そして、月曜日
そして、月曜日。
今日もまたはっきりしない天気が続いている。数日ぶりに学校に顔を出した瑞貴は、好奇の視線によって迎えられた。
「瑞貴、もう大丈夫なの?」
「え? あ、うん。ホントは、土曜でも大丈夫だったんだけど、どうせだから連休にしちゃったんだ」
心配そうに尋ねる珠美に、瑞貴はぺろっと舌を出し、悪戯っぼく微笑んで答える。匠はまだ来ていなかった。
(謝らなきゃ…ね…)
空っぽの匠の机を見て、瑞貴はそう思う。
暫くすると、匠がやってきた。教室に入って来た匠は瑞貴がいるのを見て一瞬動作を止めたが、そのまま無視して自分の席に座る。瑞貴も、何となく声をかけられずに時折ちらちらと匠の方を窺うばかりだ。
「あの…」
二人が同時に声をかけ、見事に声がハモってしまう。
「あ、ご、ゴメン…」
謝るのまで同時だった。顔を真っ赤にして俯いた二人はしばし沈黙してしまう。
「ど、どうぞ、匠」
ややあって、瑞貴がそう切り出す。
「い、いや、俺は、別に…」
俯いたままの匠がもごもごと口ごもった。
「…」
そのまま、沈黙が流れる。ふと気が付いてみると、周りじゅうが二人の様子に注目していた。
異様な緊張感が辺りに漂っている。
(こ、これじゃあ…)
もはや、何かを言えるような状況ではなかった。結局、時ばかりが無駄に過ぎ、やがて予鈴のチャイムによって第一ラウンドの終了が告げられた。
そして、そのまま謝る機会のないまま、放課後になってしまっていた。二人はその後、ロクに喋らずにいた。お互い、何となく相手の事を意識してしまい、普段みたいに気軽に話しかけられないのだ。その上、他の生徒達も二人のことに注目していて、周りの視線を感じて声をかけるのを止めてしまうことも何度もあった。
特に、最後の授業は体育だったため、着替えを終えた瑞貴が教室に戻った時にはもう既に男子の大半は帰った後だった。もちろん、匠もその例外ではない。
(…もう…何でさっさと帰っちゃうのよ…)
瑞貴はがらんとした教室で匠の席を見つめ、しばらく膨れていた。
(ったく…匠の馬鹿…! もう仲直りなんかしてやらないんだから!)
拗ねてしまった瑞貴は匠の机の脚を軽く蹴っ飛ばす。ガン、というくすんだ音が誰もいない教室に響き渡り、すぐにまた静かになった。
降りしきる雨の中、一人ぽつんと佇む瑞貴。
再び、夢のワンシーンがフラッシュバックする。急に不安に襲われた瑞貴は窓に駆け寄って外を眺めた。三階の教室の窓の外には相変わらず灰色の曇り空が広がっていた。校庭の方を見回してみると、何人かの生徒達がぱらぱらと歩いている。だが、その中に匠はいないようだった。
(何考えてるんだろ…いなくなるわけないじゃない…)
瑞貴は一つ溜息をつくと、鞄を持って教室を出る。しかし、教室を出ていくらも行かないうちに、珠美の緊張した声に呼び止められてしまう。
「瑞貴! 匠君が、匠君が授業中に倒れて、保健室で寝かされてるって!!」
いよいよエピローグ込みであと2話です。