第29話 異世界でダンジョン探索その後
第29話 異世界でダンジョン探索その後本文
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「腹減った....ものすっごく腹減った、ものすっごく喉が乾いた.....」
美里が目覚めて最初の言葉である、正確には意識は覚醒したが目がまだ開かない、異常に体が重く体が思うように動かない、そしてチ●コが物凄く痛いし袋の付け根もマジ痛い。
初のダンジョン探索に加え、ギルド魔石土竜との抗争は美里へ肉体にも精神にも多大な疲労を残していたにだが、それ以上に昨晩のヘルガの嫉妬の戦いが凄まじく美里の限界を一因であったろう。
「あるじーおはよー」
「おはようございます主様、お水であればこちらに用意いたしております」
「おぉロリガ、オリガおはよぅ......何だかめちゃ体が重いけど、今何時だ?」
美里はタブレットPCを開くと時刻を確認すする。
『AM9:27』
妙に体が痛く体が起こしにくい、筋肉痛では無い様であるが体にあまり力が入らない。最期の記憶は荒れ狂うヘルガの後ろの窓から朝焼けが見えた頃である。となるとこの地域の今時期日の出は5:00頃だから・・・
「あぁ、3~4時間しか寝れてないのか...」
「あるじ、いっぱい寝てたー」
「え?」
どういうことなのか日付を確認するとダンジョン探索が行われたのは昨日ではなく、なんと3日前であった。
あの日の夜、ヘルガが美里との戦闘中に『裏コード:ビーストモード』を発動したまでは確かな記憶があるんだが・・・そのまま丸2日寝ていたのか・・・・・・
「ヘルガは?」
「そろそろお目覚めになりそうであると伝えた所、急ぎ召し上がれるものを買いに行くと走って出ていきました。クロア達も護衛の為に付き添っております」
「ヘルガは朝もあるじの咥えてた」
「何を?!」
「ナニを?」
次は是非目覚めている時にお願いしたい。
「というかオリガ達は俺が起きるタイミングが判るの!?」
「正妻のたしなみ!」
ロリガが胸を張り親指を立てる、こいつのサムズアップは妙に腹が立つ。
「お前マジで正妻と違うからな...マジでヘルガの前では冗談でも言うなよマジで、いや本当にマジでたのむぞ」
「う...うい」
美里の言葉が本当に判っているんだろうか心配である。
ヘルガは独占欲と嫉妬と不安で情緒不安定になり易いのだ、今のままでは闇落ちしてしまいそうなので早めに方向修正をして安心させてあげなければなるまい。
「しかし、初ダンジョンにも疲れたしヘルガにはたっぷりと吸い取られたとしても何でこんなに眠っていたんだろう?」感覚的には仕事がきつくて食事をぬきがちだった頃に何度か起こした事のある低血糖症に似た感じもする。
「たましいがぐて~」
またこのガキンチョが変な事言い始めた。
「魂が不安定に揺らいでおりました、魔力量にはかなりの余剰が御座いましたが、恐らく慣れない召喚を大量に行った為に主様の魂に負担がかかってしまったのではないかと思われます。今朝方に急激に揺らぎが安定したのでそろそろお目覚めになるのかと考えておりました」
オリガは知的で非常に助かる。
「あー、そういえば白靖様やポンコツ秘書に注意されてたんだった、目の前のトラブルに焦って完全に抜けてた....」
今後はこういう事が無いように毎日コツコツ死霊秘法を使って魂を慣らしていこう。
「白靖様とポンコツ....で御座いますか?」
オリガが初めて耳にする名前に疑問を持つ、固有名詞では概念伝達は出来ないのであろうか?
