第14話 異世界の問題は解決しました
014 1 012 (編集版)
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2号改めロリガを護衛につけてラヘイネンペラヘへ赴くとなれば、部屋の警備をさせるためのドアマンをあらためて召喚する必用がある。
この部屋には日本から持ち込んだ荷物があり、大家の孫娘が勝手に侵入しようとする、セキュリティを考えると改めて眷属が必要である。
そしてラヘイネンペラヘとの争いが激化する懸念もあり、戦力として考えると階位値は1号と同程度の死霊を作成が良いだろう。
何よりヘルガの安全も考えなければならない。
そしてロリガが幼い見た眼に引きずられ思考も幼くなった可能性を考慮し、年齢を30歳程度をかんがえる、服装は皆と同じ修道衣でいいだろう。
ミサトは死霊秘法を構えると構成イメージを固めて霊体召喚を発動させる。出現を指定した位置にふわりと黒い靄がかかるとすぐに大きな人の形を形成する。
そこにはヘルガによく似た美里の眷属が浮いていた。
「とりあえず君の名前は3号だ、言葉はわかるかな?」
「はい我が主ミサトカオル様」
「カオルでいいよ」
「かしこまりました我が主カオル様」
「それじゃあ君には不可視化した状態でこの部屋の守りとヘルガ護衛をたのみたい。それと部屋への入室は俺が許可した人間だけでたのむ」
「かしこまりました我が主」
3号は恭しく頭を下げ美里の命令を受託する。
「3号、この部屋はヘルガだけ出入りOKなんだけど顔わかる?わかんないか、そうだよね。生きて帰って来れたら紹介するね」
「畏まりました、無事のお帰りを心よりお待ちしております」
3号は優しい笑顔で美里を見送る。
美里は新たな眷属として創造した3号へ指示を終えると、2号を伴い重い足取りで階下へ降りる。
まだ朝の7:00過ぎではあるが既に大家の孫娘アルマが一人工房内で藁細工の仕事を始めていた。
「おはよーカオル」
アルマが眠そうな顔である。
「おはよう、大家さんは?」
「じいちゃんは屋台に朝飯買いにいったよ~」
「そっか」
そういえばこの街の人々の食事はほぼ屋台らしい。
「ヘルガはもう出かけた?」
「じいちゃんと一緒にいったよ」
「そっか」
爺とは言え、人が一緒なら少しは安心だ。
「カオルは1人で何処へいくんだい?」
「ちょっと散歩いってくる」
「気を付けて行ってきな、この辺は悪い奴らが多いよ」
アルマから優しい声がかかると思っていなかった美里少し驚いたが、長い間一人暮らしだったためなのか少しホンワカとした気持ちがこみ上げる。
美里が玄関をからでるとトコトコと黒い大きな犬…昨晩犬の白骨からアンデッド召喚で呼び出したクロが足にすり寄ってくる。
どうやらインスラの前で大人しく待っててくれていたようだ。
「なにこの犬、コレもあるじのげぼく?」
2号改めロリガは不可視化状態のままで美里に問いかける。
「クロだ、食べたり虐めたりするなよ」
「む!クロ!?すでにねーむど!なまいき!」
「た・べ・る・な・よ!」
ロリガは何となく信用が置けないので念を押す。
「ちっ」
このガキ舌打ちしやがった!
何となくロリガがクロ虐めそうで心配過ぎる。
「クロ、お前も強化しておこう」
ネクロノミコンを開きクロを指定して『階位値構成』発動し、ロリガよりも若干強めに再強化を行ってクロの安全処置をとってみた。
強化が発動するとクロの全身の体毛が一瞬ふわりと浮き、体つきが全体的に大きくなった気がした。
骨格が変わった訳ではない、骨格はそのままなのだが筋肉量が明らかに増え、そして毛並みが昨日よりも綺麗でふっさふさだ。是非もふりたい。
昨日は死んだような目が、まあ死んでいたのだけれど、ハイライトが失われていた瞳が血の様に赤く輝いている・・・。
強化を終えたクロは強化してもらった感謝なのか、はち切れんばかりに尻尾を振り喜びを表現しコロンと倒れると美里へ向けて腹を見せた。
可愛い過ぎて思わずクロのお腹に顔を擦り付けスーハースーハーと臭いを吸い込む。
他に変化が無いか観察しつつ、クロの体をワシャワシャしていると突如クロが飛びのき、不可視化しているロリガを睨み唸りを上げた。
「ムグググググ、犬コロ...たべれない」
「え?」
このクソガキ食おうとしたのか!
