23 隣国にて 他国の王子様
「楽しんでおるか?フィンレーの妖精」
歓迎パーティーの最中、色気のあるイケボに呼ばれて振り返ったレイは、目を見開いた。
どこかの王族なのだろうか、キラキラと会場のライトに反射して、目が痛くなるような金色の派手な衣装をモリモリ筋肉の身体に纏った、一昔前の濃いーお顔の色黒美形男子が、肌の色と対照的に異様に白い歯を見せながら近寄ってきた。
何この人!
私の一番苦手なコッテリ系の
ガッチリムキムキオバケじゃない!!
一方他国の王子も自分で声をかけておいて驚いた。
なんと!
こうして近くで見ると
噂に違わぬ可憐さじゃ!!
諜報員から聞いたところによると、ルカとかいう異世界人のレイの恋人は、とにかく嫉妬深くて長年恋愛に興味がなく枯れきった神官長ですらライバル視しているという。
王子は近くに立ってこちらを眺めるルカを見た。
その割にはワシを見て睨んだり
話に張り込んで邪魔してこぬな
まぁ、ワシの身分が高いゆえ
何もできんのかも知れぬが……
それとも、ワシが格好良すぎて
既に負けを悟ったとか……
王子は、かなりのポジティブ野郎だった。
王子は、バサバサと長いまつ毛で瞬きをし、わざとはだけさせた胸元からムッキムキの筋肉をチラつかせながら、太くて豊かな長い黒髪をかき上げ、セクシーアピールをしてきた。
そのエキゾチックな色気にやられた周りの女性陣から、悲鳴が上がった。
レイも別の悲鳴が出そうになっていたが、自分達の歓迎パーティーなので、必死に笑顔を取り繕った。
ねぇ、どうしたらいいの?
今すぐサスマタで向こうにやりたいくらいだわ
助けてルカ!
レイの好みも苦手も知り尽くしているルカを見ると、俯いて下唇を噛み必死に笑いを堪えていた。
後でみていなさい
レイは肩を震わすルカを睨みつけると、王子に向き直った。
「素敵なパーティーですね」
私だってもう十六なのよ
少しくらいなら耐えてみせるんだから
そうだわ!フリードリヒ様がいた!
レイは目の端でフリードリヒ宰相を探した。
ちょうどその時、フリードリヒは、婚約者のエリザベスから可愛らしいお花のついたお手紙を受け取っていた。
そしてお手紙にプラスでエリザベスの伝言があるのだという侍女の話を真剣に頷きながら聞いているところだった。
レイは諦めた。
ちなみに、パーティーでは闇属性を無効化するブロックアイテムという独自のエンブレムのついた鉱物が会場の至る所に置かれており、王族もそのアイテムを装飾品として身につけていることから、闇属性の者はその効力を完全に失ってしまうのだが、フリードリヒ宰相から渡された注意事項の紙を全く読んでいなかったレイは、知る由もなかった。
それならアユミ!
ちょうどその時、アユミはランドルフと中学生のように何が楽しいのか、お互い照れながら目で何かの合図をしたり、時々コソコソと内緒話をしながら側から見ればイチャコラしていた。
レイは青筋を立てた。
皆んな私の一大事に何をしているの?
呆れてものが言えないわ!
