第17話 異世界で初期戦力を整えよう①
017 1 015 (編集版)
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暗がりの中、その場所で死霊秘法を開き必要な項目をパラパラとめくり要点を読み返す。
美里が開いた死霊秘法は別の世界である日本より持ち込まれたこの異世界には存在しなかった魔導書の電子書籍版である。
前世知識の中の死霊秘法は死霊術系統の書物である。
『基礎理論』『霊体』『死体』『不死』『召喚』等と記された項目が並ぶが、『基礎理論』には『魔力』を使いそれらを『術理』で『構築』し『構成』した物を『召喚』する。
『霊体』『死体』は構成要素や素材、『術理』はクライアントの要望や設計図で『構築』はそれらの製作工程、『魔力』が労働力や燃料の様なものと解釈できる。
そして『構成』が出来上がった製品、それがアンデッドであり、『召喚』はいわば完成品の出荷と言ったところだろうか?
今の美里ではどれ程読んでも死霊秘法は文字化け部分であったり未知の単語のオンパレードで、完全な理解は諦めるしかない。
今後は経験と研究を重ねて理解と制度を上げていく必要があるだろう。
美里に今必要なのは死霊秘法の力で不死怪物召喚して自分の身を守ることである、幸いにも召喚した不死怪物(アンデッドは強い、もしかするとアンデッドを大量に召喚すれば国家にすら対抗できるかもしれない。
特に幽霊系の不死怪物は心強い、何故なら通常の物理攻撃が効かないのだ。そのためそこらにいる猛獣や魔物、そして冒険者すらも相手にはならないのだ。
しかし異世界のはまだまだ未知数、油断はできない。
なにせ召喚者の美里薫本人は貧弱な日本人で本当に弱いのだ、まずは死霊秘法を使いこなして早めに戦力を組上げる必要がある。
自分とヘルガの平和を守るのだ!
◆
深夜、月明りの中で美里薫は昼間にヘルガと街で見かけたある場所へと向かっていた。
―――共同墓地
この都市では、上流階級以外の死体は共同墓地で埋葬される、そして約1年後に埋葬された死体を掘り返し肉体が土へ帰り残った白骨を通りだし、地下墓地へと改めて埋葬される。
つまり死霊術にとっては素材の宝庫である。
共同墓地の敷地内には墓を管理する墓守が住んでいるらしいのだが流石に真夜中には寝ている為、誰の目もなく今はやりたい放題だ。
問題が有るとすれば、美里自身が夜の墓碑が怖いことくらいである。
墓場の奥には墓石もなく、ただ遺体が埋まっていることを示すだけの木の棒が刺さった区画がある。身元不明な遺体や葬儀が行えない貧しい者の遺体を埋めているのだ。
基本的に葬儀もなく手を合わせに来る人間もいないであろう死体のため、そういった死体を埋葬する場所は墓地内でも人目から遠い最奥である。
そういった死体をきちんと埋葬するのは腐り落ちた肉体が肥料になるからと言うのは農家出身のヘルガの言である。つまりこの共同墓地は肥料工場を兼ねているのである。
「ぐるるるる」
墓地の奥へ差し掛かろうという時、美里の周囲を野犬の群れが囲んでいたのである。
予想外の遭遇である、死肉漁りにでも来ていたのか縄張りを荒らしたと考えたのか野犬の群れは美里に対して強い攻撃的な視線を向け唸り声を放ってい
野犬の中には大型犬のクロと同じかひと回り大きい位個体も存在し、生身の人間である美里ならば秒で食い殺すこともできると直感が教えてくれる。
「あるじあれも下僕にする?」
美里の横から淡々とした声でロリガが言い放つ。
「ロリガ勝てそう?」
「よゆう」
表情から読みとることは難しが、恐らくロリガはどや顔である。
「や~っておしまい!」
「あらほらさっさ~」
間抜けなやり取りだが連れてきてよかった、ロリガは言葉通りに犬達へ向かい走り出すと不可視化しているためかロリガは気づかれずに接敵し犬達の脳天にへなちょこチョップを食らわせていく。
「きゃふん」
チョップするたびに犬が変な鳴き声を残しその場に倒れていく、仲間がなぜ倒れたのか戸惑っている犬も数秒後には同じように倒れ伏してゆく。
罪無き犬達を殺するのは忍び無いが、先に殺さなければ自分の命が危ない。そして生きの良い死体は扱いやすくリビングコープスが手軽に作成出来る、やらぬ手は無い。
ロリガは周辺にいた13匹の大型犬の群れの命を奪うと美里はネクロノミコンを使い『死体使役』を発動、全ての犬をリビングコープス化させる。
先ずは簡単な実験だが、リビングコープスは言葉を理解する。命令すれば犬の場合、お手、お座り、チンチンの全てをこなした。
飼い慣らされていなかった犬達が命令をこなすということは言葉を理解しているというよりは、使役者の意識を受け取っているのであろうか。
しかし犬なのに尻尾に反応のもなければ目にハイライトが無く寂しい、クロの様に階位をあげると反応があるのだろうか?