「ロリガ、今度勝手に仲間を食べたら、物凄く怒るよ?」
不可視化をしていてもその存在は召喚主である美里なら探知できる、2号に向き合い許可なく仲間を食べない様にしっかりと叱りつける。
「ロ...ロリガはとてもいいこ、うん...あるじの言う事?...ちゃんときく...いい子だから怒るのは良くない.........ごめんなさい....」
ロリガはしどろもどろに謝罪する、美里の支配下であるのは間違いないようだが、どうも信用置けない。
今日の話し合いから無事に戻れたら死霊秘法でアンデッドの飼育?教育?方法を確認しよう。
しかし、ロリガのあの権能を弾き返すという事は、クロはの2号よりも強いのだろうか?
「クロは魔法とか権能みたいな物はなにか出来る様になった?」
もしかすると思いクロに質問をしたが、取得していたとしてもベースが犬のクロに会話で確認できるはずがないのだがと自分に失笑する。
「わふん」
クロが返事?
ポンポンポンポン!
クロの周りに突如『ウィルオウィスプ』が出現した、しかも4つだ。
「魔法?召喚?もしかするとほかにも何か使える?」
「わん」
美里の問いかけに千切れんばかりに尻尾を振る一声吠る、まさか使えるのだろうか?
「わん!」
クロが再び小さく吠えるとウィルオウィスプが消えてしまう。
「え?いまのはクロが消したの?」
「わん」
そうらしい、クロ恐ろしい子。
絶対ロリガより使える!
何かを察したのか、ロリガが不愉快そうだ。
「クロ!これからも末永く頼むな!」
クロを強く抱きしめると、クロも嬉しそうに尻尾を振りつつ美里の顔を舐めまわす。
「むぅ、犬コロなまいき!ロリガの方が偉い」
ロリガへ諫める視線を送ると目をそらされた。どうも生意気だ。
「クロ、こんなガキンチョだけど仲良くしてやってくれな」
とクロにお願いするとクロは美里から少し離れ、周囲を見回っし人目が無い事を確認すると突如空を見上げ―――――
「ワン!」と大きく吠えると同時に口から青い炎をまるでビームの様に空へと放出した。
「「ブレス!?」」思わずロリガと驚愕の声が重なる。
再び美里の前に来るとちょこんとお座りをして尻尾を振る。
「クロ、お前は本当にすごいな!」
クロをぎゅっと抱き寄せほほにキスをする、クロも負けじと美里を舐めまわす。
「ぐぬぬ.....」ロリガが悔しそうにしているが、クロにはかなわぬと思ったのかガクリと地面に膝をついた。
クロの強さと賢さは心強い!魔法以外にもブレスという攻撃まで持っているとは嬉しい誤算である。
強化の影響か霊体と物質のバランスなのか?それとも死体術で召喚したからなのか、色々と調べたい事が増える。
さて、何時までもこうしているわけにはいかない、意を決してラヘイネンペラヘのアジトへ向かうために立ち上がる。
立ち上がると眼の前に何者かが道を塞ぐ。
「ロリガなにしてるんだ?」
そこには両手を広げたロリガが立ちはだかる。
「ぎゅ---!」
何言ってんのこの子
「あるじ!ぎゅーってして!」
どうやら抱っこしてほしいらしい、クロが褒められて寂しくなったのだろうか、しかし面倒なので無視をして歩き出す。
「無事に話し合いが終わったら、めちゃくちゃワシャシャシャしてやるから、しっかり俺を守ってくれ」と命じると不承不承ながらロリガが必ず守ると息をまく。
ロリガは子供だ…見た目同様に子供なのかもしれないと思うとちょっと可愛くも思えてもくる、同時にちゃんと教育が必要だと少し不安を感じている。
やはり召喚時のイメージが強く影響しているのだろうか?
