第2話 世界の管理者さん
第2話 世界の管理者さん
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美里薫 享年36歳 それが彼の履歴書の最終項目である。
目を覚ました時、彼は今まで見た事がなく理解を超える程に神々しさを感じる場所へ立っていた。
「ああ、俺は死んだのか」と美里薫は直観的に理解する。
「うーん、余命宣告2か月からまだ半月もたっていないんだが、ちょっと寂しいな」それはそうである、人生のタイムリミットが解ってから、残りの人生を楽しもうと嬉々として街を散策し、今日は終の住処としてキャンプ場で過ごすために大枚を叩いてキャンプ道具を購入したばかりなのだ。
今日は目が覚めたら、お洒落なカフェに行きパンケーキを食べつつiPadでキャンプ場を探したり、キャンプ飯を調べたりしようと計画していたのだ。
まぁキャンプ場で死んだらかなり迷惑はかけそうだが、管理人さん用に遺書と遺産を現金で清掃代に使ってもらうよう準備する予定であったのだ。管理されたキャンプ場なら頻繁に様子を見に来るだろうから死体が腐る事もあるまい。それに100万円以上の現金は残すのだ、最初は嫌でも後で笑ってくれよう。
結局死体発見をするのはホテルの人と言うのは申し訳なく思う。
「ちょっと早いなぁ…」と嘆息する。
今は手元に無い買ったばかりのキャンプ道具を一度も使用する事無く旅立つ事が悔やまれる。
「あーあのオツマミ缶詰、食べとけばよかった...」
死んでみて思ったが、思い残す事は大なり小なりあった物である。
そして美里薫が素直に自らの死という現状に思い至ったのは、今立っている場所が理由でもある。
神々しいにも限度があろうと言うほどに目の前に広がる光景は現実離れをしているのだから。
その場所を表現するなら光の大回廊とでも言おうか、とにかく白く全てが光り輝いてみえている。天井は見えない程に高く、道幅は30m前後といったところか。大回廊の前後はどんなに目を凝らしても終着点らしき場所は見えず、壁面には扉や窓の様な構造も見あたらない。
壁際へ近づき、触れればまるで象牙を磨いたかのような触感、目を凝らすと壁面全体にはうっすらと美しい森林の造形が模様が彫り込まれている。
さてどうしたものかと周囲を見渡す・・・が人影も人の気配も感じられない。
ふと自分の姿を見ると美里の来ているものは、死装束的な物ではなく、ホテルで貸与された寝巻でもない。今日着ていたお気に入りのアロハシャツに7分丈のデニムパンツ、上下ともに数万円単位のお値段で、長年愛用のお気に入り品である。
おーい、と人を呼んでも返事はない。
変な踊りをしてみる、反応はない。
暫く時間がたったが何も変化がない。
前か後かわからないが、一先ず正面へ歩くが何も変わらない。
死んだとするならここは黄泉平坂の様な所なのだろうか?と一瞬考えたが、坂ではないので違うかな?などと考えていると。
「間違いではないですよ、大体そんな感じの場所です。」
突然、後ろから声がする。
振り返れば、今時あまり見ない高級黒檀両袖事務机と高級そうな牛革椅子に座る美人秘書風の女性が一人現れた。
「美里薫さん、おめでとうございます。管理者の一柱よりとても強く推挙があり先ほどめでたく大神より受理されました。異例の速さで認可なんですよ」
「へ?」
異例の速さ?余命まだ1か月以上あったじゃん?認可されたら即死なの?酷くない?
呆然とする美里を他所にパソコンのモニターを見ながら、両手の人差し指でたどたどしく何かを打ち込んでいる。タッチタイプはできない系秘書らしい。
「なるほど、白色の御旗を靡かせ死者の軍団を支配して世界を蹂躙....死者の行進?....したい?ですか、中二び.......変わった願いですね....................」
マウスを動かしパソコンの画面で美里の資料であろう物を確認しているようなのだが言っている意味が不明である、いや不穏である。
「え?ナニソレコワイ」
死者の軍団?蹂躙?て言うか中二病って言おうとしたか?
「転生については凡そご存じかと思いますが、簡単に説明致します。」
なんか転生とかパワーワードぶっこんできた。
「何もご存じではないんですが?え?転生?異世界転生?」
依然と理解できていない美里を無視し彼女は人差し指タイピングをしつつ、話を一方的に続けた。無視と言うよりもパソコンの使い方にいっぱいいっぱいで、場面の内容の確認で手いっぱいと言った感じか?担当者のチェンジとかお願いしていいのかな?
