32 告白①
半年後、レイとルカは約束通りフィンレー王国へ戻ってきた。
二人とも、色々なお土産を世界中の旅行先で山のように購入して四つの巨大なキャリーケースに詰め込んできたので、お城の皆に大喜びされた。
そして暫くの間、こちらの人々に珍しい向こうの世界のお土産あれこれがブームとなった。
マリーは、髪の毛の色を地毛に戻すヘアカラーを大量にもらい、感激していた。
「こっちはカツラしかなくいから困ってたのよ。もう結婚式は髪を伸ばして、金髪部分を切るしかないと思ってたんだけど、これさえあればアップする長さも十分だわ。レイ、ありがとう!」
レイは、マリーの巨乳に押しつぶされ、ギュウギュウと抱きしめられていたが、
「レイに頼まれた俺が買ってきてやったんだけどな」
というルカの声は綺麗にスルーされていたが、ルカが徐に、
「感激ついでにコレもやるよ」
と、マリーの家族からの手紙を渡すと「ありがとう」と涙目になって受け取っていた。
「私達これからアユミのお部屋に行くから、お手紙はゆっくり読んでね」
そう言うと、レイとルカはマリーのお部屋を後にした。
アユミには、清楚系ファッション雑誌を数冊と、男女のアレコレ体験談を載せた本をあげた。
「ありがとう!うわー可愛い服だね、こういうの私好きかも。あ、このメイクも勉強になる」
アユミは、興奮して雑誌をペラペラとめくり喜んだが、体験談の本を開いた時は「凄い、こんな本も出てるんだ。ランドルフ様とデートの参考にさせてもらうね」と最初だけ目をキラキラさせていたが、何ページかめくっていくうちに「うん、なるほど」と真っ赤な顔で閉じてしまった。
「アユミ、これもあるぞ」
ルカが、真っ赤な顔のアユミに手紙を渡した。
「ありがとう」
手紙を読んでいくうちに、アユミは例によってウルウルして鼻が赤くなっていった。
「……アユミお前な、泣き顔がワンピー◯のバギーみてーで面白ぇんだから気をつけろよ?ランドルフの前でやるんじゃねぇぞ」
ルカが真面目な顔で言うと、レイが素早く神官長から貰ったピアスを取り出した。
「レイ、それ間に合わないから」
アユミが、鼻をすすりながら笑った。
それから数週間が経ったある日。
王都のデート中だったレイとルカは、大通りで平民男性同士の殴り合いの喧嘩に出くわした。
二人の男性は、どうやら二人の喧嘩にオロオロとしている、そこそこ美人さんの平民女性を取り合っているようだった。
人々は面白がって「俺は金髪」「じゃあ俺は栗頭の方な」と、どちらの男性が勝つか賭け始めたりした。
レイは、自分と手を繋いでいるルカを見上げたが、ルカは喧嘩を横目でチラリと見ただけで特に気にすることもなく
「レイ、ボケッとしてねーで、ホラ行くぞ」
とスタスタ歩き出し、お城へ戻る馬車までくると、レイを乗せた。
馬車は、護衛騎士のニールが御者の隣に座り、「動くよ」とレイ達に声をかけると、ノロノロ出発した。
馬車の中でルカの隣に座ったレイは、王都で不思議に思っていたことをすぐに聞いてみた。
「ねぇルカ、さっきの喧嘩してた人達のことなんだけど、どうして仲裁しなかったの?昔は、よく止めに入ったりしてたじゃない」
「元彼同士が私のことで喧嘩になった時だって、飛んできてくれたわよね」レイは言った。
ルカは、肩をすくめた。
「そりゃお前が巻き込まれてたからだろ」
「あら、ルカは腕に自信があるから喧嘩してたんじゃないの?」
ルカが、ハァ?という顔になった。
「ヤだね、俺痛いの嫌いだから」
「嘘よ、だってルカ喧嘩強いじゃない」
「お前、何か勘違いしてるぞ。俺はな、殴られんのが嫌だから先に殴るわけ。わかるか?殴られたら痛ぇだろーが」
「あら、タトゥーだって痛いんじゃない?」
「これか?これには深い理由があんだよ」