まさかのクロの強さに心強さを覚え、再び目的地へと向かう。
ラヘイネンペラヘは同じ通りに面しているため、数分歩けば直ぐにアジトが見えて来るのだが、そこには何故か人だかりが出来ている。
大声で詰め寄っている輩もいる様で揉めている雰囲気である、是非今すぐ帰って引き籠りたいしヘルガの硬い胸で甘えたい。
見ればざっと20人は居るだろうか?見た所では怖そうな人間ばかりでもない。嫌な予感しかしないがここは異世界、良くも悪くも思い通りにはいかないのだと覚悟を決める。
生前も思うようになった記憶は無いけれど。
集まっている人間の大半は明らかに強面だが、一部は商人らしき風体であったり娼婦の様な風体の女性も混ざっている。
意を決し、人だかりに近づくと、昨晩訪問者の対応を指示したリビングコープスと目が合う。
「親分、お待ちしてやした」
目が合うや否や親分と呼ばれた美里へ衆目が集まる。
「親分、どうぞ」
リビングコープスが感情のこもらない声で美里を招き扉前の人間を押しのけると玄関の扉を開く、周囲の訝しむ目線に耐えながら美里はクロを伴いいそいそと中へと入てゆく。
当然周囲の人間からは色々な文句が出るのだが、リビングコープスがひと睨みすれば、アンデッドだからなのかギャングだからなのか異様な迫力に皆が黙り込んでしまう。
玄関直ぐの床でいきなり男性が3人倒れているのが見える…倒れている人間からは微かに唸り声が聞こえ、辛うじて生きていると確認できたため安堵する。無理やり侵入でもしようとして幽霊かなにかに昏倒させられたのだろうか?
既に怖い。物凄く怖い。もう帰りたい。
美里が部屋へ入ることを躊躇していると、クロがトトトと先に倒れた人達をよけつつ軽快な足取りで部屋の中に入って行き、大丈夫と言いたそうに振り返り小さくワンと鳴く。
意を決して中に入ると扉を守るリビングコープスがゆっくりと扉を閉じた。
「お持ちしておりました、我が主様」
「お、おつかれさま」
「うむ。ごくろー」
倒れている人達を避け奥に進むと1号が笑顔で美里を迎えてくれと美里に続きロリガが1号に対して片手を小さくあげ部屋の中へ入る。
1号の横をロリガが偉そうにスタスタとすり抜ける。
美里はロリガの対応に慣れ始めていたが、1号は初めて目の当たりにする進化後の2号の態度に思うところがあったのだろう、真顔でロリガの後頭部をガシリと掴み強引に引き寄せる。
「おっ?おっ?おーっ?」
「2号、お前はここで何をしているのですか?」
ロリガは予想できていなかったのか簡単に引き戻す。
「2号ですと?我が名はロリガ!可愛くて強いから、あるじから名前をもらった!そしてあるじの愛人へ昇格した!もう1号と違って南極しりーずではない!」
「え?違うよ、なにいってんのこの子」
美里は否定したがロリガの言葉に1号は深刻な精神ダメージを受け膝から崩れ落ちると美里の顔を悲しそうに見つめている。
「えっと、勿論1号にもちゃんとした名前つけるよ?ロリガみたいに適当じゃないやつ。それにこのガキンチョは愛人じゃないからね?」
余計なことも言ったかもしれない。
「てき...とう?」
ロリガは一瞬目を大きく見開き美里を凝視するが、もう完全に無視である。
1号はカッと目を見開き満面の笑みを浮かべる。
「我が主!『適当』ではない無い名付けを楽しみにしております!それでは、まずは本日のイベントを華麗に終わらせてしまいましょう」
納得してくれたのか気を取り直した1号がラヘイネンペラヘの面々の待つ部屋へと美里を案内する。
「ぐぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぅ」
後からロリガの呻きが聞こえるがあえて無視である、この後の交渉を考えると余計な事に気をまわしてはいられないのだ。
部屋に入ると知らない人間が4人増えいた、そして何故か奥の壁に一緒に並んで立っているのだがいったい何が起こっているのか混乱してしまう。
「今朝方強引に入り込んだラヘイネンペラヘの関係者です、オスクをみて素直に従っております」
困っている美里に1号が耳打ちされ、今朝訪問してきた正組員らしい。
その他にも2人倒れてる、一人は昨晩1号が倒した痙攣君だ、1号に聞くともう1人は逃げようとした人らしいが、オスクと一緒にアンデッド化したティモスに小突かれ倒れたまま動かなくなったという。
2人とも死んでるねこれ。
死なない程度にって言わなかった?死んでる気がするんですが?小突くとは一体?
