第10話 異世界で死体を探そう
※今回はグロテスクな方言を含みます
010-1-008 (編集版)
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ひとまずは幽霊の召喚と強化は見事成功したが、異世界生活での安全を担保するにはいくら眷属を召喚していても心許無い、色々と検証する必要もあるためもう一体召喚を試みる。
先ほどの経験を活かし、アストラル値は人間としての形状を表現が出来る最低値でまで行い次元値も第1号と同じまで強化を行う。
容姿は1号と同じくヘルガベースで衣服も同じく修道衣をイメージした上で差別化を図る為、ローティーンで柔らかい女性的な雰囲気をイメージに加えることにする。
イメージをどれだけ反映出来るかの実験である。
ローティーンと言う事で服装は一瞬セーラー服も良いかなと頭に浮かんだのだが、後で羞恥にのたうちまわるだろうと悟り1号と同じ修道士風味を検討する。
しかし、1号と同じではイメージの実験にもならない、
どのようなものが良いかしばらくあたまをひねり考え、今まで見たアニメや漫画の知識に思い馳せる。
だが美里の頭には色々なキャラクターが思い浮かべども、その意匠が具体的にイメージできない。
色はこんな感じ、形は何となくこんな感じ、確か刺繍があって・・・具体的なイメージが固まらない。
よく考えてみれば記憶にあるのは全て断片的だったのである。
ひとしきり考えたが細かい部分まで作り込む必要もない、必要ならば後で修正できるそれがネクロノミコンである。
今回は聖職者的な祭礼服、1号よりちょっと高級な衣装を想像する。刺繍とかを入れてみたいが、後から入れるのも良い実験になるだろう。
「ブック!」
ネクロノミコンを開く。
勿論声に出す必要はないのだが雰囲気づくりをする事で気合も入る。なんとなく言ってみたかった、後悔はしていない。
死霊秘法の召喚ページを開き、気合いをいれる。
「ん?」
美里が一瞬視線を感じ扉へ視線を向ける。
当然誰もいないし、扉も壁も天井も穴が空いているような様子もない。アルマかなと寝袋を支配するガキンチョを見るが可愛くイビキをかいている・・・狸寝入りかとガキンチョの鼻を摘むがフゴフゴ苦しむものの目を開けない・・・多分ガチで寝ている。
ふむと部屋をもう一度見回すが、異常は見当たらず少し考えたが何かを感じるわけもなく、思い違いなのであろうと1人納得をすると、宙に浮いたネクロノミコンに目を戻す。
「いでよ!2号!」
ちらりと横目でアルマが寝ている事を確認し、深呼吸をすると小さな声えで召喚をコールする!
何か小さな違和感を感じるが、それが何かはわからない。
どう表現すればいいのか、1号の時を水を飲み込んだ様だと表現すれば、2号の召喚ではタピオカミルクティーを噛まずに飲み込む様な感覚だった。
目の前には召喚に成功した可愛らしいロリヘルガが浮いていた、彼女が纏った衣装は、イメージした通りの祭礼衣きっちりと反映されていた。
否、期待以上に美麗な仕上がりである。
まずは面倒だと後回しにしていた刺繍だが、発光体のロリヘルガでも目を凝らすとかなり繊細かつ美麗な物が縫い込まれているのがわかる。
詳細なイメージをしきれていないにも関わらず再現できている、これもネクロノミコンのチート能力の影響であろうか。
1号は通常時は不可視化させて常に美里を守るように命令し、2号は自宅警備員として美里の部屋の中で扉の守備を任せることにする。
美里の指示があった時のみ扉の開閉を命令したところ、なんと結果的に自動ドアが完成したのだ。
しかも許可なく開けようとしても、扉を抑えて開かない様に出来る。
結構力が強く、開けるくらいなら壊した方が早い程だ、小さい体で扉を抑える2号もなかなかに可愛らしい。
召喚した幽霊にいくつかの命令を行い簡単な検証をして見たが、命令をして理解できなかった言葉があっても、説明をすると次からは対応できる様になる。
これはAIロボットみたいだなと思う。
このアンデット召喚はなかなかに良い。この世界では戦闘力がどの程度なのかはまだ不明ではあるが、労働力としてはかなりゆうのである。