「白靖様っていうのは、死霊秘法をくれて俺をこの世界に送ってくれた.....」
美里はそこまで言うと一旦言葉を止める、異世界転生の事や神様の事は伝えてもいい物なのかと考え、直ぐに答えは出た。
「1号とクロア達も呼んでちゃんと説明...」
直ぐに1号達をロリガに呼びに行かせようとしたが思いとどめた。
1号の名前を決めてない事に気づいたのだ、このまま1人だけ番号呼びしていたらヘルガの様に闇落ちされてしまうと困る、なまじ強そうなので下手に怒らせたらと思うと本気で怖すぎる。
「やべぇ....考えて見れば血盟デスマーチ軍団とギルド死霊秘法の作ったって誰か1号へ伝えてる?」
ロリガとオリガへ確認するが2人はそっと目をそらす。
「やべぇな...」
名付けも後回し、血盟結成もギルド結成も蚊帳の外では普通に考えて自分ならグレる、流石にそれは可哀そうに過ぎる。
しかも明日は魔石土竜との会合・・・時間がない。
「オリガ、明日の魔石土竜との会合事はエサイアスさんから許可をもらえてる?」
「問題ございません」
「その時に1号へ何か詳細は伝えてくれた?」
オリガへ確認するが、再びオリガはそっと目をそらす。
「その...主様よりご下命の無い内容を伝えるのは...良くないかと判断いたしました」
オリガなりの気遣いだった。
「えっと寝ている間に何か変わったことあったかな?」
「ないぉ」
「ございません」
その他にも、特に寝ている間には問題は無かったようで一安心である。
となれば喫緊の問題は1号の名付けと血盟とギルドのの説明だけだ・・・仲間外れを作る形になったのは非常に心苦しい。
名前か・・・・・・・・・・・・・・・
ゴッついヘルガだからゴリガ・・・ゴリラみたいだが俺の概念が通じてしまうと仲間外れ事案を含めてもはや虐めみたいで絶対に避けたい・・・
おっぱいのあるヘルガだからオリガ・・・もういた!おっぱいないけどオリガはいる。
オッパイガ!・・・・・・うん、絶対アカン。
何か良い名前はないだろうか・・・彼女の特徴はオリガよりマッチョ・・・・・・おっぱいでかい・・・
かなりのおっぱい・・・えろいな・・・エロガ・・・・・・うーん、エリガ・・・ん!?
「ただいま!カオル!おはよう!」
悩んでいるうちにヘルガたんの御帰還である、ロリガがヘルガの帰宅を察知し自動ドア役をつつがなくこなすと、美里が目覚めている事に気づき明るい声を掛けた。
先ほど買い付けたであろう、抱えきれない程の食料や荷物をクロエに渡すと美里へ飛び込むように抱き着くと美里の唇を奪い口の中に激しい愛情を忍び込ませる。
「もう、クロアから魔力の使い過ぎで疲れて寝てるだけって聞いたけど凄く心配したよ!」
そんなヘルガではあるが今は嬉しさが勝っているのか満面の笑みだ。
「おはようヘルガ、クロアもクロエもおはよう」
「カオルお兄ちゃんおはようございます!」
「カオル様おはようございます」
どうやら悪所の商業地域で屋台の料理や売店で色々な食品や飲料に調味料を購入し井戸で飲み水まで汲んできてくれていた。
古代ローマ風の食堂は悪所には無く食堂も少ないらしい、また食堂付宿は貧民街に行けば有るが、貧民街の食堂付宿は大抵売春宿を兼ねている様だ。
中央の商業区であれば食堂も食堂付宿も食堂も高級店が存在しているらしい。
春を売っている方の売春宿については今度エサイアスにコッソリ聞いてみようと美里は心にひっそりと心のメモに記録する。
美里がなんとか体を起こしベットの横の壁に腰掛ける様に座り直そうとすれば、ヘルガがいそいそと美里の後ろに回り込み抱きつくように密着する。仕方ないのでクロアには椅子に座ってもらい、その膝の上にクロエが座る。
「ヘルガさんや?」
「なんだいカオルさんや」
「密着されると色々ムズムズして我慢できなくなるんですが...」
先ほどのロリガのナニ発言を思い出したのもあり少しだけエッチな気分になってしまい、ヘルガにだけ聞こえる様に小声で伝える。
「いいよ、みんなの前で襲っても♡」とヘルガは美里の耳元で艶めかしく囁いた。
「くっ、こ...今夜おぼえとけよ!」
「うん♡」
く・・・ヘルガたん可愛いが過ぎる!
こんなやり取りも正直悪い気はしていない、むしろこんな露骨に愛情表現をして貰えるのは、前世でデスマ奴隷生活が長かった美里にとっては、慣れないゆえにムズ痒さはあるものの、湧き上がる幸福感が遥かに勝る。
しかも相手は好みドストライクの別嬪さんなのだ、それだけでも異世界転移万々歳である。
「あるじ~、いたす?いたす?今からヘルガといたす?」
ロリガは色々と指導しなければなるまい。
「オリガ、ちょっとこのチビスケの言葉使いとか色々教育とか頼める?」
「承知いたしました」
「なんですと!」
こんな日常もなかなか幸せを感じる事に少し嬉しくてにやけてしまう。
「あ......いまオリガとロリガってここにいるんだよね?」
美里が不可視化したオリガと話している事に気づき。ヘルガが美里の耳元でといかける。
「そっか、普段不可視化しているからヘルガには見えていないのか、2人とも身内だけの時はなるべく可視化してくれ」
「承知しました」
「うい~」
2人の上級死霊は不可視化を解くとヘルガの前に姿を現す。
「あとヘルガは俺の嫁さんになる予定の人だ、今後ヘルガから何か頼まれたら出来る限り聞いてやってくれ」
嫁さんと言う言葉に強く反応したのかヘルガが美里を抱く腕にちょっと力がこもった。
「承知しました」
「え~」
「おいクソガキ、ロリガは永久ドア係希望かな?」
「ロリガ隊員、ヘルガおくさまの命令をつつがなく遂行いたしますです!」
このガキなんで近世の軍隊っぽい敬礼を知ってるんだ?
