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人狼メイドはブラック法廷に異議を申し立てる  作者:
法廷編(後編)人狼メイドは真相を明かす

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最後のふたつの証拠

 出しておく証拠はあと二つ。


「では、追加の証拠として【トーボー港のホテルコーキュー館の予約客リスト】を提示させていただきます。事件のあった12月25日付、ジトーク子爵家執事、クロイ・マーダラー執事の名義で予約がありましたが、ジトーク子爵の死後キャンセル。キャンセル料として前払い金を徴収されています」


証拠品リスト提出時に他の証拠品と一緒に提出しているが、実際の審理の場にはまだ出ていない資料である。


 最終弁論の場で使えるのは、審理を受け、正式な証拠品として採用された資料のみとなるので、ここで提示しておく必要がある。


「付帯資料として、トナリーノ王国行きの客船ラグジュアリー号の運行スケジュールと乗客リストを添付してあります。事件の翌日にあたる12月26日の朝にトーボー港に入港予定でしたが、ジトーク子爵らしき予約客は存在しませんでした。キャンセルなどもなかったようです。先に述べたジトーク子爵の海外逃亡計画の存在を示す資料として採用を願います」


「検察側、異議申し立てはありますか?」


「ラグジュアリー号の予約客にジトーク子爵の名がなかったのなら、海外逃亡の計画など存在しなかったということになるのでは?」


 レンガ検事の指摘に、私は「はい」とうなずいた。


「ジトーク子爵の海外逃亡計画は、実際には存在しなかったものと思われます。ジトーク子爵が頼ろうとしたトナリーノ王国のイコクニ・トツイダ夫人は、ジトーク子爵の受け入れを拒絶しており、トーボー港に寄港したトナリーノ王国行きの客船ラグジュアリー号にもジトーク子爵の客室は存在しませんでした。にもかかわらず、トーボー港のコーキュー館には、ラグジュアリー号の入港に合わせた予約が入っていた。これは、マーダラー執事がジトーク子爵を騙すため、コーキュー館にのみ予約をいれたものと思われます」


「騙す? 何故そのようなことを?」


 クラレント裁判長が不思議な顔をした。


「ジトーク子爵はドシンザン伯爵の圧力を受け、海外逃亡を考えていました。その手はずを整えるよう命じられたのがマーダラー執事だったのでしょう。しかし、ジトーク子爵が頼ろうとしたイコクニ・トツイダ夫人に協力を拒絶され、計画は頓挫しました。帝国貴族の海外逃亡となれば、簡単なものではありません。代案を立てることも不可能だったのではないでしょうか」


 証拠品陳列台にある、ジトーク子爵がトツイダ夫人に送った【書状】を手に取って見せる。


「郵便局の記録によればジトーク子爵家とトツイダ家との間の手紙のやり取りは一往復で終了しています。最初の打診を拒絶して以降、トツイダ夫人はジトーク子爵との書状のやり取りをしていないことになりますが、それ以降もジトーク子爵はトツイダ夫人との手紙のやり取りを続けていたとの証言があります。ジトーク家の書状を管理していたマーダラー執事がトツイダ夫人からの拒絶の手紙を握りつぶし、偽の返書を渡すことで海外逃亡計画が上手くいっていると見せかけていたものと思われます」


「ふむ」


「ですが、そんなことがいつまでも続けられるはずもありません。最終的には実際の国外脱出は何時行う、という問題が発生します。そこでマーダラー執事は、ジトーク子爵の殺害を決意した」


「殺害を決意したのに、わざわざホテルの予約を取ったというのかしら?」


 レンガ検事がちくりと言った。


「はい、コーキュー館への予約はジトーク子爵殺害計画の一環だったと考えられます」


「それは、どういうことでしょうか?」


 クラレント裁判長は首を傾げる。


「その点については最初から順を追ってお話したほうがわかりやすいかと思います。最終弁論にてご説明させていただく形でよろしいでしょうか」


「わかりました。では、こちらの資料を証拠品として採用しましょう」


【トーボー港のホテルコーキュー館の予約客リスト】が証拠品として採用された。


「ありがとうございます。残りの資料はあと一点となりますが、検察側が提出した【中央警視庁セントラルヤードの捜査資料】のほうが良くまとまっていますので、こちらを利用させていただこうかと思います。よろしいでしょうか」


 検察側が出したもののほうが文句がつけにくくていい。


「レンガ検事、いかがですかな」


「採用箇所をお聞かせください」


 警戒するような表情を見せた姉レンガに「はい」とうなずいて、検察側が提出した【中央警視庁セントラルヤードの捜査資料】を手に取る。


「こちらの資料によりますと、事件の翌日12月26日の夕方頃、ジトーク子爵邸のワインセラーにて男性の死体が発見されたとあります。これは、どういった死体だったのでしょうか」


「ジトーク子爵が賞金をかけていた【盗賊の死体】ですわ。防犯のための見せしめとして公開すべく冒険者ギルドより搬入させていたとのことです。今回の事件との直接の関係はないと判断しましたが念のため記述しておきました」


「盗賊の頭目の死体だったのでしょうか」


「いえ、討伐した盗賊の遺体のなかから見栄えのするものをひとつ選んで運ばせたとのことです」


「マーダラー執事が、でしょうか」


「はい、ジトーク子爵の指示の元ということですが」


「その死体は今どちらに?」


「ジトーク子爵家の死によって公開は中止され、そのまま共同墓地に埋葬されたはずですわ」


「ありがとうございます。こちらの事実を証拠として使用させていただいてもよろしいでしょうか」


「構いませんわ」


 嬉しくはなさそうだが、拒む理由もなかったのだろう、我が姉レンガは仏頂面で扇子を揺らした。


「それでは、【中央警視庁セントラルヤードの捜査資料】の【盗賊の死体】に関する記述を証拠として採用することとします」


 これで必要なカードは場に出そろった。


「以上をもって弁護側の証拠と証言の提示を終了します」


「検察側に異議はありますか?」


「ございません」


「それでは、5分間休廷の上、最終弁論に入りたいと思います」


 クラレント裁判長が木槌を鳴らした。

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