18 ニール
レイとルカが海へ繰り出す少し前のある日のこと。
ルカと王都でお買い物中だったレイは、冒険者アイテム専門店からなかなか出ないルカに痺れを切らし、一人で店の外へ出た。
通りには、異世界人カップルを一目見ようと異世界人ファン達が、レイ達を遠巻きにたむろっていた。
お店のすぐ外には、目つきの悪いルカの護衛騎士ニールが立っていた。
ニールはレイが出てきたことに気づくと、少しだけ頭を下げてまたフイッと通りの方を向いた。
この人本当に愛想がないのよね
ルカは全然気にしていないようだけど
「ねぇニール」
ニールがチラリとレイを見た。
「はい」
「少しお話よろしいかしら?」
ニールはコクリと頷いた。
「ではニール、前から思っていたんだけど、貴方っていつもそんなに無口なの?それとも私の前だけなのかしら?アユミより酷いわよね」
レイは割と言い方の失礼なヤツだった。
ニールが何かを言おうとして口を開きかけたその時、店から二つの袋を抱えたルカが代わりに答えた。
「こいつな、俺と一緒で敬語使えねーの。だから喋らねーんじゃなくて、喋れねーんだよ」
ニールに袋を一つ手渡しながら「俺も苦手なんだよなー」とルカが笑った。
「あら!そうだったのね」
ニールは少し居心地が悪そうにしていたが、レイは「なーんだ」と笑った。
「それなら気を遣わなくて結構よ?お口が悪いのはルカで慣れているから」
「おい」
ニールが不思議そうにレイを見た。
「ほら、私は可愛いというべきか、まぁ美しいでしょう?だからルカがね、昔から私をロリコンの変態から守るために喧嘩っ早くなってしまったりして、最終的には見るも無惨なお下品な口調の人になってしまったのよ」
「全然感謝してねーじゃねーか。失礼なヤツ」
レイはニールを上から下までジロジロと眺めながら一人で納得したかのように言った。
「でも貴方もアレなのでしょう?異世界でよくあるパターンの、とてつもない貧民街でお育ちになったとか、長年にわたってどなたかに虐げられてきたとか、出世に秘密があって、実はどこかのお国の王子様で命を狙われてるとか、何かしらビックリで大変なことがあったのよね?」
レイは「それでそんなに目つきが悪いのよね、そうよね?」と勝手に同情して、眉尻を下げながら失礼にも程があることを聞いてみたが、ニールは首を振った。
「フツーの家庭で、両親に愛されて育ったけど?」
ニールは「目つきは生まれつきだし。何その設定」と怪訝そうな顔で答えた。
「あら、そう」
レイが肩を落とすとルカが笑った。
「お前、何でちょっと残念そうなんだよ」
その後レイ達が大通りを歩いていると、前方に人だかりを発見した。
見ると、地球の科学者風な白衣を着た他国の異世界人であろう男性が、何かを披露していて人々の注目を集めていた。
「ジャジャーン!見てください、UFOですよ!!」
民衆がどよめいた。
「おおっ!これは噂の、近未来のアレ!!」
「息子が夢中になっている謎の乗り物ですわ!」
「でもなんか、小さくないか?」
「未来の乗り物だから、不思議でいっぱいなんだろ」
民衆は、大人から子供までキラキラした目をしてそれに注目していた。
「今ならこの雑誌もお手頃なお値段で手に入りますよ!」
そのうち男の子が何かを手に男に走り寄った。
「それってあれだよね!この雑誌に載ってるやつっ!!」
レイは、男の子が手で広げた雑誌を見た。
雑誌のタイトルはム◯だった。
レイはゆっくりと男に近寄っていった。
男がレイに気づくと赤面した。
「あ、貴方は妖精の……」
「それ、どこかの教授がムキになって否定してくる内容の、買うのに勇気が必要な雑誌よね?」