「っていう事は,,,もしかすると...まさか...いつも見られてたのかな......夜とか朝とか?」
ヘルガは顔を真っ赤にして美里の背中に顔をうずめる。
「はい、お休みの主様の御子息に貪りついたり、騎乗を嗜まれていた時も、近所にも轟く嬌声と懇願も何に対してか不明な謝罪も何処に行くか不明な外出申請も一語一句漏らさず拝聴いたしております」
「えちえちなものぜんぶみてる!」
オリガとロリガの容赦ない回答が確認できた。まさかのオリガまでド直球で回答をしてきた。
「くぁwせdrftgyふじこlp!!!」
美里の背中にはヘルガの顔が燃え出したのかと思う様な体温上昇を感じると徐々に強く抱きしめられていく心地いい苦しさに喜びを感じる。
ヘルガたんがもう可愛いすぎる。
ヘルガ達が買ってきてくれた食事を取りつつ他愛もない会話とヘルガ弄りを交えつつ今後の事について話を始める。
「とりあえず今夜中にエサイアスさんとも話をしておきたい。クロア、すまないがラヘイネンペラヘに行って今夜伺ってもいいかエサイアスさんとアポイント取ってきてもらえるかな?」
「承知いたしました」
「クロエもいってきます!」
クロエが右手をビシっと挙げる、どうやら迷宮探索以来、クロエとクロは仲良しらしい。
現状の予想では現段階の個体の最強戦力はクロである。
クロがクロエと仲良くなって騎乗させるほど仲良くなってくれたのは微笑ましい以上に安心感がある。
とは言え完全普通人の美里よりもクロエの方がはるかに強いのだが・・・
オリガがインスラへ戻るとエサイアスからの了承を返答を受け日没を待ちラヘイネンペラヘのアジトで会議が行われる運びとなった。
流石に迷惑かけっぱなしで手ぶらもない為、ヘルガとクロアには商業区で高級な酒や肴を土産用に買ってきてもらった。
買い出しに行くヘルガを窓から見送るとクロエの騎乗したクロと13頭の統率された野犬の群れが、東外壁沿いの通りの区壁から区壁を走り回っていたのを見つけ驚く。
体高100~130cmある大型犬の群れが走り回るのは住民には恐怖なのではないかとドキドキしていたが、途中から近所の子供達も群れの犬に乗って遊んでいた為、受け入れられたのかと一安心した。
逆に言えば都市行政による治安維持が及ばない地域の危険性を改めて感じる。
しかし他の市民が怖がらなかったかと言えば、たまにオスクとティモスの巨人コンビを始めとしたラヘイネンペラヘのリビングコープス達が群れを追っていたり群れに追いかけられたり、群れの周囲でおののく住人に説明したり、挙句の果ては乗りたそうな子供がいればクロに頼んで背中が空いている群れの犬の背中に乗せてやったりしていた。
まぁオスクやティモスに声を掛けられた住人には文句が言える筈もなくラヘイネンペラヘの元トップが護るクロエを畏怖と脅威の目で見ていたのだ。
オリガに聞いた所、オスクやティモスの行動は1号の指示で行っていたらしい、今後の新事業の事を考えせば1号の指示は非常に良い判断ではなかろうか?
それとは別に、明るい表情を見せているクロエの姿にリビングコープスであるクロアが微笑み、その目にうっすらと涙を浮かべていた事に美里も何か嬉しくなっていた。
そんなほほえましい光景は夕暮れ近くまで続いた。
しかしこの日、美里のあずかり知らぬ状況で噂が広がり、大型の野犬の群れとラヘイネンペラヘの元ボスを従えた伝説のガキ大将クロエの名前が悪所のみならず都市全域に拡散してしまったのである。




