第21話 異世界でダンジョンへ行こう②
021 1 019 (編集版)
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「やっぱり魔法って便利だよねー」
ヘルガは部屋の中に灯かり取りの為に呼び出した複数の『霊魂(ウィル・オ・ウィスプ』を見渡してほぅと感嘆する。
明日の迷宮探索の作戦会議を行うため、美里の部屋ではパーティーメンバーとなった美里、ヘルガ、クロア、クロエ、そして不可視化されたロリガと3号があつまっていた。
同行予定のクロは外でお留守番である。
美里はキャンプチェアにどかりと座り、ヘルガは美里に近い位置でベッド横に大きい体でチョコンと座っている。
美里に促されたクロアは少し離れた位置取りでベット脇に腰を淑やかに掛けると、クロエはトテトテと美里の膝に座ろうと近づく。
ヘルガが見ている、これは流石にヤバイと美里が危機感を覚えた刹那、クロエの動きが停止し感情表現乏しい表情にもかかわらず、ピクリと僅かに眉を吊り上げムッとした表情を作り「ん~」と唸る。
美里はクロエが表情を作ったことに少し驚いたが、その理由はクロエが近寄った途端、クロエの行動を阻止するかのように反応したロリガが美里の膝の上にストンと座ってしまったのだ。
その行動にも驚いたが、ヘルガにアンデッド関係の秘密を開示していない段階でロリガの突飛な行動を叱る訳にもいかない。
しかし、迷宮探索前には伝えなければならないし、それをどこからどう話そうと悩んでいるとヘルガから口を開く。
「そうだカオル、ギルド名はどうするの?」
「ギルド名?パーティー名って事?」
「えっとカオルの国ではどうかわからないんだけど、こっちじゃパーティはたんに一緒に行動する仲間で一時的に組む場合で、ギルドだとの固定の仲間って感じでギルドって名乗った方がいいかなと思って。じゃないとほら・・・引き抜きとかされると困るし・・・カオルが・・・」
なるほど、ヘルガたんの言う通りなら、今後使役するアンデッドも含めてギルドを名乗った方が都合は良いしモジモジしながら続いた最後の一言がとても可愛いので今夜は二人でブギウギナイトである。
「血盟や同盟、眷属と言うつながりもございます」
「クラ・・・それってどういう意味です?」
クロアからでた珍しい単語に美里が質問するとクロアは優しく目を細めて説明を続ける。
「冒険者の場合、同盟はパーティーやギルドで一時的に集まり大きな討伐や探索をする際に組む時の名称でございます。血盟の場合は複数のギルドが集まり固い結束をもった大きな団体でしょうか」
「なるほど」
「そして眷属の場合は少し特殊で貴族一族や宗教的な集団、それに習った血盟が名乗ることが多いですわね」
美里はおっとこれはまた面倒臭い名称が飛び込んできたと心のメモにそっと書き込む。
重要な情報も在りそうだと有名な団体の話を聞いてみると、デルーカで有名な大手ギルドの幾つかとデルーカ領主の眷属の話を聞けた。
それ以外にも帝国で有名な団体の名前も教えてくれたが、それらは他の都市を拠点にしているため、美里としては追々対策を考えればいい程度に考えるた。
そこからはデルーカ迷宮の構造や生存する魔物の話をヘルガとクロアから聞き、時にはかみ砕いた説明を求め、明日の準備を入念に行い夜は更けていく。
「とりあえず明日は上層の採取と弱そうな魔物をちょっと狩るだけで済まそうと思う、役割とか詰めてこうと思うんだが、ひとまずパーティーの戦力を確認しようと思う」
話もひと段落したところで美里は自分の能力である死霊秘法と本当の意味の眷属をヘルガに説明しようと切り出したのだが、待っていたかのようにヘルガが声を上げた。
「ねぇ、クロアとクロエって歳はいくつなの?」
「私は30歳でこの子は今年12歳になります」
「え!?クロアって私と同じ位かと思ってた、クロエも10歳前かと・・・っていうか・・・え?おっぱいの張り凄くない?その大きさでツンって!ツンて!」
すこし強張った様子で質問をしたヘルガだったが、クロアの答えに目を丸くする。美里も気になっていたがブラジャーのないこの世界では女性の多くが20代半ばでだるんだるんの垂乳根なのだ。
驚いたヘルガの表情もとても可愛いのだが、ヘルガたん彼氏の前でする会話なのかいそれは?