このままでも戦力にはなるが、この状態を人に見られた場合に違和感を持たれてしまいそうだ。
「のみ」
ロリガが唐突、犬達を指さす。
「のみ?」
ロリガに問い返す。
「のみ」
ロリガは美里の顔をみつつ犬を指さしている。
「蚤か!」
「のみだ」
蚤がいるらしい!
野犬である蚤や虱は当然いるであろう、そのリスクに失念していた。
「ロリガ、何かいい手は無いか?」
無駄とは思うがロリガに相談してみるた。
「クロがビビビってしてた」
どうやらクロが退治方法を知っているという事だろうか。
「でもクロって生まれたばかりなのに蚤いたの?」
「そこら中にいる」
なるほど、衛生環境の悪い世界だ、美里の知らない間にクロに取りつこうとした蚤がクロの不思議能力に追い払われていた様だ。
「ロリガにもビビビ出来る?」
「らくしょー」
「まて、絶対に犬達を食うなよ?」
一瞬ロリガが沈黙する。
不承不承の様子でロリガが犬達を撫で繰り回すと暗くてよく見えないが、犬の体から何かがポロポロと落ちていく。
どうやら霊体接触で蚤や虱を駆除している様だ。
これがクロの『ビビビ』なのだろうか?
早速犬達の運動性能を確かめたい、遠くに見える木をタッチして戻ってくるように指示すると、信じられない程の速さで飛び出す。
100m弱ある期まで到達するのに5秒もかからず全ての犬が到達すると、思い思いの方法でターンする。普通に木を中心に折り返してくる者、勢いを殺さず木に飛びつくと空中で体をひねり幹を蹴りターンする者、その場で一旦停止し折り返す者とさまざまであるがどれもがかなりの速さで美里の足元に戻ってきていた。
個体差は有るが概ね往復200m近い距離が10秒かからぬ速さである、この運動性能を持つ大型アンデッドワンコ13匹というのはかなり強力な戦力ではないだろうか?
思わぬ強力な戦力増強に満足していると、ロリガが犬達を睨みつけているように見える。
まさか、食べるつもりではあるまいか?
「許可なく仲間を食べたら、永遠にドア番させるからね?」
「!!!」
食べるつもりだったな・・・。
『階位値構成』で犬達が食べられないように、ロリガと同等程度まで強化させたのだが、強化が完了すると突然犬達が尻尾を振り始めて美里の足元に我先にとすり寄ってくる。
なりほど『階位値構成』の効果が色々と実感できて来た。
最初は大きくて怖かったが、こう懐かれると狂暴そうな大型の野犬も可愛く見えてくるもので、美里は片っ端から撫でまわすと野犬たちも御礼とばかりに美里の顔を舐めてくのだが、物凄く臭い!