「あとこれ、ドローンよね?」レイが男が地面に着地させたドローンを指差して言った。
科学者風男は狼狽えた。
「そうとも言いますけど」
「……けど?」
「す、すみませんでしたっ!つい出来心で、注目されるのが嬉しくてっ!」
聞けば、日本へ里帰りする際にこれらを購入し、こちらの世界へ持ち込んでしまったという。
男は、何度も頭を下げて謝った。
レイは、男が売ろうとしていた雑誌のお値段を見た。
「まぁいいわ。法外なお値段でご商売されている訳でもなさそうだし」
「でももうやめとけよ?お、スゲー見出しだな。俺にも一冊くれよ」
ルカもニヤニヤしながら参加してきた。
男は、ルカの目つきの悪さに一瞬、殴らないで!的なポーズになって言った。
「はっはい、どうぞ!やめます!すぐ帰ります!」
「オイお前これ」
ルカは、何か面白そうなム◯の雑誌を、お金を出して買う気でいたのだが、男は一冊をルカに渡すと、ドローンや雑誌などの荷物を高速でまとめあげ、ザワつく民衆の中をペコペコしながら去って行った。
「お兄ちゃん、さっきの人どうしたの?」
ム◯の雑誌を持った男の子が近寄ってきた。
ルカが男の子の頭を撫でながら言った。
「アイツな、秘密のモンをバラしちまうと怒られるから、もうやめるってよ」
「秘密の!?やっぱりそーだったんだね!わかった」
男の子は嬉しそうに納得して帰って行った。
「ルカいいの?あの子誤解したまま行っちゃったわよ」
「別に、全部が嘘じゃねーじゃん」
「まぁそう言われてみればそうねー」
ニールは、恋人同士って似るもんなんだな、と思った。
そんなこんなで打ち解けた?三人は、通りを闊歩していた。
そろそろお土産を買うお時間帯となり、レイは馬車道通りというメインストリート沿いにある、王都で有名な土産物店へと向かった。
「あそこの店は、大通りにあるから全部高い。同じモン買うなら、外れにある店の方が安いから、そっち行けば?」
「少し歩くけど俺、案内できるし」とニールが言ってくれた。
しかし、レイは首を振った。
「ありがとうニール。でもね、メイン通りにある店は目立つからよくお客様も入るし、商品も売れるでしょう?だから、品物の入れ替えが激しくて、新らしい品が多いのよ。多少高くても問題ないわ」
「へー」
ニールが感心したような声を出した。
その様子を見ていたルカがニヤニヤした。
「それとな、コイツ家が金持ちだから、小遣いとか半端なくもらってたからよ、値切るってことを知らねーんだよ」
「ふーん」
ニールが「でたよ金持ち」という何とも言えない顔をしてレイのことを見た。
珍しく何かのプライドが傷ついたレイが焦った。
「アラ?失礼しちゃうわ、私だって値切ったことくらいあるんですからね」
「お前がぁ?いつ、何をだよ」
はなっからレイの言葉を信用していないルカが、意地悪く聞いた。
レイの目が泳いだ。
「今はちょっと、急に言われても思い出せないわ」
レイは、必殺誤魔化し文句「記憶にございません」を使った。
「何だそりゃ」
ルカが呆れた。
「嘘じゃないんだから」
レイがプリプリすると、ルカがレイ馬鹿に変身した。
「よしよし、可愛いーからもう許してやるよ」
「でも本当だもん」
「わかったわかった」
「今度んー」
ルカはレイを首ごと引き寄せると、大人ちゃんなキスをして、言い訳をするレイの口を物理的に塞いだ。
馬車道通りを歩いていた異世界人ファン達は二人の様子を目撃して一瞬叫びそうな口の形になっていたが、己の胸を押さえ、ゼーゼーしながら何とか耐えていた。
その様子を見たニールは、レイ達が外出すると、こちらの世界の人々の寿命を縮めているじゃないのか?と密かに思ったのだった。




