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第19話 異世界で初期戦力を整えよう③

019 1 017 (編集版)

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「こんな時間までどこに行ってたの?」


部屋に戻るとヘルガが目を覚ましていた、起きてたのか部屋に入る際に起こしてしまったのか、ここは素直に魔法の実験してきた事を伝える。


納得してくれたのかはわからないが、ヘルガはベッドの奥に詰め美里が横になれるスペースを作るとポンポンと空けた自分の横のスペースを叩き美里に横に寝るように促す。


美里は照れつつも促されるままにベッドに横たわるとヘルガにキスをしてヘルガの腕枕の中に・・・・・・ん?腕枕?


「逆じゃね?」

「どうしたの?」

美里が現状の違和感を訴えるがヘルガは美里を優しく抱きしめると、まどろむ意識の聞き返す。


「いや、幸せだなと思って?」

しかし美里の答えを待つことなくヘルガから寝息が聞こえてくる、そんな状況も物凄く幸せなだと感じながら目を閉じる。


前世で死ぬ前の美里は10年以上続く一人暮らしを過ごし、その大半を1人で寝りにつくことが当たり前だった。


仕事で身も心も疲れ果て、家に帰っても横になって寝るだけの空しい夜を過ごすのが当然の日常。


とは言え疲れ切った状態で誰かと過ごす時間もそれはそれで苦行となりえた。ならば少しでもリスクを減らしたいと、人と過ごす時間を切り捨てた。


いつしか仕事以外で人と会話することを避けるようになっていた。


ヘルガの声が・・・寝息が・・・体温が・・・柔らかさが・・・体液が、確かにいま美里の中に幸せを感じさせている。


感情ってこんな感じだったのかと思い出した、もう人生なんてどうでもいいと思っていたのに、今この幸せが心から嬉しい。


まさか長生きしたいと思う日が来るとは思わなかったと、仄かな喜びを胸に秘め、美里は十年以上ぶりの幸せの中で深い眠りについた。





コンコンコンコンコン!


その朝は激しく扉を叩く音で目を覚ます、先ずヘルガがうーんと不機嫌そうに体を起こすと、隣で目を半分開き寝ぼけている美里の頬に軽いキスをする。


眉をひそめる美里の顔を見ているヘルガは、愛おしい男が傍にいる嬉しさがこみ上げ、我慢できずに唇を貪りに行く。


コンコンコンコンコン!

「カオルー起きてるー?」

アルマの声だ。


唇を侵された美里はヘルガを抱きしめると唇に吸い付き、彼女の口腔内を味わおうと舌を滑り込ませヘルガに美里の劣情にも似た愛情を彼女に分からせようと激しく暴れさせる。


ヘルガも自分の方こそお前に分からせてやるのだと言うように自分の中へ反撃してきた男の中へと攻撃を開始する。


そして、扉を叩く音も忘れ互いの愛情を激しく絡ませ合う。


コンコンコンコンコン!

「カオルーお客様だよ!早く起きて!早く起きて!」



ガツン!



「いったぁ~」

アルマの声である、また勝手に開けようとして顔をぶつけたらしい


「客?」

盛り上がって来た所では在ったが、客であれば仕方がない、しかしこの世界に美里を訪ねる友人などは居ない、なんだろう少し怖いぞと考えつつ体を起こす。


「ちょっと待ってくれ、服を着る今フルチンだ」

「ダメ!急いで!早く!フルチンでいいから!」

「フルチンはだめだろ!」

よく聞けばアルマの声が少々焦っていた、何事かトラブルなのだろうか?