なんといっても人件費はかからず、食事は美里にとっては極僅かな量の魔力だけ良いらしくランニングコストも対してかからない。
今後この世界で商売するにも工場を作るにも農業をするにしても、高いイニシアチブを持てると言えよう。
これはメリットしかない。
大量に増やせば働かずして大金持ちも夢ではない、むしろ夢が広がる。異世界素晴らし味がすごい。
便利だ・・・・・・後は会話とが出来れば最高なのだが、どちらの幽霊ヘルガたんも無表情で無口に過ぎる。特に命令が無ければ邪魔にならない場所で直立不動でただ佇んでいるだけで微動だにしない・・・・・・目だけが動き常に美里を監視…いや、たぶん命令待ちをしているのだろう。
半分透けているし幽霊は幽霊である。無表情に目だけ動くのは結構怖い。
しかし、これにて喫緊の問題である部屋のセキュリティは解決しそうである。夜は霊魂を召喚すれば照明も問題はない。
召喚と実験を繰り返すだけでかなり快適な生活が見えてくる。
死霊秘法の恩恵計り知れずだ。
しかし、この程度の召喚では魔力が無くなる感覚がない。様子見は必要だが、もしかすると100体位でも問題なく召喚出来そうな気がしているのだが、ここは白靖様や残念秘書の助言に従って徐々に慣らしていく方がよかろう。
美里は次に『物理系』の項目を読み始める。
『呼出物質不死怪物』
物理系の召喚・・・死体を触媒に使用して霊体値と魔力値を付与して疑似生命を作り出し操る魔法。
物理系の召喚だが物理系では大きく分けて『骸骨』『腐死体』『偽生命体』の3種類が存在する。
骸骨、腐死体は前世の知識そのままで死体を動かす魔術だが『偽生命体』は所謂アンデットモンスターとしては毛色が違う様子である。
新鮮な死体を使用するか骸骨と腐死体を強化すると偽生命体と言う人間と見た目が変わらず自我があり成長までが出来る上位のアンデットに進化出来るようだ。
偽生命体を新鮮な死体から構成した場合に精神が残った魂を使えば、その精神が持つ過去の記憶や経験を反映し、少ない魔力で強力な個体も作れるらしくそれはもう蘇生魔法なのではないだろうか?
漫画やラノベであれば、これは鬼門的な何かではないかと若干の不安もよぎるのだが、眷属化され魂は術者に縛られるとあるので自滅パターンはないように設計されている?
少し考えてみるがこの魔法を応用できれば自分の死をトリガーにして発動して万が一にも自分が殺された場合に不死怪物として転生が可能かもしれない、これは研究の価値がある。
さてと、物質系の不死怪物を呼び出すための触媒になる死体はどこで仕入れるかだ。
安直ではあるがそれはやはり墓場が一番であろう。
この世界での葬儀が土葬文化であれば、死体がそこらに中にゴロゴロしているはずなのだ。場合によっては美里にとって戦力増強のために必要な宝の山である。
懸念があるとすれば・・・目下、異世界で一番気になっている衛生面と悪臭いである。骸骨はまぁいいとして腐死体を召喚するとなれば腐臭・悪臭・病原菌等々と気になる事や対応すべき事が多い、経験として1体は召喚しておきたいのだが気が進まない。
言い換えれば病原菌たり得た場合等は化学兵器の様な扱いもできるかもしれない。
だが死体が新鮮でなければ腐死体になってしまう、となると新鮮な死体を探すか完全に肉体が腐り落ちて綺麗な白骨になった死体を選ばなければならない。適当な墓を掘り起こして中途半端に肉が残った死体が出てきたらと考えると寒気がしてしまう。
そんな死体で腐死体を召喚したとしも、その後の置き場所には物凄く困りそうで心の底から嫌悪を覚えてしまう。
「何か良い方法はないかなぁ」
そんな呟きに反応したのか死霊秘法のページが勝手にパラパラとめくられ、死霊術の発動時に腐った死体を媒体にした骸骨化や偽生命体化して召喚することも可能であるらしく、骨に残った肉部分は分解し取り除いたり再構成を行い健全な細胞へと作り替えることが可能らしい。だがこれは触媒から召喚を行う時のみであって、すでに完成している骸骨や腐死体を『触媒』に分解や構成しようとすれば霊体部分が過反応を起こし存在を維持できじ崩壊してしまう為、基本的には不可能らしい。
物理系召喚を試してみたいが、流石に直ぐに死体の用意なんかは・・・できるやん!
