33 告白②
少し前のお話。
レイとルカが、こちらの世界に戻ってきてすぐのこと。
ルカは、廊下でセカセカと歩くマーガレットを見かけたので声をかけた。
「お、マギー元気してたか?今日も安定の堅物だな」
ルカは、お城の廊下で転びかけたマーガレットを助けて以来「あ、巨乳のネーチャン」と話しかけ「その呼び方はやめてください。私の名前はマーガレットです」と引きつった顔で怒られていたりしたのだ。
「お早う御座います、ルカ様。前々から申し上げたかったのですが、私の愛称を許可なく呼ぶのはやめてください」
ルカが、面倒臭そうな顔になった。
「堅い事言うなよ、仕方ねーだろ?お前の名前長げーんだから」
「そういう問題ではないと思います」
「まぁ、いーじゃねーか。で?ここで何してんだ」
「……今年の精霊祭の準備をしていたのです。今年は我が国の番ですから」
「へー、じゃ頑張れよ」
マーガレットが答えると、ルカが自分から聞いておいたくせに興味がなさそうな返しをして歩きかけた。
「お待ちください」
マーガレットが、去ろうとしていたルカを呼び止めた。
「何か用か?」
偉そうに腰に手を置いたルカが振り返るとマーガレットは硬い表情で言った。
「前から一度、お聞きしてみたかったのですが」
「いーぜー、何でも聞けよ」
「では遠慮なく。ルカ様は、レイ様のどこがお好きなのですか?」
意外な質問にルカの眉が上がった。
「レイか?そんなモンお前、全部に決まってんだろ」
「全部、ですか」
マーガレットは信じられない、といった顔をした。
ルカは嘘をつきそうにない人だが、どうせ顔とか顔とか言うに決まってる、と思っていたのだ。
それほどまでに、マーガレットはレイに否定的だった。
「それでは良さがわかりません。確かに、お顔はお綺麗だと思いますが」
「だろ?でもなぁ、全部っちゃ全部なんだよ。アイツは自分に正直だろ?んでもってお人好しだし、顔も頭も運動神経もいーんだよ。まぁ俺には負けるが、悔しがるとこがまた可愛いくてよ。髪だって、とかさなくても細くてツルツルでサラサラだし、肌も陶器みてーだし。唇も、リップつけなくても紅いんだよ、スゲーだろ?あと、アイツの爪見たことあるか?もう桜貝みたいにピンクで薄い爪してんだよ、可愛い過ぎんだろ。そんな爪だから、前にネイルとかしねぇの?って聞いたことあんだけどよ、ネイルが剥がれかかった爪が綺麗じゃないからしないんだとよ!美意識高くね?てか、ヤバくね?」
マーガレットはそれから小一時間、レイのどこが可愛くね?なのかをみっちりとレクチャーされ、この質問は生涯しないでおこう、と心に誓った。
てか、死ぬほど長くね?と思ったマーガレットだった。
そしてその後「マーガレットさんらしくないですね。どこで油を売っていたんですか」とノア神官から言い訳も出来ずに叱られてしまったのだった。
そんなベタ褒めしたレイに、ルカは今日、追い詰められていた。
王都デートから部屋に戻ってきた二人は、先にお風呂に入り、後は寝るだけの状態で夕食をいただいた。
夕食の後は侍女が、リラックス効果が高くてよく眠れるという温かいハーブティーをポットごと置いていってくれた。
二人は並んでソファーに座ると、ハーブティーを飲みながら昔話を始めた。
レイが、ルカの肩に頭を乗せると「甘えん坊だな」と細マッチョな腕を回してギュッと抱きしめ、おでこにキスしてくれた。
レイはルカの胸元で、お風呂上がりの石鹸の香りを堪能しながら言った。
「私ね、あの時はルカが好きだったのよ」
「そうだったのか!?」
驚いたルカが、腕の中にいるレイを見た。
