22 隣国にて パーティー
レイ達フィンレー王国の異世界人達は、アルフレッド王子とフリードリヒ宰相らと共に、隣国の精霊祭に来ていた。
隣国は山が多かったが、馬車の内装がそれなりに工夫されていたので、乗り心地は快適だったが、山を越えるほどの長距離移動は初めてだったので、気分的に少しだけ疲れてしまった。
通常、精霊祭に他国の異世界人が出席することはあまりない。
精霊祭は、毎年必ずどこかの国で行われるので、そんなに広くもないこちらの世界では、大して珍しいイベントではなく、興味があれば自国で開催される時に参加すればいいので、わざわざ他国へ前もって申請してまで国境を越える異世界人は少なかった。
初日には各国の神官達の代表者が集って、精霊様に感謝を捧げる形式的な儀式が行われた。
フィンレー王国からは、マーガレット神官が参加した。
彼女は光属性のグラマラス美人だったので、お近づきになりたい他国の男神官達の職務を意図せず疎かにさせていた。
そして、本格的なパーティーは翌日の夜だったが、初日の夜はフィンレー王国から来てくれた異世界人達の為に、簡単な歓迎パーティーが開かれることになっていた。
移動疲れも考慮されて、パーティーは任意参加だったのだが、ビックリなことに全員参加だった。
隣国や他国の神官や王族などの方々は、隣国とフィンレー王国の異世界人達の紹介が終わると、仲の良い者同士で異世界人達についてヒソヒソと話しだした。
「こちらの国の異世界人は男ばかりじゃな」
「ゼンゾウ殿は一体おいくつなんでしょうね」
「フィンレーの妖精を生で拝めるとはの」
「わしは血塗れの方が好みじゃ」
「僕はあの大人しそうな子かな」
男性陣は、誰が好みか話し始めた。
そして勿論、女性陣も似たようなものだった。
「あの方が噂のルカ様です」
「悪そうじゃな」
「実際はお優しい方のようですよ」
「好き」
アルフレッド王子は煌びやかな衣装を身にまとい、いつも以上にキラキラした笑顔でレイ達の前に現れた。
いつも王子の横にいるフリードリヒ宰相は、挨拶回りに忙しいそうでいなかった。
レイは王子を見て、さすがに今日はお袖はパフっていないわね、と安心した。
「レイは絵本から抜け出してきたような妖精のようで、本当に綺麗ですね。ルカも、妖精を守る騎士のようでお似合いですよ。パーティーを楽しんでいますか?」
レイは、マリーのお店でルカに買ってもらった宝石を散りばめた紫色のゴージャスなドレスを着ていた。
ルカも黒いシャツにシルバーのスーツを着ていて、ネクタイなしで胸のボタンを開けている。
私達もいるんですけど
ルカの背後にいたマリーとアユミは思った。
「ええ」
「豪華だよな」
「レイはこの手のパーティーは日常茶飯事でしたか?」
「ええ」
冗談半分に言った王子は笑顔で固まった。
それを見たルカは笑った。
「レイはお嬢様だからな。俺も付き合いでよく来たぜ」
「そうなのですか」
「だから俺らは慣れてんだよ。こいつらとは違うだろ?」
ルカは顎で背後のマリーとアユミを指した。
マリーは、周りの男性を二度見以上させる威力を持つ露出度の高い真っ赤なド派手な衣装を着ていたが、緊張しているのか髪の毛をやたらと弄って落ち着きがなかった。
アユミは、一生着ないようなキラキラした水色の派手なドレスをレイに無理矢理着せられていたので、果たして自分に似合っているのか?と不安で堪らないらしく、胸に手を当てマリーにペッタリくっつき背中に隠れていた。
マリーとアユミ二人の視線に気づいた王子は、またキラキラな笑顔を作った。
「お二人ともお綺麗です」
「「ありがとうございます」」
適当で草
マリーとアユミは思った。
レイは、果実ソーダをグラスに口をつけると「んーこれ美味しいわ」と微笑んで、周りの男性陣のハートを撃ち抜いた。
ルカは、アップしたレイの髪を指でそっと触ったり、耳元で何か囁いたりしていて、周りの女性陣をザワつかせていた。
アルフレッド王子は苦笑した。
我が国の異世界人はそれぞれ注目を集めています
レイ達のファンが増えれば観光客が増え
異世界人グッズも売れます
我が国のアイドル業も安泰ですね
そう確信するゲスい王子であった。
それから、華麗なるダンスタイムが始まった。
王子は、挨拶回りにどこかへ行ってしまった。
お貴族様達が生演奏に合わせ、慣れたステップで華麗にクルクルとワルツを踊り出した。
「ねぇねぇ、誘われたらどうしよう?私ダンスなんて踊ったことないよ」
アユミがキョロキョロしながらビビった。
「私も無いわよ。別に踊らなきゃいけないわけじゃないんだから、誘われてもお断りしてジッとしとけばいいじゃないの」
それを聞いたレイは驚いた。
「あら、二人ともパーティーで踊ったことがないなんて、珍しいわね」
マリーがジロリと睨んだ。
「あなたね、自分が珍しいと思ったことはないの?」
「そうなのかしら、ルカ」
「あーまぁ、そうだな」
「ふーん」
「全く、これだからお嬢様は」
