第30話 異世界で新事業を立ち上げよう①
第30話 異世界で新事業を立ち上げよう①本文
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日が落ち始めた頃に美里達ギルド死霊秘法のメンバー達はクロエひとり留守番に残し、他のメンバー全員でラヘイネンペラヘのアジトへ訪問した。
「うわぁ...ラヘイネンペラヘのアジトに入るとか初めてなんですけど!怖いんですけど!カオルって本当にすごいよね」
緊張が隠せないヘルガがアジトへの到着まで饒舌になっていたのが少し面白かった。
ラヘイネンペラヘのアジトへ到着するとドアマンコープスが扉を開け、我が家に到着したクロを先頭にドアマンコープスの案内でリビングへ通される。
他の13匹の犬達は基本アジトの外で生活をしているらしく、クロだけは出入り自由で外で寝たり家で寝たりと不眠不休でドアを護るドアマンコープスに扉を開閉させているらしい。
部屋に入ると先ずは待ち構えていたエサイアスへ軽い挨拶を交わし、手土産を渡すと嬉しそうに酒の礼を言い、美里達に着席を促す。
そこにはオスク、ティモス、ヘリュのリビングコープスも同席しており、美里の着席を確認するとエサイアスと共に正面の席へ着く。
今日は話をスムーズにする意味も含め、1号を始めロリガとオリガ達も可視化させると、1号の存在は知っていたが流石のエサイアスも仰天し目を見開く。
「旦那、なんだか皆ヘルガの奴にツラぁ似てねえか?」と言う突っ込みに「だって可愛いだろ?」と返すとエサイアスは豪快に笑い、ヘルガは顔を真っ赤にする。
ポジティブな言葉はどんどん口にするべきなのだ、ヘルガが闇落ちしない為に・・・
軽い挨拶の会話を終えると、先日に起こったギルド魔石土竜との抗争について簡潔に説明を行い、明日の和解交渉の為、改めて場所の提供と仲介役の了承を得る。
当然ラヘイネンペラヘとギルド魔石土竜の間には裏社会としての関わりもあり、売春宿の客としても繋がりはある、エサイアス自身もミーカとも面識はあったようだ。
「しかし、カオルの旦那は凄えな、この都市に来てこの短期間で都市最大のギルドを屈服させちまうたぁ、しかも死体使うだけじゃぁ無しに幽霊や死霊まで呼べるってマジで凄ぇな。俺なんか喧嘩売ったのに命が有っただけでもマジモンでラッキーだったわ」
エサイアスの笑い声が部屋いっぱいに響く。
ラヘイネンペラヘとの出会いはトラブルから始まったが、結果的に良好な関係を築けたのは僥倖である。その半面で申し訳が無い事をした罪悪感もある。
裏社会の組織ではあるがラヘイネンペラヘ、とりわけエサイアスとは上手くやっていきたい所である。
「まぁお陰で今や俺は東区じゃあ大物扱いだしな、今回の話も旨みがありそうだし美里の旦那にゃあ差し引きで借りの方が遥かにデカいやな」と彼は非常に好意的でいてくれるようだ。
「今後について皆に重要な話がある、もちろんエサイアスさんも聞いてくれ」
美里は真剣な顔で今日もっとも重要なの話を始める。
「先ず先日のギルド抗争で俺たちは血盟デスマーチ組軍団を立ち上げ、冒険者としてもギルド死霊秘法を名乗る事にした。とは言え血盟については俺の使役している死霊レイス達の事なので表向きには秘匿する必要がある」
ほうと納得するエサイアスとは対照的な1号の表情は初めて耳にする血盟結成について、蚊帳の外に追いやられた者のソレだった。
もちろんここからは1号へのサプライズである。
「1号、お前は今日からエーリカと言う名前を名乗れ、そして軍団の軍団長を頼めるか?指揮官みたいな話なんだがどうだ?」突然の名づけにエーリカと言う名前と軍団の軍団長の称号に元1号エーリカは歓喜に震えた。
「なんでエーリカ?」
よくぞ聞いてくれたロリガ、お前はたまに良いパスをくれる。
「ゴリラみたいだからゴリアになるとおもっていた」
やっぱりこいつに心は許せない。
と言うかこの世界にもゴリラは居るのだろうか?