「つい先ほどまで息があったのですが、弱い個体の様で既にこと切れております」
美里の考えを読んだのか1号が淡々と報告してくれたのだがなんで死んでるの?もう物凄く怖いしどうしていいのかわからないのだが?
壁際に並ぶ面々を見回す、ラヘイネンペラヘの皆さんは何故か全員壁際で立っている?痙攣君は体力の限界を迎えて倒れたという・・・楽にして待っててっていわなかったっけ?
「えっと...エサイアスさん達は何で立ってるんですか?」
「え?なんでってアンタが立ってろって・・・」
「楽にして待っててくださいって言った気がするんですが」
そこまで言うと、壁際の面々は一斉にオスク達に目線を向けうる、なるほど怖くて動けなかったのだろう。
美里には嘆息し死霊秘法を開き迷わず『死体使役』を倒れている2人に使用する。
「はいはい、2人とも立てますか?」
美里の質問に『2体』はそれぞれ返事を返しゆっくりと立ち上がる。その姿を見たラヘイネンペラヘの面々は言葉を失う。
「アーヨカッタイキテタミタイデスネ!」
美里も精一杯自然に話そうと思ったが完全に棒読みになっている。ソレを見ていたラヘイネンペラヘの皆さんの視線はひどく冷たいものであった。
エサイアスの推測では目の前の貧相な男は常識では考えられない程に恐ろしい力を持つ魔術師だと考えていた。
人間では無い可能性すらも頭にある。
決して逆らってはいけない『本物』の化け物だと。
「あんた何なんだよ!絶対死んでたよ!2人とも絶対死んでただろうよ!」
立っていた男の1人が泣きながら半狂乱に陥っていた。
美里は美里でストレスにより余裕がなかった。
溜息を付き、美里は死霊秘法から『ウィルオウィスプ』をタップし構成イメージに霊体値値を大量に込めて召喚する。
雷が目の前に落ちたかのような轟音と閃光が発生すると、眼の前に召喚されたソレを表現するなら火魂と言うよりは大きな電気の渦となり暗かった部屋の中が日中のような明るさで照らされてた。
チョットまぶしすぎる、少し輝度を下げようと美里が明るすぎる明かりをコンビニの店内程度まで下げるのだが、あまりの状況に部屋にいた者は半狂乱の男も固まっている結果オーライである。
「みなさん疲れているでしょう、どうぞその場にお座りください。エサイアスさんはこっちのテーブルに座っていただけますか?」
美里は極力友好的に聞こえるよう声色に気を使う、アンデッドオスク達には玄関付近に倒れている人たちを集めてこの部屋で丁寧に寝かせるよう指示する。
エサイアスの顔はかなりはれ上がっていたため、表情は読み難かったが、その目には明確な恐怖を映していた。
「なぁ俺たちは、どうなるんだ...」
「先ずはお互いの行き違いに関して確認しましょう」
席に着いたエサイアスの声は震えている、美里は極力エサイアスに安心してもらえるように気を使っている、なにせ相手はギャングのボスなのだ。
「俺に言い返せる状況では無いんだろ?」
「極力友好的であろうとは思っています」
エサイアスの問いかけに優しく答え無理やり笑顔を作る。
そこからは簡単な状況のすり合わせが行われる。
美里とオスク達3人は仲間と認識して間違いはないが、エサイアスも含め、ラヘイネンペラヘとは敵対の意志は一切無い事、そして察しの通りオスク達3人とドアマン、そしてこの部屋に横たわっていた2人は死んでいた事を淡々と説明する。
自分は魔術師と名乗り、平和的な解決が出来ない場合は本意ではないがラヘイネンペラヘに関わる全ての人間が死んでしまうかもしれないと説明する。