落ちてた!思いっきり死体落ちてた!多分放置されているから所有者?はいない無縁仏か何かである。
都合よく近所の道端に死体が落ちている事を思い出したのだが、普通に考えると異常な光景であった、しかし今回に限りラッキーである。
まさかこれも『異世界特典』・・・いや、『チュートリアル』ではないかと考えると白靖様に感謝だ。
であれば、白靖様はこの異世界に干渉は出来ないらしいので、白靖様がお願いして下さった、現地神族様の思し召しなのかもしれない。
この機会は逃すことがない様に早めに行動したい。衛生面からも放っておくと、死体も誰かに埋葬されたり回収されたりするかもしれないのだ。
とは言え人が出歩く時間帯に死体弄りしてたなんて見られたら、あまりにも危険人物過ぎる、はやる気持ちを抑えて深夜を待ちこっそり実験する事を決める。夜が楽しみだ。
美里は、この物質系死霊術の項目を読み進めるにつれ強い魅力を感じ始めていた。
死後直後や死が確定した状態の素体を使用すれば上位アンデットも低コストで作成できるらしく見た目がアレな幽霊系統の霊体型と比べて活用の幅が広いのだ。
もし、不死怪物の見た目が人間と見分けがつかない程ならば、強化した不死怪物を量産してパーティーを組み迷宮探索をさせられれば左団扇で生活ができるというものだ。
非常に魅力的だ!無料で大量な戦力を投入できるなんて素晴らしすぎる。
夢が広がる!
美里がうきうきしつつ死霊術の項目を読み進めていると突然ドアをノックする音があり、もはや聞きなれた声がかかる
「えっと、カオル今大丈夫?」
ヘルガだ。
「あ、うんいいよ」
ドアを護る2号に目配せするとヘルガに許可をだす。2号が扉を開けヘルガを通す。うむ、2号はちゃんと機能している素晴らしいではないか。
美里が座っているのに扉が勝手に開いた、ヘルガはその違和感を感じたのか一瞬目を泳がせるたが、何やら頷き納得した様子で入室する、恐らくは美里の魔法と判断したのであろう。
異世界人にとっては魔法と言えば不思議な事はたいてい納得できてしまうのだろう。
ヘルガ照れくさそうに美里へ話しかけようとした時だった、ベットの上に敷かれた寝袋の膨らみに気づき表情は一変し顔が硬直する。
迂闊にも失念していたのだ、アルマが寝袋の中で爆睡していたのだ・・・しかも全裸で、どう考えても誤解される。美里は血の気が引いていくのを感じた、もう完全に修羅場待ったなしである。
「どどどどどどういう...こと?」
ヘルガはベッドを凝視し、地の底から響くような声で美里に問いかけたその視線には明確な殺意が籠められていた。
加えてヘルガの後ろには先ほど召喚したヘルガとよく似た顔の1号と2号が無表情のまま立っており、目だけが美里を向いている。
解ってる解ってるよ?1号2号は美里の命令を待っているだけの視線だとちゃんと理解は出来ている、理解をできているのだがこの状況では怒りを放つヘルガがスキルで具現化した何かで、ヘルガの後ろにスタンドして攻撃態勢をとっている様にしか見えない。
正直生きた心地がしない、そのやり取りの最中、ヘルガの声で起きたのかアルマが呑気に起き出す。
「うわぁ寝ちゃってた、めちゃ気持ち良かったぁ...あれ!?なんであたし裸?!」なんて言い出すものだから、このクソガキは洒落にならない、この糞ガキに全力のグーパンを入れたい所だが、今はヘルガの怒りによる恐怖で動くことが出来ない。
「キ...キキキ...キモチチチチョヨ...ヨカヨカヨカ...カカッカカカッカカカカカッカ....カオル?」
明らかに怒り感情が限界値ギリギリまで到達したであろうヘルガの声が拳が震えている。
流石のアルマもこの服を自分で脱いだのを思い出し、殺意の波動にのまれたヘルガを見れば状況がかなりマズイ状態だとは理解し寝袋から半身を起こすと身振り手振りで言い訳を始める。
