第31話 異世界で新事業を立ち上げよう②
第31話 異世界で新事業を立ち上げよう②
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「.......で、カオルの旦那はこいつらが何に使えるってんだい?」
文字通りの怪物になってしまった巨人2人を見てエサイアスは心底疲れた顔をしていた。
「土木事業です」
「土木....事業?それが新事業なのか?儲かるのか?」
「それ自体は全く儲かりません!」
「「「え?」」」これにはエサイアスのみならずヘルガとクロアも驚いく。
「先ず何よりこの都市の、せめて東外壁区だけでも下水状況を改善させたいんです」
「下水?ってのはなんだ?」
下水概念のない都市である、言う事は尤もではある。ヘルガとの話の中でも下水の概念らしき物は無く、糞尿のみならず排水についても水はその辺に捨てるだけと言う意識であった。
美里はデルーカに来て以来の最大の懸念事項である下水事情についての問題点と改善する事の利点を皆に伝えた。
この都市には貴族や金持ちの住まう中央地区ですら道路は舗装されていない。舗装していない道であれば、例え水を道にぶちまけても泥濘が出来る程度でいつか水は地面が吸ってくれる。
中央地区付近では排便壺や生ゴミ等を定期的に農家がやってきて股拭き用の藁等と交換で肥料用に回収をしてくれるのだが、悪所や貧民街は道端へ捨てるが一般的である。それでも肥料として有用な為、月に数回は溜まった汚物を勝手に持って行ってくれる事で何とかしているのだ。
「下水は生活排水、つまり捨てる水でその中には糞便なんかも含みます」
「それがあると何が変わるんだ?」
エサイアスには存在しないインフラの重要性などわかるはずがない。しかし理解出来ない事柄に対して真摯に理由を知ろうとする、この姿勢は進歩できる人間の重要な素養である。
エサイアスはビジネスパートナーとして有用だ。
「まず判り易い効果としては臭さが減ります、具体的には外壁沿いの道でも美味しくご飯が食べられるくらいに死体と思っています」
「はぁ?」
一瞬間があったがエサイアスは目を丸くしていた。
「あんな糞だらけの所で?」
「そうですね、下水工事を行うと排水は地面の下、目に付かない形で捨てることが出来るので見た目も臭いもかなり軽減出来ます。」
「じゃあ便壺の中は何処に捨てるんだ?」
「下水層です、流石に浄化槽は付けられませんが分離層の設置は可能だと思います」
「浄化?分離?」
「浄化槽は汚い水を綺麗にする仕組みで、分離層は沈殿物と沈殿しない水を分けて用途別に分ける仕組みです。それについては実際に作業を行う時に実感してもらえればと考えています」
「なるほど、糞と水を分けるって話か、糞とかの塊は溜まったら農民に持って行かせる、タダじゃなくて拭藁と交換、いや纏まってなら売る事も出来るかもしれねぇな」
意外とエサイアスの理解が早い。タダのゴリラではないのは解っていたが、流石は悪所でも周囲の信頼を得るだけはある。美里は笑顔で肯定する。
「ウンチを.....売るの?!あ。でも拭き藁が無料で貰えるのは嬉しいかも!」
ヘルガは良く解っていないが朧気ながらも臭いの軽減と拭き藁の入手と言う利益がある事がを理解した様である。
東区の悪所地域の外壁沿通りの長さは歩いて25分程度、一般的な地図の計算では1分80m換算、おおざっぱな計算ではあるが約2kmと予想される。なかなかの大事業になる。
道幅はおよそ6mそのうち外壁沿いに1m幅の側溝を掘り、コンクリなどで作った2種類の深さのU字溝を埋設、深さはこれから計算が必要だが、側溝の上には安全のために木製の厚めの蓋をする計画だ。
そして美里の計画で何より重要なのは、一定間隔で公衆トイレの設置と排水を流す為の設備、最終的には公衆浴場を設置する、そうする事で匂いを防ぐだけではなく、衛生環境を劇的に変える計画なのだ。
「この工事をする事で病気が減ります」
「病気が?」
「排泄物や腐敗物は病原菌、病気の元を産むんです。それを隠してしまう事で病気が減るんです。」
「まじか!?でも確かに不潔にしてる奴ほど病気になるってのは確かだな....」
聞いてみれば病気には今だ呪いの一種等と考えている人間も多いらしく特に貧民には医療の概念が薄く魔法や祈祷で快癒する例もある為に発展を妨げていた様である。
これについては時間をかけて理解してもらう以外に美里には手段がない。
