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第7話

 自分の婚約者の素行調査は常にしておくものである。

 特に男女関係は。

 なおかつその相手の恋愛遍歴も。

 マルティンが現在溺愛していて、そのために婚約解消しようとしているウルスラ・サロイネンは貧乏男爵令嬢だ。

 貧乏故に、自分の魅力だけで何とか良い相手は居ないかと結構男を漁ってきたという。

 その一人に、確実に性病を持っている者が居た。

 だがそれが判ったのは、彼女と縁が切れた後だった。

 あの非常に凄まじい病気ではないにせよ、彼女経由でいつマルティンが伝染っていたとしてもおかしくない。

 だがこの理由は、あまりにも外聞が悪い。

 そして確実に出るという保証も無い。

 ということで、向こうがしたがっている真実の愛による婚約破棄をさせてやろうとエディットは思った。

 ちなみにマルティンが種無しであるかどうかは判らない。

 だがあれだけ閨を共にしている彼女に妊娠の兆しが無いところを見ると、その可能性も高いだろう。

 まあいずれにせよ、危険案件であることが判った。

 ので、できるだけそれをすみやかにしてもらうべく、彼女は淑女達の間で話題になっている、この国の第三王女特製の夢の香を仕掛けたのだった。

 第三王女は未婚。

 政略結婚ですら父王からそうそう出されないという、傍から見れば変わり者の王族である。

 結果、現在は三十過ぎ。

 当人的にはすっきり嫁ぎ遅れ人生を楽しんでいる様だった。

 そしてこの王女、父王が手放さない理由がそれなりにあった。

 というのも、彼女は微妙なものの発明家だったのだ。

 この微妙、というのは。

 商品化できる様なものではないが、貴族間のもめ事に役立つ、ちょっとした小道具を考案しては作り出すという才能を持っていたのだ。

 もともと妙に学問好きだったので父王も心配はしていた。

 が、才能が思わぬ方向に開花したので、好きにさせてやることにした模様。

 貴族同士の婚姻のトラブルが彼女の発明品のおかげで案外防げている、とその界隈では有名だった。

 それがたとえ、淑女であったとしても。


「おかげさまでですっきり向こうの有責で婚約破棄できましたわ! いくらどれだけ馬鹿でも、理由がなければ両親が何とかしてしまいますもの!」

「まあ性病の方が効くと思うけど?」

「逆ですわ殿下、結婚すればあとはいい、という両親ですのよ。あのくらいの大がかりな場所での醜態がなくては駄目ですって! うちうちでいいことにされてしまいますもの!」


 エディットの両親は、サロイネン家との関係の方をあまりにも重視しすぎていた。

 そして困ったことにこの婚約はもともとトレイラン家の主導だったのだ。

 確定していない問題を掲げて相手を有責にするには、今一つ弱かった。

 そこで淑女界隈でも有名な第三王女に相談とあいなった。

 そこで「これはどう?」と薦められたのが例の香だったのだ。


「きっと彼は、そのうち身体の異変に気付いたら、夢のことを思い出すのではないかと思います。じわじわと」

「そうね。それに一度婚約破棄されたってことで、今度は貴女が好きな相手とも上手くいくんじゃないかしら」


 ええ、とエディットは笑顔になった。

 実のところ、彼女には密かに思い合っている相手が居る。

 ただ相手の身分が少しだけ低いため、親の決めた相手を覆せる程ではなかったのだ。

 ほとぼりがさめた頃に彼は話を持ってきてくれるという。


「終わりよければ全てよし、ね」

「ちょっと違いますわ殿下。終わり悪ければ全て悪しですわよ」


 ころころ、と二人の淑女は笑った。

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