2人必死の説明で何とか怒りは表面上収まったのだが、その体の震えは止ってはいない。
「先に...それ...中...で...寝る...使うんだ...そっか...アルマが先に.......」と完全にハイライトが消え失せた目で、アルマのぬくもりが残る寝袋を見つ続けるヘルガに尋常ならざる恐怖を覚える、ついでに1号2号の目線がそのサイコ的恐怖を更に増幅させ美里の体は少し震えだしている。
アルマは包み隠さず堂々と服を着ると、そそくさと部屋から退散する。服を被るアルマの裸をチラ見をしていたのがヘルガに気づかれ、彼女の視線が更なる狂気を帯びていた。
ヘルガは闇落ちしそうで非常に怖い、心の底から謝罪したい、可能なら今すぐ無条件で許していただきたい。
ひとまず話題を変えようと、魔法で扉にセキュリティをかけた事を説明すると凄いと驚はしていたのだが、彼女の目のハイライトが戻るのにはクリア条件が満たされてはいないようである。
ヘルガはどうやら晩飯を一緒に食べたいという事でウッキウキで部屋に来てくれたらしいのだが、彼女から見れば天国から地獄であるし当然美里自身も地獄の底にいる気分である。
女性関係というのは慎重に慎重を期する必要があると非常に勉強になったごめんなさい。
しかし笑顔が消し飛んだヘルガの無表情は変わらない。後ろの1号2号も同じく無表情でこちらを見ているせいで胃に穴が開きそうであるごめんなさい。
日照時間が長いこの地域ではまだ夕方だが、この世界では夕方前に食事を取り日が落ちたらもう寝る時間だという。
都市中心部では食堂や食堂付宿等、まだ空いている店舗もあるのだが基本的に街灯もなく、ランタンなどの照明に使用される燃料は高くつくため悪所や貧民街ではさっさと寝るのが常識らしい。
貧民街の路上に立つ娼婦も日が落ちたら店仕舞は基本で、そこから先の時間に女を抱きたい場合は、商業区と貧民街の中間に足し並ぶ娼館へ行くらしいが夜の売春宿は1発幾らでは無く、一晩ねっとり楽しむ宿泊賃込みの値段らしく、価格設定にも納得がいった。
日の落ちた時間帯でも営業を行っている夜鷹と呼ばれる路上娼婦も存在はしているが品質には難があるようである。
ヘルガは先ほど部屋を出たあとに1度出かけ近所の井戸で水を汲みにいっていたらしいが、その時に馴染の人間たちへ娼婦を引退して冒険者へ戻る事になったと報告し、凄い祝福と嫉妬をされたという。
何が言いたいかと言えば、そんなタイミングで浮気とかされたら刃傷沙汰まったなしだという話をされている事に気づいた美里は恐怖する。
美里の必至の弁解に少しづつ瞳にハイライトが戻り始めたヘルガの表情に少しづつ和らぎ一安心だが・・・先ほど垣間見た暗黒面は美里の心に恐怖の爪跡を確実に残していた。
そして1号2号の感情の無い目が怖い、お陰で美里のSSAN値は現在進行形で削られていく・・・抵抗値ダイスを降らせて欲しい。
2人にはヘルガたんが帰ったら、美里に精神的に問題が起きないための対策でなにかしらの命令をしなければならない、だっともう怖くて泣きそうだし、こいつらずっと部屋にいると思うと幽霊なのも加味すれば洒落にもならない。
「ヘルガたん、ごはん、ごはんたべよう!」
美里は空気を換えるために帰りに買ってきた蜂蜜パンと何種類かの燻製腸詰に鹿麦パン、蜂蜜酒と麦酒、果実水と果実酢をテーブルに並べる。
まだ重さが残る空気の中、美里はこの世界のビールである麦酒をコップに注ぎ一口あおる。麦酒はどうも美里の知っているビールとはかなり違い結構酸っぱいく少しとろみの様な重さが感じられ、現代人が飲んでいるような泡々で炭酸たっぷり冷え冷えスッキリの物とは程遠い。
先ず見た目は琥珀色だが一般的な色より濃くて炭酸は少なく泡はあるが泡と言うよりも灰汁の様印象がある、もしかすると酵母であろうか?
