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血刀異聞  作者: 椋鳥印
【序章】
6/82

06【方針】一


 弐朗じろうは「今日がその「後日」かぁ」と食後のお茶を啜りながら、ぼんやりヨズミを見る。


 別に忘れてたわけじゃないけど、とーこの芸術活動に付き合ったり、トラの面倒みてやったりしてると毎日忙しくて、優先順位が、そう、優先順位が。

 新しい情報に上書きされちゃうから俺。

 秋はほら、もうすぐ修学旅行もあるし、京都とか行くの初めてだからめっちゃ楽しみだし、体育祭とか文化祭の準備もあるし。部活も忙しいから。別に忘れてたわけじゃないんだけどホントに。うん。ちゃんと覚えてたし。


「先輩たち、「忘れてた」って顔に出てますよ」


 とうとう自分の手元に重箱を一段確保した虎之助とらのすけが、咀嚼そしゃくを終え口の中を空けてから呆れたような口調で指摘してくる。

 行儀がいいのか悪いのかよくわからない後輩に、弐朗は「ちっげぇよ!? ちゃんと覚えてましたよ!?」と猛反発するのだが、その横で刀子とうこが「とーこはわすれてた」とあっさり認めたため、反論は尻すぼみに小さくなった。


 ヨズミはそんな後輩の反応を気にする様子もなく、からから笑いながら話を続ける。


「そう難しい仕事じゃなかったからね。気に留めるほどのものでもない。結論から言うと、今回は保留案件だ。様子見とでも言うかな。対象の身元は現在調査中だが、どこの筋かはまだわかっていない。方角的には東、東京方面から来たのは間違いないんだが、の地は人の流入が激しいからねえ。彼、ポロクンは身元のわかるようなものは一切持ってなかった。財布もスマートフォンも、だ。まさに着の身着のまま、身一つで我々の住むこの町に迷い込んできたことになる。あの後何度か目は覚ましたんだが、すっかり怯えてしまっていてまともにしゃべれなくてね。どうも索敵が壊れているらしい。使い手が近付くだけで半狂乱だ。あんまり騒ぐものだから、用がない時は眠らせている。確かナヲさんもチューニングの狂った索敵をしていたと思うが、まあ、あんな感じだ。外見に変化はきたしていないのは確認済だが、頭のほうはかなり深刻と言えるだろう」


 弐朗の脳裏に、綿のようなピンク頭の知り合いが浮かんでは沈む。


 まるで他人事のように言っているが、ヨズミの広範囲高精度の索敵も別の意味で規格外のシロモノだ。

 弐朗の索敵がトランシーバーなら、ヨズミのそれはさながら軍用衛星、市販品レベルではない。それがあるからこそ、まだまだ未熟者の自分達の仕事が成り立っているのだと思えば有難がるよりほかないのだが、追われるほうとしては堪ったものではないだろうと同情したりもする。


「保留とかまだるっこしいこと言ってないで、始末したらいいじゃないですか。どこの誰ともわからないんでしょう。うちが首落としたって誰も困らないと思いますけどね」

と、虎之助が大根でも切るかの如き気軽さで言い出せば、

「私としてもそのほうが楽ではあるんだけどね。彼はもうああなってしまっては助かる見込みもなさそうだし。我々の管轄に踏み入った時点で、それが海のものであろうが山のものであろうが、一切の処遇は我々に任されていると言って良いわけだから」

と、ヨズミも頷きながら返す。


「ちょちょちょ、ちょォっと待ってくださいよォーーーッ!?」


 それに立ち上がって異議を唱えるのは弐朗であり、刀子は置物と見紛うほど微動だにせずレジャーシートの上で正座をしている。


 弐朗はヨズミの面白がる視線と、虎之助の「余計なこと言うな殺すぞクソチビ」という視線を受けつつ、折れそうになる心を奮い立たせ勢いをつけて反論した。


「幾らなんでも早過ぎじゃないっスかね! だってほら、あの人全然見た目フツーだったじゃないスか。ア、アタマは! ……頭はヤバかったのかもしんないすけど、でも、そういう人って一般人でもわりかしいっぱいいるし! 頭オカしいだけじゃまだそんな騒がれないっていうか。それに、えっと、あれですよ、あれ。なんかもっと話してみたり? 試してみたり? 色々あるじゃないスかやれることォ!」

「先輩、考えまとめてからしゃべったらどうですか」

「今まとめようとしてんだよ! まとめながらしゃべってんの、わ、わかっててやってんの! だって今止めとかないとヨズミ先輩もお前もさっさと殺っちゃうだろ!」

「はっはっは! 違いない!」

「とにかく、俺が言いたいのは! トラはすぐ殺そう殺そうって言い過ぎ! あと実際にすぐり過ぎ! わかってんの!? 殺り過ぎるとお前もいつか狂っちゃうんですけど? そしたら今度はお前が追われる側になんだぞ! ゾンビとりがゾンビになるっつーやつだからなそれッ?」

「とらくんがゾンビハンターからゾンビに。をーきんぐでっどかみんぐすん!」

「弐朗クン、それを言うならミイラだ、ミイラ」

「とらくんがミイラに。はむなぷとらくん」

「ゾンビでもミイラでも構いませんけど。どちらにしろ、普段俺らが処理してるのも似たようなもんじゃないですか」

「はっはっは! 確かに! 腐った死に損ないも干からびた死に損ないも居るな。ああなる前に仕留めてやりたいものだねぇ」

「いやだから、俺が言いたいのは、すぐ殺そうとするのはどうかと思いますって話であって……!!」

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