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妖精とワイルドな王子様  作者: 爽健茶美
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9 異世界人専用護衛騎士






 レイ達が現れる数週間前、神殿では二人の異世界人が現れるとのお告げがあり、異世界人専用護衛騎士募集中の紙が城中に張り出された。


 それを見た騎士達は


「また我が国に来てくださるようだ」

「よし!今度こそ私がなるぞ」

「いや俺が!」


 と競って応募しに行った。


 応募とはいっても、ただ異世界人専用護衛騎士を希望する者リストに名前を書けば良いだけで、選抜方法も簡単な面談があるだけだった。

 面談では己の属性を明かし、応募動機を話すことになっていた。


 そして、ここにも一人。


 私は異世界人崇拝者でもないし

 おそらく選ばれることはないだろうが

 万が一ということもある

 お給金がいいのだから

 妻と子供のために

 名前だけは書いておこう


 という男がいた。


 数日後、数名の闇属性の者達からの面談を受け終えていた彼は、合格者発表の紙に己の名前が載り張り出されているのを見て仰天した。


「お前やったな!」

「暫く金持ちだぞ」


 と同僚に背中をバシバシ叩かれたが、まさか合格するとは思っていなかった彼は、だんだん不安になってきた。


 何故私が選ばれたんだ?

 異世界人の方はどのような方だろう

 多少の我儘は耐えられるが

 余りにも理不尽な要求をされたら

 どう対応すればよいものか


 

 そして、異世界人が現れるとお告げのあったその日、二人の異世界人と出会った。

 彼は、その美しさに驚愕した。

 異世界人はもともと、こちらの世界では珍しい小柄な体型だったり、スッキリとした顔立ちの方が多かったが、その中でも二人の美しさは際立っていた。


 前に来られた方は文官のような方だったな

 その前の方は気の強い派手目な女王様のような方で

 今回は美しい妖精のような方と

 我々よりずっと騎士らしい方

 あ、いや、違うな

 ちょっと悪い感じの王子様だな


 彼らは恋人同士のように見えたが、どうやら喧嘩中、というより彼女の方が一方的にオカンムリの様子であった。

 ただ、プリプリしている彼女の方も自分達騎士達にはとても優しく、これから宜しくお願いしますね、とでもいうように微笑んでくださったので、ひと安心した。

 男性の方は、最初こそ目つきが鋭くて少し怖い方なのかと緊張したが、意外とよく気がまわる優しい方のようだった。


 そして自分以外に選ばれたという、もう一人の異世界人専用護衛騎士もその場にいた。

 彼はまだ歳若く十代にも見えたのだが、その目つきは怒っているのかと思うくらい鋭かった。

 目が合ったので「これから宜しく」と会釈で挨拶をしてみたのだが、プイッとそっぽを向かれて無視されてしまった。

 これにはちょっとだけ心が折れそうになったが、まぁ人見知りなのかもしれないし、と思うことにした。


 それから馬車までの移動では、ルカ様が荷物入れのキャリーケースというものの運び方を教えてくださった。


「な?ここ引っ張ると楽だろ?騎士様よろしくな」

 

 これにはコマがついているのだが、森は根っこだらけで草も生えており平坦な道が少ないので、右に左にガッタンゴットンと動いてしまって、真っ直ぐ運ぶのに、もの凄く苦労した。

 ルカ様の大切なお荷物に傷をつけるわけにはいかないし、ましてや倒してしまったら大変だ。

 私が四苦八苦してキャリーケースを転がしていると、ルカ様が私の心配もしてくださった。

 ルカ様は見かけは少々怖い方だが、お心はお優しい方なのだ。

 ただ、レイ様を大切にされるあまり、フリードリヒ宰相様に対しては少し反抗的だったように思う。


 そうこうして何とか森を抜け、馬車まで来た。

 フリードリヒ宰相様は、近いうちに私達を紹介してくださると言っていた。

 最初は不安だったが、お二人とも優しそうな方で良かった。

 もう一人の異世界人専用護衛騎士とも、今後話す機会が何度もあるだろうから、いづれ仲良くなれたらいいと思う。



 翌日の朝、再びフリードリヒ宰相の訪問を受けたレイ達は、異世界人護衛騎士の説明を受けていた。


「それでは私達の護衛騎士の方々がいらっしゃるのですか?」


「はい。異世界人を行き過ぎた崇拝をするような護衛は私達属性が判断して省いておりますのでご安心下さい」


「崇拝?神かよ」

「別に崇拝されても構いませんけど」


 レイは「問題ないわ」といった様子でいたが、ルカは「お前はあるだろ」とケラケラ笑っていた。


「そうですね。異世界人の方々は一部の者にとっては異世界語で言うところのアイドルですので」


「つまり、異世界人ファンの方々がいらっしゃるのかしら?」


「まぁそうなります。彼らは誰が推しだからと、その方の衣服や髪型、口調などを模倣してみたり、ファン倶楽部なるものに入会したりしていますね」


「へー、ファンなら俺ら慣れてるから大丈夫だろ」


 ルカが何てことない風に肩を上げた。


「いいえ、彼らの中には問題行動のあるファンもおります。異世界人護衛騎士をつけることはフィンレー王国の決まりですのでお守りください。ただし、城外へお二人でお出かけの際は、ルカ様が若い男性でいらっしゃいますので、護衛は一人とさせていただきます」