「ふぎゃぁ!」
エーリカもロリガの発言には不快を感じた様で、有無も言わさずロリガの顔面へ全力のアイアンクローを喰らわしていた。
「変わった名前だが、何か意味がある名前なのかい旦那?」
エサイアスが空気を戻してくれる。
「もちろん!俺たちは血盟を結成した、その血盟名はデスマーチ軍団。
俺の国で『エーリカ』は軍の行進曲として使われている有名な楽曲でね、つまり血盟を代表するにふさわしい名前だとおもったんだ」
「軍団、行進曲、代表するにふさわしい...おぉ...我が主様.....」
エーリカが小さく呟く、しかしアイアンクローは離さないまま美里へ喜びの表情を向ける。
「アンデットの軍団の軍団長としてふさわしいと思ってな」
エーリカは歓喜に打ち震えアイアンクローにも更なる力が入りロリガの悲鳴が轟く。
「軍の行進曲って言うと指揮をする為の楽隊がやるみたいなやつか?」
「またそれとはすこし違うけど、閲兵式の時とかによく使われる感じかな」
エサイアスの質問に曖昧な答えを返してしまう。
この世界の文化レベルはそこそこある。
しかし音楽と言う物に対して『知識』としては持っているが、悪所や貧民にとってはその童歌だったり吟遊詩人が酒場や食堂宿で楽器を使って詩を読む程度しか触れる事が無い。
「どんな物なの?」
ヘルガたんの目が輝いている!!
ふとiPadに音楽アプリが入っていたのを思いだし、アプリを起動する。
生前に流行っていたアニメのサントラに行進曲関連がが色々入れているのだ。
聞き取りながら口ずさもうと思っていた所、音量調節時にスピーカー設定の項目がある事に気づいた。
まさかと思いスピーカー設定をタップするとスピーカーとイヤフォンの2項目がある・・・スピーカーマークをタップするとポンという音源切り替え時の確認の音が鳴る。
一瞬、周囲のみんなの目が丸くなる。
「カオル今の変な音なに?」
これはどうやら皆にも聞いてもらうことが出来る様だ、サントラを選択し6曲目のT.フィルハーモニー交響楽団が演奏するオーケストラ版のエーリカをタップする。
初めて聞く音楽。
初めて聞くオーケストラ。
室内には大音量でエーリカが流れ出す。
「これがエーリカだ」
響き続けるエーリカにその場にいた全員が驚き、聞き入っていた。
あとエーリカちょっとこっちに来てくれ、そういうとネクロノミコンを開き『階位値構成』を発動した。
死霊秘法で定義される第5次元階位の霊体体で物質を持つ亡霊と言う階位のさらに高位種へと進化した。
「成功だな...これは凄ぇわ...」
美里は予想していた、それ以上のその結果に笑みを浮かべる。
そこには更なる進化を終えたエーリカの姿があった。
いままでの半透明の霊体だったが容姿が、まるで実態を持ったかのように質感を持ち、身長が伸び、筋肉質でマッチョな体は筋肉の緩やかな隆起を残しつつも女性的なしなやかさを備える体に変化していた。
顔立ちも、より女性的な色気を帯び、肌が驚くほど白く、現代人であればアルビノを疑う程である。
純白でストレートの頭髪は腰まで伸び、光を反射させ神々しさを醸し出していた、そして何より驚いたのは金色に輝く瞳と白く美しい象牙質の2本の巻角が現れたのである。
「おおおおおおお、我が主様、心より感謝いたします!我が全ては主様の為に!」
「旦那、その裸ってのはどうなんだ?」
エーリカは裸であった為、長身のエーリカに見合う服をエサイアスに提供して貰う、正直裸までは予想していなかった、毎度自分の浅はかさが恥ずかしい。
「クロの事を調べていて分かった事が有ったんだ。死霊秘法に霊体系統のモンスターも階位を上げると上位の種族に進化して半実体化が可能って書いてあったんだよ。たぶん新しい能力も色々持っていると思うけれどわかるか?」
「はいご主人様、改めて様々な権能を頂く事が出来ました、お楽しみいただく事も可能になったかと思います」
エーリカは満面の笑みだが、お楽しみの意味は聞かない事にしよう。間違ってもヘルガの耳に入れてはいけない内容な気がする。
「新しい能力は後で確認して今度迷宮ダンジョンで試そう」
「なるほど、そのようなプレーがお好みで御座いますね!」
ちょっとまて、突っ込むのも怖いような事を言わないでほしいし突っ込むとしてもヘルガが居ない時だ、色々な意味で。
