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甦る、過去

 翌日、瑞貴は風邪をひいて学校を休んだ。熱が高く出て、元々平熱がそれほど高くないので一発で参ってしまったのだ。

 自分の部屋のベットで横になり、ぼんやりと天井を見つめる。熱のせいか、頭がぼーっとしていた。

(…風邪ひいて、学校休むなんて久しぶりだな…)

 ぼんやりとそんなことを思う。

 この前、風邪で学校を休んだのはいつのことだったろうか。

 再び目眩がして、瑞貴は目を閉じる。そして、いつの間にか浅い眠りに落ちていった。


 放課後、部活を終え、帰り支度を済ませた瑞貴が昇降口へ行くと、制服姿の男子生徒がしとしとと雨を落としている鉛色の空を見上げ、悪態をついていた。

「ち…ついてねぇな、雨かよ」

(! 中村先輩…)

 瑞貴にはその男子生徒が誰だか直ぐに分かった。隆士だ。瑞貴達より一学年上の隆士は、女子生徒達の人気が高い。瑞貴も、幾度となくその背中を目で追い、あこがれていた者の一人だった。

 隆士はこのまま濡れて帰ろうかどうしようか迷っているようだ。

「先輩…あの、良かったらどうぞ」

 暫く隆士の姿を見つめていたが、やがて瑞貴は、恥ずかしそうにクリーム色の傘をさしかける。

「…いいの?」

 隆士が少し驚いたような顔で緊張した面もちの瑞貴を見つめる。

「は、はい!」

 そう答えた瑞貴の声はうわずっていた。

「でも、方向が一緒なわけ?」

「あ…」

 言われてから瑞貴は初めて隆士の家の方向など知らないことに思い当たる。

「で、でもっ! あたし、大丈夫ですからっ!!」

 一息に瑞貴はそう言った。心臓は早鐘のように打っていて、ともすれば舌がもつれてしまいそうだ。

「じゃ、そこのコンビニまで送ってよ。そしたら、傘買えるから。えっと…君…」

「わ、渡瀬、瑞貴ですっ!」

「さんきゅ。渡瀬さん」

 そう言って隆士はにっこりと微笑む。瑞貴は頭が半分ぼーっとして、何だか足が地面についていないような気さえした。

 瑞貴はそこで浅い眠りから目覚めた。

「…雨なんて…嫌い…」

 そう呟いた瑞貴の目にはいつの間にか涙がたまっていた。

 ごろりと寝返りを打って枕に顔を埋めた瑞貴の耳に、雨の音が聞こえてくる。どうやら、外ではまた雨が降り出しているようだった。

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