「うん。でもね、ルカに彼女さんがいたから諦めたの」
それを聞いたルカが悶えた。
「んだよ、お前それ早く言えよ!俺はあん時、お前があの事件以来男恐怖症になったから男は無理だ、お前も無理だ、とかお前の兄貴に言われてたぞ!」
「あーアレね。嘘なのよ」
「嘘だったのかよ!」
ルカは、レイの言葉に衝撃を受けた。
「だってお兄様ったらルカのこと、感謝はしてるけどガラが悪すぎて好きじゃないって言ってたもの」
「ハッキリ言うな、お前。まぁ、お前んとこの兄貴に嫌われてるのは知ってたけどな。最初にこっちに来る前なんか特にヒドかったし」
ルカが当時を思い出し渋い顔をした。
「それはルカが私のお部屋に不法侵入してきたからじゃない?」
「お前がブロックするからだろーが」
「だって、他の子とキスなんかしてショックだったんだもん」
レイが膨れた。
「そーかぁ?あんなもん挨拶だろ。あ、お前はやったらダメだからな」
理不尽王子のルカだった。
「絶対に違うわ。粘膜と粘膜が合わさるのよ?気持ち悪いじゃない」
「うわ、お前そういう表現すんなよ。超キモいじゃねーか、オエ」
ルカが、自分自身を抱きしめるようにして両腕をさすりゾワゾワした。
レイは、そんなルカの様子をジッと見つめた。
そして、王都の帰り道でルカに誤魔化され、気になっていたことを聞いてみた。
「ねぇ、ルカはどうしてタトゥーを掘るの?」
急なレイの質問に一瞬戸惑ったルカは、またその話かよ、という顔をした。
そして話を逸らそうとしてみたが、レイの真剣な眼差しに茶化せないことがわかると、頭をかきながら仕方なく降参した。
「まぁ…そりゃあ……あれだ。可哀想な俺はな、お前に彼氏ができる度にコレを増やしてったワケだ」
ルカは、決まり悪そうにレイから目を逸らした。
レイは驚いて、口に手を当てた。
「まぁ!そんなことが理由で!?……怖いわ」
「失礼なヤツ」
ルカが文句を言った。
レイは信じられないわ、と言わんばかりに目を瞑ると首を振った。
「ルカ。貴方、恐ろしい勘違いをしているようだから教えてあげるけど」
「何だよ」
「そんなことくらいでお身体にいちいち傷をつけていたら、私はこの上なくモテるんだし、折角のルカのナチュラルな美しさが人工的なものになっちゃうじゃないの!」
「そこかよ。私のせいで傷なんかつけないで?とかじゃねーのかよ」
「勿論、それもあるわ」
「怪しいな」
ルカが、目を細めた。
「んーそうね、わかりやすい例えが必要かしら?じゃあ、思い出してみて!元は素晴らしい絵だったキリス◯のフラスコ画。修正された後、お水を口に含んで何人の方が静視出来たかご存じ!?」
「知らねーよ」
「じゃあもう掘らねぇよーにしてくれよ」と、ルカが言った。
「もちろんよ。実は今だから言うけど、ルカの元彼女さんがわざとらしくルカに抱きついたりするのを見てね、思わずお金に物を言わせて、何かをしてしまいそうになったことが一度や二度じゃなかったのよ。でも何とか我慢したのよ、偉いでしょう?」
「下手にお金を持っていると苦労するのよねー」と、レイは妖精のような顔で美しく微笑んだ。
「お前それ、ヤベー奴じゃねーか」
ルカが、でも嬉しそうに笑った。
「やっぱ、俺の女はレイじゃねーとダメだな」
「私もルカがいいわ」
「知ってる」
それからレイとルカは、どちらからともなく大人ちゃんなキスをした。
そして、そのまま何となく流れで婚約をした。
二人の婚約の噂が流れてからすぐに、精霊様のクリスタルの像が強風で倒れて粉々になってしまった。
そして暫くの間、修復工事をするため神殿が使用禁止になってしまったのだった。




