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デート?

 そして、放課後。

 昨日、強引に約束させられた場所に行くと、隆士はちゃんと待っていた。

「よう、来たな」

 瑞貴を見つけた隆士が片手を挙げて近づいてくる。

「そっちが無理に約束させたんでしょ」

 呆れ顔で瑞貴は答えた。

「手厳しいね。ま、退屈はさせませんって」

 苦笑いしながら隆士が言う。

「で、どこか行きたい所がおありですか? ままなお姫様?」

 胸に手を当ててうやうしく言う隆士に、思わず瑞貴は吹き出してしまう。

「ホント、変わんないのね」

「誉め言葉と、受け取っておくよ」

 そう言いながら隆士はウインクして見せた。

 それから暫く後、あちこちぶらぶら見て回った二人は喫茶店でコーヒーを飲んでいた。隆士は昔以上におどけていて、笑いすぎた瑞貴は少し疲れてしまったほどだ。

「いや、瑞貴とデートするなんて、久しぶりだよな」

 湯気の立つ白いコーヒーカップを片手に、何気なく隆士が言った。

(デート…)

 その言葉が、ふと、瑞貴の心に引っかかっる。

「どした? 瑞貴」

 そんな瑞貴の様子に気づき、隆士がキョトンとした顔をする。

「う、ううん、何でも」

 瑞貴は慌てて誤魔化し、コーヒーを一気にあおる。

「あ、おい…」

 隆士が何かを言おうとしたが間に合わず、熱い液体が瑞貴の口の中と喉を焼く。

「☆●◎!!」

「…あほ」

 慌ててコップの水を飲み干す瑞貴を、呆れた様子の隆士が見つめ、笑う。だが、瑞貴は暫く抗議すらする余裕がなかった。


「じゃーな。お大事に」

 ウインクして電車を降りていく隆士の背中を瑞貴は無言で見送る。隆士は瑞貴より少し手前の駅を利用しているのだ。

(これで…いいの…?)

 電車が走り出すと、瑞貴はそっと目を伏せ、そう自問する。心の中では、再び『デート』と言う言葉が引っかかっていた。

 確かに、隆士と一緒にいて楽しかった。昔に戻ったような気さえしたのだ。しかし、それでいいのだろうか。また、昔のようになるのではないだろうか…。

 瑞貴は、あの日以来、『友達』ではなく『恋人』として誰かと付き合う勇気を失くしたままでいる自分の事を、分かっていた。

 ふと気が付くと、電車の窓に雨粒が幾筋もついている。また、雨が降り出していた。


 翌日もまた、雨だった。

(今日は…早く帰ろ…)

 昼休み、自分の机に突っ伏して瑞貴はそう思っていた。

 どうしても、『デート』という言葉が瑞貴の心に刺さったまま抜けなかった。少し、心の中を整理してみたい、とも思う。

(ずるいよね…)

 瑞貴は自己嫌悪に陥っていた。

「…はぁ…」

「どうしたの? 瑞貴」

 知らず知らずのうちについていた溜息に気が付き、近くを通りかかった友達の斉藤さいとう珠美(たまみ)が声をかけてくる。小柄だがショートカットのよく似合う珠美は活動的で男勝りな所があるのだが、ちょっとお節介でもある。

「ん…何でもないよ。ちょっと、慣れない電車通いしたら疲れちゃって…」

 けだるそうにゆっくりと体を起こし、ぎこちない笑みを浮かべながら瑞貴は答えた。

「ここん所はっきりしない天気が続いてるもんね。何かこう、みんな鬱々《うつうつ》とした顔してる。かく言うあたしもだけど」

 そう言って珠美は悪戯っぽく笑う。

「あ、所で、匠君の仲間の腐れ外道、どこ行ってるか知らない?」

 珠美はそう言いながら瑞貴の左隣の机、つまり匠の机をトントンと叩く。珠美は弘樹のことを嫌っていて、滅多に名前では呼ばずに、いつも『腐れ外道』だとか『女の敵』などと言うのだ。

「弘樹君?」

「そう。あいつ、今日の日直のくせに、あたしに全部押しつけてどこか行っちゃって。ったく…」

 それから、耳打ちするように身を乗り出し、付け加える。

「そう言えば今日は瑞貴のオプションの姿もあんまり見かけないよね」

 瑞貴のオプションというのはもちろん匠のことだ。珠美は時々そう言って瑞貴をからかうのだ。

「…止めてよ、その言い方」

 疲れたように瑞貴は言った。

「ゴメーン。でもさぁ、匠くんって…」

「止めてってば! あたし、そんな風に見られたくない! 別に匠なんてどうだっていいんだから!!」

 ニヤニヤと笑いながら耳打ちするように話しかけてくる珠美を鋭く遮ると、バンッと立ち上がった瑞貴はそう一息に捲し立てる。その剣幕に驚いたのか、珠美はぎょっとしたような顔をする。瑞貴は自分が珠美に八つ当たりしていたことに気が付き、はっとした。

「あ、ご、ゴメン、あたし…」

 だが、珠美がぎょっとしたような顔をしたのには別の訳があった。匠が、無言で自分の席に座ったのだ。

 キーンーコーンカーンコーン…。

 最後の授業の鐘が鳴り出していた。

全17話

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