そしてコクが強く苦みも強い、そしてなによりアルコール度が強い気がするのだが最初こそ違和感しかなかったが、慣れるとそこそこおいしいかもしれない。
椅子が一つしかないのだが、ヘルガが興味を持っていたので椅子を譲り自分はベッドのヘリに座り、この国での食の話に花を咲かす。
暫くするとアルマが再び部屋を訪れノックと同時に部屋に入ろうと知ったのだろう、ゴツンと物凄い音を部屋に響かせる。2号が隙ををせずしっかりと扉をガードしていたのだ、思いがけず扉が開かず勢いよく顔面を扉に叩きつけたようで天罰と思えば非常に小気味いい。
返事だけ返すとアルマの母親が帰宅したため顔合わせに下へ降りて来て挨拶しろと言うが非常に生意気なガキだ。
礼儀知らずと言うか態度がデカイと言うのかアルマには教育が足りていない気もするが、古代期後期程度の世界で悪所住まいでは仕方ないかもしれない。
と外を見ると日が落ちかけていた。
ヘルガと2人で大家一家が住まう2階へ降りると、大家の他に見知らぬ妙齢の女性が座っている、間違いなく彼女がアルマ母親である。
ヘルガを見るなり立ち上がり気さくに挨拶をすると美里のへ歩み寄ると、真剣な顔で覗き込むように美里の顔をみつめる。
「カオルだっけ?ここの娘でこの娘の母親のアルアだよ、よろしく頼むよ」
ポスンと美里の肩を叩くと椅子へ座るように促す、美里も素直に着座すると隣にヘルガも美里の横へと自然に座る、なんだか本当にカップルになった気分で少し照れる。
驚く事にアルマの母、アルアは見た様子ではヘルガと同じくらいの年齢にも見えたが、よく考えて見れば爺は40代で娘が11歳、20代半ばから後半であろうから年齢差は実際にそうはないはずだとも思えたのだが一応年齢には触れないでおく、古代であろうと女性は女性である、注意一秒怪我一生というやつだ。
既に大家の爺は挨拶の時に手渡した酒でベロンベロンに酔っぱらっているが、アルアが買って来たであろう食事がテーブルに並んでいた。
「あぁ、あたし達はもう食べたから気にしないで」
とヘルガが言うと、そもそも気にしていなかったのかアルマがパンらしき物を食みアルアも贈答の酒を美里に感謝しつつ口にしている、アルマの母親にしてはマトモそうな態度に少しだけ気を緩める。
話をするにつれアルアにとって美里の印象は悪くなかったらしく直ぐに彼女と打ち解けることが出来た。アルアもヘルガとは仲が良いらしく、ヘルガが冒険者復帰する事とと男女としてもパートナーになった事を話すと物凄く喜んでくれていた。
2人で結婚はいつにするか子供は何人とかの話を勝手に始めている。
あれ?これ完全に外堀を埋めにきてる?
ヘルガは彼女に美里が魔法使いであることを説明すると、アルマから何か見せて欲しいと言うので、かなり暗い部屋を照らす為、適当な呪文をでっちあげ「ちちんぷいぷい~」と照明用に小さな霊魂を20個ほど召喚すると母娘がおおぅと驚きの声を上げる。
アルマの反応が余りにもいい反応だった為、ついつい調子に乗り、部屋をくるくる飛びまわせたり躍らせたりもしてみた。
超ウケた。
悪所では魔法が珍しいうえに強い明かりとその召喚した数にはアルア母娘だけでなくヘルガも興奮しはしゃぎ始める。
ヘルガたん可愛い、そして機嫌が完全に治っている様に見えたため美里は心のなかで安堵する。
顔あわせも落付き部屋に戻るとヘルガと2人で残った食事をかたずける。
すっかり暗くなった美里の部屋にムードを醸す程度の優しく温かみのある色合いの明かりの霊魂を1体召喚し部屋を優しく照らす。そう、美里はヤル気であった。
しかしビールに酔ったのか、ヘルガはアルマが寝袋に裸で寝ていた件で病絡みを始めたのには一瞬肝を冷やすが、怒って居ると言うよりはかまって欲しいだけの様子で心臓には悪いが結果的にはヘルガが甘えてくれているので結果オーライである。
現代日本人には少し早い時間ではあったが、酒を飲んだ事もあ少しだけ眠気を覚えたため今夜の営みはお預で就寝することにした。決してヘルガの病み絡みで美里の美里が先に眠ってしまったわけではない。
ヘルガは寝袋をアルマが使った事や裸でマーキングを施した事で気分を害している、自らの潔白をアピールする為にも除菌消臭をしっかりと行うとそれをヘルガに必死のアピールを行うとヘルガは美里の必至な姿を見ると嬉しそうに転げまわる。
その晩はヘルガは部屋に戻る事を愚図る、そう寝袋に入って寝たいのだろう。ヘルガは裸になると寝袋の中に潜りこみ嬉しそうに体をこすりつけている、マーキングかな?