横を見ればヘルガに不安そうな顔をさせてしまっている。


「2号、下の様子を見に行ってくれ」

「あいあい」

ヘルガが横に居るのも気にせず咄嗟にロリガへ指示をすると、ロリガは一瞬外へ出ようと体の半分まで扉の外へ出た所で振り返る。


「2号なんていない!」

美里の傍まですいっとに近づき、その小さな顔をくっつけ睨むと可愛らしく反抗する。


「す...すまんロリガさん、ちょっと下のお客さんが誰か見てきてもらえますか?」

美里も勢いに押されたのか素直に言い直す。


「よろしい、わかった!しからばドロン!」

ロリガは左手を握りこむと人差し指だけ立て、右手で左手の人差し指を握り更に右手の人差し指をたてる。すると床下へと沈むように階下へと沈んでゆく。


「カオル誰と話してるの?あ、魔法?っていうか早く下に行かないと。ほら!」

振り向くと既にヘルガは服を着終えている、と言っても貫頭衣(ワンピース)なので被るだけである。


ヘルガはボケっとしていた美里の頭へ彼の貫頭衣(ワンピース)を被せる着替えさせると、自分のボサッと広がった髪を束ね後ろで結ぶ。


準備が出来たヘルガが扉を開けようと扉へ近付くと、3号がその様子を捉え扉を開けてくれる。


ヘルガはこの部屋の入室権を美里から与えられているため、3号が自動的に開けてくれたのだ。


「魔法って...便利だよね」

微妙な顔ではあるが、ヘルガは美里に関しては全て魔法でかたずける方針にしたようである。


部屋を出た途端、階下を確認に見交わせていたロリガが美里の眼の前に戻り「エサイアスと後輩がいた」と伝えてくれる。


後輩?クロア母娘だ。


すっかり忘れていた、昨日のクロア親子の入居の件でやって来たのだろう。


腕のづまーとウォッチを見れば時間はAM8:30、この世界的には早くも遅くもと言う時間での訪問である。


早く早くと部屋から出てきた美里の腕を曳こうとアルマが手を伸ばすとパチンとその手をヘルガが叩き落とした。


ヘルガを見ると無表情でアルマを見下ろし、叩かれたアルマもなんか眉を寄せムッとしている。


再びアルマが美里に手を伸ばす。

『ぺちん!』と

ヘルガが叩き落す。


再びアルマが美里に手を伸ばす。

『ぺちん!』と

ヘルガが叩き落す。


再びアルマが美里に手を伸ばす。

『ぺちん!』と

ヘルガが叩き落す。


再びアルマが美里に手を伸ばす。

『ぺちん!』と

ヘルガが叩き落す。


再びアルマが美里に手を伸ばす。

『ぺちん!』と

ヘルガが叩き落す。


「2人とも何してんの?エサイアスさん待ってんでしょ」

美里は2人の奇妙な行動を見かね、アルマがやって来た理由を確認すると2人は状況を思い出し、ヘルガvsアルマ間紛争に終止符が打たれる。


「そうだった、とにかく急いで!」

アルマを先頭に一同は階段を下りていく。


「カオルの旦那ぁ、おせ~ぞ~」

階段を降りるとエサイアスが美里に手を振る、その横には昨晩召喚したクロアとクロエ母娘が立っている。


主様(あるじさま)おはようございま」

「おはようございます」

美里が現れると母娘は美里に対して深々と頭をさげ挨拶を行う。


母娘共に昨晩と違う衣服に着替えサンダルも履いているようだ、エサイアスが用意してくれたのであろう。


「エサイアスさん、おはよーっす」

「おうょ、とりあえず今日から入居は決まったんだがなぁ、肝心の部屋がな....」

エサイアスは頭を掻きつつ大家を見る。


そんな光景にヘルガはこれでもかとばかり目を見開く、客がエサイアスであったことも、エサイアスがカオルを『旦那』と気安く呼んだことにも、母娘が美里を『主様(あるじさま)』と呼んだことも、そしてエサイアスの顔が変形する程に腫れあがっていることにも驚きを隠せていない、しかし直ぐ気を取り直し東区の大物エサイアスに頭を下げて挨拶をする。


問題は何なのだろうかと美里は大家に顔を向けると大家も話しにくそうに口を開く。

「先月4階は住人同士で殺し合いがあってなぁ、そのままにしてて汚れが取れてねえんだ、空き部屋はベッドもねえしな」

大家は首の後ろを掻きながら苦笑いする。


「私共はベッド等なくとも問題ございません、主様(あるじさま)の御傍に控えさせて頂けるだけで問題はございません」

クロアが躊躇なく答えると大家もヘルガも明らかに困惑している。


「いやそう言う訳にもいかんだろ、ベッドか.......んじゃあこっちで用意させるぜ。昼にはここに持ってこさせるわ。古いのでイイだろ?部屋がきたねえってのは血痕が取れねえのか?」


