それぞれの、空
瑞貴は、その翌日も続けて学校を休んでいた。そのせいか、ますます匠を見る周りの生徒達の好奇の視線は強くなっている。
痛いほど視線を感じつつも、頬杖をついて仏頂面をした匠は教室の自分の席に座っていた。購買や他の所に行って取り敢えずその視線から逃れる、という手もあるのだが、それでは何となく癪にさわるので半ば意地になって座っているのだ。
(…二日も休むなんて…大分悪いのかな…)
だが、頭の中は瑞貴のことばかり考えていた。
(…電話でも、してみようかな…)
ぼんやりとそんなことを匠は思う。だが、今更そんな事はとうてい出来そうもない様に匠には思えもした。
「でも、クヨクヨしてるくらいなら意地張らずにさっさと謝っちゃったら? 『雨降って地固まる』になるといいけどね」
匠はゆうべ千夏が言った言葉を思い出す。確かに、喧嘩したことをクヨクヨ思い悩んでも仕方がないのも確かだ。
(…雨降って地固まる、か…。明日は、来るよな…)
窓の方に目をやると、鉛色の雲が重苦しく立ちこめている。
同じ頃、パジャマの上にカーディガンを羽織った瑞貴は自分の部屋のベットの上で上半身を起こし、窓の外を見つめていた。熱は上がったり下がったりで、今は解熱剤のおかげで下がってはいるが、まだ頭がぼんやりとしている。
(…二日目かぁ…)
ぼんやりと枕許の時計を見た。ちょうど、午後の授業が始まる時間だ。
(…少しは勉強もしないとなぁ…)
瑞貴は視線をそのまま机の上に持っていく。そこにはいくつかの参考書が積まれてはいるがどれも真新しく、あまり使われてはいない。
(匠も、今頃は勉強してるのかな…)
そんなことをちらりと思うが、瑞貴は慌ててそれを打ち消す。瑞貴は匠を許せないでいた。匠に隆士と一緒にいる所など見られたくはなかったし、その事を言われたくもなかった。しかし、喧嘩の発端は瑞貴の不用意な言葉にあることもまた、分かっていた。
(…せめてそれだけでも謝んなくちゃね…)
ぼんやりとそんな事を思った時、また寒気を感じて瑞貴は身震いする。どうやら薬の効き目が切れてきたらしい。瑞貴はカーディガンをベットの縁にかけると、布団の中に潜り込んだ。
ここ数日、二人の待ち合わせ場所にしている駅の改札口で、隆士は瑞貴を待っていた。
(…渡瀬の奴…今日も遅いな…)
そろそろ四時になろうというのに、まだ瑞貴は姿を現さない。先ほどまでは瑞貴と同じ学校の生徒がかなり見られたのだが、今はほとんど姿を見かけなくなっている。
『また、逃げられた…?』
隆士の頭にちらりと嫌な言葉が浮かぶ。昨日は待ちぼうけだったのだ。慌ててその言葉を振り払うように、隆士は短い髪をかき上げ、それからタバコに火をつける。
(もう少し…待ってみるか…)
そう思いながらも隆士には何故か瑞貴がもう来ないような気がしていた。
(…電話番号でも聞いておけば…)
今更ながらに隆士はそう後悔する。引っ越しでもしたのか、隆士が昔知っていた電話番号は繋がらなくなっていたのだ。
(…みんな俺のせい、か…)
隆士は天を仰ぐように天井を見上げ、それから、ふう、と一つ溜息をついた。




