02【捕獲】一
その日も、いつもとなんら変わらない平日だった。
授業と部活動を終え、お隣さんの刀子と並んで歩く帰り道、それは突然やってきた。
弐朗のスマートフォンが必殺仕事人のテーマを鳴らすと同時に、刀子の鞄からは妙に不安を煽るオルゴール音が響く。この曲が同時に鳴るということは、掛けてきている相手は一人しかいない。
ヨズミだ。
『やあ、帰宅途中にすまないね』
慌ててアプリ通話に出た弐朗と、たっぷりワンフレーズオルゴール音を堪能してから出た刀子に、ヨズミはとても高校三年生とは思えない貫録のある口調でそう言った。そして弐朗が「どしたんスか」と聞き返すのも終わらない内に、『それがね』と切り出し、続いたのは「仕事」の指示。
『東からお客さんがやってきた。狂いのようだが、どうにもはっきりしない。キミ達は索敵しなくて良い。というか、今回は索敵禁止だ。お客さんは気配に敏感なようでね。さっきから使い手を避けるように移動している。私はまだ気取られてはいないが、弐朗クンはもう気付かれていると思っていいだろう。崩れ始めているようなら、人前に出られるのはまずい。このまま進めば方向的にうちの土建の材木置き場が最寄りだ。弐朗クンは商店街を突っ切ってそこに向かってくれるかい。隠密は使わずに。刀子クンは車で先回り。手配はこちらでしよう。キミは隠密で。まぁ、キミはちょっとやそっとじゃ見付からないからいつも通りでいいよ。トラクンはまだ高校の敷地内に居るのはわかっている。さっきから呼び出しているんだがー…、これは多分スマホ見てないねぇ。まあ、連絡がつき次第合流させる。では各々始めてくれたまえ』
パチンと指を鳴らす音と共に出される行動開始の号令。
弐朗は指示を聞きながらブルートゥースイヤホンに切り替え、商店街を通り抜けて材木置き場に行くルートを脳裏に思い浮かべた。
距離にして三キロ程度。走れば十~十五分ぐらいか。傍らの刀子はスマートフォンに耳を当てたまま、どこを見ているのかよくわからない円らな黒目を見開きっ放しにしている。
「じゃあ俺、コッチ、商店街のほう行くけど、とーこダイジョブか? 何するかわかってる? ヨズミ先輩が車手配してくれるから、それ乗って材木置き場な。あのカブトムシ密猟地帯。わかるよな? 車ってどれだろ。タクシーなら真轟の個タクか……サネがいれば、あいつがきてくれるんだろーけどなぁ。でもあいつ今西のほう行ってて居ないからなァ」
弐朗は等身大の人形が如く立ち尽くす刀子にあれやこれやと確認する。
刀子が「わかってるよー」と返事をしたところで、全く大丈夫そうには見えなかったもののとりあえず納得し、自らに与えられた仕事を全うすべく商店街に向かって移動を開始した。