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妖精とワイルドな王子様  作者: 爽健茶美
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7 異世界人②






 フリードリヒ宰相が「また夕食前にお声がけいたします」と扉の外に護衛を立たせたまま出て行ったので、四人はそれぞれ向かい合って三人がけソファーに腰を下ろした。


 そのうち、どこからともなく数人の侍女が現れ、ササッと素早くお菓子やお茶の準備をして出て行った。

 侍女達はレイとルカをチラリと見ると、それに気づいた二人がニコリとニヤリとすると、恥ずかしそうに顔を真っ赤にして去って行った。


 四人は年も近く、最初から既に名前呼びをしていたので、すぐに仲良くなった。

 クッキーを食べ、紅茶を飲みつつ、四人はお互いのトリップ前後の話で盛り上がった。

 マリーはお客さんと店前同伴する日にトリップしたらしい。


「あの時は死んだかと思ったわ。お店までの近道だったからホテルの通路を通っただけなのに、変なモヤモヤが襲ってきて。こっちに来たらまぁ悪くない待遇だったけど、でもタイミングが悪かったのよね。お客さん、スっごくイケオジだったの!」


 マリーは彼氏を作らず、若いうちに遊ぶ派らしい。


「そいつは惜しいことしたな。マリーはオヤジ好きなのか?」


 ルカが身を乗り出して面白そうに聞いた。


「いいえ別に。ただ、年齢その他でストライクゾーンが広い事は確かね」


 今度はレイが興味を持った。


「まぁ!それならマリーは相手のお顔が普通でも構わないというの?」


「全然?私は精神と身体を鍛えてないと嫌なタイプだから」


「ほうほう、いいネェ。よく聞いとけよ、レイ」


 ルカがレイの頭を引き寄せて顔を覗き込みながら言った。


「あ、あとお金ね」


 マリーが付け足した。


「よく聞いたわ」



 アユミは、模試の会場に急いでいて抜け道としてホテル脇を通ろうとしたらしい。


「私も死ぬんだと思った。今までの人生が走馬灯のように頭をよぎっていったもん。でも、模試の対策もしてたのに受けれなかったのが無念だったな」


 マリーはアユミを見て溜め息をついた。


「模試が受けれなくて残念だなんて、あなた本当に変わってるわ」


 マリーは半笑いで


「ちょっと考えられないわよね」


 とレイとルカに同意を求めたが、二人の答えは


「そりゃそーなるだろ」

「それは残念だったわね」


 だった。

 同意してもらえたアユミも嬉しそうだった。


「ちょっと待ちなさいよ。あなた達もそっち派なわけ?」


 マリーが驚愕の表情で言った。


「そっち派が何かよくわからないけど、私とルカは全国模試の上位者だったから、アユミの気持ちはとてもよくわかるわ」


 ルカも同意した。


「名前が載るのは気分いーからな」


「お袋も喜ぶし」とルカが言った。


 マリーは完全に蚊帳の外の人になった。


 大体、模試って何よ

 受験以外に試験を受けるだなんて

 やっぱりどこか頭おかしいのね


 マリーは首を振った。


「でも凄いね。私は塾に通ってたけど名前なんて一度も載ったことないもん。二人はどこの塾?」


「私もそこに通いたかったな」とアユミが言った。


「通ってないわ」

「ああ、家庭教師がいたからな」


「え!?そうなんだ!二人ともお金持ちなんだね」


 アユミは感心していてが、マリーは固まっていた。


 わざわざ勉強に高いお金出して人を雇うの?