自分勝手が止まらないレイだった。
そんなことは知らない他国のバサバサ歯ピカ王子は、再び作り物のような真っ白い歯を見せた。
「先ほどのダンスは見事じゃった」
「ありがとうございます」
「次のダンスタイムには是非ワシと……」
「アッ!申し訳ございません、急にお花摘みに行きたくなりましたわ」
「そ、そうか。よいよい、ワシの事は気にせず早う」
「んまぁ、ありがとうございます!王子様もパーティーをお楽しみくださいませ。それでは失礼を」
レイは美しくお辞儀をすると廊下に消えて行った。
その後、柱の影からフリードリヒ宰相を引きずり込むとルカを呼んでくるよう頼んだ。
何とかパーティーを生き抜いたレイは、ルカの胸ををポカスカ殴りながら自分達の貴賓室のお部屋まで戻ってきた。
ところが屋根裏には、先ほどパーティーでレイと話した濃い濃い王子が潜ませた諜報員が、レイ達をコッソリと待っていた。
彼は王子から、妖精がワシのことを何と言っていたか逐一報告するように、とワクワクしながら言われていたのだ。
「あーもう疲れちゃったわ!」
部屋に入るなり、レイがソファーに倒れ込んだ。
すぐ横にルカもレイを労わるように肩をポンポンしながらニヤけた顔でだらしなく座った。
「俺も笑い死ぬかと思ったぜ。アイツお前の一番苦手なタイプだったもんな」
「そうよ。ルカみたいに爽やかな香水なら素敵だけど、もう何なのかしらあの香水!ガラムをスパスパ吸いながらバニラ系の香水を無理矢理嗅がされている感じなのよ!それからあの濃いいお顔!やたら瞬きしてくるし、もうラクダにしか見えなかったわ!」
レイの横では、ルカが腹を抱えて大爆笑していた。
これについてはラクダはともかく、諜報員も思うところがあった。
王子は、巷で人気と聞けば何でも直ぐに取り入れた。
それが一つや二つではなく、全てを。
流行りの煙草や香水などは、香りの強いものなどは何か一つだけ取り入れればよいものを、王子はいつもやり過ぎだったのだ。
「でもまだ一人称がワシでよかったわ。あれで朕は、なんて話されちゃったら、もう会話の内容すら入ってこないんだから!」
レイはルカと「ところで何で朕なのかしら」「知らねーよ」「下腹に力入れてないと笑っちゃうわよね」「気をつけろよ」などと盛り上がっていた。
兎にも角にも諜報員は、情報を手にいれた。
だから、そっとその場を立ち去った。
そして、嘘ついちゃおうかな、と思った。
でも、嘘はいけない。
ではどうしたら?
そうだ、事実を曲げて仕舞えばいいんだ!
例えばそう、さっきの話は王子の名前が出ていなかったから、別の人の話だった、と。
そうそう、王子の話は一切していなかったんだ。
そうだ、そうだった、彼は自己暗示を覚えた。
つまらん
諜報員の話によると、レイは王子の話をしていなかったらしい。
王子は気が抜けた。
まぁ、恋人の前でわしの話など話しとうても
話しづらかったのじゃろうな
またもやポジティブで幸せな結論に至った。
そして次の日もまた懲りずにレイを見つけた濃い濃い王子はバサバサと話しかけ、引き攣った笑顔のまま去っていったレイの後を今度は別の側近の従者につけさせた。
「今、妖精の恋人は鍛錬場におるらしい。よいな?わしのことを何と話していたか聞き出すのじゃ」
実は、王子はまだ自国には無い隣国で流行りの?後宮を作ろうとしていたので、側妃第一号を探していた。
だから、レイが自分に気があるようなら滞在中に話をつけようと焦っていたのだ。
因みに王子の妃は、既に幼い頃から決まっていた。
彼女は、子供のような王子に理解のある、美人で大人な女性だった。
優しい妃に甘え、側妃の一人や二人くらいは許してもらえるじゃろう、と王子は調子にのっていた。
王子の従者は、素早くレイの後をつけた。
そしてレイがアユミやマリーと女子の会話をし始めたので、角を曲がったところで盗み聞きをした。
それから少しして、濃い濃い王子が楽しみにホクホク待っているところに、真顔の従者が戻ってきた。
「どうじゃった?」
「早く報告せんか」と子供のように待ちきれない王子に、従者は答えた。
「はい。妖精様は、同じ異世界人の女性の方々と王子のことを話されておりました」
「よし!それで?」
「マリー様は特に何も仰いませんでしたが、アユミ様は王子のお顔などを「ハンサムだと思うんだけど、ちょっと濃すぎてキツいかな。繋がった眉毛とかチラ見えする胸毛とか。あ!あと手の甲の毛もちょっとムリかも」と仰られていました。そして妖精様におかれましては「彼、ご自分がイケてるとか感違いなさってるんじゃないかしら?まつ毛なんかマリーのツケマより凄いのよ。多分、彼の国にはラクダがいないのね」と……」
「もうよい。よう、わかった」
王子の側近の従者は、忖度しない正直者だった。
それから傷心の王子はすぐに帰国し、自身の妃のもとへ通いまくり「やっぱりソナタしかいない。女は怖い。後宮ももうやめじゃ、ワシには合わん」と言って、ヨシヨシと慰めてもらうのだった。
この後、後宮という名のシステムは、こちらの世界で時代遅れの象徴として徐々に廃れていくのだが、人知れず数多の女性のお心を救ったレイであった。




