14 海デート①
今日のレイは、ハーブガーデンを散策中に出くわしたノア神官に色々な質問をしていた。
「神官様、明日ルカと海へ行くのですけれど、もしかして光属性は日焼けしないとか、そういうことはないですか?」
ノア神官は眉を上げた。
「いいえ、普通にしますね」
「えー!」
「何故そう思われたのですか?日焼けしないのは火属性の方々ですよ」
「もう、本当に嫌いだわ」
レイがプリプリするとノア神官が眉を下げた。
「すみません」
「神官様ではなく光属性の話です」
ノア神官はとびきり美人さんではなかったが、スッキリとしたお顔だちと素直な性格をしていたので、レイは嫌いではなく、むしろ可愛らしく思っていた。
「でも日焼け止めでしたら、食べやすいお味のついた噛んで食べれるタイプの飲み薬がありますよ」
「あら素敵!それは楽でいいですね。それにしても、薬があるものとないものとで差が激しいのですね」
レイは、風邪薬が無いことを例にあげた。
それを聞いたノア神官は首を傾げた。
「まぁ、フツーの風邪ぐらいでしたら、皆様は昔から薬に頼ることよりも、ご自分に体力をつける方を優先しますからね。最近では、これで貴方も体力をがつく!とかいう怪しげな書籍も出ていますよ」
レイは、気合いで治す人々に驚いた。
「意外ですね。こちらの皆様は、根性で治してみせる、とかそういう泥臭いことは苦手なんだと思っていました」
「私はそういうのは絶対に無理なんですけど」とレイが言った。
ノア神官は首を振った。
「そうじゃないんです。体力があれば魔力も持続しますので、風邪薬が無いというのは、例えば風邪をひいて高熱が出てしまっても水属性は頭を自分で冷やせますし、風属性は風を頭に吹かせたりできるからなのです。逆に悪寒がして寒ければ、火属性は身体を暖められますしね。土属性はちょっと特殊でして、温泉の効能を持った土壌に顔だけ出して自ら埋まったりしていますね」
「そうなんですね」
レイは光属性が出てこないことにもう慣れた。
「後は、看病される家族や友達の属性に頼る方も多いですね。それこそ体力さえあれば病人に魔法をかけたままその場から離れてもへっちゃらですからね」
「そう。でも、魔法をかけてもらった後で暑すぎたり寒すぎたりしたらどうすればいいのかしら」
「その人が近くにいなかったら困らない?」とレイが聞くとノア神官はおかしそうに笑った。
「それも大丈夫です。病人には優しく弱い魔法しか使わないので、本人が解こうと思えば動いて簡単に解けてしまうんです。ただ、土だけは掘り起こしてもらわないとちょっと難しいですけどね」
レイは、なるほど、と頷いた。
「あ!そうそう、大事なことを聞いていなかったわ。魔力が切れるとどうなるのかしら?やっぱり、死んでしまったりするの?」
「死にませんよ、何ですか恐ろしい。単に魔法が使えなくなるだけです」
「そうなのね」
「何故ちょっと残念そうなのかわかりませんが、とにかく、こちらの海は底が見えるくらい澄んでいてとても綺麗だと異世界人の皆様が誉めてくださいますので、是非ルカ様と海を満喫されて下さい」
レイはお礼を言うと部屋へ戻って行った。
翌朝、レイはルカと異世界人専用護衛騎士のニールを連れて海デートへ向かう船着場へと馬車で向かっていた。
途中で前の馬車が何かのトラブルで少し止まった。
レイは何があったのかしら?と窓から外を覗いたがその時、以前ルカと訪れたことのあるカフェ店の入り口に厳つい顔をした騎士が左右に立っているのが見えた。
「ねぇ、あれ見て。ルカと前に来たあのお店、入り口に騎士の方が二人もいるの。前に来た時はいなかったわよね?何か盗まれたのかしら」
レイが不思議そうにしていると、ニールが言った。
「ああ、あれ?レイ様のキスマークの入った額縁を盗もうとする奴がいたとかで、お店が雇ったらしいよ」
レイは目をパチクリさせた。
「私の?あんな物何に使うのかしら」
