聞き込み:郵便局員トドケル・テガーミ
手錠をつけた人狼娘、鉄仮面の法務騎士、やんごとなき7歳児、帯刀をした東洋系の執事、裁判監視官という怪しげ極まる一団の接近を受けた郵便馬車の主は目を白黒させていたが、逃げ出したりもしなかった。
ハフリ先生が自己紹介をし「何かご存知ありませんか?」とたずねる。
郵便馬車の主の名はトドケル・テガーミといった。
職業はもちろん郵便局員。
「事件当日は、こちらにおいでだったのですか?」
ハフリ先生の質問にテガーミ氏は「へい」と応じた。
「毎日14時30分に、ここの手紙を集めに来ておりやす」
郵便局員テガーミ氏はジトーク子爵邸の門前にある黒いポストを示す
「事件が起こるより30分くらい前には次のポストに向かったんで、子爵様の事件のことをって言われてもちょっとわかりかねやす。もうちょっと前の『捕り物』のことならともかく」
「『捕り物』?」
ハフリ先生は鎧を鳴らした。
「ええ、今日もそうなんですが、ちょっと早く着きすぎたんで、ここで時間つぶしをしていたんでさ」
「はやいのか」
グーセイ殿下が口を挟んだ。
「まだ20分なんではやいです」
テガーミ氏は郵便局員用の懐中時計を出した。
14時20分だった。
「早く着いてはいかぬのか?」
「へい、14時30分に集荷ってことになってんだから、14時30分より前に次のポストに向かっちゃならねぇって決まりなんでさ。28分に次に行ったら29分に来た客が困るって理屈で。なんで今日も14時30分まで待ってるんでさ」
「あまり引き留めてはいかぬのだな」
「遅れるぶんにはそこまでうるさくはねぇんですがね」
「その『捕り物』について詳しく聞かせていただけませんか?」
ハフリ先生が話を戻す。
「事件のあった日の今頃、あっちの方から盗人みてぇな野郎が走ってきたんでさ」
テガーミ氏はジトーク子爵邸の脇を抜ける小道を指さした。
乳製品工房の裏手を通るルートだ。
「かと思ったら中央警視庁の警官が何人も追いかけてきて、ちょうどこのへんでとっ捕まえて行ったんでさ」
「制服の警官ですか?」
「そうでさ」
刑事ではなく一般の警官による『捕り物』があった。
ジトーク子爵の死亡推定時刻は15時から16時。
『捕り物』があったのは14時30分より前。
時間にズレがあるので直接の関係があるかどうかはわからないが、事件が起きる前、ジトーク子爵邸の近辺をうろついていた警官と犯罪者がいたことになる。