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エピローグ~雨上がりの風に向かって~

 その翌日、匠は学校を休んだ。鬱陶うっとうしい雨が相変わらず降っていたが、夕方頃にはどうにか止んでいた。

 放課後、瑞貴は駅へ向かう。気は重かったが、このままにする訳にはいかない。それに、そうする事によって自分にもけじめを付けたかった。

 駅に着いた瑞貴は、隆士の姿を探す。案の定、隆士はいつもの場所にいた。

「あ、何日も人に待ちぼうけ食わせやがって。どうしたんだよ。また逃げたのかと思っただろ」

 瑞貴を見つけた隆士が笑いながら声をかける。「また逃げた」と言う言葉が、痛かった。

(そう…あたし…ずっと逃げてたんだ…あの時から…)

「瑞貴?」

 俯いて黙ってしまった瑞貴に、怪訝そうな顔で隆士が呼びかける。

「先輩…ごめんなさい…」

 一つ深呼吸した瑞貴は、そう切り出す。隆士の笑顔が、凍り付いた。

「…もう、お付き合いできません…」

 暫く、二人とも黙ったままだった。通り過ぎる人々が、まるで絶えることのない時の流れのようで、その流れから取り残されてしまった二人の周りを足早に過ぎていく。

「…分かった」

 やがて、溜息をつき、たった一言そう呟くと隆士は髪をかき上げるような仕草をした。そして、くるりときびすを返すと、そのまま振り返ることもなく改札をくぐり、人混みにまぎれて見えなくなっていく。

(さよなら…先輩…)

 その後ろ姿を見送っていた瑞貴は心の中でそっと呟く。それから一つ溜息をつき、駅を出た。少し、歩きたかったのだ。

 瑞貴が空を見上げると、厚い雲の切れ間から茜色の夕日が覗いていた。そして、その光が周りの雲を同じ色に染めている。

 明日は、晴れるだろうか。

 不意にそんな疑問が頭をよぎる。それから、急に可笑おかしくなってクスリと笑った。

(きっと、晴れるよね)

 瑞貴は、千夏に『我が兄ながら情けない』などと小言を言われながら帰っていった匠の事を思い浮かべる。

「…」

 ふと、そう呟いていた自分に気付き、瑞貴ははにかんだように笑った。それから、雨上がりの風に向かって、しっかりとした足取りで歩き出す。

 少し、肌寒くはあったけれども。


 最後までお付き合いいただきありがとうございました。

 実のところ作品そのものとしてはセピアの第三話に次ぐ古さ、1998年作です(汗)。そういった書きためていた話もそろそろ底をついてきた事ですし、そろそろ新作も発表したいなぁと思っています。

 そんな気持ちになりましたのも皆様のアクセスや感想のおかげです。ありがとうございました。

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