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第3話 異世界転生はどこいった?

003-1-001 (編集版)

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『ケイオシアム』と呼ばれる大湿地帯がある。




ナロウデス大陸の西端北部に広がり、大湿地帯の大部分を深い森が覆う。


大湿地帯の東側には断層の隆起により生まれた山脈が南北に渡り高く、そして長く広がり東西の往来を阻み大陸西部を孤立させる。


大湿地帯の西側は海に面しているが、海岸線の大半も大地が隆起たかのようにせりあげ、高さ10m程から高い場所になれば200mにも及ぶ断崖を形成し、地形が生んだ荒れる海流が上陸可能な地域を制限しているため、人類の海からの侵入(アプローチ)を妨げる。


ケイオシアム大湿地帯の多くの地域は亜人種や魔人種と呼ばれる種族により築かれた集落や都市も存在し人類には危険な土地とされるのだが、このような地域にもおよそ200年前までは人間種が支配していた都市や国家も多数存在していた。


その昔、この地には高度な魔法と魔道具の文明で栄華を極めていたケイオシアム魔導王国が存在した。


当時のケイオシアム魔導王国は現在の大陸西部の覇権国家となる神聖イース帝国の支配者層であり、高度な魔法技術をもつエルフ族に比肩する魔術体系を有していたとも言われていたのだが、200年前に勃発した神聖イース帝国との戦争の中で発動された『星降りの大魔法』により滅亡する。


ケイオシアム魔道王国を滅ぼした『星降りの大魔法』の威力は凄まじく、ケイオシアム魔導王国軍のみならず、魔道王国の支配地域の大半を焼き尽くす。


焼け野原となった大地には無数のクレーターが広範囲に広がり、その後200年に渡り人類の住み難い地域へ作り変え、200年の時を経て現在の大森林や湖畔群を内包するケイオシアム大湿地帯を作り上げた。


大魔法によって戦争は終結に至るが、その大魔法によって侵攻すべき大地は過酷極まる地に変わり、神聖イース帝国も北への侵攻を断念したと言う。


ケイオシアムは人類衰退後、突如出現した亜人種や魔人種と呼ばれる人種や、怪物(モンスター)等の生物が新たな支配者として君臨しケイオシアムは人類の侵入を阻むこととなる。



 ◆



ディーン大森林、ケイオシアム大湿地帯の南に広がる大森林地帯、この大森林の北部に帝国最北の都市デルーカがある。


この都市は200年前まではケイオシアム魔導王国の都市のひとつで、数少ない大魔法による大破壊を逃れた数少ない都市でもある。

ケイオシアム魔導王国滅亡後、神聖イース帝国に併合された旧都市国家の一つであり、都市内に地下迷宮(ダンジョン)と呼ばれる冒険者達が活躍する舞台が存在した。


この地下迷宮(ダンジョン)から生み出された特別な資源により都市デルーカは帝国内でも屈指の豊かさを誇る大都市である。


この世界の迷宮(ダンジョン)は、魔力(マナ)と呼ばれる物質に満たされ、魔力(マナ)によって影響を受けた特別な鉱物や植物が採取されるため多くの冒険者を採取採掘へと(いざな)う。


それと同時に地上に存在する生物とは別の生態系を持つモンスターと呼ばれる生物が生み出され、迷宮(ダンジョン)内を跋扈(ばっこ)探索(ダイブ)を行う冒険者達の命を脅かした。


迷宮(ダンジョン)は都市デルーカ以外にも、神聖イース帝国の領土全体に点在し、発見された迷宮(ダンジョン)は個々に有益な産出物もありこの世界独自の産業を担っていた。


迷宮(ダンジョン)では薬効の高い希少な植物と魔石(マナタイト)魔水晶(マナクリスタル)と呼ばれる鉱物が採掘可能である。


だがデルーカの迷宮(ダンジョン)の植物はほかの迷宮(ダンジョン)には見られないデルーカ固有の種類が豊富で、帝国で流通する薬の原料の約7割がこの迷宮(ダンジョン)産であり都市の基幹産業でもあった。


そのため、この都市(デルーカ)では、迷宮(ダンジョン)で一攫千金を求める冒険者、薬品の研究や希少な素材を求める薬師や錬金術師。そして生み出された薬品の買付を目的とした商隊は帝国各地から集まり、更にはソレらを相手に商売をしようという人間やその家族が集う。