「はい、これはカオル様のお陰で・・・」
と返すクロアの発言に美里はハッとしヘルガの顔を見ると硬直した彼女の表情に危険を感じ背筋が凍らせ、当のクロアも失言だったとハッとする。
「カ、カ、カオル・・・の・・・に・・・おか・・・え?」
声が震えみるみるヘルガの表情が闇に飲まれていくのが判る。
「私もカオルお兄ちゃんに体を色々していただきました!」
はいクロエちゃんも元気に手を挙げて変なこと言わないでね、しかも完全に誤解生む言い方だからねそれ!
「は?なに?どういう事?」
「ちょっと誤解があるよ!あのね!」
ヘルガの重く怒気の籠る声に美里は言い訳をしようとするが、そこに突然の声がカットインされた。
「あいやまたれぃ!このげぼくどもよりわたしのがせんぱい!」
大きく目を開きカオルを凝視したヘルガの目前へ突然ロリガが現れ場の空気をぶち壊す。
「え?なに!なに!なに!なに!なに!なに!なに!なに!誰?!なんなの!?」
ヘルガは突然の事に大きく後ろにのけ反りゴツンと壁へ頭をぶつけると、突然現れ美里の膝を占領する少女を指さし動揺する。
「わっはっはっは!我が名はロリガ!あるじの正妻である、ずがたかーい!」
許可もなくロリガがとんでも無い事を言い始めたが、言葉の内容よりもロリガのポップアップに驚きすぎたため危険ワードは聞き流されたようだ。
「?!?!?!??!?!」
「ヘルガ、今から重要な秘密を話す、無理強いはしないが出来れば全て受け入れてほしい」
ヘルガは目を丸くし固まったまま言葉が出ない。これは上手く話を持っていける流れになったと思い、思い返すとロリガのヤツがうまく誘導してくれたのかとも思いつつ話を切り出した。
ヘルガは皆を見回し、再び美里へ視線を戻すと大きく喉を鳴らし頷いた。
「俺の持っている魔法はわかり易く言えば死霊術なんだ」
エサイアスの時にも思ったが死霊術と言う魔術はこの世界にはあまり浸透していないのか、ヘルガは首をコテンと傾け理解できていない様子である。
「俺も言葉にして説明は難しいし、秘術でもあるので上手く伝わるか判らないが、クロアさん達みたいに死体を生き返らせたり、このロリガみたいな幽霊を生み出す事が出来るみたいなんだ」
「え!?死体?!幽霊?!」
ヘルガはクロア達やロリガを何度も見返し困惑する。
「はい、わたくし達母娘も3日程前に病に倒れ、南の共同墓地へと埋葬されておりましたところカオル様に新たな命を頂戴いたしました、しかも生前は食べるにも窮し着る服さえ満足にえられず、幾度かの冬も暖もとれぬ馬小屋で身を寄せ、本当に辛い思いをさせてしまった娘に、こんな幸せな時間まで...」
クロアは放すにつれてすすり泣くように言葉を紡ぎだす。夫を亡くし農園で小作人として雇われたこと、重労働や飢えや病に苦しみ、凍える冬を娘と耐えた生前の生活をただ静かに語った。
クロアの話を聞いたヘルガの目にからぽつりと涙がこぼれる。
ヘルガは本来優しい女性である。ヘルガの人生も決して幸せなものではなかったからこそ共感する部分があり自然と涙があふれた。
貧困を味わった仲間だからこそその辛さ無念さが自分の事の様に理解できるし、娘を守れず死んだという言葉と涙はヘルガの心を揺さぶる。
ヘルガは美里のことを愛している。
美里の顔には興味はなかった。そもそもヘルガは男を嫌悪していた。
美里との出会いはただ目の前に現れた金がありそうな優男だと娼婦として金蔓に近づいただけである。
『あぁこの男に尻を向けて喘いでやれば明日もパンが食える、うまくせしめればあの店の蜂蜜パンが食べられる』
自分の様な娼婦とは無縁な裕福な男。
『どうせこの男も私のことを下種な穴としか見ていないのだろう』
清潔そうで高級そうな衣類、花畑にいるような良い香りがする男。