「タダか?」

「タダでいいよボロでいいんだろ?」

大家がエサイアスにニヤリとしつつ確認すると、エサイアスも当然と言いたげに答えを返す。


「わりいな、部屋の片方は血痕だらけなだけが片方は前に貸してた奴の使い方が悪くてな床板とか張り替えなきゃなんねえんだ」と大家が困り顔である。


「親子2人なら部屋は一つでいいだろよ、床板の方は早めに職人来させる」

「タダか?」

「お友達価格ってやつだ、職人の仕事は値切るもんじゃねえよ」

「そりゃそうだ」

「ベッドは大き目のヤツでいいな、床の修繕は後で職人に見に来させよう、じゃあ家賃は銀貨8枚で決まりだな」

「おう」

何だか話はエサイアスが一通り纏めてくれていた。


ん…銀貨8枚?安くないかとも思ったがベッドは持ち込みで部屋が血痕だらけなら高いのか?瑕疵物件だし。


とは言え面倒な部分まで一通りまとめてくれたエサイアスには感謝しかない。


「エサイアスさん色々ありがとうございます」

「なに、俺と旦那の仲だ気にすんな、また何かあれば遠慮なく言ってくれ。だけど次は起きてる時に頼むわ」

確かに連続で深夜に迷惑をかけているので流石に申し訳ない気持ちがわいてくる。



アルマの案内でクロア達母娘一緒に4階の空き部屋へと移動する、階段を上がり最初の部屋が彼女たちの新居となるようだ。


部屋の扉を開けると床も壁も血痕と思われる黒い染みが広がっている。ベッドを配置していたであろう場所だけ染みが無いのがまた生々しい。


ただ見れば汚い部屋だという印象だが、血痕だと知ってしまうと美里は忌避感を覚えるが、アンデッドのクロア母娘は気にする様子がなく温和な笑顔を作り気にする様子はない。本人達が問題ないのならそれで良いだろうとあえて口は出さない


「いやぁ、あの時はびっくりしたよ~こう手とか耳とか散らばっててさ」

アルマは笑って当時の状況を説明するが欠片ほども笑えない、悪所で育つとこんなサイコパスなガキに育つのだろうか?それとも血筋的なものなのだろうか?


「そういえば、カオルってエサイアスの旦那~じゃなくって親分と知り合いだったんだね」

サイコパス孫娘が話をがらりと変えてきた。


「昨日たまたま街で知り合ったんだ」

「あぁ、女でも買いに行ってたんだね」

「ちゃうわ!」

適当な話で誤魔化すが、このアルマの言動は危険すぎる。


「はっ?」

ヘルガがドスの効いた声をあげる。目が怖い、控えめに言って殺意が籠っている。


「え?行ってないよ!行ってないからね?!」

必至に弁解を試みるが美里には疑いを晴らす決定的な言葉が出てこない、何しろしていない事の証明はしようがない。


「え~でも他にエサイアスの旦那と知り合う様な場所ってどこよ?」

大家の孫、マジで怒りしか沸かない。


あれ?エサイアス?それだ!


「エサイアスさんに聞いて見れば判るよ?ほら、ヘルガ一昨日かな?エサイアスさんに俺の事話したでしょ?それで昨日の夜中に散歩してた時に声かけられて魔法を見せてほしいって言われて?仲良く?なったんだよ!」


「..........」

ヘルガの目は狂気を讃えたまま美里を見つめている。


「あれ?俺よりアルマの適当な話を信じちゃう?」

「え?あっ....ごめん、ごめんなさい、信じてるよ!カオルのことはちゃんと信じてるよ!本当だよ!?」

ヘルガが何かに思い至ったのか、急に眼に涙を浮かべ必至の弁解を始めた、かなり情緒不安定ではなかろうか?


「アルマ、いい加減にしろ!」

「ごめん爺ちゃん...」

大家がアルマの軽口を叱りつけるとさすがのアルマも消沈する。


「また住人が殺しあい始めたらどうすんだ馬鹿野郎」

え?こいつのせいで殺し合いになったの?この糞孫やばくね?


