1-4-2.彼女は全てを知っている
「なるほどね、君ですら知りもしない君に関する情報を、ある程度知ってしまう完璧な少女――そういう人に会ったと?」
「はい」
「そうか……君は早速会ってしまったのかもしれないね」
彼女の判断は異常に速かった。
何に会ってしまったか、そんなの言われなくたって分かる。
しかし。
「え、早すぎません?」
いくらなんでも判断を下すのが早くないですか?
そう言いかける俺に美友紀先輩は続けた。
「その名前を、大柳雨音というんじゃないかい?」
……絶句してしまう。
まさか。
「君の能力を知ってから、君の周りの人を調べようと思ったのさ。そうして君の教室に行ってみたんだけど、驚いたよ。まさかここまでの大物がいるとはね」
そうか、美友紀先輩は彼女を既に知っていたのか。だから俺が困ることになるであろうことも知っていた。
つまり。やはり彼女は超能力者なんですか?
俺の問いに彼女は微笑む。
「そうだね、彼女は全てを知っている。つまり彼女は全知の能力を持っている」
全知の神とも言って良い。美友紀先輩はそう言った。
そしてそれに目を付けられた君は、ある意味誇っていいとも。
「つまり彼女は全てを知っている、知ってしまう。……本当にそうなんでしょうか」
「ああ、その通りだよ。だから君の行動も知ってしまう。君のことも知ってしまう。私の能力を知っていたかな?」
そう言いながら美友紀先輩は俺の駒を一気に三つ殺す。何とも残酷なのだろう。
美友紀先輩の能力? そういえば彼女も能力者の一人なのか。
そう思うと興味深い。
「私の能力は対象者の能力内容、そしてレベルを知る能力。わたしが言うこういう能力情報は、確実ということだ。間違いはない」
なるほど。
……。
というかもう一つ俺は疑問を抱いた。俺の能力についてだ。
「俺は能力者を召喚する能力では?」
「ん?」
俺はすっかり自分の能力を召喚能力だと勘違いしていたのだが、先程の言い方だとどうやら違う気がする。
というかその言い方から察すると……
「違うよ? 君は能力者を引き寄せる能力と言ったじゃないか。君は能力者と接点を持つ可能性が他の人より明らかに多い。簡単に説明するとそういう能力だよ。彼女が君の好きなゲームに興味を持ったのはまあ、偶然だろうけどね。」
――ああもう驚くまい。絶対に驚くまい。
そんなんじゃ超能力者なのに超能力者に全く思えねえなんて思わない。複雑な心境になって落ち込むこともない。
美友紀先輩が俺の捕虜を積み上げた駒を強奪した気がするが、そんなこと悔しいとも思わない。何も負けていることも落ち込まない。
ああ……ああ。
「……? どうしたのかい? 何か落ち込んでいるように見えるが」
ゲームを進めていくと、俺の駒は次々と死滅していく。どうしてだ? なぜここまで美友紀先輩の思うような展開になっているのだ。
確かに味方の駒がある場所には進めないという少し戦略的要素もあるが、たったそれだけで……。
そんな俺を笑うのが美友紀先輩である。
「まあ経験の差だねぇ。すまない、圧勝してしまった」
煽りにしか聞こえない。本当に困った御方だ。
それにしては少し謎が解けて気持ちが良い。
あとは大柳さんに謝れば、解決できる気がする。その時そう思った。
しかしそれから、大柳さんが登校することはなかったのである。