兎に角エーリカにもヘルガたんが居ない時にヘルガたんの危険性をしっかりと言いきかせないとなるまい。
「オリガ、お前は基本俺とパーティの周辺警護の指揮を頼みたい。つまり親衛隊って事かな?」
「承知いたしました」
オリガは恭しく礼を取ると美里は死霊秘法を開き『階位値構成』を発動しオリガの階位値を引き上げて上位の亡霊へ階位進化させる。
オリガは自らの変化に両手を広げ天を仰ぎ歓喜する。
オリガの進化した姿はエーリカと対照的に血の様な深紅の肌、頭髪はウェーブがかった黒く腰よりやや下まで伸びる長髪。その容貌はより男性的に変化する。
しかし何より目を引くのは黒目に銀色に輝く瞳、頭部にはエーリカよりも太く大きい山羊の様なの角が備わっていた。
「なるほど」
美里は死霊秘法を見ながらぶつぶつと独り言ちる。
エサイアスもこの状況を予想していたのか何も言わず裸のオリガへ服を渡し、オリガも笑顔で礼を言う。
「オリガも新しい能力は後で確認して迷宮ダンジョンで試そう」
「かしこまりました我が主よ、新たに賜りしこの身と力の全てを主カオルへ捧げます」
続いてエーリカの手に掴まれたままプラーンと垂れているロリガを見る、その視線と空気に気づき、ロリガがパタパタと暴れ出す。
「つぎはロリガのばん!!」
ロリガが大きな声で叫ぶと、仕方なさげにエーリカがその手を放す。
「そしてロリガお前にも役職を与えたい」
「ふぉおおおおお!どんとこい!」
やる気に満ちたロリガが少し腰をおとし両手でサムズアップする。
「うち専属のドアマンだ!」
「ちょ!あるじ、それちがう!何も変わっていない!ロリガ凄い子、もっと色々できる子!あれ!?進化は進化はどうした!?」うん、予想以上にうざったい反応だ。
「実は本当は頼みたい事もあるんだが、争い事が増えると拠点が不安だからね、暫くはドアマンと言うよりはガードマンだ、後で専属の子分も召喚してやる。進化は予定していた罰として暫くお預けだ」
「ふにゅう...」
ロリガは不満そうに小さな声で了承すると項垂れる
。
顔がロリなヘルガの為、可哀想に見えてしまうが、コイツに油断はしてはいけない。
実は進化させなかった本当の理由は魂への負担を恐れた為でもある、エーリカとオリガの進化を行った時に結構な魔力が抜けていくのを感じたのだ、魔力量はまだ十分ではあるがこの喪失感に慣れていない今、上位死霊の強化は注意したい。
今後ロリガを進化させるかは、オリガのロリガ教育の進捗状況も含めて決めたいと思う。
「他の2人の名前忘れてしまったけど、次はオスク達3人だ」
一瞬エサイアスがびくりとする。
「デケエのがティモスで女がヘリュだ。でもよ旦那!こいつらに力を与えても大丈夫なのかい!?危険はないのか?!」
「多分大丈夫だし、暴走するようならエーリカに始末してもらうよ、出来るよね?」
エーリカへ目を向けると優しく頷いてくれた。
「それに実際は骨格...骨だけがオスト達で魂を含めてその他は全くの別物なんですよ」
「骨?!」
一瞬エサイアスの顔が青ざめる。
「他のファミリーのみんなは死後直後だったから、本人の魂で復活できたけどオスク達3人は死んでから時間もたってたし腐ったり焼けてたりでしたから、とりあえずある程度の自立行動が出来ないと不便ですから魂と肉体は後から作りました。」
「強力な魔術師ってのは本当に怖えな....」
小市民である美里に対してエサイアスが酷い事を言うが、しかし美里自身も客観的に考えて怖いとは思う。
「それでは―――――」美里は死霊秘法を開きオスクを指定して『階位値構成』を行使し上位リビングコープスを作成に成功する。
それに慄いたのはエサイアスだ。
進化後、オスクの肉体にも明かな変化が起きた、20代に見える若さ、元々背も高く太い筋肉を持っていたが、その筋肉が比較にならないほど増加していたのだ。まるでボブ・サップを想起する程に。
「旦那!旦那!まてまてまてまて!マジで大丈夫なのか!?シャレになんねーぞ!?」
エサイアスの言葉はもっともである、エサイアスから見れば長年圧政を敷いていた暴君が強化再生怪人として蘇ったのだ、ましてや強化前でも瞬殺されている相手である、心中お察しする。
「オスク、お手!」美里が出した右手にお手をする。
「オスク、お座り!」その場に体育すわりをした。。
