1-1-2.超能力者
黒い机が並んだ、それこそ普通の物理室。
中に入ると彼女はその机に座った。
「さぁさ、これから見ていただくのはいくつかのマジック。それこそ、種も仕掛けも御座いません。あるのはただの事実のみ」
じゃあまずは……と言いながら彼女は窓を見る。
俺も思わず窓を見てしまう。そうすると、突如として小さな体の少女が出現した。
……そう、突如としてである。
何の前触れもなく、どこから走ってきたわけでもなく。
「……!?」
驚いたかね?
未友紀先輩は俺の反応を楽しんだようだった。
というかあれ……今何が起きた? 人が突然出てきて……。
これって……これって……?
俺の頭は途端に混乱する。美友紀先輩はこう言った。そのままの口調で。
「そう、お察しの通り」
『瞬間移動さ』
瞬間移動さ、そこだけまるで発せられずに直接こちらに送ってきたように聞こえた。
いや、これは――そのように聞こえたじゃなく、
『テレパシー』
また聞こえる。脳に直接呼びかけているようなその声。
次に見えたのは机。机が浮かび上がり、まるで無重力空間に来たかのような感覚を覚える物理室。
俺はついに立ってられなくなっていた。
『念動力』
そうかと思うと俺の周りは炎に包まれる。
俺の混乱はついに、最高潮に達した。
『パイロキネシス』
もうそこからは立っていられなくなり、考えるのをやめ、ただ、そう……倒れてしまった。
そして気がついたら、そこで起きていた不思議な現象は全て消えていた。
「……ちょっと君には刺激が強すぎたかな?」
しかし突如として現われた少女はまだいた。全てが無かった、というわけでは流石にない。
「これで、分かったかな?」
ああ、理解した。彼女のいう、とある物の正体。
それは、超能力だ。
「うん、そうだね」
思考を読み取ったのか、彼女は言った。
「この世の中には沢山の超能力者がいる。炎を操る者も多分いるだろうし、基本何でもありだ。そんな者は傲慢になりやすい。自分勝手に動きやすい。最終的には犯罪どころか、世界を滅ぼそうとするものだって現われるかもしれない。だからこそ目には目を、歯には歯を。そう、我々いじめ部さ」
なぜいじめ部という名前か、なんてことは気になるかもしれないけど、まあそこは気にしないでくれたまえ。今はいじめなんてことはしない。ただその行為を止めるだけ。それに落ち着いている。
彼女は説明を続けた。
俺は説明に追いつかない。
でもその最中に、一つ嫌な予感がしてしまった。
「待って下さい……ひょっとして俺も、超能力者だからいじめ部に勧誘されたのですか?」
そんな俺を見て、未友紀先輩は失笑する。
そんなことも分かってないのかと。
「そもそも君からボードゲーム部に入ったんだよ? そしてこの部活の部員は基本いじめ部となる。つまり私は選んでない、君が選んだんだ。まあ普通なら、一年には秋頃から説明に入るんだがね」
それなら……なぜ俺は今ここで説明されているのですか!?
俺は声を上げてしまう。
「本当に知らなかったのかい? 君は、有力すぎる超能力者だからだよ。我が部にとっては、非常に有能な」
絶望する。俺が人間で無い気がして。
その……能力とは。
最後の力で俺は訊いた。勿論彼女は、即答した。
「能力者を、呼び寄せる能力だよ」