第24話 異世界でダンジョンへ行こう⑤
第24話 異世界でダンジョンへ行こう⑤
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「そう警戒しないでくだされ、ワシはギルド『魔石土竜』の頭目をしとるミーカと言う者だ、少し珍しい構成のパーティーだったのでな気になって声をかけさせてもらったんじゃ」
海亀の甲羅が似合いそうな長い白髭を蓄えた老人は、複数のパーティーを纏めるギルド『魔石土竜』の頭目で、集まってきた他の5人も全員がギルド魔石土竜のパーティ―のリーダーと言う話をされた。
ミーカは非常に優しく語り掛けてくるのだが、彼以外の面々は高圧的な視線を向けて来ている為、美里のパーティー全員の警戒は解かれない。
「すでに阻害魔法は発動いたしましたが、この者達それぞれが魔力感知の魔法を発動しています」
不可視化しているオリガが小さな声で美里へ説明する。
不可視化している時は通常、声も美里やその眷属にしか聞こえる事はないのだが、目の前の人間たちが魔術師であるため警戒し小声にしていた。
「魔力感知魔法をかけて近づく、そして後ろの方々の俺たちを睨み付けている様子、あまり気分は良くない態度ですね」
美里はミーカに向け、精一杯不機嫌そうに伝えるが当然心臓は怖い顔をした冒険者達に睨まれバクバクである。
合図と考えたのかクロア親子が短剣を抜き放ち、当然ギルド魔石土竜のメンバーも身構える。
「大変失礼した、家で見かけた時に貴方からは強力な魔力を感じたのでね、今の状況に我々も警戒をしてしまいました」
ミーカは悪びれる様子もなく温和に語る。
「はいそうですか、と納得できるような様子では無い様子ですが?」
今だに高圧的な目線を向ける取巻を見回し美里は不快感を表す。
「おい、貴様は誰に口きいてるのかわかってんのか?」
取り巻きの1人が明かな怒声をもって美里に詰め寄る。
その間にヘルガが割って入ると、男がヘルガを乱暴に突き飛ばし転倒させる。
「やれ」
美里の一言でヘルガを突き飛ばした男が突然崩れ落ち、激しい痙攣をおこす。
オリガのドレインタッチで男を昏倒させたのだが、どうやら何をされたか理解した人間はいない様であった。
残りの取り巻きが目を剥き驚愕すると同時にすぐさま反撃の魔法詠唱を始める。
「まて!」
美里が殲滅の決意に迫られたその時、ミーカが振り返り魔石土竜のメンバー全員を制止する。
「ようわかった、兄さん、非礼を深くお詫び申し上げる。そっちの兄さんも突き飛ばして悪かった、ワシが代りに謝罪する」
驚く事に頭目であるミーカが顔面を蒼白にし美里達へ頭を下げる。
そっちの兄さんと言うのはヘルガの事であろうか?ちょっとヘルガがショックを受けている様子である。
取り巻き達は口々にミーカが謝罪を行った事に疑問を投げるが、ミーカはそれらを軽く手で制する。
「どう見ても先に手を出したのはこちらじゃ馬鹿者共。大変失礼した。兄さん、名前を聞いても?」
「駆け出し冒険者のカオルです」
答えていい物かを逡巡するが、悩み時間を置き答える。
「駆け出しか、面白い冗談を言いなさる」
ミーカは周囲、そして空中へも目を動かすし、ため息をつく。
「すまんかったの、ワシ等はこのダンジョンでは古参ギルドの1つでの、若くて女子ばかりの見たことのないパーティーが居ると言うので心配で心配でつい声をかけに来たんじゃが、教育の足りん物まで連れて来てしまい迷惑をかけてしまったようだ」
「あらあら、私しはてっきり新参者に脅しをかけに来たようにしか見えませんでしたわ」
クロアさんが意外な暴言を吐く。
ミーカがピクリと肩眉を上げクロアに目を向ける。
「ふぁははは、奥方もお人が悪い」
突き飛ばされた上でクロアが奥方と呼ばれたヘルガはもう泣きそうである。
「今の流れで否定する根拠はないですよ、そもそも魔石土竜ってそういう噂、事欠きませんよね?」
クロアさんの目に殺意がこもっているように見える。
「この糞アマ!ここでその男ぶっ殺して犯してやろうか!」
取り巻きの大声を皮切りに、魔石土竜と思われるパーティーが一斉に駆け寄り始める。
「全員殺すしかないか?」
美里が小声でオリガに相談をする、その小さな声をミーカは聞き洩らしてはいない。
「待たんかお前ら!!!!!」
両手で皆を制すると安全地帯内全体に響く大声で叫ぶと、悪態をついた取り巻きを力いっぱい殴りつける。
「カオル殿、重ね重ね申し訳ございませんでした。この者どもは何も理解できない未熟者故。どうかご容赦願いたい。奥方様もこの者に変わって暴言をお詫びさせていただく」