「オスク立て!」素早く立ち上がり綺麗に気を付けをする。
「エサイアスさんいかがでしょう?」
ひとまず従順である事が証明できたと美里はエサイアスへ確認する。
「何だか逆に怖いわ!」後は慣れてもらうしかあるまい。
巨人オスクの次は大巨人ティモスの強化である。
「ぽちっとな!」
美里はティモスへ『階位値構成』を行使する。
ここで美里は大きな失敗を犯してしまう。オスクと同じ程度でいいだろうと深く考えずに強化してしまったのだ、段階的に行えば問題は最小で済んだであろうが浅慮が最恐の結果を生んでしまったのだ。
バリバリバリと服がはじけ飛ぶ
進化したティモスはアメコミに出てくるマンガ級の筋肉モリモリ巨人になってしまったのだ。
原因の一つはやはり美里のイメージである。オスクの筋肉はやばい、しかしあれを超える事はないだろうと考えていた。刹那にあれより凄い筋肉ってなんだと想像し、生前に美里の部屋に飾られていたスパイダー●ンのヴィラン、ヴェ●ムの人外の筋肉誇張フィギアをほんの一瞬思い出していた。
恐ろしい事にそのイメージされたフィギアの造形が反映されてしまったのだ。
215cmの身長を持つティモスが進化した容姿は無駄な脂肪が一切無く血管が全身に浮き出し、首が判らなくなるほどに肥大化した僧帽筋と大型トラックのタイヤですかと聞きたくなるような広背筋、バスケットボールをのっけた様な肩の三角筋、胸板は正に装甲と呼んで差支えが無く、異常な程に細いウェストが狂気を感じさせる、下半身を見れば大腿と脹脛は何それはビール樽ですか?と言いたいくらいの太さ、膝回りも美里の腿程の太さはあるのに対比するとソーセージとソーセージの間部分のように細く見える。しかも見た目20代の若さなのだ。
完全にやらかした・・・・
ふとエサイアスを見れば両手で顔を覆っていた。たぶん少し泣いている。美里は心の中でマジゴメンと100回は唱えたであろう。
エサイアスは今後こいつらの相手をしなければいけないのだ。
思い出してみればクロエでさえあのパワーなのだ、こいつらのパワーはどうなってしまうのだろうかと恐怖する。
「えっと...ティモスくん......3回まわってワンていってみてくれる?」
できた、やった、やっちゃった!
「じゃあ次はエサイアスさんに投げキッスしてみて?」
チュ♡
「旦那ぁ、怖えぇからやめてくれ....」エサイアスがマジ泣を始めた。
横を見るとヘルガがいつの間にか後ろを向いていた。
「エサイアスさん、ティモス君にイイ子イイ子してもらってみる」
「アンタは40近くなった大人が本気で泣き出す所が見たいのか?」
と震える声で答えが返ってきた。美里はマジデスマヌと心で1000回詫びる。
「じゃあ、最後はヘリュやっちゃおうか....」
誰からも返事が返って来ない。
「ぽちっとな...」
ヘリュは女性だし筋肉はいらない筋肉はいらないと念じ、彼女の生前は娼婦上がりと言っていた、見ればかなりの巨乳、美里の中の邪な心が頭の中で滅茶苦茶えっちなアニメキャラをイメージして強化を行った。
結果から言えば大成功である。
若い頃のヘリュは美形で足の長いスレンダーな女性だったらしいが死ぬ直前には窶れ(やつれ)た顔の目つきが悪くまな板の30代後半だったと言う事であるが、今目の前にいる彼女はで20歳程の色気たっぷりボインボインレディである。
まさにボンキュッボンなのだがとにかく全身からエッチな雰囲気が滲み出ている。
「これだよこれ!こういうのでイイんだよ旦那!」
エサイアスは両手を覆っていた手から少し指と指の隙間を開けチラ見すると途端に両手を広げ歓喜し美里の偉業に惜しみない称賛をあげてくれた・・・・・
―――が
その横にいるオスクとティモスが目に入るや否や急激にテンションを落とす。
そしてヘルガがジト目で美里を見つめている。
その後3人に対して簡単な運動性能のテストを行い問題が無い事を確認すると、続いて知能テストを行う。
3人の運動性能を目の当たりにしたエサイアスはしばらく考え込んでいた。
結果から言えば3人とも会話が成立する、しかも荒くれ者の印象がなく論理的思考も可能である。ヘリュに関してはしゃべり方が若干蠱惑的ではあった。
ヘルガがジト目で美里を見つめている。
「これなら十分に使えるな」
結果的な大成功に美里の顔がほころびる。




