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妖精とワイルドな王子様  作者: 爽健茶美
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2 ファーストコンタクト






 泉に現れた美人さんを見たレイは、目を見開いた。


「言葉がわかるわ!」


「あぁ。だが、まだ油断できねぇだろ」


 ルカは信用ならないとばかりにレイを後ろに庇い、泉に浮いている美人な男を睨みつけた。


「美人さんだから、大丈夫だと思うわ」


「お前な……」


 ルカは呆れたが、レイはルカの背中にしっかりと隠れながらぴょこんと顔だけ出すと話しかけてみた。


「あの、精霊様?でしょうか。すみません、私達は何故ここにいるのでしょうか」


 精霊もどきはレイをジッと見つめると、その美しい顔をわずかに傾けた。


「違えたか……」


 レイは、?になった。

 反応の薄い精霊もどきに痺れを切らしたルカが


「精霊様よ、俺ら帰りてぇんだけど」


「帰してくんね?」と言うと、精霊もどきは無表情のままチラリとキャリーケースに目をやった。


「それは何だ」


「おい、聞いてんのかよ」


 ルカがイラついた。


「ルカ、一応精霊様っぽいんだからダメよ」


 レイがルカの腕を揺すって諌めた。


 精霊もどきは一旦ルカに視線を戻すと、今度はゆっくりと泉の辺りを見渡した。


「……案ずるな。すぐにわかる」


 精霊もどきが、少し疲れたように言うと再び無表情のまま、キャリーケースを見つめた。


 キャリーケースを見に出てきたみたいね


 レイは一瞬この美しい精霊もどきにときめいたが、あまりの無表情さと謎すぎる言葉のキャッチボールに少し引いていた。

 ただ、彼のキャリーケースを見つめる姿には、ちょっぴり哀愁が漂っている気がした。


「精霊様、これはキャリーケースといって荷物を入れる(かばん)ですよ」


 レイ馬鹿なルカは「お前もお人好しだよな」的な優しい目で見ていた。


「そうか」


 精霊もどきは「疲れた」と呟くと、霧のように消えていった。


 


「おい、今の何だったんだ」


 ルカが泉を眺めながら白けた口調で言った。


「アイツ、俺らの質問の意味、わかってねーだろ絶対」


「そうね。少しボケていらっしゃるのかも知れないわ。でも「すぐにわかる」とか言ってなかった?」



 二人が、あーだこーだと話していると、遠くで複数の男性らしき話声と足音が聞こえてきた。

 耳を澄ますと、足音はザッザッと隊列を組んだかのような音で、こちらへ向かってきているようだ。


「ルカ!誰か来るわ」 


  レイがルカにしがみついた。


「おい、隠れるぞ」


 片手でキャリーケースを持ち上げると、ルカはレイの手を引っ張って、背の高い黄緑色の箒草(ほうきぐさ)のような草がモサモサ生えている繁みに身を隠した。

 箒草は(ひのき)のような香りがして、身を隠すのにちょうど良い高さだった。

 息を潜めて待っていると、ガヤガヤと話し声が近づいてきた。


「この辺りです」


 あ、声優さんがいる


 低くてカッコいい声を聞いたレイはドキドキした。

 声優男が言うと、もう一人がこちらも透き通った少年のような声で言った。


「誰もいませんが」


 レイは、自分達が召喚されてここにいるのではないかと予想していたが、彼らの会話から異世界からくる事自体はわかっていたようだった。

 そして声優男が唐突に言った。


「御二方、出てきてはいただけませんか?我々は城の者ですが、誓って危害は加えません。また、何かを要求することもございませんので」


「何だよバレてんのか」

「ルカ行きましょうよ」


 レイが、茂みからガサッと先に出ようとしたのでルカが止めた。


「危ねーから、お前は先に出んな」


「だって、ここ虫がいそうなんだもん」


「んなこと言ってる場合かよ」


 「俺が先に行く」とルカはレイを背中に庇いながら、キャリーケースを残したまま出てきた。

 少年と声優男以外の護衛の騎士らしき者達は、最初はルカに次はレイに目を奪われ、騎士達の何人かが赤くなった。


「あなた達が……」


 透き通った声の持ち主は少年はキラッキラ系美形王子様で、ニッコリと微笑むと、ルカの方は一瞬しか見なかったが、レイのことはさり気なく上から下まで観察していた。

 ルカの警戒レベルが一気に上がった。

 呑気なレイは、


 キラッキラおかっぱ頭の金髪碧眼王子様なんて

 ホント異世界って感じね

 軽くお袖がパフってますけど

 面白すぎるからやめて欲しいわ

 