「別にいらねーんだけど。ま、仕方ねぇか」


 ルカがぶっきらぼうに言った。


「でも騎士様って闇属性の方なら負けなしですよね」


「フリードリヒ様もお強そうだし」とレイが言うと、フリードリヒ宰相は楽しそうに笑った。


「何故、そう思われるのですか」


「えー?何故だと思います?」


 レイは心を読んでもいいですよ、的に含んだ言い方をした。


「そうですねぇ」


 フリードリヒ宰相も顎に手を当ててレイを見つめて目を細めた。

 二人は暫く見つめ合うとどちらからともなくクスクスと笑い合った。


「おい、イチャイチャすんな」


 ルカの機嫌が一気に悪くなった。


「御免なさい、ルカ。心を読まれるなんて素敵なことだから、ちょっと体験してみたかっただけなのよ」


 レイはルカに腕を絡ませ甘えてご機嫌をとった。


「ムカついた。そーゆーのやめろよな」


「うん」


 レイはルカの頬にチュッとキスをしてルカと恋人繋ぎをすると話を続けた。


「私は、騎士様なら絶対に闇がお得だと思うんです」


 フリードリヒ宰相がちょっと揶揄うような、面白そうな顔で聞いた。


「ほう。それは何故でしょうか」


「それはそうでしょう?だって、相手が斬りかかってきても心を読んだら避けれるじゃないですか」


 フリードリヒ宰相は、予想通りの回答に微笑んだ。

 この手の話は、闇属性の子供が騎士に憧れて自分の父親によく聞く事だった。


「ご希望に添えず申し訳ないのですが、それは出来ません」


「えー何故ですか?」


 レイは意外な答えに驚いた。


「体が避けるのは反射で、一種の本能のようなものです。私達は剣を振り下ろす速さで瞬間的に心を読むことはできません。騎士の動きが速すぎますので、心を読んでいる間に斬られてしまいます。それゆえ騎士は、より実践的な火や風、または水や土といった属性の者達がなるのが一般的なのですよ」


「そうなのですね」


 ここでもやっぱり、ダサい光は出てこないのね


 レイは思った。


 そして、レイ達を護衛してくれるという騎士二人が紹介された。


「初めまして。レイ様の護衛をさせていただきますライリーと申します。属性は水です」


 ライリーは礼儀正しく深く頭を下げた。

 彼は肩まで伸びたクセのある赤毛に、こちらの世界であるあるのガッチリした騎士様風体型で浅黒い薄めのお顔だった。

 ルカはライリーをチラ見すると、ナシだな、とレイが惚れる確率を瞬時にたたき出し、安心した。


「まぁ!ライリー様、お水の属性だなんて羨ましいわ。こちらこそ宜しくお願いします。今度お水のスキルを見せてくださいね」

 

 レイは、ここぞとばかりに可憐な笑顔でニッコリと微笑みかけた。


 ライリーは真っ直ぐレイを見つめ


「はい、勿論でございます。またレイ様、どうぞ私の事はライリーと敬称なしでお呼びください」


 と深々と頭を下げただけで、全く赤くならなかった。


 珍しいわね

 私を見て表情を変えないなんて……

 わかったわ

 きっと、変わったご趣味の方なのね


 レイは勝手に納得したが、レイの心の声が聞こえてきたフリードリヒ宰相は笑いを堪え、プルプルと震えていた。


 次にもう一人、主にルカの護衛をする少年が紹介された。

 肌は青白く細マッチョで、背はライリーよりも低いが目つきが鋭く、ショートな青い髪に線で描いた様な極薄のお顔をしていた。


「ニールです。火です」


 ニールはペコリと軽く頭を下げた。


 あら、こちらは愛想が無い方なのね

 まぁルカは気にしないでしょうけど


 ルカはニヤニヤしていた。 


「おー頼りにしてっから宜しくなー」


 それを聞いたニールは、また軽く頭を下げた。


 こうして二人の護衛騎士はこれから暫くの間、レイとルカの担当となった。


 その日の夜レイは、既に読み終わった光属性の本の上級編を図書室へ探しにいくルカに


「いいか?俺が戻るまで、ゼッテー寝んなよ?わかったな?」


 と言われたので、仕方なくお風呂だけ入って頑張って起きていたのだが


「そういえば、まだ王都でお茶するお店を決めていなかったわね」


 などと思い出したので、後は寝るだけの状態のままベッドの上に寝転び、気になったお店を厳選しながらペタペタと付箋を貼っていくうちに、その単調作業で寝落ちした。


 割と急いで戻ってきたルカが、ベッドから聞こえてくる可愛らしい寝息を聞き、膝から崩れ落ちたことは誰も知らない。






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