そのため都市デルーカの規模は小さいながら帝国屈指の人口規模を(よう)し、帝国北部最大の都市と呼ばれていた。


その一方で過密な人口に加え、冒険者という荒くれ物が多いこの都市の治安は褒められたものではなく、悪所(スラム)地区が幾つも存在していた。


デルーカの都市構造は都市長(アエディリス)の住む城の建つ中央地区を中心に13の地区から構成され地区毎に全く様相の違う街並みがあった。


デルーカの建物は基本石造りであり一般の建物は2階建て、公的な建物は3階建てまでの高さと法で定められている。

しかし人口過密の都市の為、住居は極端に不足しいたため、既存の建物の上に木造の居住空間を拡張した日本でいう小規模マンションに該当する『高層集合住宅(インスラ)』が多く建築された。


インスラの構造は基本となる2階建ての建物の上に木造の住宅を2~3階分増築し4~5階建の建物にした建物で、これら増築部を賃貸として貸し出しすのが一般的に見られた光景である。


大きな通り沿いに立ち並ぶ多くのインスラの多くは一階部分に『タベルナ』と呼ばれる食堂や商店等に使い、増設した部分を賃貸ではなく『ポピーナ』と呼ばれる食堂付宿や売春宿等の宿泊施設として活用されている。


インスラはデルーカを含めた帝国内の各都市でも見られるが、現行の帝国法や都市法では違法建築である。

しかし残念な事に人口の増加速度に対して都市の拡張が追い付いていないデルーカでは、路上生活者の増加に伴う治安の悪化を解消する為、行政が黙認する形で次々と建造されていた。


中央地区や迷宮(ダンジョン)区と並び都市でも最古の地区の一つである東区の大外に位置する東外壁区と呼ばれる場所にデルーカ最大の悪所が存在する。


東外壁区の悪所は食いつめた冒険者や新天地を求めデルーカへやってきたものの安定した職に就けず日雇い労働や物乞いで日々を食い繋ぐ者、短絡的に犯罪に手を染める者達が多く住む場所でもあり、治安は非常に悪く都市行政も積極的な介入を避ける程の場所である。



物語の始まりは初夏の夜、深夜にかかる時間に始まった。


灯火に使われる薪や油は費用が(かさ)む為、貧民の多い悪所では娼館や酒屋の立ち並ぶ商業地域以外は人の(とも)す灯りは少なく、日が沈む時間には人の姿も消え始める。


明かりがなければ多くの人々はは就寝の時間なのである。


東外壁区のメイン通りは外壁沿いに沿ってまっすぐ伸び、南北には区壁門と呼ばれた門で区切られる長い通りである。


その日、デルーカの悪所に住むヘルガは、人影が無く既に住人達の多くが寝静まる舗装されていない凸凹の東外壁区のメイン通りを歩いていた。


ヘルガは路上で男たちに春を売る売春婦、江戸時代の日本で言えば夜鷹、近代日本で言う路上娼婦(たちんぼ)で生計を立てていた。


この日の帰宅は普段よりもかなり遅い時間であった。


普段の彼女は部屋を借りているインスラに近い悪所の商業地域にある売春宿通りの路上で客を取り、道端の暗がりでサービスを行っているのだが、ここ数日は客に恵まれず普段あまり立つ事が無い離れた路地に出稼ぎに出ていたのだ。


ヘルガの顔の造形は決して悪くはない、均整がとれた顔で神聖イース帝国に於いても美しい部類に入るのだが、男性的な顔つきに186cmの高身長に加え冒険者時代に負った体中の傷跡、肩甲骨まで伸びるプラチナブロンドの髪も貧しいさから不衛生で伸び散らかし雑に後ろで縛られている。

筋肉質のうえ貧しい生活で肋骨が浮く程に痩ており、断崖絶壁の胸板が彼女の市場価値を下げていたのだ。彼女が男性であれば男娼としての価値は高かったかもしれないのだが、女性の娼婦としてはあまり客がつき難かったのだ。


残念ながら今日は河岸(かし)を変えても今日は客が取れずに店仕舞いを決めた時に声を掛けて来た客は、身形(みなり)も金払いも良く、また人柄も良く見えたのだ。


昨日から食事をとっていなかったことに加え、久々の客がついた事に張り切ってしまった事がアダとなり、仕事を終えてた時には日が暮れ普段よりもかなり遅くなってしまった。


悪所住まいの彼女にとって、悪所の住人は善人も悪人も含め知った顔ばかりである。


とは言え、若い女が一人で悪所の夜道を歩くのは危険である事に間違いはない。冒険者あがりのヘルガでも、その足取りは無意識に早くなっていた。


バリバリバリバリ!


