ずるいよね
少しずつ冷えを増してきた放課後の時間は、冬の訪れが近づいている事をそれとなく感じさせた。
「……え、ちょ、ちょっと待ってくれ。……お前が、俺を好き?」
校舎裏。基本的には人通りも、人の目も少ない場所で、目の前の青年は戸惑ったような声をあげている。
その戸惑いには、肯首するしかない。実際彼のことが好きなのだから。
「え、え、え、ま、まま、えぇぇぇぇ……」
彼は混乱している。まぁ、予想していたことではあるので、そこまでショックを受けているわけでもない。ただ今のままの関係を保つか、この関係が壊れるリスクを負ってでも関係を進展させたいか、と言う話になった時、後者を選ぶくらいには気持ちが抑えられなかっただけである。
「いやいや……えっと……だってこれまで友達だったし……」
彼は戸惑っている。その髪も、その瞳も、その凛々しい腕も、細身の体も、全てが自分を魅了している。だからこそ、この気持ちを止められなくなってしまったのだから。
そう。友達だった。でも、友達の関係で満足できなくなってしまった。相手の感情を慮っていたら告白など出来ない。そして、今のままでは確実に自分が求めてしまっているこれ以上の関係を築くことは出来ないだろう。それが分かっていたからこそ、もう告白するしかなかったのだ。
「……とりあえず、ごめん。俺はお前と付き合う事は出来ない」
「……そうだよね」
「うん。知ってると思うけど、俺、好きな子がいるからさ」
分かってはいた。分かってはいたけど、やはり一抹の希望を抱いて告白したことに変わりはない。胸が締め付けられる思いだった。
「そして、気付いてやれなくてごめん。でも俺、お前をそう言う対象で見たことが無かったから、全く気付かなかった」
「……それはそうだと思うよ。でもずるいよね。女の子ってだけで気にかけてもらえてさ」
彼の好きな人についても、自然な流れで相談されてしまった。その時の胸の痛みは、今もはっきりと覚えているし、それも今回告白する決断の理由の一つではある。
「まぁ、とはいえ、男だからこそ、すぐ友達になれたって言うのもあるから、そこはまぁ、僕もずるいよね」
「……そう、かもな」
冷たい風が頬を撫ぜる。男が男を好きになる。世間からの見方は大分寛容になってきたものの、それでもその気持ちが実るのは、お互いが同じ気持ちを持っている時のみだから。彼がクラスの女の子を好きと聞いた時点で、まぁ、お察し。
「……ごめんな」
「いいよ。いきなり言われて驚いただろうし、こっちもごめんね」
「俺たち、まだ友達でいられるのか?」
「……うーん。まぁ、僕がこの気持ちをきちんと昇華出来れば、戻れると思うけど」
「そっか。まぁ、出来ればこのまま友達でいてくれると嬉しい。じゃあ、またな」
「……うん。また」
背を向けて彼は去っていった。しばらく人がいる場所に戻れそうにない。近くの木に顔を向け、回りから泣き顔か見えないように。自分の感情が落ち着くまで、しばらく、ゆっくりと、泣くことにした。
ー了ー