「理由ってなあに?」
「……言いたくねぇ」
ルカが口籠った。
「あ、わかっちゃったわ」
レイが細い目になった。
「何だよ」
「やっぱり病んでるんでしょ」
「ふざけんなよお前」
ルカが笑ってレイを抱き寄せた。
「初恋なんだよ」
「誰が?」
ルカが呆れた。
「お前、時々アホだよな。この状況でお前しかいねーだろが」
「えー?ルカが私に?嘘よ、そんなこと一言も言ってなかったじゃない」
レイは、半笑いのような疑いの目をした。
「信じねーのは勝手だけどよ。言いたくても言えなかったんだよ。わかるか?」
「うーん?わからないわ。言えば良かったじゃない」
首を傾げるレイに、ルカは嫌そうな顔をした。
「言おうとしても、お前にはいっつも彼氏がいただろーが」
「あら、ルカだって彼女さんいたじゃない」
「可哀想な俺はいーんだよ。お前が彼氏とイチャイチャしてるのに、俺に彼女くらいいねーと寂しくて死んじゃうだろ」
「何それ」
レイが笑った。
「とにかくだ、俺は初めて会った日からレイの事を愛してんだよ。一目惚れだからな」
「嬉しいわ、ありがと」
ルカがジト目になった。
「お前は違ったよな、失礼にも」
「そうね。従兄弟のお兄様じゃなかったかしら」
「お前の写真を部屋中に貼ってた、変態ヤローだぞ?奴の秘密の部屋に入った瞬間マジでビビったぜ。忘れもしねぇ」
「そうねー、まぁ、彼が多少ロリコンだったのは認めるわ」
「お前はアレを多少というのかよ?スゲー奴だな」
「ありがと」
「褒めてねーよ」
レイは、ムスっとした顔のルカを見つめた。
レイの視線に気づいて見つめ返すルカは、切長な吊り目さんで人から怖がられがちなのだが、その瞳はいつも優しく、慈愛に満ちていた。
「ルカ。私ね、従兄弟のお兄様に襲われた時は、本当に驚いたの。さすがにまだ色々と無理だったしね」
「何が無理なんだか聞きたくもねーけどな」
ルカは、慰めてくれるかのようにレイの頬を肩に回した手の指で優しく撫でた。
「くすぐったい。そうそう、それであの時はルカがお兄様をボコボコにして病院送りにしちゃったのよね」
「そーだったな」
ルカはレイの瞳を見つめながら今度は髪の毛を指でクルクルと巻いて遊び始めた。
髪の毛はスルンと指から逃げて、また元に戻った。
レイはルカの形のいい薄い唇をジッと見つめ、そっとキスをした。
ルカが、ほんの少しだけ驚いたような顔をした。
「あの時はビックリしすぎて涙も出なかったの。でも本当はね、豹変したお兄様が凄く怖かった。だから、ルカがお部屋のドアを蹴っ飛ばして乱入してきてくれた時はね、まるでお姫様を救い出す王子様みたいに見えたのよ」
「王子様ねぇ」
「うん。凄くカッコ良かった」
「ま、悪い気はしねーけど?」
珍しくルカが、照れたように笑った。
「まだちゃんとお礼も言えてなかった気がするわ。あの時はありがとうね、ルカ」
「ああ」
ちょうどその時、馬車がスローダウンして止まり「到着したよ」とニールの声がした。
ルカが馬車からヒョイっと飛び降りると、レイに向かって手を差し出した。
「お姫様、お手をどうぞ」
レイが笑って手を伸ばすと、ルカはレイの手を自分の方へクィッと引っ張った。
「あっ」とレイがバランスを崩して前のめりになると、ルカは素早くその腰を両手で掴み、ゆっくりと地面に下ろした。
「もう!王子様はこんなことしないんだから」
驚いたレイが、ルカの胸を押すとルカはレイを抱きしめ、楽しそうにケラケラと笑った。
それを見ていた護衛騎士のニールからは「あのさ、楽しそうだけど、怪我されるとこっちが困るから。やめてくれない?」と注意されてしまった。
そして二人はいつものように手を恋人繋ぎにすると、仲良くお部屋へと帰っていったのだった。