「では、ご希望通り、あなたは転生者として新たな世界へ生まれ変わっていただけます、今からその転生先の設定を行いますのでいくつかの質問と確認をさせていただきます。」
「生まれ変われるんですか?ちなみにご存じではないですよ?」
「転生先の世界は既に決まっておりますが、詳細な希望を伺い、可能な範囲でより良い環境へ生まれ変わらせるようにと指示を賜っております」
転生出来るらしい、しかも転生先でちょっとした希望を聞いてもらえるらしい、現世の両親は見た目に難があった。めちゃ美形の両親とか金持ちとか貴族とか選択できるのかな?夢じゃないと良いけど夢のような話だ。
「それと、転生者特典として通常は何か一つ、チートスキルを付与可能なのですが、事前の申請でネクロノミコンという本があなたのスキルという形で付与済みとなっています。使用方法は念じれば手元にネクロノミコンの書が出現します。これは現代日本人に合わせ、紙媒体型ではなくタブレットPC型に設定されていますので使い方は問題はないでしょう。おまけで現在お持ちの電子書籍や動画や音楽コンテンツもインストールしたままになっていますので退屈な時の暇潰しにでもお使いください。ただ他人からは見る事が出来ないのと使用時は電気の代わりに自分の魔力が消費されますので使い過ぎにはご注意ください。魔力は枯渇すると最悪コロッと死にます」
「なんか『死霊秘法』とか物凄い名前出てきたし伝説の魔導書が電子書籍なのも吃驚(吃驚)だし充電は魔力消費?え?死んじゃうの?」
「魔力残量は慣れてくれば感覚で分かるようになるので、気を付けていれば大丈夫ですし、何度も使ううちに慣れますよ」
「魔力?って言うのが良く解らないのですが?」
「魔力は世界によって多少使用方法や在り方に差異が御座いますが魂を形どるエネルギー的な物だと考えてください、使っている時に気持ち悪くなったり貧血っぽいなぁと思った時は使い過ぎと思って少し休むと良いでしょう。あとは十分な栄養と睡眠をとれば翌朝にはスッキリですが数日治らない場合時は病や疾患の可能性もありますので薬師や医術師、魔術師等に相談し用法容量をお守りいただいたうえで使用されるといいでしょう」
「情報量多い」
「続いて出生でご希望はありますか?」
「希望とか聞いてくれるんだ、ちょっと嬉しい。」
「平和な国や戦乱収まらぬ危険地帯、南国の温和な楽園や極寒の不毛地帯に竜の封じられた洞窟の中ですとか、ご両親は貴族に商人、獣人、オーク等々お好きな…ん?あ、あれ、ちょっと待ってください。あれ?」
「え?今オークとか言った?平和な人間の国の金持ち貴族の健康な超美男子とかがいいんですけど?ん?どうしました?」
「少し・・・おまちくだ・・・あれ?」
カタカタカタ・・・カチカチカチとマウスやキーボードを無茶苦茶いじりまわす音が響く、
「ヤダコワイ」
画面固まっちゃったかな?
「あれ?なんかうごかにゃい?!あれ?文字が変なのに変わっちゃった・・・あっ!」
「パソコンの様子がおかしい時はいったん作業を止めましょう、フリーズしたならあまり触らず.....」
文字化けかな?何か様子がおかしい、PCからビープ音が鳴り始めた。もはや悪い予感しかしない。
「あ、ちょ、まっ」
完全にポンコツと化した元美人秘書系女子
美里は明らかに駄目な流れだと考えアドバイスをしようとした途端、強烈な光が彼を包み景色が徐々に意識が遠のいていく。
「いやああああああああああ!まってえええええええ」
ポンコツ女の叫び声を残し、こうして美里薫の異世界『転移』が行われた。
本作『異世界のんびりネクロ生活』をお読みいただきありがとうございます。
病気療養&失業で有り余る時間を使って、昔から妄想していた色々な設定をなんとなく継ぎ合わせたぽやっとした作品ですが、よろしければ最後までお付き合いいただきたく存じます。
気が向いたらイイねやお気に入り登録いただければ嬉しいです。
それでは美里薫ののんびりとした人生の後半戦をお楽しみに!