 などと、失礼なことを考えていた。

 そしてふと声優男を見ると、彼は何故かプルプルと震えていた。

 レイは今度は彼を観察した。


 あら

 声も素敵だったけど

 超美人さんね


 声優男はスラリとした長身のモデル体系に、腰まである深緑の長い髪を後ろで一つにまとめ、少しタイトな黒いスーツに身をつつみ、足元だけ動きやすそうなブーツを履いていた。


 白すぎない肌に切れ長の銀の瞳

 鼻もスッとしてて、唇は薄い

 日本では中々見れない最高級の美人さんだった。


 レイの熱烈な視線に気付いた男は、ニッコリと笑った。

 ルカの警戒レベルが最高値に達した。


「初めまして。私はフリードリヒと申しまして、この国の宰相をしております。こちらはフィンレー王国の王子、アルフレッド様です。私達はあなた方が現れるとの予言でお迎えにまいりました。保護するのが目的ですのでどうぞご安心ください」


 ルカは警戒しているのか無表情のままフリードリヒ宰相を睨み押し黙っていたが、レイは明るくルカの腕をとると挨拶をした。

 

「こんにちは。こちらはルカで、私はレイです」


「お前な……」


 ルカは警戒心(ゼロ)のレイをジロリと見た。


「フリードリヒ様、アルフレッド様、宜しくお願いいたします」


 レイが彼らについて行く気満々だったので、ルカは首の後ろに手をやり溜め息をつくと、ノロノロ歩いて茂みからキャリーケースを取り出した。


「お荷物はそれだけですね。君、宜しく頼みます。では、早速城へ向かいましょう」


 フリードリヒ宰相は、一人の騎士にキャリーケースを運ぶよう指示した。

 最初、アルフレッド王子が当たり前のようにレイをお姫様抱っこしようとしてきたので


「大丈夫です、歩けます」


 とやんわり断ってみたのだが


「この森は歩きにくいのです。木の根などがありますから」


 と言われてしまった。

 レイは内心、子供に抱っこされるなんて、いくら華奢でも落とされそうで怖かった。


「いえ、王子様にしていただくのは畏れ多くて」


 むしろレイは、フリードリヒ宰相に抱っこしてもらいたかった。


 フリードリヒ様が

「私がやりましょう」って

 言ってくださればいいのに


 そう思ってフリードリヒ宰相をチラリと見てみると、レイの視線に気づいた彼はニコリとした。


「王子、私がレイ様を」


 レイはヤったわ!と喜んだ。


「フリードリヒ様、よろしくお願いします」


 フリードリヒはニコリと微笑んだ。

 二人のやり取りを見た王子が、何とも言えない哀愁のオーラを纏わせていることに何人かの騎士達は気づいたのだが、そっとしておいてあげた。


「おい、待てよ。俺のレイに気安く触んな」


 ルカがフリードリヒの伸ばしかけた手を叩いた。


「あら誰のですって?フリードリヒ様、彼はガラが悪いだけなので、気にしないでください」


 するとフリードリヒは丁寧にルカに向き直った。


「ルカ様、これには訳がございます。後ほどご説明させていただきますので」


「今言えよ」


「ルカ」


「何だよ、言えねーのかよ」


 フリードリヒ宰相がアルフレッド王子をチラリと見ると王子が頷いた。


「仕方がありませんね。では簡潔に申し上げます。実は数年前からなのですが、こちらの世界では、異世界人の方々の時間が止まっているのです」


 ルカが眉間に皺を寄せた。


「何言ってんだ」


「どういうことですか?まさか、明日もまた今日を繰り返すとかそういうことですか?」


 レイは、そんな設定もよくあるやつかも知れないけど冗談じゃないわ、と思った。

 フリードリヒは首を振った。


「厳密にはそうではありません。体だけの問題なのです。つまり、本日怪我などなさいますと、これから先もその怪我は治ることがございませんが、逆に健康であれば、この先も病にかかることがございません」


 ルカはジッとフリードリヒ宰相を見ていが


「おわかりいただけましたしょうか」


 とフリードリヒが言うと


「へぇ、スゲーな」


 と状況を理解したようにニヤリ笑った。


「ならアレだな」


「なぜ私を見るの?」


「王子様よ、俺とレイは同じ部屋でいいからな」


「同じ……そうですか。もしや、お二人は恋人同士なのですか?」


 アルフレッド王子が聞いた。


「決まってんだろ」

「違います」


 その場にいた者達がおかしな空気感に戸惑った。


「コイツ照れてんだよ」

「この人は頭がイカれてるんです」


「お前さっきから何だよ」

「フーンだ、ルカのバカバカ」


「可愛いなオイ」


 何だこの二人、皆が思った。






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