『襤褸を纏い、汚れた体に水を何度も何度もかぶって汚らしい男の臭いを泣きながら洗い流すしかない自分。』
光の中から突然現れた春を売る以外に自分の手の届かない世界の男。
『惨めだ・・・』
それが最初に頭に浮かんだ正直な感想である。
だが惨めな気持ちなど、街に立ち、体の中を男達の汚い欲望に抉られる度、繰り返し心と体に刻んでいる。
『今月は稼ぎが悪いんだ、冬を越すためには少しでも多く惨めになろう』
そう決めて声をかけた。
『ああ・・・わたしは惨めだ・・・』そう心の中で呟いて・・・
しかし、その夜出会った男はヘルガにとって、まるで救いの神との出会いであった。
ヘルガはその夜、生まれて初めて女性としての幸せを感じさせられた。
とんでもない魔法を使い、高価な衣類を身に纏う貴族の様な男が汚い娼婦である自分を人間として、女性として丁寧に扱っている。
背が高く、僅かな胸の膨らみもなく、筋肉質で痩せぎすの自分を美しいと褒めてくれた。
行為の後も乱暴に扱われることもなく優しく体をふき優しく微笑みかけてくれた。
意味が解らなかった。
ヘルガは豊かな人生を夢見て、故郷の仲間と逃げるようにやってきた。しかしこの都市で仲間を失い娼婦へと身を崩し地獄の底へと堕ちたのだと鳴き咽ぶ日々、突然目の前に現れた神様。
この男は自分を救ってくれる神なんだ、そう理解すれば恋を知らなかったヘルガも生まれて初めて男への愛情が生まれるのは当然だったかもしれない。
目を閉じ、再び開いた先に見えた男の笑顔を見るたびに愛情は増してゆく。
自分に優しく語りかける美里の声を聴くたびに愛情が溢れていく。
恋を知らないヘルガにとって、それは次第に愛情は自制が出来ないほどに異常な速度で膨らみ続けていた。
『コノオトコガイナケレバモウイキテイケナイ』
そう思った男が連れてきた女を見た瞬間に殺意が芽生えた。
子供であっても彼に近づく女が許せなくなっていた。
しかしその女は男が選んだ仲間なのだ、表面上は取り繕和なければいけない。
男に捨てられたくないと恐怖が湧く。
心の中で暗い感情が膨らみ続けていた。
そして、ヘルガは初めてこの女達をどう始末しようかと心の隅で考え始めていた・・・・。
「うあわあああぁああん。ごべんばざい・・・・。」
ヘルガの目から流れ出す涙は勢いを増す。
ヘルガは本来優しい女性である。
まだ幼かった日、自分達を守る母親が死んだ後も、誰かに褒められることもないのだが貧しい中で自分の空腹を抑えつつ、暴力的で傲慢な父親から幼い妹弟を守り続けた。
妹弟みなが飢えや病で息を引き取りるまで愛し守り耐え続けるほど不快場を持っていた。
その見た目からあまり女性扱いをされないし、娼婦としても人気がなく空腹に耐える日々だったが心根は腐らず笑顔を作り、人を害することなく、優しく接するその人柄は悪所でも多くの人に受け入れられた。
そんな彼女が抱いた初めての悪意は、本当に自分勝手な物であったと気づいた彼女は彼女自身の心に生まれた醜さに嫌悪と後悔を抱いたのだ。
「落ち着くまで好きなだけ泣いていいからな」
「うっぐ、うぐ」
美里はヘルガの横にそっと座り寄り添う、そして部屋には嗚咽だけがただ響く。
美里にはヘルガが突然泣き出した理由は理解できなかった。しかしその涙に戸惑いつつも、ヘルガの頭をただ優しく撫でる。
ヘルガは美里からの優しさを受け、自分への嫌悪と情けなさが膨らみ頭の中は更にかき乱された。
クロアはそんなヘルガの心情を察したかのように彼女を優しく見つめ、クロエは無表情ながらも落ち着かない様子でクロアとヘルガを交互にみる。
美里がロリガに視線を向けると、そっと微笑みをかえしたかと思うとスーッと3号の後ろに隠れそのまま不可視化する。
にげやがった!
