面会:検事弁護士レンガ・ギルティ
保釈手続きを進めるためにハフリ先生が退去すると、入れ替わりに新しい面会者がやってきた。
10歳年長の我が姉、レンガ・ギルティ弁護士。
我が姉レンガはブタイノ帝国史上初にして唯一の女性弁護士である。
我が兄ワーラーと同じく検事弁護士としてやってきたようだ。
「司法取引を申し入れに来ました」
再会の挨拶などは飛ばし、我が姉レンガは単刀直入に告げた。
私がギルティ家を出たのは姉が22歳の頃。
それから6年が過ぎているので28歳のはずだ。
派手な金髪縦ロールと女王然としたたたずまいは昔と変わらない。
弁護士資格を得たのは私が家出をしたあとだが、検事弁護士として活躍し『ギロチン女王』などという物騒な二つ名で知られているようだ。
「今すぐにジトーク子爵殺害を認めなさい。罪を認めれば罪一等を減じ、検察局付きの終身奴隷として生きられるようにしましょう。獣種としての力をギルティ家と正義の為に役立てなさい」
ギルティ家に居た頃の私の役割は、要するに猟犬だった。
少女どころか幼女、童女と言われるような年頃から犯罪現場や法廷に出され、被疑者や被告人を追い詰めるため働いていた。
同情の余地のない凶悪犯もいれば、これは捜査をやり直したほうが良いのではと思える人物もいたが、どちらも同じように追い詰めて、牢獄や処刑台に送り込み続けた。
そんな日々に嫌気が差し、私は家を抜け出した。
「お断りさせていただきます」
即答した。
「今の検察に、まともな公判維持能力があるとは思えません」
我が姉レンガは扇を広げて「ふん」と冷笑した。
「公判維持能力がないのは貴女のほうです。弁護人もなく、たった一人でなにができるというのです。そのままそこで、次の公判を待つことしか出来ない。なんの準備も出来ない貴女がどうやって、無罪を立証するというのかしら」
弁護人なら今契約したが、この場は黙っておくことにした。
「公選であれ、私選であれ、貴女の弁護を引き受ける者などどこにも存在しません。法務貴族ギルティを真っ向から敵に回すことになるのですから。そのような愚かな者はこの国には存在しません。なにより次の公判ではこの私が検事弁護士を努めます。ワーラー検事のようには行かなくてよ」
我が兄ワーラーはさすがに退場となったようだ。
レンガ検事は控えていた法務助手に書類を出させ、そのまま私に突きつけてきた。
ジトーク子爵殺害を認める供述書のようだ。
「サインをなさい。チャンスはこの一度だけです」
なにかしら気の利いた台詞で返したかったが、うまい言葉が出てこなかった。
やむなく素直にペンを受け取り、書面いっぱいにバツをつけて戻す。
「こちらを」
我が姉レンガの頬が引きつった。
「チャンスは一度。聞こえなかったのかしら」
「二度仰っていただかなくても結構ですよ」
「後悔することになりますわよ」
「起訴の取り下げはなさらないのですか? 検察側にはその方が無難だと思うのですが」
「ふん」
我が姉レンガは鼻で笑った。
「私をワーラーやウッドと同じように見ないことね。私が動く以上、貴女の運命は決しているわ。このレンガ・ギルティの名にかけて、ギロチン台に送り込んで差し上げますわ。もう一度だけチャンスを与えます。次の公判までに、じっくりとお考えなさい」
一度だけのチャンスがまた増えた。
「ご健闘をお祈りしております」
表情は動かさず、私はそう返す。
「法廷でお会いしましょう、レンガ検事」