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妖精とワイルドな王子様  作者: 爽健茶美
19/35

19 ご婦人 






 今日のレイは、平民とお貴族様の中間な変装をして王都に来ていた。

 レイの護衛騎士ライリーにも、いつもより平民風な格好をしてもらった。

 異世界人だとバレるといつも大騒ぎになるので、少しだけ面倒臭くなってきたのだ。


 冒険者風な格好をし、ノリノリで冒険者アイテム専門店に向かったルカを待っている間、レイはお洒落なカフェの窓際のカウンター席に座っていた。

 道ゆく人々を眺めながら優雅にお茶をしていると、一人のお貴族様らしきご婦人がレイのすぐ横の席に座ってきた。

 レイは婦人をチラリと観察した。


 清楚な大人しそうな方ね

 お一人で来られるなんて珍しいし

 でも勿体無いわ

 メイクとお洋服が地味過ぎて

 彼女の魅力が失われちゃってるんだもの


 レイと目が合った婦人は、一瞬ハッとして異世界人のレイに気づいたようだったが、恥ずかしそうに軽く会釈をしただけで、そっとしておいてくれた。


 レイはこのところ「サインください!」「お友達になってください!」「文通しましょう!」など、異世界人を前にガツガツしてくる人ばかり相手にしていたので、控えめな態度の婦人に好感を持ち、話しかけてみることにした。


「ご婦人、私は異世界人のレイです。恋人のルカを待っているのですが、まだ来ないので少しだけお喋りしませんか?」


 婦人は目を見開いた。


「え?わたくしと?あの、わたくしなどではレイ様を退屈させてしまうかも知れませんが、嬉しいですわ。喜んで」


 聞けば婦人は、待ち合わせこそしていないが、近くで買い物をしているはずの旦那を待っているとのことだった。


「あ、噂をすれば、主人が来ましたわ。え……?」


 婦人が固まった先を見ると、そこそこイケメンのお貴族様の男が派手な平民と見られる女と腕を組んで歩いていた。

 二人の後ろには、女に買ってやったと思われるマリーがよく行くお高いお洋服店のロゴが入った袋を抱え、必死に付いて歩く男もいる。


 アラ

 こんな昼間から

 いかにもな愛人と出歩くなんて

 嫌な男ね!!


 愛人らしき女は、顔からして気が強そうで、今のところ儚げな婦人に勝ち目はなさそうだった。

 旦那の方も「私の愛人ですが何か?」とでもいいそうな雰囲気の、嫌味なインテリ風男に見える。

 横を見ると、可哀想な婦人は、青ざめ震えていた。


「大丈夫ですか」


「え?ええ、あの、わたくし、もう行かなくては」


 混乱した婦人が、オーダーした飲み物もこないうちに席を立とうとしたので、レイはそっと腕を掴んで座らせた。


「今の方がご主人ですか?」


 婦人は下を向いて沈黙した。


「横にいた方はお知り合いですか?」


 婦人は首を振った。


「知りません。そういう方がいらっしゃることは少し前から気づいてはいました。ただ、お相手の方を直接見たことはございませんでした」


 レイは頷いてご婦人の背中をゆっくりと優しく撫でて落ち着かせようとした。


「婦人。今出て行かれても嫌なお気持ちになられるだけかと思いましたので、図々しくお止めしまた。勝手なことをして申し訳ございません」


 婦人は首を振った。


「いえ、レイ様のおっしゃる通りですわ。旦那様はわたくしと仕方なく結婚した、と仰っておりましたの。彼は私を愛しておりませんし、私も親同士が決めた婚姻ですので、愛のある生活など諦めておりました」


「それでも」と婦人は目に涙を浮かべた。


「旦那様は覚えていらっしゃらないでしょうけど、今日は私達の結婚記念日ですの。普段から、君は一人で何も決められないのですね、と言われていたので、たまには何か企画しようかと思い、プレゼントを買って待ち伏せのようなことをしてみたのですが」


「慣れないことをするものではないですね」と婦人は力なく笑い、涙がポロリとこぼれ落ちた。


「いいえ、精霊様の思し召しでしょう」


 レイはバッグからハンカチを出して婦人に渡すと、頭をフル回転させた。


「どういうことでしょう」


 婦人がハンカチで両目尻を押さえながら聞いた。


「私に会えたじゃないですか」


 レイは、割と恥ずかしいセリフを放った。

 レイはこの世界に来てからというもの、精霊様のお名前が色々なところで活躍することを学んで知っていた。


「婦人、これは精霊様がくださったご縁だと思います。これからはあんなカスのことで頭を悩ませることはやめましょう?私がお味方になりますから、もう大丈夫ですよ」


 婦人はレイの言葉を聞くと「そうですね」と無理をして微笑んだ。

 婦人はレイの言葉を社交辞令的に捉えたようだったが、レイは本気中の本気だった。


 カスを懲らしめてやるんだから!