美里はロリガにちょっとイラっとした。
暫く沈黙が続き、今だ時折嗚咽は止まらないヘルガの落ち着きが戻た様子を見計らいクロアが口を開く。
「ヘルガさんもいっぱいいっぱい我慢していたのでしょう」
クロアが美里へ優しく微笑む。
「気が向いた時でいい、言いたいことは包み隠さず言ってくれ」
「カオルはアタシのこと嫌いにならない?」
「これからも良い子にしてたらもっと好きになっていくだけだぞ」
「カオルは私を捨てない?」
「逆だ絶対逃がさねえよ?」
短い会話だが、ヘルガには十分であった。
パン!パン!
ヘルガが両手で自分の顔を挟むように叩く
「ごめん、もう大丈夫」
真っ赤に腫れた目でヘルガは笑顔をつくり宣言すると、美里も理由が解らないものの頷き、クロアもヘルガに優しく微笑んだ。
「一応確認するけど、クロアはその・・・・カオルとそういう・・・なりたいの?」
ヘルガが美里的には心臓に悪い質問をぶっちゃけた。正直心臓と胃と心が痛い。
「私にもカオル様への強く深い愛情があります、それは敬愛、いえ崇拝に似たものでしょう。カオル様がお望みであれば親子共々喜んでこの体でご奉仕いたしますが、それはあまりに畏れ多いことでございます」
「そっか、カオルに言われたら仕方ないか・・・・・畏れ・・崇拝かぁ、うん」
ヘルガはクロアの胸を一瞥すると、自分の胸をさすりながら何かに納得する。
「カオルも...その...ダメとは言わないからコッソリとかはなしだよ」
「ヘルガは心配性だな・・・」
美里は不安そうなヘルガの頭をなで、安心させるように言い聞かせる。
「俺の一番はヘルガだよ」
美里はヘルガが目を閉じ嬉しそうに美里の撫でる手に身を任せているのをいいことに、クロアの胸元をがっつり確認したうえでヘルガを宥めた。
そう、2番がいないとは言っていない。美里は話の核心をがっつり誤魔化す戦法をとったが初心なベイビーのヘルガは完全に気が付いていない。
この時、異世界転移者美里薫はハーレムルートの可能性はしっかりと残す方向に舵を切った。
「あるじがとてもエッチなかおしてる」
ロリガが愁嘆場も過ぎ去ったのを感じ再び姿を現すと言わなくても良い言葉を放つ。
「ロリガお前は後で説教だからな!」
「はぅ?!」
美里の静かな怒りを感じたのかロリガが顔を引きつらせる。
「でも、死んだ人を生き返らせるなんて皇帝陛下とか神様みたいな魔法まで使えるってカオルって凄くない?この幽霊もカオルが作ったって事でしょ?」
「ちっちっち!ロリガはあるじのそっきん!そんじょそこらの幽霊とちがう、上位死霊」
「いや、側近じゃないよ?」
「ヘイニに似てる」
「ヘイニ?」
ヘルガがロリガに顔に顔を近づける凝視するとぽつりと呟く。知らない名前に美里が聞き返すとヘルガは悲しそうに笑顔を作り、ロリガもにこりと笑顔を作った。
「すっごい昔にね死んだ妹・・・風邪こじらして、もういまは家族みんな死んじゃったし、すっかり忘れてたけど可愛い妹だったんだ」
ヘルガは凄く寂しそうにロリガを見つめ、ゆっくりと手を伸ばしロリガに触れようとするがすり抜けてしまう。
「え?つめたい?」
すり抜けた手に感じた不思議な感覚に驚く。
「ロリガはじょーいのあすとらる!上位死霊である!おそれおののけ!」
「え?何それ普通の死霊じゃないの?」
「あるじがうんだ死霊たべた、墓地でもいっぱい野良魂たべた、ロリガはちょーれべるあっぷした!」