住まうインスラが見える距離に差し掛かかり、気が緩んだその時に突然起きた。


ヘルガの歩く先、道の真ん中に小さな豆粒程の光の球が突如出現すると大きな放電音が響く。


「え?なになになに?!」

初めて見る現象にヘルガは大きな体をすくませると、目の前の光球は少しずつ膨らみ、せやがて人を包める位の大きさへと膨らんでゆく。


「え?まさか霊魂(ウィルオウィスプ)?いや魔法?」

危険があるかと咄嗟に身構えるヘルガの前で光が徐々に弱まってゆく、そして光球の中から片手片膝を地につけた人間の様な何かが姿を現す。


「え?人間なの?えっと...あんた魔術...使...かい?」

男から返事はない。ヘルガはいつでも走って逃げられるように警戒しつつ、恐る恐るその場に現れた珍妙な格好の男へ問いかけた。


素直な気持ちでは直ぐにでも後ろを振り返り逃げ出したい所だったが、自分の住むインスラに帰るには後ろではなくこの男の向こう側なのだ。


「おでんでんででん!おでんでんででん!」

男の声、ヘルガには訳の解らない呪文のような言葉を重く低い声で唱える。そしてしばらくの沈黙したかと思うと、再び口を開く。


「こんな感じかぁ....あのポンコツ秘書ょぉ...やらかしよったな...」

男は立ち上がると周囲を見渡し、声をかけて来たヘルガを視認する。


ヘルガを一瞥すると、自分の体を見回し、そして体の至る所をぺたぺたと触れ何かを確かめている。


男の横には大き目の荷物が置かれており、どうやら旅人だと思われる。


「おぉぅ、キャンプ道具もあるやん...」

男は自分の荷物に気づくと暫く唸る。


うんうんと何かに納得すると頭をあげ、ふたたび周囲を見回すとこの場にいる唯一の人間、ヘルガへと視線を固定する。


「それかぁ...」

男はヘルガと目があうと、再びうんうんと頷き呟く。


男の風貌は痩せこけ、立ち上がった男の身長は彼女(ヘルガ)よりも頭半分ほど背が低い。


無精髭を生やし、長い髪をポニーテールで結びあげているが見るからに清潔そうで豊かそうであった。


纏う衣装は遠い土地のものなのだろうか、見たことのない造作。


月明りの中でもはっきりと判る帝国では珍しくカラフルで派手な色の染色と細かい模様。


横に置かれた旅の荷物と思しき袋も見た事が無い形状をしている。


明らかに一般的な平民(プレブス)が持つような粗末な物ではなく貴族(パトリキ)の荷物と言われても疑わない品質である、それは間違いなく悪所の人間ではない事を表している。


顔付は(およ)そ荒事とは無縁な優和さが伺え、仕事柄多くの人間を観察してきたヘルガは危険な人物ではなさそうだと少しだけ警戒を緩めた。


ヘルガは改めて男の身形(みなり)に着目する。


首には変わった造形の金のネックレス、左腕には変わった形の腕輪(ブレスレット)、もしかすると魔道具であろうか?真鍮の見間違いではなく本物の金であればとんでもない事である。


痩せこけているが肌艶や毛艶はよく、都市の貴族(パトリキ)と比べても明かに上の階級の高級感と清潔感を感じさせる。


目の前に現れた男はヘルガの頭の中で、不審人物からから上客候補へと認識を切り替える。


「えっとお兄さん...もしかしてお貴族様とか魔術師かなんかかい?こんな場所に迷子にでも?それとも...売春宿(ポピーナ)でもお探しかい?」

恐る恐る男へと声をかけると、男は困り顔でヘルガを見つめる。


「ちゃうやん...」

暫く見つめたあと、小さな声で呟く。


「え?」

ヘルガは意味が理解できず何を言ったのか聞き直す。


「異世界転生ちゃうやん...」

言葉は通じる様だがヘルガには意味がよくわからない。


「貴族ちゃうやん...」

「え?」


「美男子ちゃうやん...」

「え?」

ヘルガは意味不明な言動に動揺する。


「これは...異世界転移やんかあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」

彼の目には大粒の涙がこぼれ出していた。


美里薫 享年36歳 魂の叫びは悪所全域にまで響いたのではなかろうか?

拙作「のんねく」をお読みいただきありがとうございます。

ここから本編の開始となりますが皆様の興味などひけましたでしょうか?


もし、続きを読みたいな~と思ってくださったらイイネやお気に入り登録をいただけると作者の生き甲斐になったり更新の原動力になったりしますので是非よろしくお願いいたします。

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