「くっさ!」
クロは臭くないのだがこの差はどこから生まれたのであろうか、それは恐らく骸骨から構成しなおしたことが原因であろう。
「よし、ワンコたちは俺の実験が終わるまで人が来ないように周りを見張っててくれ」
「「「「「「わん」」」」」」
犬達に命令をすると理解してくれたのだろうかひと吠えし走り出す。
思わぬ戦力増強が出来たが、ここからが本命の人間の死体を使ったアンデッド召喚である。
目の前にあるのは墓石は置かれずただ埋めた遺体の位置を確認するために刺された棒が整列している、この中から新たなる死体を使役するわけだが腐った死体をそのまま使役するような事態は避けたいし、先ほどの犬の様に臭いのも嫌である。
ならばクロと同じように骸骨を召喚し、後から肉体を構成すれば良いと考え、目の前の新しそうな墓へ向けて『死体使役』を発動を試みた。
美里の脳内で不思議な感覚が走る。
魂だ、この遺体の所有者である魂が存在している、この魂は美里の召喚に応じることを認めているのだろうか、アンデッドの構成の核となってゆくのを感じる。
戸惑いながらも美里は無事召喚を終えると、死体の埋まっていた場所の地面がモコモコと動き出す、しばらく様子を見ていると小さな骸骨の腕がニョキンと地表へと飛び出した。
う~んグロイ、グロイのだがスプラッタホラーを見慣れている現代人的にはなんというかリアルは意外とこう、地味に感じる。
「ん?」
手は出てきた、右手の様だが・・・どうやら途中で引っかかったのか自力で地上に這い出ることが出来ずにもがいている。
「もしかして出れない?」
美里の問いかけに同意するように骸骨は手首をコテリとうなだれさせる。ちょっと可哀相なのでちょっと手伝ってあげたいのだが、見知らぬ骸骨に触れるのもなかなかに怖い、だがこのままとはゆかず意を決して恐る恐る手を引っ張り引き上げた。
少してこずったがスボリと出てきた骸骨はずいぶん軽く小柄な個体、間違いなく子供の骨格だろうがこれは戦闘向きではないかもしれない。
まずは召喚後に暴走されても対応できるように最小で『霊体構成』と『精神構成』発動する。
次にクロと同じように肉体を与えたい、正直骸骨を連れ歩く趣味はないため肉体を与えるためこの小さな骸骨に向けて『物理構成』を発動する。
小さいが戦えるようにある程度の筋力を増やしておきたい、そのため物質値を多めに与えると徐々に肉体が形成されていく、相変わらず肉体が構成されていく情景はグロテスクである。
「ぬぉ!?」
徐々に作り上げられていく姿に美里は驚きの声を上げる、なんということでしょう、そこにはロリガよりも少しの年齢が下、10歳くらいの可愛いらしい女の子の姿があったのだ。
すっぽんぽんで
ぽんだ
すっぽんぽんのぽんなのだ
生前に貧しかったことを連想させられる貧相な骨格が基準の為か、全体の線は非常に細く見えるが物質値を高めに設定しているため、かなり筋肉質である、腹筋がバッキバキである、残念ながらツルペタだが黒髪の可愛らしい少女である。
やはり前回と同じように召喚された時点では赤ん坊の様な短い産毛しかないが頭髪が少しづつ伸びつづけている。これは『物理構成』強化の副作用であろうか?
ちなみに下はチュルンチュルンである。
ふと横を見ればロリガが変態を見るような眼で美里を凝視している、流石に気まずいと思いちょっと目をそらす。
これは明らかに外聞が悪い、全裸幼女を連れまわす趣味は自分にはないのだ、洋服を・・・
若干の混乱のさなか、ロリガが新人を冷たい目で凝視していることに気づく。食われる危険を感じ、すぐさま『階位値構成』を使い階位の強化を行い、ロリガに隙を見て食われることは無いように対策を施す。
「ぐぬぬぬぬ」
ロリガめ何故に唸る、やはり食うつもりだっただろうか?油断ならない。
「いと尊き我がご主人様、召喚いただき感謝の念に堪えません、身命を賭してお使いする事を誓います、幾久しくお使いいただきたく存じます」
声の主を見ると、そこには裸の幼女がつつましやかに左右の手を胸元に×字に沿え深く礼を取っていた。
あれ?なんだか今までと違う、めっちゃ召喚した感ある、ご主人様感出てる!嬉しい!
ロリガが横にいるせいか余計にそう思えてしまう。
ここまで異世界のんびりネクロ生活をお読みいただきありがとうございます。
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