マーキング・・・粗相はないようにお願いしたい。
夜はすこし肌寒さを感じるとはいえこの世界の今の季節は初夏の様子、大き目の寝袋ではあるし封筒型でただ寝るだけであれば2人で入るのも可能だが2人で寝るには少し暑い。
詰めればベッドの上にはギリギリ2人で寝ることも出来る等と考えていた所で、いつのまにかヘルガはすでに寝袋の中でくーくーと寝息を鳴らす。
「はええなぉぃ」
それほどに寝心地がいいのだろうか?正直現代日本のベッドと比べるとそれ程でもないと思うが、逆にこの世界のベッドと比べれば余程に心地よいのかもしれない。
美里はその夜、ヘルガの幸せそうな寝顔を愛でつつ椅子で休む事にする。なにより道端に死体が残っているうちに死霊秘法の実験をしたかったのだ、かえって都合もよい。
深夜を待って実験にいくことに決める。
◆
深夜、美里にしか聞こえない目覚ましの音が部屋に鳴り響く。iPhoneの画面を見るとAM2:00、美里は行動を起こす。
「2号、ヘルガの希望があれば何時でも扉の開閉をしてあげてくれ、1号は不可視化して他の人から見えない様に俺の護衛で一緒に来てくれ」と指示をする。
アストラルをかなり強化している1号であれば暴漢が現れても触るだけで追い払える筈なのだ、美里は不可視化した1号は協力な戦力として非常に期待している。
美里は階下へ降りる、流石ににこ男時間になるとインスラ内の住人は寝静まり、外に出ても人の気配は完全に消えている。
月明りで視界は十分に確保出来ているが、壁際は陰が濃くよく見えない。悪所で明かりをつけるわけにもいかない為、美里は足元に気を付け、夜目が利き空に浮いている1号に穴の中を確認させつつ壁沿いを歩きだす。
直ぐに見つかると思っていたのだが、意外と見つからない、正直、死体がどの辺の位置にあったか忘れてしまった。
区壁とインスラの真ん中あたりだと記憶していたのだが、周辺の目印を確認していなかったため探索は難航する。
1号に複雑な命令は難しいため、死体を探せと指示していた為か中型の犬の白骨をみつけてきた。
無表情だが1号が何となくドヤ顔をしているように見えた。
しかし、先に小さな動物で実験しておくのも悪くははないのではなかろうか?
1号を褒めてやる、単純な命令を聞くロボットの様な存在だが、美里的は物にも感情移入してしまう性格の為、そうしたかったのだ。
死霊秘法を開き死体術の項目を開くと行使する前に今一度前後の文章を確認し、死体術で最弱のアンデットを召喚する予定なのだが、そうなると骸骨か腐死体である、どちらが良いかは考えるまでもない、骸骨一択だ、腐死体なんぞ召喚したら臭くて敵わない。病原菌の媒体と拡散にも繋がるので腐死体はない。
美里にとっては腐死体の使い所なんて殆ど存在しない。
周囲を警戒し、人の気配がないことを再確認すると死霊秘法を開き『死体使役』の呪文をタップする。
脳内に要求されたパラメーターは、霊体値、物質値、精神値、次元値、階位値で単純に物質値の構成が加わっただけであるが、この時点で数値化されていない容姿の構成イメージがあまり要求されなかったのだ。
理由は明白である。
素体、つまり死体が存在している為、基本な形状が決まっているからである、あくまで感覚なので何となくではある。
今回に関しては完全な骨格があるためなのか構成に必要な魔力はかなり少ない、それとは別に今回は腐敗した肉体を排除する為に魔力を必要とする様だった。これらは数値化できない感覚の様なものではあるがそれらを感じることはできる。
『死体使役』が完成すると、不死怪物怪物 の骸骨を召喚される、与える値はすべて最低値、骨についた肉体はすべて分解されている。
そして骸骨犬が完成した。
「お手!」
しゅた!
「伏せ!」
しゅた!!
「ちんちん!」
しゅた!!!