「あっ!聞いた?ルカ、今、マリーが悪口言ったわ!」
「お嬢様、のどこが悪口なのよ」
「ホラまた!」
「あーハイハイ、マリーダメだぞー」
「何よルカ、あなたレイの言いなりじゃない。カッコ悪い」
「いーんだよ、俺はレイの愛の奴隷だからな」
「あーそーなの、どうぞご勝手に」
「愛の奴隷って何かエロい響きじゃね?」
「ハイハイ」
皆な、どうしていつも会話が攻撃的なんだろう
アユミは一人思っていた。
「ルカ、踊りましょうよ」
「おう」
二人はピッタリと息の合った綺麗なフォームで、音楽に合わせてワルツを踊り出した。
会場がドヨめいた。
異世界人でダンスを踊れる者が少なかったのだ。
アルフレッド王子も流れるような二人のワルツに驚いた。
マリーとアユミも自慢の二人が会場の人々を魅了していることに鼻が高かったが、自分達もダンスに誘われそうで怖かったので、少し後ろに下がって控えめに立って見ていた。
ある程度挨拶を終えたフリードリヒ宰相は踊る二人を見て驚き、「次はレイ様に私と踊っていただきましょうか」とマリー達の近くにスタスタと歩いてきた。
女性陣もルカに誘われたくて、ソワソワし歩き始めた。
そして曲が変わり、ルカがレイの耳元で何かを囁いた。
レイが頷くと、二人は今度は前と違うワルツを踊り出した。
「ほう。同じワルツでもこうも違うのですか」
フリードリヒ宰相は、レイを誘うのも忘れていつの間にか戻ってきたアルフレッド王子と共に二人のダンスに見惚れた。
二人が踊り飽きて戻ってくると、マリーとアユミが盛大に褒めてくれた。
「二人とも凄いじゃない!」
「うん、素敵だったよ!」
「そう?ありがと」
「おー久しぶりだったな」
「お二人はダンスを習われていたのですか?」
フリードリヒ宰相が尋ねてきた。
「私も、異世界人の方でダンスをされた方を初めて見ました」
アルフレッド王子も参加してきた。
「そうね、私とペアで習っていたんだけど、途中でルカがちょっと……」
「わかった。ルカが何か問題を起こしたのね?」
マリーが嫌そうな顔で言った。
「何で俺が何かしたって決めつけてくんだよ」
「違ったの?」
マリーが驚いた。
「ちげーよ!」
「あのね、ルカはダンスの先生の競技試合の応援に行った時に、審査員の贔屓に我慢できなくて、やめちゃったの」
「何よそれ。贔屓ってどんなものなの?」
マリーが聞くとそばにいた皆が興味津々になった。
「ほら、選手が自分の個人指導の生徒さんだったり、審査員にも色々と大人の繋がりがあるでしょう?それで明らかに私達の先生の方が上手いのに点数が低くて、他の方の点数が高かったの。それでルカは、納得出来ないって怒っちゃったのよ」
「わかった!それでルカが審査員を殴ったのね」
「殴ってねーよ。お前俺を何だと思ってんだ」
「殴らなかったの!?」
「いちいち驚くんじゃねーよ、腹立つな」
「贔屓か……それは納得いかないよね」
アユミも嫌そうな顔をした。
「でも、辞めなくてもよかったんじゃない?先生が悪い訳じゃないんだし」
マリーが言った。
「それはそうなんだけど、テンダンサーでもあるのにそれを甘んじて受ける先生を見ているのが嫌になっちゃったのよね」
「あーなるほどね。テンダンサーがよくわからないけど、説明が面倒臭そうだからまぁいいわ」
マリーがルカをチラリと見た。
「まぁいーじゃねーか、俺ら一通り踊れんだからよ」
「一通りって?」
「ワルツだけじゃないの?」
マリーとアユミの二人が尋ねた。
「当たり前だろ。俺らは優秀な生徒だからな」
「そうねぇ、私は途中で辞めてもよかったんだけど、ルカが先生に「次のやつ教えてくれよ」とか言って直ぐ新しいダンスをやりたがったから、一通りやらされたわね」
「さっきのは三拍子だったからワルツでしょ?他には何ができるの?」
「ワルツとヴェニーズワルツね。そうね、モダンならあと三種類かしら」
「モダン?」
「ワルツ、ヴェニーズワルツの他にタンゴ、スローフォックスロット、クイックがあるの」
「へ、へえ」
「あとはラテンだな」
「ラテン?」
「ルンバ、チャチャチャとパソ•ド•ブレとサンバ、ジャイブだったかしら」
「あー、もういいわ、何かお腹いっぱい」
マリーやアユミ達以外にも耳をそばだてて聞いていた人々がいたが、何となく面倒臭くなって去って行った。
そして近くに残ったのは、アルフレッド王子とフリードリヒ宰相の二人だけになった。
「詳しく教えてくださいませんか?」
「私も興味があります」
ルカは「ラテンはこっちの曲的にムリだよな」とレイと一緒にモダンを一通り披露した。
アルフレッド王子とフリードリヒ宰相は、二人で何やらヒソヒソと話していたが「もうダンスは十分踊られましたね?では、これからは我が国で開かれるパーティーでのみ、お二人のダンスを披露するようにしてください」と言ってきた。
ルカとレイは素直に頷くと、腕を組んで二人仲良くお食事や飲み物が置いてある長テーブルの方へ歩いて行ったのだった。




