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エピローグ1 堕天使と過ごす新婚生活

 ――誰かの視線を感じる。

 何やら、そろそろ起きろと催促されているような気分だ。

 俺としてはこのまま、ベッドに身を預けてもう少し寝ていたい……のだが。


「むむ……」


 聞き馴染みのある、不満げな少女の声が漏れてきたと思ったら、腹の辺りをつつき回されるような感触が伝わってきた。

 だがそれで折れるほど、俺は甘くない。

 痛くも痒くもなければ、せいぜいくすぐったい程度の刺激、無視を決め込めばいいのだ。

 ……と思っていたら、シーツの擦れる音がして、視線の主が距離を詰めてくる気配がした。

 肌と肌が触れ合う温もりと密着感。背中に腕を回してきたのが分かる。

 視線の主である少女が、抱きついてきたらしい。

 次いで、耳元に熱を持った気配が近づいてきて。


「いい加減起きてください……そろそろ支度しないと、何もしない内に日が暮れてしまいますよ」


 甘ったるいがそれでいて咎めるような声が、至近距離からささやかれる。


「……今日は一日中、私のレベリングをするんじゃなかったんですか?」


 そう言って、少女は吐息混じりの笑い声を零した。 

 ……ああ、そうだ。

 今日は……今日こそは、たっぷりとレベリングを満喫する予定だった。

 となれば、いつまでも寝ているわけにはいかない。

 それでも俺は頑なに目は閉じたまま、まだ眠気の抜けきっていない声で尋ねる。


「なあ……今何時だ?」

「何時って、寝ぼけてるんですか? この世界に時計はありませんよ」


 またしても、少女は耳元で笑う。

 吹きかかる息が、くすぐったい。


「強いて言うなら……太陽がてっぺんを通り過ぎた辺り、昼下がりってところでしょうか」

「げ……もうそんな時間か……」

「まあ私としては、このまましばらく寝顔を眺めているというのもアリですが……どうします?」


 耳元から遠ざかりながら投げかけられる、面白がるような声。


「……いや、流石にそろそろ起きる」 

「そうですか。では、そうしましょうか」


 抱きついていた少女は楽しそうに言いながら、背中に回していた手を解いた。

 やり取りの中で、だいぶと眠気が覚めてきた俺は、ようやく瞼を持ち上げる。

 広がる視界の先には、ベッドの上で身を起こして座る金髪の少女が、一糸纏わぬ姿でこちらを見下ろしていた。


「おはようございます、ユッキー」

「ああ、おはようミル……と言っても、既に昼みたいだけどな」


 微笑みかけてくるミルに挨拶を返しながら、俺はその背後に位置する窓から外を見やる。


「今日もこうなったか……」


 呟きながら、俺は手足を投げ出して大の字になる。

 またしても、計画が狂ってしまった。

 今から食事を摂って、支度をして狩場に向かって……とやっていたら、日が暮れるまでにレベリングできる時間はほとんど残らないだろう。


「それもこれも、ユッキーが性獣としての本領を朝まで発揮し続けたのが原因ですね」

「俺は明日に備えて寝ようって言ってたのに、構わず何度でも続けようとしてたのはミルの方じゃ……」

「それ以上余計なことを言うと、レベリングに付き合ってあげませんよ」


 いたずらっぽく笑うミルに反論しようとしたら、そんな言葉が返ってきた。


「大体、ユッキーだってしっかり気持ちよくなってたじゃないですか。自分だけ被害者面しないでください」

「い、いやそれはだな……」


 変わらず笑みを浮かべたまま痛いところを的確に突いてくるミルに、俺は食い下がろうとするが。


「……ったく」


 無理だったので諦めた。


「それにしても……堕落してんなあ、今の生活」

「ふふん、当然です。今の私は堕天使ですからね」


 そう言って、新妻であるミルは何故か胸を張った。

 プロポーズから、約二週間。

 こんな調子でだらしなく日々を過ごしているのが、俺たちの新婚生活だ。


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