審理終了?
初日に被告人への薬物投与、二日目には偽証が発覚。
どちらも中央警視庁のジショーエス警部が関与していた。
相当の痛手のはずだが、我が姉レンガのメンタルは兄ワーラーよりタフだった。
ワーラー検事のようなおかしな顔色になることはなく、超然とした表情を保っていた。
「レンガ検事」
クラレント裁判長はレンガ検事に厳しい視線を向ける。
「検察側の不正が発覚したのはこれで二度目。検察側の公判維持能力は極めて疑わしいと言わざるを得ない状況です。ここで審理を終了し、判決に移るべきではないかと考えますが、いかがでしょう」
「前任のワーラー検事弁護士から引き継いだ証人の問題点を見逃していたことについては陳謝いたします。しかし、事件当時のアリバイがなく、ジトーク子爵の殺害が可能であった人間は被告人以外に存在しないという事実は動いておりません。審理の終了には異議を唱えさせていただきます」
ワーラー検事のせいと割り切ることにしたようだ。
「アリバイという点では先のネラウゼ証人も現場近くにいたようですが?」
クラレント裁判長が指摘する。
「ネラウゼ証人が現場近くに居たのは事件当日の14時頃と立証されています。14時30分以降は中央警視庁に逮捕されているためジトーク子爵の殺害は不可能です」
「ですが、ネラウゼ証人は14時頃にジトーク子爵を目撃していると証言しています。これをどうお考えに?」
「ネラウゼ証人はジトーク子爵の顔を知っているわけではありません。14時頃に本館から乳製品工房の方向に歩いている人間を見かけたというのみで、それがジトーク子爵であったかどうかは確実ではありません。『ジトーク子爵が15時頃に本館を出た』ということについては複数の証言がありますが、『14時頃にジトーク子爵を目撃した』という証言はネラウゼ証人一人のものです。前者の情報に信を置くべきと存じます。全く別の何か、牛馬の類を人影と見間違えたという可能性も考えられます」
「恐れ入りますが」
我が姉レンガとクラレント裁判長のやり取りに口を挟む。
「『14時頃にジトーク子爵を目撃した』人物は、もうひとり存在します」
「なんですと?」
クラレント裁判長は目を瞬かせた。
「こちらで得た情報によると、検察側証人のコロンダ・カネデー女史が、14時頃に本館を出ようとするジトーク子爵の姿を目にしていたとのことです」
ナリアガッタ伯爵に聞いた話では、14時頃に屋敷を出ようとするジトーク子爵の姿を目にしているとのことだった。
「弁護側はコロンダ・カネデー女史の証人尋問を要求いたします」
「私は、このまま公判を終了するべきではないかと考えているのですが」
「弁護側としては、公判終了の前に『ジトーク子爵殺害が可能であったのは被告人、ノット・ギルティのみである』という主張を否定し、潔白の証を立てておきたいと思います」
「そうですか」
クラレント裁判長はしばし黙考した後「わかりました」と告げた。
「弁護側、検察側双方の要望を入れ、審理を継続することとします。コロンダ・カネデー女史を入廷させてください」
クラレント裁判長が判断を下し、審理再開、検察側証人として待機していたメイド長コロンダ・カネデーが証言台に立った。




