反対尋問:ナリアガッタ・ドシンザン伯爵
反対尋問に立った我が姉レンガだが、いきなり話が殺人鬼ヒトキリ、ジトーク子爵の海外逃亡計画などという想像外の方向に吹っ飛んでしまい、着地点が読めなくなっているようだ。
ドシンザン伯爵に探るような視線を向ける。
「ドシンザン閣下はヒトキリ事件の真犯人がジトーク子爵であるとお考えのようですが、それが事実であったとして、それが今回の事件にどう関わるとお考えなのでしょうか。それが被告人の罪の有無にどうかかわると言うのでしょうか」
「ジトーク子爵が海外逃亡をするということは、ジトーク家に関わるものの全てを捨てて行く、ということだ。検察の主張通り、被告人の動機が解雇に対する怒りということであるならばジトーク家に関わる全ての人間が同様の動機を持ちうることになる。初動捜査の段階で被疑者を絞り込みすぎているのではないだろうか」
「そこまで情報を持っていたなら、何故捜査当局に情報提供をなさらなかったのですか?」
「前回の公判を傍聴するまでは衝動的な犯行の可能性を考えていた。成り上がりではあるが私も帝国貴族の端くれだ。中立性のない人間が干渉し、捜査を混乱させるのは好ましくないと考え、手出しは控えた。しかし、先の公判で判断を誤ったと気付かされた。私がここに立ったのは、その罪滅ぼしのためだ。私が積極的に動いていれば、このような異様な裁判が開かれることはなかっただろう」
適当な攻め口が見つからなかったのだろう、レンガ検事は「以上です」として質問を打ち切った。
手番としては検察側が証人、証拠を出せる番だが、切り札だったアーキス・ネラウゼが不発どころか自爆で終わってしまい、検察側には打つ手がないらしい。
引き続き、弁護側の証人尋問を続けさせてもらうことになった。
ここまで来たら、有罪判決に持って行かれることはない。
あとはどこまで、真犯人を追い詰められるかの勝負だ。
「続いて弁護側は錬金術ギルド『知を愛でる者』の総帥、ケルス・スパーラ師を入廷させます」




