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 その夜、瑞貴は中学時代の夢を見た。

「先輩、遅ーい」

 中学校の昇降口でちょこんと佇んでいたブレザー姿の瑞貴が、やって来た同じ制服姿の隆士にねたように口をとがらせて抗議する。

「悪ぃ悪ぃ。ちょっとガミガミ屋の先生に捕まっちゃって」

 隆士は笑いながらそう言って肩をすくめてみせ、それから外を見て続けた。

「おまけに雨まで降ってるとはね、やっぱ今日はついてねぇな」

「じゃーん。何とここに傘があるのでした。用意がいいでしょ?」

 目をきらきらさせ、悪戯っぽく微笑んだ瑞貴はそう言って後ろに隠していたクリーム色の傘を隆士に見せる。

「へぇ、じゃ、入れてくれるわけ?」

 隆士が悪戯っぽく微笑んだ。

「うーん、待たせたおびに傘を持ってくれるなら、考えてもいいかな」

 瑞貴は腕を組んで小首をかしげる。

「オーケー。持たせていただきましょう、お姫様」

 笑いながらそう言った隆士は瑞貴から傘を受け取る。そして、二人は一つの傘に寄り添って雨の中を帰っていく。

「…やっぱ、この傘じゃ小さかったかなぁ」

 暫く歩いたところで瑞貴は傘からはみ出して濡れてしまっている隆士と自分の制服の肩を見て呟く。

「もっとくっつけば大丈夫さ」

 そう言うと、隆士は瑞貴の肩に手を回し、ぐいっと自分の方に引き寄せた。

「きゃっ」

 急に引き寄せられ驚いた瑞貴は小さな悲鳴を上げるが、すぐに笑顔になって言う。

「もう、先輩、図々しいんだから」

「誉め言葉と受け取っておくよ」

 隆士はそう言いながら肩をすくめるような仕草をする。

 そこで、瑞貴は夢から目覚めた。

 枕許の時計を見ると、まだ一時間ほど余裕がある。普段ならもちろんまた寝てしまうところではあるが、今日はふと気になって洗面所に行って鏡を見つめた。

 寝起きのぼんやりとした顔。よく乾かさないで寝てしまうので激しい寝癖のついている髪。いつもは時間がないので適当にかす程度で不問に付してしまうのだが、あまり人に見せられた姿ではない。

(たまにはシャワーでも浴びようかな…時間もあるし…)

 そう思いながら瑞貴は居間の時計を見る。

(…時間があるから…)

 暫く時計とにらめっこをしていたが、結局、シャワーを浴びることにした。


「何だよ、傘ささないで来たのか?」

 席に着いた瑞貴を見て、匠が怪訝けげんそうにそう尋ねる。

「え? ど、どして?」

 何でそんなことを訊くのだろうかと不思議に思い、瑞貴は訊き返した。

「髪がしめってるぜ」

 匠が瑞貴の髪を指さしてそう答える。瑞貴ははっとした。朝、シャワーを浴びてきたので髪がちゃんと乾いていなかったのだ。

「…朝、シャワー浴びたんだよ」

 匠がどんな反応をするか予想がついていたのと、どうしてそんなことをする気になったのかが嫌になるほど分かっていたので瑞貴は決まり悪そうに答えた。今日に限ってどうしてそんな事をしたのだろう。やはり、しなければ良かったと瑞貴は思った。

 匠は暫く信じられない、と言うような顔をしていたが、やがて、

「ふうん…」

 とだけ言うとそっぽを向いた。きっと『それで今日は雨なのか』などと言われると思っていた瑞貴は少し拍子抜けする思いだった。

 その日の匠は何故かよそよそしいように瑞貴には思えた。

全17話

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