簡単な命令は問題なく滑らかに実行出来る、だが自主的行動はしないし、命令しないとただの動く骨格標本である。
しかし、この骸骨犬は思ったより大きく通常時でも目線は美里の鳩尾の高さなのだ。骨格標本ですと言ってもインスラに持ち込むには大きすぎるし、アンデット怪物と知れた時に世間からどんな反応が起こるかがまだ不明なのである。
召喚するまで後の事を考えていなかった・・・
こうなるとちゃんとした体があったほうがいい、どうせいつかは実験する必要がある肉体の構成の実験もやってしまおう。
物質値の強化だ。
これは法医学である復顔法と同じ流れで、既にある骨格に肉体を魔力を原料に使い物質構成をさせる簡単なお仕事である。
死霊秘法をタップし少しづつ物質を構成させる、黒い靄が骸骨犬を包むと少しづつ肉体が構成されていく。
それは赤い液体の様なものから始まり、最初は少々グロテスクな生体標本の様な形状から少しづつ犬になっていく。
『血管』
『臓器』
『筋肉』
『脂肪』
『犬耳』ぴょこん
『皮膚』
『眼球』
『体毛』もっさぁ
最終的に少し毛がフサフサした黒い狼の風味な肉体が完成する、死霊秘法によるところの偽生命体と言う状態だ。
無表情だがオメメがクリクリで結構可愛い・・・犬型である、この子のお鼻は利くのだろうか?
試しに付近にいる人間の死体を探すようにお願いすると、しゅたたたたと軽快に走り出したかと思うと10m程先にある穴に落ちていた死体を簡単に見つけてくれる。
やだナニこの子、超使えるんですけど。
日中は片足が出ていた為、そこに死体が転がっている事をすぐに気がついたのだが、もしかすると誰かが気持ち悪いから落としたのかもしれない。
無言で尻尾を振る偽生命犬を撫でつつ、死体の転がる穴の中を覗き込むとそこに死体は1体ではなく3体が存在していた。
悪所の臭いにも慣れ始めていたが、この穴に近づくと特殊に臭い、尋常ではない臭いだったが召喚実験を人に見られる前に事を終えてしまいたい。
魔力はまだ十分に余裕がある感覚がある。試しに3体同時に『死体使役』を発動させると問題無く魔術が発動し先ほどと同じように3体の骸骨の召喚があっさりと成功する。思ったよりも魔力が使われた感覚がない。
穴の中で起き上がる3体の骸骨へ穴から上がるように指示をするとゆっくりと穴から這い出てくる。かなり大型の骸骨が2体と小柄で線の細めな骸骨1体が美里の前に立つ。
声をかけるが声が出ないのだろう、会話は出来なかったのだが両手を挙げる様に指示すると4人と1匹が両手を挙げる、というか1号もワンコもしなくていいよ?
偽生命犬も二本足で立ちあがり頑張って前足2本を挙げようとふらふらしていた。可愛い!
「今からお前の名前はクロだ、もうウチの子だからな」
美里は可愛らしさに思わず名前を付けたクロの頭をキュっと抱きしめる。
改めて3人に「立ち上がれ」「座れ」「ジャンプしろ」と命令すると骸骨達も素直に従う。
そして「踊れ」という命令をすると3体とも別々の踊りを始めるのだが、次に「コサックダンス」と命令すれば、3体共ほぼ同じ動作で「コサックダンス」をはじめる。
次の実験はクロと同じように物質値を段階的に上げて行こうと思ったのだが、この実験は正直見た目がクロの時よりもはるかにグロテスクであった。
まず最初はクロの時と同じく黒い靄が骸骨体全を包み、胸骨の中や腹回りに蠢く始める・・・『血管』『臓器』『筋肉』『脂肪』『皮膚』『眼球』『体毛』美里は吐き出しそうになる。
人型はかなりエグイ。これは精神的に耐えられないと思い、目をそらしつつ一気に物質値を上げて行く。死体術、これは視覚的にと言うか精神的にきつい・・・
2体の偽生命体達はそれぞれ2m前後の若々しく筋骨隆々な男性へと、小さな個体は170cm程の若く豊満な女性へと変貌する。
声をかけるが返事は帰ってこない。声が出せない?会話が出来ないのは不便だ、もしかするとと考え次の段階の実験を行うことにする。
死霊秘法に会話をさせるという方法の明確な記述は見当たらなかったが、『精神構成』を強化する事で自我や個性が芽生えるという事が解っている。
会話等にはこれが必要なのだとアタリをつけた。
自立思考を持ち、自我が生まれた場合アンデットたちがどのように行動するのだろうか、もしかすると術者である美里を害する存在になりえるのではないかとも危惧している。
死霊秘法の基礎理論には、『召喚されたアンデットが有する****の状態は常にそ召喚者の***に*******される為、****絶対的な下僕として存在する』と記載されている。
絶対的な下僕として存在するとは書いてあるが、翻訳されていない部分に不安がぬぐえない、しかし乗り越えなければならない必要な実験である。
意を決して1体だけ試そうと思う、しかしどの個体で実験すべきなのかが悩ましい。
美里の中では巨人2体は論外である、ぶっちゃけ見た目が怖い、こんなのが言うことを聞かず暴れだしたらたまったもんではないし1号は1号で霊体への直接攻撃と言う恐ろしいスキルを持っているので危険度は明確に高い。
となれば女性かクロかの二択ではあるのだが、クロはクロでかなり大きいし見た目が狼っぽいので絶対に強い・・・となれば消去法で女子一択であろう。
緊張しつつも『精神構成』を少しだけ強化する・・・見た目は特に変化しないようである。
「えっと、返事とかできますか?」
「はい」
返事きた!そして微妙にオッパイが揺れた!
