公判準備
保釈期間中とはいえ、用もなく外をうろついていたりすると、あとで変な言いがかりをつけられかねない。
それから数日は離宮に籠もり、捜査資料のチェックや、証言をしても良いといってくれた錬金術師ケルス・スパーラ師、ナリアガッタ・ドシンザン伯爵の証人登録、乳製品工房の保管庫で発見した【パラライズ・マイコニド】の標本、魔石カメラで撮影をした保管庫内の魔石写真などの提出用の書類作りに費やした。
ついでに検察側の証人に登録されているメイド長コロンダ・カネデー女史の出廷要請を出しておく。
カネデー女史は14時頃に外出しようとしたジトーク子爵を目撃した唯一の人物であると同時に、ジトーク子爵家の内情を探るためにドシンザン伯爵に買収された内通者でもある。
ジトーク子爵の海外脱出の動きに気付き、ドシンザン伯爵に密告したのも彼女だったようだ。
金で転んだ人物なので使い方が難しそうだが、話が聞ける状況は作っておいたほうがいい。
今回の事件の背後には20年前のヒトキリ事件の影が見え隠れしている。
ハフリ先生経由で調達してもらった【ヒトキリ事件の捜査資料】も今回の事件の証拠品のひとつとして提出することにした。
内容としては先にドシンザン伯爵に聞かされたものと同様だが少年時代のドシンザン伯爵が『ヒトキリ最後の事件の前日』に見たという人物については記述がなかった。
被疑者であるキセラレータ・ヌレギーヌ刑事が自害しているため、裁判は行われなかったらしい。
私が証拠や書類と格闘している一方、錬金術ギルドのケルス・スパーラ師からの通報で動き出した魔術・錬金術取締局は【マイコニドガス】をはじめとする魔法薬・錬金薬横流し容疑で冒険者ギルド『魂の彩り』への立ち入り調査を行った。
『魂の彩り』のギルドマスター、ヨー・コナガスは【マイコニドガス】をはじめとする横流しの容疑を否認したが、司法取引をちらつかされた職員や冒険者達が裏切ったことで、台帳の改ざんや裏帳簿、不正蓄財の証拠などが発見され、ジトーク子爵殺害事件の公判の前日に正式に逮捕された。
余勢を駆ってジトーク子爵家の家宅捜索をしてもらえるとありがたかったが、さすがに時間が足りなかった。
「明日の公判には間に合わないようです」
錬金術ギルド『知を愛でる者』に出向いて情報交換をしてきたハフリ先生がカーバンクル姿で言った。
「『魂の彩り』のコナガス氏からはなにか自供があったのでしょうか?」
「横流しの事実については認めているそうですが横流し先については口を割ろうとしないようです。一人名前を出すと顧客全ての信頼を失い、口封じに殺されると考えているようで」
【マイコニドガス】の横流し先を話してくれていればやりやすくなりそうだったが、そう都合良くは行かないようだ。
こちらから見た最有力容疑者である執事クロイ・マーダラーは検察側の証人の中にいる。
公判の中で直接ぶつかって、真相への道筋を切り開くしかないだろう。
そうして、次の公判の日がやってきた。
<保釈調査編 終了>
お読みいただきありがとうございました。
これにて「保釈調査編」は終了。
「人物目録」「証拠目録」をはさんで「法廷編(後編)」に移ります(20時頃再開)
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