 もう変人の域じゃない


 そしてなにはともあれ二人とも王子達に保護されたのだ。


「レイは偶然じゃなくて、義理のお姉さんの意図を感じるわよね」


「私もそう思う。ルカさんは巻き込まれた感じだね」


「それがそーでもねーんだわ」


「どういうこと?」


 レイが不思議そうに聞いた。


「ユミ姉ちゃんな、俺にもまだ間に合うから例の場所へ急いで行けって言ってきたんだよ。よーわからんが」


「じゃあ、二人をこっちにやったってことだよね」


「何故かしら」


 四人は首を捻った。



 そのうちマリーが呼び名の話をしてきた。


「ねぇ、知ってる?あなた達の二つ名だけど、レイは妖精とか言われちゃってるらしいわよ。で、ルカの方は王子様」


 真ん中に赤いジャムが入ったクッキーをつまみながら「美男美女は得よねー」とマリーが言った。


「まぁ、それしか思いつかないのでしょうね」

「そうだな。俺らにピッタリだしな」


 レイ達が肩をすくめて答えると残る二人がギョッとした。


「あなた達って……日本人よね?よく自分で言えるわね。何か凄いわ」


「そう?ありがと」

「まぁな」


 褒めてない


 マリーとアユミの心は一つになった。


「そっちは何て呼び名なんだ?」


 すると二人は、ぎこちなく笑って互いに顔を見合わせた。


「私は、ブラッディマリー、らしいわ」


 ルカは紅茶を吹きそうになった。


「おい、痛すぎるだろ」


「私だって嫌だけど?仕方ないじゃない、陰で勝手に呼ばれちゃうんだから。理由は聞かないで。言いたくないから」


 マリーが腕を組んだのでルカは「何だよ、仕方ねーな」と諦めた。


「で、アユミは?」


 ルカが聞くとアユミがビクッとした。

 こころなしか顔も赤い。

 マリーを見ると、口を抑えてアユミと反対側の横を向いていた。


「あー聞かねー方がいいのか」


 ルカが諦めかけると、


「……の人」


「あ?何て?」


「だから、こ、孤高の人!」


 とうとう耐えきれなくなったマリーが吹いた。

 それを聞いたルカは珍しく気を効かして作り笑いをした。


「こっちの奴らのネーミングセンス、なんかスゲーな」

 

 レイは


 やっぱり私は素敵なネーミングなのね

 愛想は振りまいておかないと損をするのよ


 と納得していた。




「で、単刀直入に聞くけど、あなた達付き合ってるのよね?」


 マリーがズバリ聞いたので、アユミが焦った。


「やめなよ、プライベートなことなんだから」


「当たり前だろ」

「そうね」


「そう。同じ部屋だからそうじゃないかと思ってたんだけど、やっぱりね」


 マリーはルカを、カッコいいと思ったけれど残念だわ、と諦めた。

 アユミは、気さくな人達でよかった、と思っていた。


 その時「そろそろ夕食のお時間です」と扉の外から声がかかり、今日の談話が終わった。



 帰りに「フリードリヒ様よりお話は聞いておりますのでご案内いたします」という異世界人の護衛一人に図書室まで連れられたレイ達は、ルカは属性関連の本と世界地図、レイはフィンレー王国のガイドブックらしきものを何冊か借りて持ち帰った。



 夕食は軽めの洋食コースで、其々の部屋で食べたのだが、上品な薄めの味付けでとても美味しかった。


 異世界人は保護される立場なので、どうしても国の重鎮か護衛や侍女に囲まれることが多くなり、中にはそれをストレスに感じてしまう人もいる。


 レイとルカは昔からその容姿で、人に囲まれることには慣れていたので全くストレスを感じなかったが、一般の人は食事の時くらい一人になりたい、といった人も多いのだ。


 ちなみにこちらでは十六才は成人なので、ルカは「酒飲みてぇ」と言っていたが、変なところで真面目なレイが「未成年でしょ」と反対したので、侍女がワインを下げてしまった。



 入浴後、満腹になったレイは、ベッドの上でルカの横でボーッとしていたが、ふと昼間のマリーとルカのお胸についての会話を思い出してモヤった。


「おわっ!?何すんだよ大事なもんが潰れんだろ!」


「アラ御免なさい、(かかと)が滑っちゃって」


「お前ゼッテー俺殺す気だろ」


「そんなことないわよ?愛してるもの」


「……そいつは嬉しいけどな。何か目が怖ぇぞお前」


「多分、美し過ぎるからじゃないかしら」




 歯を磨き、あとは寝るだけにしてからベッドの上で借りてきた本を読み始めた。


 二人とも集中し始めるとダンマリになるので、暫くシーンとしていたが、ハッと我に返ったルカが「レイ、まさかまた寝てねーよな?まだだよな?」と期待を込めた声で隣で丸くなったレイを揺すってみたが、レイはすでに夢の世界へと旅立った後だった。


「っだー!またやっちまったじゃねーか!」とルカが頭をかかえて一人で騒いでいたが、レイはガイドブックを床に落とし、幸せそうな顔でスヤスヤ寝ていたのだった。






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