「断る事なんかはどうせできねえんだろ?」
「正直に言えば、俺は俺の安全が最優先です、もし何かあって皆さんに疑いを持てば話し合いの余地は無いと思ってください」
つまり、美里は問答無用で命を奪うと宣言したのだ、耳にしたエサイアスもラヘイネンペラヘの一味も恐怖に顔を歪ませる。
暫く沈黙を置きエサイアスは美里の話を了承すると部屋にいる他の人間へもその旨を伝え厳守するよう命令を下す。
「1号、2号姿を可視化しろ」
美里が命令を発すると、美里の右手側に1号と呼ばれた女性が突然姿を現しラヘイネンペラヘの一同は一様に悲鳴を上げた。
姿を表した1号の姿は明らかに異様、光の塊であり体が透けて見える、死霊が目の前に現れたのだから当然怖い。
「幽霊、いや死霊か?昨日からの独り言はこいつらとしてたのか?」
青ざめ顔のエサイアスは、その巨体全体に異常な量の冷や汗を吹きだしていた。
「この2人は俺の仲間みたいなものです、姿を消すことも出来ます。この他にも多数いますのでいつでも監視されていると思ってください」
美里はエサイアスを脅すように語り掛ける、ここまでくれば腹をくくり、力で協力を取り付けた方が楽だと判断したのだ。
「2人?」
なにか変な答えが返ってきた、よく見るとロリガが不可視化を解いていなかったのだ。
「2号なんて言うげぼくはここにはいない」
少しイラっとしたが、ロリガと言い争いするような気力が出なかった。美里は素直にロリガと名前を呼び不可視化を解くように命じる。
「ぅぉ....」
ロリガの可視化にエサイアスが驚く。
「すんません、こいつら命令は訊いてくれるんですけど、細かい内容とか加減が難しくて....その....加減が出来ずに、意図せず何人か殺してしまったようで申し訳ありませんでした」
美里は素直に謝罪を口にする。
「あんた自身は悪い奴ではなさそうだってことは解った、つまりオスク達は死んでいてアンタの魔法か何かで動いている。それを生てたと勘違いして揉めちまったって事か?」
エサイアスは理解が早い、そして理性的でもある。
「はい、そこについては俺も突然の事で怖かったと言うのも恥ずかしいんですが、冷静な判断が出来ず、殺されまいと手を出してしまいました」
「つまり俺たちを皆殺しにしたいとかファミリーを潰そうとか乗っ取ろうって話ではないんだな?」
エサイアスは一番の懸念点を確認し、必要のない勘違いから始まった争いであった事を理解する。
「あんたは何て呼べばいいんだ?」
エサイアスが今更ながら名前を聞いてきた、美里は意図的に避けていたのだが、今後の事を考えると素直に答える事にする。
「カオルっていいます、昨日からなんですが藁細工の爺さんのインスラヘ住んでます...」
美里が答えると妙な間が生まれた。
「あんた....いやオメェがヘルガの新しい男か....なるほどマジ物ですげえ魔術師だったんだな...」
完全にバレていた、これはヘルガに怒られない様に口止めをしておきたい。
いっそ土下座して謝罪も考えたが、怖いお仕事の世界の人間にそこまでするのは、軽く見られてしまう可能性もあるので宜しくは無いだろう。
「わかった、今後ラヘイネンペラヘはカオルとその仲間には絶対手を出さねえように徹底させる。他にそっちからに要求はあるか?」
美里は少し考え、平和的に付き合えれば特に要求は無い事を約束する。
ヘルガの名前が出てからは、妙に親しく話せるようになった気がした。