ミーカは明かに冷や汗を流し、改めて美里とクロアに向かい深々と頭を下げる。
ヘルガは再び心にダメージを受ける。
「頭目!どうなされたんですか?こんな奴等ここで殺ぶっ殺しても都市軍で処理させます!」
取り巻きが大声で悪事が隠蔽できる事を喧伝する。
「都市軍がね...」
美里の目がミーカを捉える。
「お前らはもう口を開くな!消しワシ手すから炭にするぞ馬鹿者が!」
ミーカの逆鱗に触れた事を理解した取り巻きは顔を青くし、駆け寄ってきていた魔石土竜の関係者も足を止める。
「ワ.......ワシらからは手は出さんようギルドの者にはきつく厳命しておく、どうか堪えてくださらんか?」
明かに顔を青くするミーカに、取り巻きもミーカの異常な態度に動揺が隠せず戸惑っていた。
「カオル様、我々は此処で少々休憩をしてから今日は帰りましょう、わたくし少し疲れてしまいましたわ」
現状に危うさを感じたのかクロアから撤退の提案である。
「そうですね、彼らが中層迷宮部へ入り終わったくらいがよろしいかと思います。どうせこのレベルです、『処分に』大した時間は必要無いかと思われます」
クロアは不可視化したオリガを見て微笑むとオリガも無言で微笑みを返し頷く。
「待て!まって、お待ちくださいカオル殿、詫びを、お詫びを申し上げる、もちろん相応の形でさせていただく、どうか、どうか収めてはいただけないでしょうか?!」
ギルド魔石土竜の人間からから見ればミーカの様子が明らかにおかしい、確かに魔石土竜の精鋭魔術師が一人、方法は不明ながら手を出した途端に倒された事実は美里たちに相応の力が有る証明という事は理解できる。
とは言え魔石土竜はこの都市で最大のギルドであり、実力者集団でもあるその頭目のミーカがここまで卑屈な対応をするのは異常であった。
美里はゆっくり座ると詫びは不要とミーカを始めとする魔石土竜のメンバーに立ち去るよう促し、ミーカも頭を下げて戻ろうとするのだが突然クロアが引き留める。
「今このホールに残っている冒険者はみな『魔石土竜』の方かしら?」
クロアがミーカに尋ねるのだが、微笑みながらではあるが、明らかに冷徹な目線であった。
「どうじゃろか、全員でもないと思うがの」
ミーカは顔を青くして答えをごまかす。
◆
「一先ず命拾いをしたわい」
「頭目、いったいどうされたんですか?確かに僅かな魔力は感じましたが、あんな奴らににあんな下手に....」
「馬鹿者、都市軍の話まで持ち出しよって最悪じゃ、連中がその気になれば今頃ここにいた全員死んどるわい」
真剣な顔で語るミーカに信じられないという顔をする。
「お前達には異質すぎてわからんのじゃろう、ワシにはあの男も嫁も娘もイヌコロも化け物にしか見えんわい。特にカオルと名乗った男は住んでいる世界が違う、押し倒したのがアレで良かったわい、カオル殿に触れていたら死んでたぞ」
ミーカはあえて口にしなかったのだが美里のパーティの周辺、にも魔力感知では確認できない『何か』の気配も感じていた。
意識を取り戻した男は暫く呆けていたが、徐々に自分に何が起こったかを思い出すとその攻撃の正体を想像し恐怖する。
あの攻撃は直接死を意識させる未知の物だったのだ。
「あのまま揉めていたらワシ等、皆殺しされてたかも知らんぞ、馬鹿を抜かした2人は魔石土竜を壊滅させるとこだったんじゃ。全員に急いで伝えておけ、黒髪の夫婦のパーティーには絶対に手をだすなと」
今回中層へ到達していたいた約半分のパーティーのがギルド魔石土竜のメンバーや関係者であり、100名を超える大所帯である。
その数をして僅か4人と1匹に勝ると言う事が起こりうるのか、深部へ挑むパーティーのリーダー達にはとても信用できずに居た。
「頭目、一体あいつらが何だって言うんですか、見るからに弱そうな連中じゃないですか」
「全てまではわからん、魔力だけでいえばあの男は帝国でも屈指じゃろうて」
「え?でも...」
「だからヌシ等は2流なのじゃ、隠蔽しとるんじゃよ...かなり高度で強力な魔力隠蔽をのぅ」
「ワシ、今日はこのまま帰りたい気分じゃわい」
浅瀬を探索するパーティーは既に中層の中に入り探索中で、残りは時間を置き都市軍が通過しきるタイミングを見計らい深層へ向かう予定であった。
魔石土竜は今回の探索で伝令を中心に行うたまに組まれたパーティーへ指示を出し、既に内部にいるメンバーへ通達を行わせた。
「最も恐ろしい敵は無能な味方か...」
ミーカは予想外の出会いに天を仰ぎ呟く。
「ワシ、ちょっと漏らしちゃったのう....」




