明で倒れる者もいたがどう考えても美里の仕業だと言う事は理解できるのだがどうする事も出来ない。



誰かが倒れるたびに恐怖が増す。



ミーカはこの症状に心当たりがあった。200年前に滅んだ北部の都市国家トゥルク跡に生まれた『死者の都』の探索時に霊体(アストラル)系の上位怪物(モンスター)達と戦った際に経験した吸精(ドレイン)系の攻撃である。


美里の眷属達の不可視化を見破る事が出来ない現状では魔石土竜(ませきもぐら)に打てる手も無い、しかしこれが美里たちの警告の一つである事は理解出来た。



今日までに戦闘が可能な魔石土竜(ませきもぐら)のメンバーは全体の半分にまで減り、ギルドは事実上崩壊状態である。このままでは魔石土竜(ませきもぐら)は終わりである。最期の頼みの綱がラヘイネンペラへだったのだ。



会談の当日ならば、ラヘイネンペラヘ早い時間に来ても追い帰される事はないと踏み、手土産をもって現れた様だった。






しかし、ラヘイネンペラヘ来るまでにも彼らの心を折るに十分な出来事が数々起きた。


東外壁区近くの通りで出会ったのは、美里のパーティーにいたあの娘と犬が群れを成して走り回っていたのだ。

それだけならば『このへんに住んでるんだー』で済む話かもしれないが、魔術を使わずとも魔力を凡そ感じる事の出来るミーカが以前感じ切れていなかったクロとクロエの魔力を感知してしまった、そしてその群れの犬達からもソコソコの魔力を感じたのだ。


魔力を持つ動物の群れは彼の長い経験でもダンジョンの深部や都市外の森林奥深くでなければ見る事はない。


そもそも魔力があるなら、それはもう彼の知る犬ではないのだ。


恐怖しながら歩いている帝都の闘技場でも見た事が無い程の筋肉塊(ティモス)が屋台通りで買い物をしていた、それだけなら『凄い人がいる~』で済んだかもしれないが、戻って来た犬の群れに食べ物を買い与えていた、つまりあの子娘と犬達の関係者、ギルド死霊秘法(ネクロノミコン)の関係者なのだ。


間合いを十分にとって魔法を放てば勝つことは容易であるが、あの筋肉は見た目の圧が尋常ではない。


そしてアジトに到着してみればドアマンからも感じた異様な魔力、応接間へ通さ席を進められると、オスクと名乗るこれまた筋肉の塊が目の前に座り応対された。

オスクと言えばラヘイネンペラヘの前の頭目であり、ミーカとも面識があった筈なのだが眼の前に言るオスクは面影は有る物のまるで別人である。


当然本人にも確認したが、そのオスク本人であると言う。


「エサイアスはまだ寝ている、『主様』がいらっしゃるまで黙って待っていろと物凄い威圧感で睨まれる。


――――――『主様』ミーカ達はすべてを悟った。


普通の人間であればこれだけで失禁するだろうし連れて来た幹部は泣き咽び震えている始末。

しかし、逃げ出さないだけ褒めてもいいとさえ思えるが、単に逃げても殺されるだけだと悟っているのかもしれない。


オスクはただ何も語らず、それ以上の質問にも答えず、ミーカ達を静かに睨みつけていた。


そこに今日は魔力を隠していない美里、エーリカ、オルガ、クロアの出現である。

ダンジョンの下層の最深部に置き去りにされた様な気分のミーカの精神は崩壊寸前である。


彼らは既に全てを諦めてしまっていた。




魔石土竜(ませきもぐら)の皆さん、なんかお早いですね」

「い、いやぁ、カオル殿をお待たせする訳にはいかんのでのぅ張り切って早めにお伺いしたのじゃ」

「あぁ、気を使わせてしまったみたいですいません」

「いやいやとんでもない、今回の件は我々の落ち度ですからのぅ...」

ヘラヘラと優男然とした美里とは対照的に、ラヘイネンペラヘへの根も廻しも叶わずに終わったミーカ達の顔色は悪く酷くヤツレていた。



「おぅカオルの旦那、おはよう」

美里達が部屋に入ると後ろから本日の仲裁人となるエサイアスがやってくると、彼は気軽に美里の肩を叩き、テーブルのお誕生日席へと座る。

「主様はこちらへ」

オスクが立ち上がり、魔石土竜(ませきもぐら)の正面先を開けるとエサイアスの後ろへ従者の立ち位置へ移動し直立不動の体勢で魔石土竜(ませきもぐら)を睨みつける。


「オスク、名前で呼んでって言ったでしょ?」

「申し訳ございませんカオル様」

見た目最狂のオスクが、物部屋で最も弱そうに見える美里に謝罪し頭を垂れる情景が不気味さを増幅させミーカ達の中の恐怖を煽りたる。


「戻ったぞ...主様、お早いお付きで。ご機嫌麗しく嬉しく存じます」

「ティモっさんも名前で呼んでって言ったでしょ?」

「失礼いたしましたカオル様、以後注意いたします」

ティモスの出現でミーカ達の中で見た目最狂情報が更新される。


ティモスが一瞬迷った様子をみてオリガがオスクの横、エサイアスの後ろに並ぶように指示されるといそいそ移動する。


死霊秘法(ネクロノミコン)は美里とヘルガのみが座り、エーリカ、クロエが美里の後ろに立ち、オリガがヘルガの後ろに立つ。


突き飛ばされたヘルガが死霊秘法(ネクロノミコン)の№2だったという事実を再確認し、突き飛ばしてしまった時点で魔石土竜(ませきもぐら)終了のフラグだったという事を理解する。



「カオルの旦那、はじめるか?」

「あ、はい、お願いします」

魔石土竜(おまえら)もいいか?」

「たのみますぞ」

魔石土竜(ませきもぐら)達の断罪裁判が始まった。


「カオルの旦那、話は聞いたがおらぁあくまで仲裁人だ。話は全部お互いで始めてくれ」

「はい、えっとじゃあまず俺から幾つかお話させていただいてもよろしいでしょうか?」

ミーカ達には否も応もない、ただ頷くだけだ。


「まず前提として、恨みっこなしで仲良くしたいと思っています」

「ふぁ?」


美里からの提案は拍子抜けする内容であった。


簡単にまとめると、今回の諍いは魔石土竜(ませきもぐら)の被害も大きく既に謝罪もあった、これ以上の争い事は望んでいない。

賠償金は不要だが、ダンジョンでの喧嘩以降様子が変わったメンバー、実態は殺して美里の使役するアンデットと化したのだが、そのメンバー17名を魔石土竜(ませきもぐら)から除籍してラヘイネンペラヘのフロント企業、キヴァ・エラマへ迎えたいと言う。

既に使い物にならない状態である、反抗的なメンバーの名簿と一緒に引き渡すことを了承した。


次に魔石土竜(ませきもぐら)死霊秘法(ネクロノミコン)と友好ギルドとして協力体制を取り、死霊秘法(ネクロノミコン)の情報は極力秘匿するよう希望があり、当然了承する。


今後は死霊秘法(ネクロノミコン)が下層探索を行う事を説明し、魔石土竜(ませきもぐら)は全面的にバックアップする事とを約束し会談はあっけなく終了した。


帰り際にはミーカが色々聞きたそうにしていたが、言葉を飲み込む。

なにしろ、何か言おうとすれば、美里の後ろに立つエーリカとオリガが巨大な鉄塊を振り回し始めるのだ、魔石土竜(ませきもぐら)に発言が許されていないと判断せ座ろう得ない。











こうして余りにも平和的にギルド間抗争は終結したのだ

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