「えっと...俺の命令は訊いてくれるって事で間違いありません?」
「はい」
あまり感情が籠っていないが、心がこもっていないような声色ではあるが言質は取れた!…がアンデットに言質を取る意味は有るのだろうか?!それは置いておいて再びオッパイが揺れた!素敵!
「お.......おっぱい触っていいっすか?」
「はい」
冷たく硬い声音ではあったがオッパイは暖かく柔らかかった。
ひとまず安全そうなので、次にクロへ『精神構成』を女型の偽生命体よりも少し強めの強化を施す。
「クロ~」
「ワン!」
「返事した!」
「ワン!」
思わずクロを抱きしめるとクロもはちきれんばかりに尻尾を振ってくれる、可愛い、これは問題なさそうである。少し強めの強化を行った事で感情表現が出来るようになったようである。
次は少し怖いが、幽霊である1号の強化実験を行うことに決める。
1号には女アンデットと同じく少しだけの『精神構成』を行う。
「1号は返事できるかな?」
「はい」
返事した!
「1号も俺の命令はちゃんと訊いてくれるって事で問題ないかな?」
「この身は我が主様の為に御座います」
「おおおおお」
まだまだ警戒と観察は必要だとは思うが、実験の成功に気分が高揚し更なる強化も試したくなるのだが、まだ少し怖い気もする。
「1号、階位値強化をするとどうなるかわかる?」
「申し訳ございません、無知のこの身には分りかねます。しかし我が主様に仇をなすようなことは決してございません」
「.........」
実際に害があるとしても害があるとは言うはずはないのだがヤルときは勢いである、意を決して1号の階位値強化を試むことにする。
美里は深呼吸をすると、1号を指定し『階位値構成』をタップする。
「え?あれ?」
脳裏に階位値構成発動の影響で、精神値値と次元値が一緒に引き上げられた事を感じ警戒心なのか恐怖心なのか驚きからか動揺の声を上げる。
しかし美里はすぐに気を取り直し仮説を立てた。
恐らくではあるが対象が階位上昇の為に必要な条件が満たされていない場合には自動的に必要なステータス値が充填されるのかもしない、それならば今回の減少に納得もいく。階位値構成はすべての構成値の中で最上位に位置する構成要素らしいのだ。
そして今回、僅かではあったが初めて自分の体の中から魔力が抜ける感覚をおぼえていた。感覚的には全く問題ない程度の消費量であったのだが、これは要注意だ。
「オ...オスクか?ティモスも...........................な、なんで生きてやがるんだ?!」
次は巨人2人の強化を行おうと考えたその時、突然後ろから声が上がる。
いつの間にか人が集まって来ていたのだ、この夜中にゴソゴソしていれば小さな物音も際立ったのだろう。
しかも死体の知り合いらしきガラの悪そうな男が5人、各々手に何か武器らしいものも持っている。
「後ろはまさか...ヘリュも...なのか?確かに殺したはずなのに?!」
集まる人の中でひと際大柄な男が驚きの声を上げる
しかもしかもまさかのこの3人を殺した犯人でしたー!!
美里は悟る、これあかんやつやと・・・・・・・・・・・・。
拙作「のんねく」をここまでお読みいただきありがとうございます。
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それでそれでは次話をおたのしみくださいまし。




