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第6話

 がばっ、と俺は思わず起き上がった。

 汗が酷い。

 そして横には、ウルスラが居た。

 おそるおそるその顔を見る。

 俺の良く知っている、若く美しい顔だ。

 ……夢…… 夢だったのか!

 よ、よかった……


「……どうしたのよマルティン…… まだ明け方にもなっていないじゃない」

「ああウルスラ、よかった! よかった!」


 俺は彼女を起こすとぎゅっと引き寄せ抱きしめた。


「嫌な夢を見たんだ、俺がエディットに種無しだと離婚されて……」

「何位ってるのよ、これからあんたは婚約破棄をするんじゃない! しっかりして」


 ウルスラは俺の背をぽんぽんと叩く。

 そうだよな、あれは夢の中のことだ、現実じゃない。


「別にあんたが種無しだとしても私は構わないよ? 奥さんにしてくれるんならね」


 この情の深さが、何かと手厳しいエディットと違うんだ。

 結婚前の関係は駄目? 

 決まっているならいいだろ、と言っても手厳しく撥ね付ける。

 俺を嫌いなのか、と言えば、嫌いとかそういうことではなくて、と理屈を言ってくる。

 そういうところが嫌なんだ。


「ああもう、本当に、あの女の嫌なところが浮かんできて仕方がない。予定を早めて、そう、次の大きな夜会で発表しようか」

「まあそうなの! 嬉しいわ」


 ウルスラの喜ぶ様子は暗がりの中でも判る。

 そう、俺は絶対この女を離さないぞ……



 そして俺は見事、夜会にてエディットとの婚約破棄を宣言し、ウルスラとの結婚を発表した。

 無論両親は嘆いたし怒った。

 俺自身、男爵家に婿に入るということで追放された。

 だが構わないさ。

 あの女にあんな冷たい目で見られながら一生を送るくらいなら、多少の貧乏は構わない。

 少なくともウルスラの男爵家はあの小さな部屋よりは大きい。

 そして兄のマウリッツは有能な男だし、きっと彼の仕事に俺は協力できるだろう。

 会ったこともある。

 なかなか事業展開に意欲的だそうだ。

 これから発展するだろう技術や商品を先取りして開拓いく会社らしい。

 俺のこの知識や交渉術が役に立てばいいのだが……

 本当に婚約破棄して良かった。

 自分で選んだ人生なら、決して後悔は無い!


***


「上手く婚約破棄ができた様ですね。向こうの事情ということで」

「ええ、全ては王女様のおかげです」


 エディットはそう言って深々と頭を下げた。


「しかし本当に、この香にそんな効果があるなんて。魔法かしら」


 手にとったそれは普通のものと変わらない。


「ふふふ。別に魔法とかではないわ。ただ人の気持ちの中で不安に思っている部分が夢に現れやすくなるだけのこと。そう言えば、あの夜会に私も出席していたけれど、彼の言い分は酷いものだったわね」

「ええ、真実の愛を見つけたから、とか何とか。真実の愛以前に、相手が結婚前にほいほい男と寝る女だということの意味を判っていないって怖いですわね」


 エディットはしみじみと言う。

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