起床:拘置所の朝
第二幕に入ります。
裁判初日を乗り切った私は、それまでいた中央警視庁の拘置所には戻されず、司法省が所管する裁判所直轄の拘置所に移された。
拘置所は逮捕から裁判が終わるまでの間、犯罪被疑者、被告人を拘束しておく場所だ。
有罪判決を受けた人間を処罰、更生のために拘束する刑務所とは似て非なるもの。
建前上は有罪判決が出る前は罪人扱いをしてはいけないことになっているのだが中央警視庁所管の拘置所ではそのへんの線引きが徹底しておらず、自白を引き出すために食事を抜く、ひどいときには水を抜くと言った拷問施設のような行いがまかり通っていた。
それが行き着くところまで行き着いたのが今回の私への毒物投与だったのだろう。
私が麻痺状態に陥れられたのは取り調べ中に拘置されていた中央警視庁の拘置所内。
私に棘貝毒入りの点滴をつけたのも中央警視庁拘置所の医者だった。
組織的犯行であったことは明らかで、このまま中央警視庁所管拘置所に戻せば口封じの懸念があるということで司法省所管の拘置所に身柄を移されることになった。
毒物投与に関与していると思われる我が兄ワーラー、ウッド、中央警視庁のジショーエス警部についてはクラレント裁判長、ハフリ法務騎士から司法省や皇帝陛下に報告し、対応していくことになるようだ。
高級感までは漂っていないが、住み込んでいたジトーク子爵家のメイド部屋程度には清潔な独房に入り、まずは一眠り。
出された夕食を取ってからまたすぐ眠って、翌朝早くに目を覚ました。
棘貝毒の麻痺はもう残っておらず、普通に歩き回ることができた。
ベッドに腰掛けて今後のことを考える。
検察側が起訴を取り下げるかどうかはわからないが、公判継続となった場合の備えは必要だ。
我が兄ワーラー検事によれば、検察側には有力な証人が存在するらしい。
私はジトーク子爵を殺していないので偽証の予告をされたようなものだが、それなりにもっともらしい話をしてくると見るべきだろう。
こちらも無罪の主張を強化する手札を増やしたいところだが、拘置中ではどうしようもない。
公選弁護人を頼むしかなさそうだ。
新帝モフスコ一世が進めている司法制度改革で最近導入された制度で貧乏人でも公金で雇われた公選弁護人を頼むことが出来る。
私の場合勝手にやってきた次兄ウッドが担当弁護士でございとやりはじめてしまったので頼めなかったし、頼んでも良い弁護士が来てくれる保証はないが、現状他に打てる手がない。
とにかく請求は出しておくべきだろう。
やがて起床の時間がやって来る。
朝食をとったあと、医師の診断を受ける。
棘貝毒の後遺症はなし。
自分の足で独房に戻ってシャワーを浴びると、看守に面会所に行くよう指示された。
ギルティ家の人間が来たのかと警戒しつつ面会所に入る。
待っていたのは黒い鎧の怪人。
ハフリ法務騎士だった。