1-2-1.苦悩
超能力者を、呼び寄せる能力?
それが俺??
はっは、なんて無力に聞こえてしまう、変な能力なんだ。
大体それを利用するって……俺は道具とされるのか?
俺が超能力者でないという主張ですら、忘れてしまう。
「ただいま」
扉を開けると、そこは自宅。
母親がすぐに駆け付ける。
「おかえりなさ~い、弁当出しなよ~」
俺は背負った鞄の中から弁当を出して渡し、階段を上って二階の――俺の部屋に入る。
そして一つ、溜息をつく。
スマホを開けると、俺はいじめ部のグループラインに招待されている。
全く、どこから俺の連絡先を入手したのだろうか。
まあとにかく今は疲れた。
無視してスマホを閉じ、俺はベッドに横になった。
ああ、着替えなきゃな。風呂に入らなきゃな。夕飯食べなきゃな。
色々思ったが、俺の体は言うことを聞かない。
それは、凄まじい疲労感だ。
そして気がついたら、寝ていたらしい。
ー ー ー ー ー ー ー
「おはよ~!」
朝、教室に入ると、一番最初に話しかけてきたのは美和だった。
「ああ、おはよ」
教室を見渡すともうすでに大半が来ているようだ。
そして幾つかの取り巻きが出来ている中に……聖也がいる。
「なあ、あいつって結構人気あるんだな」
「うん、そうだね。聖也くんはまあ面白いから」
いや面白いのか?
少し疑問には思うがまあいいだろう。
俺は鞄の中から教材を出して、息をついた。
ふと美和を見やる。
彼女は俺の前の席に座って、椅子にもたれかかりながら俺を見ている。
「櫻井……。お前ひょっとしてそこの席なのか?」
「うんそうだよ!!」
即答だ。
いや……それはとても困った。困りまくる。
「何その嬉しそうな顔。毎日毎度毎時わたしの後ろ姿が拝めるのがそこまで嬉しいのかな~~!」
「いやお前には何が見えてるんだよ! 普通に逆なんだが!!」
もー酷いよ~。泣いちゃうよ~。
櫻井はそう言いながら笑う。お前絶対泣く気ないだろという突っ込みが浮かぶが……まあそれよりも。と櫻井は奇怪に笑う。
「そんなことで驚いていたら終わりじゃないかな? だって雄士の斜め後ろの席の人、誰か分かってるの?」
「ん?」
「聖也だよ」
「え……」
「それにわたしの隣。雄士にとって斜め左前の席……」
……ま、まさか。
「奥寺君なんだよね~~♪」
え、
え、
嘘だろ……。
「なんでだよ!!」
これは嘆かずにはいられない。
いや変だろ? 俺が一番避けたかったその三人が、青春をやり直すための不安要素である三人が……まさか……まさかめっちゃ近くだなんて……。
「出席番号でこうなっちゃうんだから、これはもう仕方ないよ」
いやおかしい。
確かにおくでら、つまりおは出席番号5番になってもいい。
確かにさくらい、つまりさは出席番号13番になってもいい。
確かにながたに、つまりなは出席番号23番になってもいい。(まあ唯一ちょっと早い気がするが)
そして俺が14番になるのも納得できる。
でも……40人クラスって……番号順にするとそれらが固まるのかよ!
よく、よく考えてみよう。そして数えてみよう。
1、2、3、4、5……21、22、23。
…………。
「雄士、納得した?」
……。
納得せざるを得ない。なんという偶然だろう。
これは本当に俺の新たな学生生活を潰しに来てるのではあるまいか。
「神に……見捨てられた……」
美和は笑っている。大爆笑だ。
全く、人の気持ちも知らずにな……。
…………。
あれ、俺ちょっと元気になってる?
それに気付いた時、脳裏にまたあの言葉が思い浮かぶ。
当然のような顔で言った美友紀先輩のあの一言。
『能力者を、呼び出す能力だよ』
超能力者。
自分がそのようなものだとなんて、考えてみたことも無かった。
気持ち悪い。
最初にそう思った。
少しその元気は、なくなってくる。
「あれ、雄士? どうしたの??」
「いや……」
何か、ないだろうか。
気を紛らわせようとものを探す。
――教科書しかない。
溜息をついた。
「……どうしたの??」
そんな俺の机の上に頭を置いて、美和はその顔を覗かせてくる。
まだ笑顔を保って俺の目を見ている。
「いや、なんでもない」
「へぇ」
まるで何かを見透かしたかのように発せられるその言葉は、その笑顔は俺を何も言えない気持ちにさせた。
「話、きこっか?」
…………。
ああそんなことは出来ない。
俺は立ち上がる。
そして取り敢えず、教室の外に出た。
目的地は取り敢えずモールにしようと思う。