「この下水事業がある程度完了したら、次は道路の舗装工事をします」
「舗装?」
これまたエサイアスは首を傾げる。
「道を歩きやすいように調えるんです、ダンジョンの中心通路みたいな形です」
「屋内みてぇにか?」
なるほど、ダンジョン内部は道路ではなく屋内の床って発想だったのか・・・・
「確かに臭ぇのはありがたくはねぇし、病気が減るのはありがてぇが....悪所が上等な街になる.......この外壁通りだけでも質のいい商店や売春宿がつくれりゃあすげえ金になるぞ?旦那、マジでウチがバックについてやらせてくれるのか?!」
「ええ、もちろんです」
「例えば悪所の下水事業が完了した後に商業区とかも手ぇ伸ばしたりもできるのか?」
「ええ、もちろんです。個人的には都市全体をどうにかしたいと思っているくらいですから」
美里の説明から悪所における下水事情改善の重要性と衛生環境の改善で得られる利益を理解したエサイアスからは積極的な協力得ることが出来た。
彼はラヘイネンペラヘのフロント企業がそれを担う事の有益さを、かなり正確に理解したのだろう。
直接の現金収益は出ない事業ではあるが、実際の労働力は美里の召喚した賃金不要労働者達が中心であり、当面必要な資金もギルド死霊秘法の迷宮探索の収益から賄われる為、ファミリーからのリスクも少ない、そのうえで副次効果が大きな利益を生むと言うのだやらない手はない。
今後、ラヘイネンペラヘが行うのは必要な資材の調達や仲介と事業の障害になる問題が出現した場合の一次対応である。しかも仲介手数料が支払われるなら右から左の仕事でも金が入る。
更にエサイアスが興味を持ったのが、『公衆トイレ』と『公衆浴場』の設置である。それ等を行うにあたり外壁沿いのインスラを可能な限り確保してくれる様に依頼をする。
平和的に可能か確認した所、多少金を渡せば近所の開いている建物へ引っ越ししてくれる者はゴロゴロと居ると言う話だ、平和的な解決である事を期待しよう。
ヘルガも『公衆トイレ』と『公衆浴場』とても興味を持ってくれた。
特に公衆浴場についてはかなり積極的である。
何だか目がやばい、ヘルガたんがふしだらな子になっていく・・・混浴ではないからね?
いゃ・・・・・・・・・営業時間外で楽しむことは・・・アリか?
「公衆浴場と言えば垢すりとマッサージに毛抜きもいるな....」
「え?カオルなになになにそれ!」
「いや、美容関係なんだけど細かい話だから後でするよ」
ヘルガが更に食いついて来たが、それは後で説明する事で今は納得してもらう。
作業実施の流れとしては、工事の拠点になるインスラを確保してからの始動となる。
それまでの間はギルド死霊秘法は血盟デスマーチ軍団としてダンジョンで荒稼ぎをする予定であると説明すればエサイアスからかなり荒稼ぎできそうだなと悪い顔をされ、魔石等もファミリーに一部を下ろしてほしいとの話をされた。
ラヘイネンペラヘでも裏で流通販売を手掛けているというのだ。
土木工事に必要な建材の話をするとセメントが存在するらしく大量生産する事が安価で可能である事が判明する。
その他にも土系魔法使いであれば砂や石を固めて石にする事や石やセメントの亀裂を直すことも出来ると知れば、美里は工事が容易になりそうだとほくそ笑む。
素材の調達はラヘイネンペラヘで請け負うと言うので資金が調達出来次第、ラヘイネンペラヘ経由でフロント企業が購入するよう手配してくれることになった。
土木事業が落ち着くと次に下水整備を行った横の道路を整備する予定を説明したが、そこでエサイアスからの提案を受ける。
もし人を雇う時は悪所の住人で仕事にあぶれている人間を率先して雇いたいと乞われたのだ、当然の事として普請事業後には様々な新事業の創出を予定している、そのために人材は確保していきたい。
美里から見れば、悪所の人間と言うと粗野で扱いにくい印象もあり、纏めあげる事が可能か確認するとエサイアスがいてオスクやティモスが現場で働いている中でグダグダと言う事を聞かない人間がこの悪所に居るとすればカオルだけだと笑い飛ばされた。
解せぬ。
道路は頑丈な古代ローマ街道型の何層も重ね石畳で表面を覆う方法も考えたが、作業手順が簡潔で後から改修も容易な地盤を固めて砂を敷居た上に砕石を敷き詰め固めるだけのマカダム補装で行う事を決めていた。
当初フロント企業の代表者をエサイアスにお願いしようとしたのだが、皆からは美里がやるべきではという案が出る。