こいつのサムズアップ腹が立つ。っていうかこいつら勝手に成長もするのかと美里は驚く
「お前はしばらく自宅警備だな」
「ふぁ!?」
「3号、可視化しろ」
不可視化していても美里に存在が解るのだが、ここからヘルガへの紹介を含めて、可視化してヘルガの目の前で3号を強化することにした。
「もしかして扉をいつも開けていたのってこの人?」
「そうだよ彼女も俺が召喚した幽霊だ」
「なんか、うちの母ちゃんに似てる?」
ネクロノミコンを開き3号の強化をはじめようとした時、ヘルガから衝撃的な発言が発せられた。
確かに1~3号は全てヘルガがモデルになっているようだ。勿論意図したことではないのだが、しかしどう説明しようと変態扱いされる気もする、どう説明するべきなのか美里は焦りに焦った。
「おねーちゃんがもでるである!あるじはおねーちゃんのことばかり考えてるからおねーちゃんに似たのだ」
ロリガがかってにぶっちゃけたことに美里は顔を青くする。
「え・・・アタシの事ばかりか・・・そ、それじゃ仕方ないね・・・」
顔を紅潮させ口籠るヘルガに、これはいい方に転んだようだとほっと胸をなでおろす。
「だからむねもぺたんこ!」
ロリガが自分の両胸をペチペチ叩き暴言を放つ、その姿はまさにクソガキである。そしてヘルガの顔からは感情の色が消え去る。
ロリガは何か一つ問題を起こさないと気が済まないのだろうか、あとで説教確定である。
「ロリガは階位を少し下げた方がいいのかな?」
正直能力ダウンが可能かはわからないが、1回ガツンと絞めておきたい。
「ちょ!まっ!ロリガいいこ!あるじがヘルガねーちゃんのこと好きすぎてロリガのおっぱいも一緒にした!よし!ロリガはいいこといった!」
だいぶ焦っているが許すことは出来まい。
「え...そう...なんだ...小さくても...好きなんだ?」
あれ?ヘルガたんがちょっと嬉しそう・・・ここは全力でフォローだ
「ヘルガの全てが好きだ!」キリッ(`・ω・´)
「でも1号と3号は、おっぱいいおおきい」
「・・・・・・・・・・・・」
ロリガの余計な一言にヘルガがスンとなり黙り込んでしまう。
「ロリガは許可するまで発言禁止な」
「な!」
反論しようとしたロリガに向かって美里がお口にチャックのジェスチャーをするとロリガが悲しそうにう自分の口をチャックする。
「と、とりあえず3号も明日、迷宮に連れて行くから少し強化するよ」
ここからは手慣れたものだ、美里は死霊秘法を構えると3号を1号や2号と同程度まで強化した。
「ありがとうございます、我が主様。今後とも一層の忠誠を捧げたく存じます」
3号は優雅な礼をするとその豊かな胸が軽くプルリと揺れヘルガの視線を釘付けにする。
3号が挨拶を終え頭をあげるとヘルガはジト目で美里を見つめたが、視線に気づかないふりを決めた美里はこの難を乗り切ることに成功した。
「3号、お前はヘルガの護衛を中心に頼む、俺の嫁さんだからしっかり頼むぞ」
「確かに承りました」
「お嫁さん・・・お嫁さん・・・うふ」
「ついでに護衛ももっと増やしておこう」
続いて以前ロリガに捕食された骸骨型の死霊を5体召喚する。
ロリガと3号には絶対に食べない様に厳命すると3号は当然の如く命令を受けるがロリガは何やら不満そうな表情を作た。やや不安は残ったもののロリガが捕食できない強さにすればいいのだからひと先ず置いておくことにした。
