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魔法の国のアリス  作者: 塩野鯖子
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罪人たちのお茶会議

薄暗い部屋の中、ランプの灯りがゆらゆらと揺らめきほんのりと照らしている。ランプを取り囲むように、罪人つみびとたちの御茶会議が始まった。


「・・・・パンドーラの娘が双子をご出産されました。星の瞬くこの夜に、まずは祝福いたしましょう」


メイドがそう告げると、罪人たちは目の前のティーカップを持ち上げ一言。


「星の加護あれ」


そしてひと口。


「・・・・それで、どうするんだい?」


豚が一番に話を切り出す。それに狐と山羊がこそこそと話し、犬は頭を抱えていた。熊は大欠伸をして、狼は特に話すこともないようで、口を一文字に瞑っている。そして獅子はというと、我関せずといったように、ケーキをひと口、ふた口・・・・次々と頬張っていた。


()()()()()()()に進めていいかい?」

「待って、よく考えない?本当にそれでいいのかしら?」


そう口を挟むのは山羊。そして隣の狐は同意と言わんばかりに首を縦に振る。


「いやいや・・・・もう面倒くさいからさくっと終わらせちゃおうよぉ」


大欠伸をしながら熊が伸びをする。


「面倒臭いって!!なんスかそれ!!」


犬がすかさず口を挟む。そしてまたしんと静まり返る。ひたすらケーキを頬張る獅子と、微動だにしない狼に五人は視線を移す。


「皆様がご意見を求められていますよ」


そうメイドが獅子に耳打ちすると、獅子はケーキを食べる手は止めずに少し考えるような素振りをする。そしてゴクリと口の中のケーキを喉に通したかと思えば、一気にティーカップの中の紅茶を飲み干した。


「片方は私が面倒見るわ。片方は「星の民」の旧友に任せるわ。手紙を出しといてあげる」

「星の民って・・・・あの少数一族かい?」


豚は興味深そうに話に耳を傾ける。


「星を詠み、星と生き、星と死ぬ・・・・神秘的な一族よ。そして魔法は一級品。魔力量が膨大すぎて魔具まぐを使用できないのは少し残念だけど」

「私でも知ってるッスよ!でもレア一族とどこで知り合ったんすか!?・・・・もしかして、騙されてるんじゃあ・・・・」


犬は小首を傾げる。その様子を見た獅子は溜息を吐きながら話を続ける。


「本当にあなたは馬鹿ねぇ。言ったでしょう。()()だって。私はこんな容姿ナリだけどあなたより、いえ、()()()()()()長生きなのよ。お忘れかもしれないけれど、この中で一番優れているのは私よ」


すぱっとそう言い切るともう何も言うことは無いと、メイドにケーキと紅茶のおかわりを催促した。しかしその傲慢な言動に異議を唱える者はいないことが何よりの証拠だった。


「では後のことはお任せしてもよいかのぉ?」

「私もお任せしたいわ。「MOTHER」の元へ行くのは気が引けるもの」


狐と山羊はこれ以上は関わりたくないと眉をひそめた。しかしメイドは心配ご無用と言ったように言葉を発した。


「MOTHERへは私からご報告させていただきます。私は「大罪の魔女様」とMOTHERの伝言役ですから」

「「大罪の魔女」ねぇ・・・・」


獅子は少し面白くなさそうに呟く。他の者も獅子とは同意見のようで、ふぅと溜息が零れた。


「まぁいいわ。今日はこれで解散しましょう」


獅子がそう言うと各々が離席し、部屋のドアから足早に出ていく。その後ろ姿を見送ったあと向かい側に座る狼に視線を移した。


「・・・・何か言いたげね」


獅子の言葉に、先程まで黙りだった狼がゆっくりと口を開く。


「君の提案は「執行猶予」を与えたにすぎない」


それを聞いた獅子はキョトンとした。しかし、その小さな唇がニヤリと歪む。


「本当にあなたは間抜けな狼(愚か者)ね」


それだけ言うと颯爽と部屋を出ていったのだった―――――。











「御茶会議はどうだった?」


二人の小さな赤子を抱いた女がメイドに尋ねる。メイドは女から二人の赤子を受け取ると口を開いた。


「はい、滞りなく。お子様たちの処遇も決定いたしました」

「私のせいでこの子たちには苦労をかけてしまうわね。きっと恨まれるわ」

「そのようなことはございません。きっと奥様のことを愛してくださいますよ」

「ふふ、そうだと嬉しいわ」


優しく微笑む女の瞳から涙がこぼれた。


「離れたくないわ」

「申し訳ありません」


女の首に、手に、足に冷たい枷がはめられる。母親と子供を引き離すことはこんなにも苦しいものなのかと、メイドは眉を潜めた。


「さようなら、私の子供たち。願わくばあなたたちに星のご加護があらんことを」


メイドは部屋を立ち去る。振り返ってしまえば己の使命と決心が揺らぎそうで怖かった。長年仕えてきた主人さえも護れないのだと、自分の無力さを思い知ったのだった。


「私にできることはこの子たちを立派に育てられる方たちへ預けること。そして見守ること。もっと、もっと勉強して、私も奥様のように立派な魔女になりたい。人の痛みが分かる人間になりたい」


大粒の涙が止めどなく溢れる。腕の中の小さな赤子たちは気持ちよさそうに寝息をたて眠っている。今、この子たちはどのような夢を見ているのだろうか。夢の中だけは幸せであってほしい。これからこの子たちが向き合わなければならない運命を思うと、そう願わずにはいられない。


「星のご加護があらんことを」


暗闇の中、星に願いながら二人の赤子を優しく抱きしめるのだった――――・・・・。

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