しかし美里がそれを固辞し最終的には使役しているリビングコープスのヘリュを商会主に据える事に決まる、そして商会名をキヴァ・エラマとした。
今後は迷宮の下層へ潜り荒稼ぎを予定していたが、収穫物をそのまま流通させると悪目立ちしてしまう、そうなれば他のギルドや都市行政から変に目をつけられる可能性もある。
その為、魔石や魔水晶の流通や換金の大半をラヘイネンペラヘで経由するマネーロンダリングを計画しているのだ。
そのまま現金換算しなくてもラヘイネンペラヘであれば新事業の運営資金にもできる。
美里は当初商会長にオスクを推薦したのだが、オスクの名前は利用価値もあるが悪名が高すぎ、更には見た目が更に凶悪化している為、エサイアスからは絶対避けた方が良いと助言されたのだ。
逆にオスクとティモスが率先して現場労働をしていれば当人たちの評判も改善も出来るしトラブルの防止にもなるという事で落ち着いた。
しかし今のオスクとティモスとヘリュを本人だと認識出来る人間がどれ程居るのか疑問である。
次にインスラの確保までの間、今後増える物理系アンデットを何処に置くかと言う問題があったが、ラヘイネンペラヘで預かりを依頼し了承される。
エサイアスから嫌そうなな顔で「リビングコープスって奴がまだ増えるのか?」と質問があり、残念ながら魔石土竜から既に大量に生れている事を説明すると頭を抱えていた。
結果的にはリビングコープス達を当面ラヘイネンペラヘの3~4階部分を改装し、3段ベットを大量に作り労働時間外の待機場所を作り預かってくれる事になった。
その替りに必要があればオスクも含めラヘイネンペラヘで運用してもいいと約束をする。元魔石土竜のメンバーがファミリーの傘下に入るのは彼にとっても利益になるらしい。
エサイアスから、キヴァ・エラマは事実上ラヘイネンペラヘのフロント企業となる為、協力は惜まないと言質を取り、オリガには明日の朝一番に魔石土竜で使役済みのアンデット達を回収してラヘイネンペラヘに集合させるように指示をする。
最期に明日の魔石土竜との和解交渉について簡単な擦り合わせを行うとエサイアスが後ろに立つオスク達を見て物凄く悪い顔をしていた、何を考えたのかが少し怖い。
エーリカとオリガだが半実体化した為、エサイアスから美里の住むインスラの4階の空き部屋を借り住まわせた方が良いと言う話になる。
なんと既に床の修理と3段ベットの造作が完成しているというのだ。ヘリュも目の毒になるという理由で2人と一緒に住まわせる事にした。
2人はこの都市では珍しい双角族と言う事でゴリ押しするらしいのだが、実際の双角族は所謂鬼の角が額の上に付いているのが基本の為そのうち誰かに突っ込まれるかもしれないけど、ひとまずゴリ押ししようとエサイアスは笑っていた。
善は急げと直ぐにエサイアスが美里の住まうインスラへ同行して直接大家へ口を聞いてくれる事となり本日の会議は終了となった。
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インスラに到着すると、既に日が落ちて時間も経っていた為、大家はすっかり寝ていたのだが、叩き起こしエサイアスの頼みと言う事もあって入居交渉はすんなり行われた、また3段ベットに3人住まいの契約なので、改装済みと言う事もあり大銀貨2枚と決まる。
そこで初めて3階の部屋の住人である親子と出会う。
母親は娼婦と聞いてるが、娘はまだ5歳位に見える細く小さな娘で親子ともに痩せている、やはり悪所での娼婦生活で子育ては苦労しているのかもしれない。
子供のトイレの為に1階に降りて来たのだが遅い時間と言う事もあり簡単な挨拶だけで会話はなかった。
理由の一つはエサイアスが来ていた事であろう、彼が居る事にかなり驚き終始ペコペコとして急いで逃げるように部屋へ帰っていく。
全ての話が終わり、美里がそのまま就寝したかったのだがヘルガがカオルの部屋に居ついた、当然なるべくしてなり夜間戦闘が繰り広げられる。
本日の美里はだいぶ体調が戻っていた様で、昨晩の仕返しとばかり大攻勢に出た。
ヘルガの手をベッドへ柔らかいタオルを使い軽く縛ると抵抗の一切封じ、更に目隠しをして彼女の意識が飛ぶまでネットリとしたソフト●Mを味合わせる。
途中にロリガの悪戯で権能が発動し、何度も許しを請う事になるヘルガには地獄の様な天国をたっぷりと味わせる事に成功する。
最期にはヘルガ意識を手放した事で、美里のリベンジは成功し心地よい眠りにつくことが出来た。
今日はいい夢が見れそうである。




