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妖精とワイルドな王子様  作者: 爽健茶美
24/35

24 隣国にて 懇談会






 隣国は、フィンレー王国よりもかなり遅れていた。

 人々の意識もまだ貴族と平民で差があったし、ついでに一部のイケてる侍女を除けば、話し方も古かった。

 異世界から来た王妃によって、以前よりはマシになったとはいえ、まだまだ色々と課題があるらしかった。


 マリーは、廊下に飾られている肖像画を見て唸った。


 この国の王はイケオジなのよね

 まるでジョニデみたいだわ

 そのくせ抜け目のないキレ者で

 剣の腕前も凄いとか

 もうこれは狙いに行くしかないわね!


 マリーは、アユミが祭りに参加したいと聞いた時にはさして興味がなかったのだが、隣国の王の評判と肖像画を見て、ガゼン行く気になったのだった。

 隣国に着くと、マリーはそれとなく


「こちらの後宮の側妃は何人までですか?」


 とアルフレッド王子に尋ね


「さぁ、どうなんでしょうね」


 とキラキラ笑顔で引かれていた。


 そんなちっぽけなことを気にしないマリーは、隣国の後宮に入る事を想像してソワソワし始めた。


 一番はやっぱり、王妃様でしょうから

 二番手狙いで行くしかなさそうね


 そんなことを思っていたのだが、一連のやり取りをジッと見ていたフリードリヒ宰相がそっと近づいてきて、


「マリー様、残念ながら王は王妃一人に夢中な御様子。後宮も近々解体されるようですよ」


 と教えられたので、ガッカリしてすぐにでも帰りたくなってしまった。


 

 フィンレーの異世界人と王妃様の懇談会は、王妃がお誕生日席で、レイ達は細長いテーブルにそれぞれ対面して座らされた。

 応接間には、王妃付きの侍女頭と数人の護衛が立っていた。

 王妃はレイ達より少し年上だったが、王子が一人いるとは思えないくらい若く、聡明そうな和風美人さんだった。


 一通り自己紹介が終わると「何を話せばいいんだろう?」という謎の緊張感のある空気になった。

 そんな事を全く気にしない男ルカが、爆弾を投下し始めた。


「しっかし王妃様はスゲーよな。俺だったらゼッテー王妃になんてなりたくねーのに。面倒くせぇし」


 皆は、いきなり失礼発言しちゃうの?そうなの?と思った。


「……私も、初めのうちは王妃になる気はございませんでした」


 一瞬ルカ発言に度肝を抜かれ、時間を止めていた王妃が口を開いた。


「王妃様、そのお気持ち、凄くよくわかります」


 レイがしたり顔で参戦した。


「そうですか」


 王妃は、何故貴方が?という顔をした。


「王様の話され方がお嫌だったのでしょう?」


「え?」


 マリーとアユミがギョッとしてレイを見た。


「じゃろう?とか話されると、正直キツいですよね。実は私も、こちらの世界に来た時に王様と最初の謁見で吹き出しそうになってしまって」


「違います」


「失礼しました」


 レイは、珍しく小さくなった。


「お前、そりゃねぇだろ!」


 ルカが、爆笑しながら言った。


「王妃様はアレだろ、王様が毎日浮気三昧で嫌気がさしたんだよな?後宮ハーレムなんざ男にとっちゃ夢の世界だけどよ、女にとっちゃ悪夢そのものだもんな?」


「違います」


「そうか」


 皆は、似たもの何とかってリアルにいるんだな、と思った。

 しかし、ルカの爆弾発言は止まらなかった。


「なぁなぁ、でもよ、俺達の時が止まってんのとかも案外王妃様が原因なんじゃねぇの?」


「言い出しっぺとかいうだろ?」とルカが笑った。

 王妃の侍女頭がチラッと視線を上げてルカを見た。


 皆が、もう喋んないでくれる?と思ったその時、


「そうなのです」


 と王妃が口を開いた。


 皆が、そうなの!?となった。



「トリップした当時、私は治療法のない病でした」


 お部屋の雰囲気が一気に沈んだ。

 誰もが気不味く互いに目配せをし黙り込む中、ルカだけが本人なりに気を遣った上で明るく言い放った。


「マジか。そいつは大変だよな。けどまぁあれだ、時間がいつ戻るか知らねぇけどよ、残り少ない人生、悔いのないよう謳歌しろよ。な?逆ハーレムなんかどうだ?きっと楽しいぞ。一応王妃様なんだし、コッソリ作れるんじゃね?」


