証人尋問:窃盗犯アーキス・ネラウゼ
検察側証人として証言台に立ったのは帽子をかぶったひょろ長い男だった。
歳は40代半ばくらい。
路地裏で怪しい商品を売りつけてきそうな、いかにも怪しげな雰囲気の持ち主だった。
「氏名と職業を仰いなさい」
「アーキス・ネラウゼ。無職です」
イントネーションに西方系のなまりがあった。
「ネラウゼ証人は事件当日、ジトーク子爵邸近くで中央警視庁に逮捕された窃盗犯です。取り調べの中でジトーク子爵殺害事件に関する目撃情報を持っていることが判明し、出廷させております」
レンガ検事が説明をした。
「ネラウゼ証人、事件当日に見たものについて証言なさい」
「ほな、おおそれながら」
芝居がかった調子で応じたこと窃盗犯アーキス・ネラウゼはゴホンと咳払いをし、口を開いた。
「事件があった日、自分は市中の質屋に張り込んどった警官に追われ、ジトーク子爵様のお屋敷近くの林の中に潜んでおりました。自分がおったあたりはちょっとした丘になっとって、そこから事件のあった建物が見えました。犯人が【鉈】を使うて薪を割っとる様子も」
「犯人というのは誰のことを?」
「そこにいる被告人ですわ。間違いありません」
ネラウゼ証人は、ぴっと私を指さした。
虚言癖、あるいは役者タイプの人間のようだ。
堂々と息をするように嘘を吐く。
「下手に身動きすると目立つ思うて、そのまま見とったら、お屋敷の方から被害者のジトーク子爵が歩いて来て犯人に話しかけたんですわ」
「何を話していたのです?」
「距離がありましたんで、話の中身までは」
ネラウゼ証人は肩を竦めた。
「しばらくしたら、犯人が【鉈】を振り上げたんですわ。ジトーク子爵は近くの倉庫に逃げ込んで、それを追いかけて犯人も倉庫に入っていきました。倉庫の中から断末魔の悲鳴がして、血みどろになった犯人が出てきました。恐ろしゅうなって逃げ出したんですが、動転したおかげで警官に見つかって御用っちゅう塩梅ですわ」
「事件を目撃したのは何時頃ですかしら?」
「細かい時間はようわかりませんが、警察に捕まるちょっと前でした」
「逮捕記録によると、12月25日15時30分逮捕となっていますが、このすこし前?」
「はい」
「被害者と被告人以外に目にした人間は?」
「誰も見ておりまへん」
「結構、検察側の尋問は以上ですわ」
レンガ検事は扇で口元を隠して言った。
犯行の瞬間とまでは行かないが、被告人の犯行を裏付けるには充分な証言、ということらしい。
こちらからは、とんでもない穴が開いているように見えるが。




