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僕を責めるのは誰なのか

作者: 不死猫

 僕は暗い部屋の中で引き籠っていた。

 通っている高校から毎日掛かってくる電話にも出ないで無気力な日々を送っていた。

 壊れた自分に向き合うのが怖くて感情を殺していた。

 なぜこうなったのかは分からない。

 


 君はやさしいねとよく言われていた。

 君は頼りになるねともよく言われていた。

 常に何かのまとめ役に指名されて、責任を背負っていた。

 失敗は許されない。

 みんなに期待されているから。



 大丈夫かと心配されても大丈夫としか答えなかった。

 いや、そのようにしか答えられなかった。

 みんなの期待を裏切るような気がしたから。



 いつからか期待は重圧になり、重圧は不安になった。

 それでも耐え続けた日々がだめだったのだろうか。

 答えの出ない自問自答にまた自分を追い込んでいる気がして考えることをやめた。



 いつの日からか周りの視線が気になりだした。

 みんなが僕を見ているような気がして。

 視線が気になり始めたら、声が聞こえるような気がした。

 僕を責めているような、蔑んでいるような。

 その時に不意にもう嫌だとすべてを投げ出した。



 自分の部屋に引きこもって、何日たったのだろうか。

 親から声をかけられてもビーっというノイズにしか聞こえなかった。

 家を訪ねてきた学年の主任や担任の先生の声もはっきりとは聞こえなかった。

 夜になっても寝ることができず、朝になっても体が動かない毎日。

 


 ある日、僕は朝から母親に車に乗せられた。

 何もする気力がない僕は引っ張られるままに外へ連れ出された。

 着いた先は僕が通っている高校だった。

 正体の分からない不安が僕を襲ってきて動くことができなかった。

 そんな僕に母親はこんなことを言った。


「少しでいいから教室に行ってらっしゃい。無理ならすぐに迎えに来るから」


 下駄箱の前には学年の主任が待っていた。

 よく来たな。頑張ったな。と背中をなでながら教室に案内してくれた。

 階段を上り教室の前にたどり着いた。

 不安が襲い掛かって体が動かなくなる。

 一刻も早く家に帰りたかった。



 その時、教室のドアが開いた。


「おう、○○じゃん。久しぶり」


 ドアを開けたクラスメイトが笑顔で声をかけてくれた。

 その視線は怖くなかった。

 いつの間にか体の震えが止まっていた。

 一緒に教室に入るとクラスメイトから温かい言葉で迎えられた。

 視線が集まるがそれほど怖くなかった。



 結局その日は、一時間授業を受けて帰ることになった。

 帰るときにクラスメイトがまた明日なと言ってくれた。

 迎えに来てくれた母親に連れられて帰宅した。



 久しぶりに会ったクラスメイトは優しかった。

 いろんな人に励ましてもらった。

 いろんな人に心配してもらっていた。

 僕の心は少しだけ温かくなるのを感じていた。



 それからは少しづつだが、学校に通えるようになった。

 授業の内容が分からなくても近くの席のクラスメイトが教えてくれた。

 お昼になれば一緒に食べようって誘ってくれた。

 そんな日を送っているうちに僕はようやく気付くことができた。



 責任を背負い込み頼ることをしないで自分の殻に閉じこもっていたこと。

 なぜ出来ないのかと僕を責めていたのは僕だったのだと。


 読んでくださり、ありがとうございました。

 

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