「アレはあたしのせいじゃないでしょ...」

アルマも何か言いたげだが聞くのも怖い。


「私はヘルガで、こっちが...その、私の旦那のカオルだよ。クロアさん達は仕事は何をしているの?」

後はどうやってクロア母娘とのパーティー結成をヘルガに切り出すかを悩んでいると、ヘルガから切欠をくれる。


というか旦那...うん否定はしないけど完全に外堀を埋めようとしている。


「小作人をしておりましたが追い出されてしまいまして、昔冒険者をしていたので、冒険者へ戻ろうと思っております」

ここぞとばかりにクロアが迷宮(ダンジョン)探索(ダイブ)予定である事を切り出す。


そんな設定つくったの?


「死んだ主人も冒険者でしたが、私も一緒に中層をメインに探索をしていた経験もありまして。娘と一緒に冒険者に戻ろうと考えています」

「え?こんなに小さい子まで?」

ヘルガの驚きももっともだ、クロエの見た目はかなり幼く、背も低いうえに細い、あまり荒事を覚えさせるに向かないと思えたのだ。


というか設定と言うよりは生前の記憶なのだろうか?


「こう見えてクロエも魔法を使えるんですよ」

「え?もしかしてクロアさんも?」

「簡単な強化魔法程度ですが」

「なるほど...」

ヘルガは納得しているが、こんな小さい子が魔法を使えるだけで冒険者をすることに納得する世界なのだろうか?しかしこれは絶好の機会でもある。


「中層で戦ってたなら迷宮(ダンジョン)にお詳しいのでしょう、実は俺たちも迷宮(ダンジョン)探索(ダイブ)を予定しているんですよ、よければ今から御馳走いたしますので食事がてら迷宮(ダンジョン)のお話でもしに行きませんか?」


「ほんとうですか、それは願ったり叶ったりです」

クロアがわざとらしい程に食いつくと、美里の手を握り同意する。


その様子に一瞬ヘルガの顔が強張る。


「ヘルガ、何が食べたい?」

「え?うん...何でもいいよ?」

ヘルガのゴキゲンは斜めである。


「じゃあ、昨日の屋台通りまで行ってから決めよう」

「クロアさん達もそれでいいですか?」

「はい、全てお任せいたします」

クロアの表情はヘルガと対比的に満面の笑みである。




道すがら彼女達と世間話をする。よく考えると、召還してから運動性能の確認だけで生前の情報はほとんど聞いていないのだ。


現在クロアは(享年)30歳、クロエは(享年)12歳と言うのだが召喚の影響かクロアの容姿は20代前半に見える。しかしクロエは貧相な骨格の影響もあり10歳前に見えてしまう。


旦那は2年前に迷宮(ダンジョン)に入ったままから返って来なくなったという。


クロア達は旦那の死後、住み込みで南区の農園で住み込みで小作人をしていたらしいのだが、流行り風邪で体調を崩し働きが悪くなり追い出されたというと話をしてくれた。


追い出されたと言うか実際ははやり風で亡くなり墓地行だったということであろう。


クロアの魂が鮮明な記憶を維持してくれていたお陰でカバーストーリーを作る必要もなく非常に助かった。




屋台通りへ到着する迄の間、何故かクロエが美里の横にピタリ寄り添い左手の袖をギュっと握ってくる。


うん可愛い。


可愛いのだけれどヘルガが掴まれた左手の袖をチラチラと睨むのが心臓に悪い・・・こんな小さい子に嫉妬することはないであろうが、罪悪感を感じてしまう。


屋台通りへ到着すると先日食べたモツパンを人数分買い、わきのベンチに座ると美里から改めてパーティーについて話を始める。


一瞬ヘルガの目から感情が消えた気もしたが、ヘルガからも了承は得られた為、問題なく戦力の増強は完了した。


詳細について話し始めるとクロアが「主様の御心のままに」とか言い始めたので一瞬焦ってしまう。


もっとフランクに話してくださいねと丁寧にお願いと言う命令をすると了承され今後は『カオル』と呼ぶよう徹底する。


なぜかその後にクロエが『カオルお兄ちゃん』と呼ぶようになり、ヘルガが微妙に嫌な顔をした気がして怖いが、個人的には『おじちゃん』でなくてホッとしている。



そしてモツパンを食べ終わったり、クロア親子の装備を整えるため、皆でヨシフの店に向かう。


拙作『のんねく』をお読みいただきありがとうございます。

もし少しでも面白い、続きを読みたいかもしれないと思っていただけたら、是非ともイイネやお気に入り登録をいただけると嬉しいです。


それでは次回もお楽しみください ( ゜Д゜)ノシ


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