 レイはお節介野郎だった。


 その後、婦人との連絡手段を確認したレイは、婦人に気を強くもつように言って別れた。


 レイは、カス男にどんな復讐をしてやろう、とアレコレ考え過ぎて悪代官のような表情になっていた。


 買い物を終えたルカがホクホク顔で店に現れた時、レイの顔を見て焦り「待たせちまったよな?悪かった。何か食うか?」とご機嫌を伺ったのは仕方がないことだった。


 ルカに例のご婦人の話をしてみると、他人の恋バナに首を突っ込むと非常に面倒臭くなる事をアユミでよーくお勉強したルカは「そーゆー事なら宰相様が適任だぜ」と丸投げした。


 レイはお城に戻ると早速「フリードリヒ宰相様のお時間を少しだけ私にください」と人伝に頼み込み、隙間時間にレイ達のお部屋に寄ってもらった。

 向かい合わせにソファーに座りお茶を飲みつつ、二人は話し合った。


「やられたらやり返すんです」


「では、何をどうされるおつもりですか」


 フリードリヒ宰相は、面白そうに聞いた。


「今出来る一番いいこととは、相手よりも幸せになることなんじゃないでしょうか」


「はい」


「ですから、旦那が頭の悪そうな女性とイチャコラ楽しむのであれば!」


「レイ様、少しお言葉が」


「お下品ですよ」と言う前にレイが続けた。

 

「婦人は頭の良さそうな品のある男性と、いい感じになれば良いと思うんです。あ、勿論美人さんに限ります」


 フリードリヒ宰相は特に何も言うことはなかったので「なるほど」と頷いておいた。


「つまりそういう男性を婦人に紹介していただきたいのです。フリードリヒ様がお忙しいのはわかりますが、有能なお方ですもの。普通の方がお出来にならないことも、あっという間にされてしまうんでしょう?私、わかってるんですから」


 レイが微笑んだ。

 フリードリヒ宰相はニコリとしながら


「宜しいですよ。有能な私の部下に探させましょう。ご婦人は公爵家ですので、パトロンの線でいきましょうか」


 レイは嬉しくなって、ソファーから身を乗り出しフリードリヒ宰相の手を両手で握って感謝した。


「ありがとうございます!フリード様のお陰で、婦人に素敵な報告ができるわ!」


 そこへタイミング悪く、剣の鍛錬を終えたルカが帰ってきた。


「アッ!何してやがる!」


 二人は浮気現場を押さえられた者のように互いにパッと離れた。


「それではレイ様、またご報告いたします」


「はい!宜しくお願いします」


 ルカの殺気を感じたフリードリヒ宰相は「何もございませんよ」的に一礼すると、睨むルカの横をすり抜けてサッサと退室して行った。

 この後レイは、ルカを宥めるのにしばらくかかってしまったのだった。



 数日後、約束通りフリードリヒ宰相の部下が婦人と若く美しい男性の画家を引き合わせた。

 もともと絵を描く趣味のあった婦人は、下心なく喜んで画家のパトロンになった。


 婦人はレイから、「よろしいですか?お顔もキャンパスと一緒です。婦人を輝かせるメイクをいたしましょうね」と自分に合ったメイクを教わり、ついでに婦人に似合う異世界人風ファッションも習った。


 若く美しい画家は、男女問わず数多のパトロン志望のお貴族様から、彼のお身体目当てで狙われ続けてウンザリしていたので、純粋に絵を楽しむ、控えめな婦人に興味を抱いた。


 繊細な美しい絵を描く方だ

 お化粧もファッションも斬新で素敵だな

 何よりお人柄が素晴らしい

 噂によると浮気な旦那がいるらしいが

 僕が癒やしてさしあげたい


 また、婦人も満更でもなさそうだった。


 レイは折をみてあと一押しとばかりに「暇すぎて書いたんですけど」と、あるご婦人がダメダメな旦那様の目を盗んでイケてる謎多き騎士様と浮気を致しちゃう小説を婦人に薦めた。

 

 その後、フリードリヒ宰相の部下からの報告によると、婦人は旦那の浮気を理由に貴族の世界では珍しく離縁した。

 そして今は実家で画家とラブラブな毎日を過ごしているのだという。


 旦那の方はというと、知らぬ間に大人しかったはずの妻から三くだり半を突きつけられ、証拠は出なかったものの浮気もされてしまい、しばらくの間ショックで寝込んだらしい。

 そして、やたら金遣いが荒く教養もない平民の女と元妻を比較しては、ため息をつく毎日を送っている。


 なにはともあれ、レイに出会ったことで幸せになった婦人は、こちらの世界の人の中で、初お友達として色々な事を教えてくれ、生涯仲良くお付き合いしたという。






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