 ルカが言うと、王妃はあからさまに嫌な顔をした。

 レイ以外の皆が、アンタ何言ってんの!?となっていた。


「逆ハーレムなど好きではありませんし、そのような不埒な事、考えたこともございません」


 そりゃそーだ!と、レイを除く皆が頷いた。


「へー、王妃様は変わってんだな」


 ルカは目を丸くした。


「ところで、なぜ私が死ぬ前提なのです」


 王妃が嫌そうに聞いた。


「は?だって王妃様もうすぐ死ぬんだろ?だから

時間止めてたんじゃねーのかよ」


「違います」


「何だよ、脅かしやがって」


「こっちはてっきり死ぬもんだと思ったよな」とマリーやアユミに同意を求めたが、二人とも目を合わせてくれず、スルーされた。


「貴方が勝手に早とちりをしたのでしょう。そもそも私の話を聞いてショックを受けているようにも見えませんでしたが」


 王妃がルカをジト目で見た。


「まぁそんなことはいーだろ別に。で?これからどーすんだよ」


 言葉遣い、言葉遣い、皆が思った。


「……契約を解除しに行きます。名目上、あなた方に我が国の泉を案内する形ですが」


「まだしてなかったのかよ」


「……前回は私が泉に現れるや否や、王が待ち構えておられたので余裕がなかったのです」


「オッケーわかった、いっちょ行くか!」


「よろしくお願いします」


「おう、まかせとけって。別にいいよな?」


 レイ達は頷いたが、お部屋の隅に立ち黙って見守っていた王妃様の侍女頭や王妃の護衛達は、なんかルカ様てルカ様なんだな、と思っていた。


 そしてレイは、逆ハーレムって一見楽しそうだけど、気遣いと嫉妬の嵐でお体の管理も面倒臭そうなのよね、と斜め上の想像をしていた。



 それから泉は向かう日を話し合って決めた。

 その後は王妃様の昔話になった。

 何でも王妃が王のお気に入りとなってからは、側妃達による陰湿なイジメが毎日のようにあったそうだ。

 そして子供を身籠り、病の薬をやめて命がけで王子を出産したことで更に後宮の側妃達から命を狙われ、泉で溺死させる殺人未遂まであったという。

 そしてその際、泉の精霊様に時を止める事で病の進行を止め、助けてもらったというのだ。


「なぁ、本当に時間戻して大丈夫なのかよ」


「ええ。もう大丈夫なのです。ある方が助けてくださいました」


「ある方?」


「ええ。その方も私達と同じ異世界人でした」


「マジか」


 ルカだけでなく、王妃様付き侍女や護衛以外の皆が驚いた。




 王妃は日に日に元気がなくなっていった。

 異世界人だけ止まっている時間を、このままにはしておけない。

 異世界人とハーフの王子の成長も遅い。

 でも病のせいで決心がつかないでいた。

 そんな時、元気のない王妃を案じた王が、最近アラビアンな隣国に現れたという王妃と同じ異世界人に会わせてくれたのだ。

 