そして後ろの死霊が何処となくヘルガに似ている事を聞かれたが、偶然であろうと答え、そこからは、互い現状の疑問点について確認をする。
先ずラヘイネンペラヘ側としては死人が出た事に思う処もあるが、切った張ったの世界に生きている連中である、それ自体は飲み込んでくれる事が確認できた。
幸いにも死んだ2人には家族は無く、エサイアスが手打ちと言えばそれ以上文句を言う人間はいないと確認できたことで、美里の中でも僅かばかりだが安堵感が生まれる。
逆にファミリーの事業内容は、美里へ迷惑がかからない限り今まで通りで良いと取り決められる。
ラヘイネンペラヘは事実上、美里に完全に敗北した訳だが、美里は自分の周囲に被害が及ばなければ美里に口を挟む気は無いのだ。
オスク達の暗殺事件が行われた事は、アンデッドオスクを利用し誤報である事に話を作り変える。
当然オスクが既に死んでいた事実を知る者もいるが、そのオスクが生きているのだから異論の余地はない。
しかしそのオスクは20代の若さを取り戻しているという異常な状態はあるのだが、そこは腕力でねじ伏せる事になった。
今回の騒動のカバーストーリーは、オストのやり方に問題があるためエサイアスがファミリーのためを思い、真摯な説得が実を結びボスの交代という形で無事解決した事にする。
実際、今回の内紛でオスト派の残党とトラブルは生まれるだろうし、他勢力に付け込まれる可能性もあったわけだがそれらが一気に解決したのはエサイアスに取っては幸運であったらしい。
美里の願いにより、オスク達リビングコープスをアジトで預かってもらい、代りにオスク達がファミリーの相談役として留まることになった。
リビングコープス達には美里に害がない範囲でエサイアスの指示に従うよう命令を行ったが、知性が低い段階のため、自立思考が可能な程度に階位値を上げる。
階位値強化直後の変化を見たラヘイネンペラヘの一同皆は美里の魔法の力に驚愕と畏怖を覚えた。
最後に美里がラヘイネンペラヘと揉事が起こった事は秘密にする事を承諾させ、ラヘイネンペラヘとの交渉は平和的に終結した。
これにて『ラヘイネンペラヘ』vs『美里』の抗争の幕は閉じた。
話し合いにひと段落が着くと、改めて美里は立ち上がり突然エサイアスへ深く頭を下げて謝罪を行う。
「どうしたんだカオルの旦那、もう手打ちになったんだぜ?気楽にいこうや」
エサイアスのガラリと変わった態度に美里は面を食らう。
「実はへルガからエサイアスさんには色々世話になったって聞いたんです、ほんと感謝しなきゃいけない相手を怪我させてしまったんじゃた立場が無くて...その、すいませんでした!」
美里は真摯に謝罪を繰り返す。
「ははははは、気にすんなよ旦那、恩は売っとくもんだな。俺も生き残れてラッキーだった、なんか悪いと思うならトラブルがあった時に幽霊使ってコッソリ助けてくれよ!」と笑い交じりに謝罪を受け入れてくれた。
「まぁ、本気で殺されると思ったけどな.....」
エサイアスが聞こえるか聞こえないかのギリギリの小さな声で呟いていた。
その日のうちに美里は組織の客分であるとラヘイネンペラヘ関係者へ通達が行われた。
「ラヘイネンペラヘでフロント企業を作りりませんか?」
そして帰り際に美里から提案がなされた。
拙作「のんねく」をお読みいただきありがとうございます。
お楽しみいただけましたでしょうか?ちょっとでも続きを読みたいな~と思っていただけたら是非イイネやお気に入り登録をいただけると嬉しいです。それでは次回もよろしくお願いいたします。