美里はヘルガに目配せをすると一気に5体の死霊が目の前に召喚される。
目の前には2号と3号と呼ばれた上位死霊が2体に新たに召喚された骸骨外顔の死霊が5体、アンデッドに詳しくはないヘルガから見ても協力にすぎる眷属がそろった。
それらを支配しているのが自分の男、カオルだと言う事にヘルガは興奮を抑えきれていなかった。
「あぁ、もうカオル凄すぎる、カッコイイ!カオルカッコイイ!」
クロア母娘やアンデッド達の視線も気にせずヘルガは美里に抱きつくと、何度も何度も何度も何度もキスをする。
「よかった、ヘルガがこういう魔法嫌いだったらどうしようかと思ったよ。死霊とか見た目怖いし・・・ってちょヘルガたん嬉しいけど興奮しすぎ」
「知らずに遭えば怖いさ!でもあたしのカオルが出した物だもん、凄いしかないよ!」
ヘルガの印象が非常に良い事に美里は安堵するがヘルガの情熱的なキスで顔はベトベトとなり、嬉しいと思いつつも困り顔である。
「ねぇ、この子たちの名前は?この娘はロリガでしょ?こっちのお母ちゃんみたいな人は3号だっけ、番号じゃかわいそうだよ?」
「うーん・・・名前かぁ、名前つけるの苦手なんだよなぁ」
「この子はなんでロリガなの?」
「ヘルガにちょっと似てたから、ヘルガっぽい名前がいいなと」
「カオル様はヘルガさんが本当にお好きなんですね」
クロアが微笑ましいとばかりににこやかに言うと、一瞬目を見開いたヘルガが次第にへにゃーんとモジモジし始める。
クロアさんナイスです!そしてモジモジヘルガたん可愛いと美里も顔をほころばせる。
「安直かもしれないけれど、オリガってどうかな?3号それでいいか?」
ヘルガの『お母ちゃん』と言う言葉からインスピレーションを受けた、本当に安直だが判り易くていい気がする。
「我が主様、素敵な名づけをありがとうございます、この感謝をどのようにお返しすればよいのか想像もつかぬほどの喜びでございます。」
優雅な礼の後に微笑む姿はまさに理想的な眷属である。
ロリガはどうしてああなったのか・・・
「じゃあオリガ、今後ともよろしく頼むよ。ひとまず明日の迷宮探索は俺とヘルガの護衛を頼むよ」
「仰せのままに」
骸骨死霊達は会話が出来ないので名づけは不要とした。
今日の作戦会議は、死霊術の説明よりもヘルガの嫉妬の対応の方が大変だったなと美里は心の中で嘆息する。
結果だけ見ればロリガがかき回した影響で上手く纏まった気もするが、それを認めるのはかなり悔しいので今回感謝はお預けである。
今日分かったことは魔術師が希少な職業らしく死霊術のみならず魔術師全般の情報は冒険者であれど詳しくはないのかもしれないと判った。
上級冒険者の集まるギルドでは複数の魔術師を抱えていると言うが、深層へ潜らなければ関わることもないであろう。そういった連中と会うまでに情報を集めておきたい。
明日の探索では中層の入り口まで到達したら折り返す、そこまでに採取できる植物や鉱物を美里に教える、戦闘があれば無理はせず前衛をクロア親子、真ん中に美里、後方警戒はヘルガ、保険としてオリガと骸骨死霊達が不可視化して周辺警戒と探索を行い、戦闘参加は緊急事態の時のみとなった。
ロリガは若干不満そうであったが、美里の部屋の扉の警備をするよう命令する。
明日は初めての迷宮探索である。