「その者は其方と同じ国の出身じゃ。聡明な者らしいから、其方と話も合うじゃろう。故郷の話でも聞くと良い」


 王は王妃を故郷に帰すことはしたくなかったので、自分に出来る範囲のことを全てしてあげて、王妃には少しでも元気になって欲しかった。

 日本から来た異世界人と話ができると聞いた王妃は、少しだけ元気を取り戻したかのように見え、王は安心した。

 こうして、異世界人同士の二人は出会った。


「初めまして王妃様、コイシカワユミと申します」




「「……」」


「ねぇルカ」


「なんだ」


「同姓同名ってことはなさそうね」


「だな」


 王妃がハッと顔を上げた。


「お知り合いですか!?」


「お知り合いも何もねぇよ」


「私の苗字は小石川です」


「ええっ!?まさかご家族の方ですか!」


「はい、ユミさんは私の義理の姉にあたります」


「義理のお姉様……」


 王妃は感激して目を潤ませ震えた。


「もうお名前しかわからず、お礼をしたくとも諦めておりました。彼女には心から感謝しているのです。本当に何と申し上げたら良いのか」


「ところで王妃様の病気治したってやつよ、ユミ姉チャンが新薬でもくれたのか?あ、盗ったのか!」


 ルカが心底楽しそうに笑った。


「そんなわけないでしょ」


 レイがつっこむと


「ええ、それはさすがに」


 と王妃が答えた。


「私は一度彼女と日本へ帰ったのです」


「まぁ!」

「へー!で?」


「彼女の紹介で手術をし、お薬もいただきました」


「そうだったんですね」

「そういうことか。成功してよかったな」


「はい」


 話を聞き終えた皆は、あー良かった良かった、とホッとしていた。


 そんな空気の中、それまで黙っていたマリーが口を開いた。


「でも、このままやられっぱなしは悔しいですよね」


 王妃は顔を上げた。


「それは……側妃達のことですか」


「ええ。私なら皆殺しにしますから」


「それはちょっと過激すぎるよマリー」


 アユミが諌めた。


「呑気ね。殺されそうになったのよ?許せないわ」


「うん。それはちょっとアレだったかも知れないけどさ。あ!そうだ、牢屋とかに何ヶ月か入ってもらって反省させるとかはどうかな」


 ルカが鼻で笑った。


「甘っちょろいな。公開処刑だろ処刑」


「ルカ、そんなことして逆恨みオバケとか出たらどうするのよ、怖いじゃない」


「オバケって……子供かお前。じゃあアレだ、もしレイが同じ事やられたらどーすんだよ」


「私なら?そうねぇ。そういう悪い側妃達は逆に生かしておいて、一生懲らしめてやればいいと思うわ」


「例えば?」


「そう、例えば貧乳にしてしまうとか。これは成長期を過ぎた方にとってはもう毎日が地獄というか、絶望的なことだし。それか、全員の属性を光属性に変えてしまって、一生苦しめるとかかしらね」


 真面目な顔で説くレイにルカ達は吹き出しそうになったが後で一緒のベッドに寝てもらえないとか、心身共に殺されそうなので、プルプルとフリードリヒ宰相のように震えながら何とか堪えた。


「貧乳はともかく、何故光属性なのかはわかりませんが、どちらも強制的には無理なことですね。彼女達は地方の臣下に嫁いでもらっている途中なので、これからは会うこともそうないので問題はありません」


 それを聞いたレイ達は、王妃になると寛大でなければならないんだな、やっぱなるのは嫌だな、と思っていた。



 それから間もなく、レイ達は王妃様と隣国の泉のほとりに立っていた。

 隣国の泉もフィンレー王国の泉と見分けがつかず、そっくりだった。


 この泉も精霊様が作られたのよね

 

 何となく、仕上がりに適当さを感じるレイだった。


 護衛達には異世界人だけにして欲しいと、泉が見えない遥か後ろに下がらせてから、精霊様を呼び出してみた。

 王妃やレイ達は特に何も思わなかったが、臆病なアユミだけは、


 今、この瞬間に刺客とかに襲われたら

 護衛の人達、絶対に間に合わないよね


 と一人、用心深く辺りを見渡していた。


 間もなくして泉が輝きだし精霊様が現れると、精霊様が立っている真下の水面に何か白っぽいものが見え、すぐに消えていった。


「あら?今何か可愛らしいウサちゃんのようなモフモフが見えたような……」

「気のせいじゃ」


 レイが呟くと、いつもゆるりと話される精霊様が珍しく食い気味に否定してきた。


「お久しぶりでございます。今日は、私達の時を進めて頂きたく参りました」


「……もう、よいのか」


「はい。ただ、子供の成長などは緩やかに願います」


 精霊様は「承知した」と頷くと、消えていった。


 時が戻ったところで特に身体に変化を感じることはなかったが、マリーは女の子の日が終わる嬉しさのあまり泣いてしまい、珍しくアユミによしよししてもらっていた。


 それから、護衛達を定位置に呼び戻したレイ達は、「案外呆気なかったわね」「アイツここにも出てこれんのかよ。モグラ叩きみてーだな」「やめなよ」などとお喋りをしながらお城へと帰って行ったのだった。







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