レイが「異世界人ファンの方に売れるのかしら?」と首を傾げていると、ルカが
「お前なぁ、それは不埒なことに決まってるだろ?」
と何かを完全に理解したように自信満々に答えてきた。
ニールは、そんな奇特なこと簡単に思いつくなんて、ルカ様はそいつと同じ思考、つまり変態に近いんだな、と密かに思った。
船着場に着いて馬車を降りると、レイとルカの登場にこれから船に乗り込む列に並んだの客達は大騒ぎとなってしまった。
お貴族様達は基本的に専用のお船を持っていたりするので、この場には平民しかいなかった。
そして、レイ達と同じ船に乗り込みたい客による「お先にどうぞ」「いや、私も後でいいので」という醜い譲り合い合戦が起こった。
船頭は「順番を変えないでください!」と、私だってレイ様を乗せて漕げないのだから、アンタらだって諦めろよ!という気持ちを込め、細い目で注意した。
そしてラッキーなお客らとレイたちを乗せたルンルン船が海へと漕ぎ出した。
「凄くお水が綺麗だわ」
レイが底まで見えてキラキラと輝く河の水を眺めていると、直ぐ向かいに座っていた一人の勇気ある若い男性客が
「それは精霊様の浄化魔法です」
と教えてくれた。
「そうなの?素敵ですね」
レイが「教えてくださってありがとう」と微笑むと男は赤くなって「いえ」とはにかんだ。
それを見た他の客は、そんなのこっちの世界の常識
なんですけどね!私も何か教えてさしあげたいな!とウズウズした。
その時ルカは、船頭に「ニーチャン、海で釣りとかできんだよな?」と全然違うことを聞いていた。
「ねぇ、このお船は海行きだけれど、皆様は海で何をされるのかしら」
レイが聞くと、皆は一瞬固まっていたが口々に話し出した。
「私は、
海からまた別の船に乗って小島へ渡ります!」
「釣りをします!」
「親戚の家へ向かいます!」
「そうなのね。ところで、海にお着替えする場所はあるのかしら?」
「はい!水遊びで海水や砂が付いた服を着替える小屋が建っています」
「よかったわ」
「レイ様は今日、水遊びをするんですか?」
「ええ、そうね。こちらの海は遠浅らしいから、泳げるところまで泳ぐつもりなの」
皆は、???という顔になった。
レイ様は自分が水属性だと言っているのか?
こちらの世界の水遊びとは、主に膝下まで海に浸かり小魚に餌をやったりすることをいい、水属性でもない限り水の中に沈んで歩いたり、ましてや泳ぐなどという発想自体しなかったのだ。
レイは、皆の反応を見て苦笑した。
「お洋服屋さんに行っても水着がない理由がわかったわ。皆様、泳がれないのね」
「……はい、あまり、そうですね」
「水着とは何ですか?」
「水着?水着はね、私達の世界で水に濡れても割と速く乾く便利な海や川専用の服なの」
「へぇー!」
「それはまた素敵ですね!」
「私は洋服店を営んでおりますので、興味があります!もしかして、今お持ちですか?」
「ええ、こんな感じなの」
レイは可愛らしいバッグから水着を取り出した。
水着はお胸に定番のフリフリがついた、お胸の淋しい特定の女子に勇気をもたらすビキニだった。
ししししし下着ーっ!?
客の心は一つだった。
船頭も危うくオールを落としそうになって慌てて持ち直した。
皆が、一旦落ち着こうと深呼吸をする中、洋服店を営む男性がブルブル震えながら質問してきた。
「まさかとは思いますが」
「なあに?」
「その、レイ様はその、今日は水着とやらを着て海に浸かろうと?」
他の男性客らは固唾を飲んで見守った。
「そうよ?ダメかしら」
レイが小首を傾げると、男性陣は何かを耐えるように下唇を噛み締め下を向いた。
「ダメではありません、ダメでは、決して、……」
その時ルカは「魚の餌って生き餌なのか。レイが無理だなー、どーすっかなー」と別の事で頭を悩ませていた。
そしてルンルン船の男性客の頭の中で、本日の予定がレイの近くで出来る予定に素早く変更されたことは、その場にいた者達しか知らなかった。




